111話 雅紀は、どんな手を使っても智彦が絶望する顔を見てやると誓いました。
雅紀との面会を終えた智彦に
宮本は、
雅紀の様子はどうだったかと
尋ねました。
智彦は、
思っていたより元気だと思う。
顔もそうだし、目つきもと
答えました。
宮本は、良かったと言いました。
しかし、智彦は、
雅紀が、あの中で、
また、何か企てるかもしれない。
よく監視した方がいいと思うと
言いました。
宮本は、分かったと答えました。
刑務所の運動場で、
雅紀は、ある男に、
どうしても必要な物が
あるけれど、
お金さえ出せば、
何でも手に入れることが
できるというのは本当かと
尋ねました。
男は、
言ってみろ。
金さえもらえれば、
空から星を取ることもできると
答えました。
雅紀は、
お金なら、十分出す。
その代わり、品物は確実に
手に入れなければならないと
言いました。
男は、任せろと返事をしました。
雅紀は、
智彦、少しだけ待っていろ。
もうすぐ会いに行くからと
心の中で呟きました。
麗奈と智彦は、結婚1周年を迎え
乾杯をしていました。
麗奈は、もう1年だなんて
本当に時間が経つのは早い。
あの日の智彦は本当に格好良かった。
あの時、自分たちがこうなるとは
思わなかったと言いました。
智彦は、麗奈の頭に触れながら
自分には分かっていた。
麗奈は契約結婚だったかも
しれないけれど、
自分は本気だった。
麗奈を愛していたからと言いました。
彼女は、そうだったの?
と聞き返しましたが、
智彦の手首の刻印を見て、
もう、本当に2カ月も残っていないと
呟きました。
智彦は、
今日は自分たちの結婚記念日なので
今は、その事だけを考えようと
言いました。
麗奈は、分かっていると返事をして
お腹に触れました。
智彦は、麗奈も自分も、
皆、大丈夫だと思うと言いました。
そして、麗奈のお腹に頭を当て
お父さんの声が聞こえるか。
もう、うちの赤ちゃんたちは
15週目。
お父さんたちは、君たちを
本当に待っている。
元気に、すくすく育って、
来年、必ず会おうと
話しかけました。
麗奈は、涙を浮かべました。
智彦は麗奈の涙を拭いながら、
泣かないように。
めでたい日なのに、なぜ泣くのか。
自分の家族は、
来年必ず一緒にいる。
自分が、そのようにする。
うちの家族は、きっと一緒にいる。
自分たちは、必ず生きようと
誓いました。
九条家の食卓。
咲恵は麗奈に、
身体は大丈夫か。
つわりはどうなのかと尋ねました。
麗奈は、
大分良くなった。
食べたいものが、とても多いと
答えました。
智彦は、
最近、食べ物を買って運ぶのに
とても忙しいと愚痴をこぼしました。
栄治は、
たくさん食べるように。
母親が健康であってこそ
赤ちゃんも健康だと言いました。
麗奈はお礼を言いました。
栄治は、
麗奈は自分たちの家に、
福をもたらしたとお礼を言い
自ら作った料理を
麗奈に渡しました。
麗奈は、
それを受取りながら、
父親の表情が
とても良くなったと思いました。
咲恵は、
父親は、最近、
ベビー用品の買い物で忙しい。
智彦と麻里子の時は、
そうでなかったのにと呆れました。
栄治は、
自分がいつそうだったのかと
必死で弁解しました。
その2人を見て、智彦は微笑みました。
麻里子は、
自分たちの方が先に結婚したので
自分たちも頑張ろうと
宮本に言いました。
焦る宮本。
嫌なのかと、夫を睨みつける
麻里子。
宮本は、慌てて
そんなはずはないと答えました。
麗奈と智彦は笑いました。
麗奈はお腹に触れながら
このまま何事もなく、
元気で、赤ちゃんたちに
会わなければならないと思いました。
その手の上に、智彦は
自分の手を重ね、
2人は微笑み合いました。
祖父は、また出勤すると
言っていたけれどと
麗奈は呟きながら
カレンダーを見ました。
すでに11月になり、
過去に戻ってから1年が過ぎました。
もうすぐ、自分の誕生日。
刻印の色が、
ますます濃くなっていくのは
どういう意味なのか。
運命に逆らうことは
できないという意味だろうか。
いや、違う。違うべきだ。
初めて、過去に戻った時は、
復讐さえ成功すれば
どうなっても構わないと
思っていたけれど、
今は、もう家族もいるし
子供たちもいるので、
この子たちのためにも、
1年前のように、
虚しく死ぬわけにはいかないと
思いました。
智彦は、
麗奈のリクエストした店で
買って来た料理をテーブルに並べ
麗奈に、
早く来るようにと急かしました。
麗奈はお礼を言いました。
智彦は、
麗奈が食べたいと言えば
当然、買って来る。
早く食べてみてと勧めました。
麗奈は、
美味しそうだと言いました。
智彦は、美味しいかと尋ねました。
麗奈は、とても美味しい。