外伝73話 ソビエシュの態度にナビエは混乱しています。
ソビエシュは、
頭がおかしくなったのか。
本当に後悔しているのか。
しかし、ナビエは、彼が、
心から後悔しているのかどうか
自信がなかったし、
彼をもう一度信じて、
再び、同じことが
起こる可能性もありました。
ソビエシュは、
ナビエが考えもしなかったことをして
ナビエの人生そのものだった
皇后の座から、
追い出す寸前まで行きました。
二度とそんなことが起きないなんて、
ナビエは信じられませんでした。
しかし、理由は分からないけれど
確かにソビエシュは
今、後悔していました。
しばらく悩んだ末、ナビエは、
今は何とも答えられないと
返事をしました。
ソビエシュは、
10年、20年後に
返事をくれてもいいと伝えました。
ナビエは、
それなら自分も努力してみると
返事をすると、ソビエシュは
それは本当かと尋ねました。
ナビエは、
自分たちは結婚しているので
2人の仲が、さらに疎遠になっても
自分は、この結婚を
破ることができないと答えました。
すでに彼は数十年も
後悔しながら過ごしました。
時計さえ待ってくれれば、
彼は耐えられました。
ナビエは、
長い時間がかかっても良いなら
心を解すよう努力してみると
言いました。
しかし学長は
この懐中時計には条件があり、
それを満たさなければ
現実に戻るだろうと
話していました。
長い時間をかけて、
ナビエの心が解れるまで、
この世界に留まることができるよう
ソビエシュは、何とかして
乗り切るしかありませんでした。
翌朝、ソビエシュは、
相変わらず食欲がなかったものの
軽く食事を取りました。
時間がないのに
ベッドで寝込んでいるわけには
いかないので、
どうにかして体力を
養わなければなりませんでした。
ソビエシュは食事を終えた後、
しばらく散歩に出かけました。
するとラント男爵が、
ソビエシュ近づいて来て、
ラスタがお腹が痛いと言って
ずっと、うめき声を上げていると
伝えました。
この時期のラスタは、
ナビエとの離婚が成立した後、
皇后になり、
幸せの絶頂に達していたので
具合は悪くなっていなかったと
ソビエシュは思いました。
しかし、いずれにせよ、
グローリエムを妊娠しているラスタを
放っておくことはできなかったので、
彼はラント男爵に付いて
ラスタが泊まっている部屋に
入りました。
すると、お腹を押さえて、
眉をひそめている
ラスタが見えました。
ソビエシュが近づくと、
ラスタは、
とても具合が悪い。
助けて欲しいと訴えました。
ソビエシュは、
心臓をドキドキさせながら
宮医はどうしたのかと尋ねました。
現実の世界では
なかったことだけれど、
ソビエシュは離婚を中止し、
エルギ公爵のラスタへの接近を阻止し、
ハインリ王は、
姿を現すことができない状況でした。
すでに大きな変化が
何度か起きている今、
そこに繋がる他の未来も全て
変わっているのは当然でした。
ランド男爵は、
宮医を呼ぼうとしたら、ラスタが
苦い薬を飲むのを嫌がり、
皇帝に会えば良くなると言ったと
説明しましたが、それを聞いた
ソビエシュの表情が凍り付くと、
彼は、すぐに部屋を出て行きました。
ラスタは目を真っ赤にして
自分が宮医を呼ばないでと
頼んだのだから、
ラント男爵を怒らないで欲しい。
自分がなぜ具合が悪いのかは
よく分かっていると言いました。
ラスタは哀れで物悲しく見えましたが
ソビエシュは、
塔で倒れていた彼女の死体が
突然目の前に浮かび上がったので
思わず目を閉じました。
ソビエシュは、
体調が悪い時は、
医者を呼ばなければならない。
自分は医者ではないので、
ラスタを治療することはできないと
言いました。
しかし、ラスタは、
自分が病気かどうか、
ソビエシュに確認してもらってから
宮医を呼べばいい。
ソビエシュに苦い薬を飲めと
言われれば、きちんと飲むと
返事をしました。
しかし、ソビエシュは、
最近、自分も宮医の言葉に逆らって
薬と食事をきちんと取らなかったので
宮医に小言を言われたと
打ち明けました。
そして、ソビエシュは、
こういうことは
宮医が一番よく知っているので、
体調が良くなければ、
宮医を呼んでもらうようにと
ラスタを説得しました。
彼女は唇を尖らせましたが
頷きました。
宮医が来て、
ラスタには何の問題もないと
診断すると、ソビエシュは、
ようやく、その場を離れました。
東宮へ戻ると、あちこちで、
咳をする人が多かったので、
ソビエシュは、
西宮が寒くないように、
補修するところは補修し、
追加で設置するものがあれば
設置するよう
カルル侯爵に指示しました。
その日からソビエシュは
ナビエが
本宮に行く時間に合わせて出かけ
わざと彼女と一緒に歩き、
ナビエが西宮に帰る時も、
やはり時間を合わせて
一緒に歩きました。
ナビエと一緒に会議に参加する時は
今回の離婚騒動のせいで、
ナビエが馬鹿にされないように
これ見よがしに、
皇后を褒め称える言葉を使いました。
しかし、あまりにも目立ち過ぎたので
彼女は、これからは会議の場で、
自分に対して「鋭敏」だとか、
「やはり」という単語を
使わないで欲しいと頼みました。
ソビエシュはその言葉を尊重し、
ナビエがいない場所でだけ
そのような言葉を使いました。
再びナビエと近づける気配は
ありませんでしたが、
それでも、ソビエシュの日常は
少しずつ希望の色に
染まり始めました。
しかし、
1日か2日おきに、
具合が悪いと言って
ソビエシュを呼ぶラスタに
彼は一番困っていました。
人を使って、
ラスタが本宮に来るのを防いだおかげで
本宮へ行き来する途中で
彼女に捕まることは
なくなりましたが、
今度は、具合が悪いと言い訳をして
彼を呼び始めました。
ラスタが完全に仮病を使っていたなら
ソビエシュも、呼ばれる度に
彼女の所へ行きませんでしたが、
宮医は、
ラスタが少し具合が悪いのは
事実だと言いました。
だからソビエシュは、
ラスタが痛いと言う度に
行かないわけにはいきませんでした。
そんなある日、
業務を終えたソビエシュが
ナビエと一緒に帰るために
いつものように
分かれ道をウロウロしていた時、
思いがけずローラが現れ、
ナビエが体調不良のため、
業務を早く終えて西宮へ戻り
今は薬を飲んで休んでいることを
教えてくれました。
ソビエシュは
ローラにお礼を言うや否や、
急いで西宮に駆け出しました。
そして西宮に到着すると、
ソビエシュは急いで階段を上がり、
皇后の部屋の扉を開けました。
応接室に集まっていた侍女たちは
皇帝が突然現れると
驚いて挨拶しました。
ソビエシュが切羽詰った声で
ナビエについて尋ねると、
イライザ伯爵夫人は仕方なく、
相次ぐ事件で
疲れがたまっていたところへ
風邪が重なった。2、3日ほど
ゆっくり休めば良くなること、
薬も決められた通りに飲み、
今は眠っていると説明しました。
その後、ソビエシュが
ソファーに座ると、
当然、皇帝が帰ると思っていた
侍女たちは慌てて、
見つめ合いました。
イライザ伯爵夫人は
無理矢理、微笑みながら、
皇后が目覚めたら人を送るので、
もう帰るように。
皇帝も病み上がりだからと
ソビエシュに進言しましたが
彼は、皇后が目を覚まして、
宮医に診てもらうのを見てから帰ると
断固として言いました。
明け方頃、
当直ではない侍女たちが
部屋の中に入ると、
当直の侍女たちが、
うとうとしている中、
ソビエシュ皇帝だけが目を開けて
ソファーにまっすぐ座っていました。
皇帝が、狂っていようが
正気であろうが、
これが一時的なものであっても、
少なくとも今は、
彼が心から後悔していることを
侍女たちは認めました。
ソビエシュは、
ナビエ様の気持ちを取り戻そうと
必死になる気持ちは
痛いほど分かるのですが、
彼が、そうするのは
ナビエ様と離婚した後に
何が起こったか
知っているからなのですよね。
だから、この世界では、
同じ経験をしないよう、
必死で足掻いているのでしょうけれど
ソビエシュは、
自分が幸せになりたいだけで、
ナビエ様が幸せかどうかは
考えていないと思います。
それに比べてハインリは、
愛する者以外の人には
時に、残酷ではあるけれど、
愛するナビエ様が
悲しまないよう、失望しないよう
必死になっているし、
ナビエ様と侍女たちが
作ったパイの中から
ナビエ様が作ったパイを選ぶのに
死にそうになるくらい悩みました。
だから、ナビエ様は
ハインリに二面性があっても
彼のことを
愛するようになったのだと思います。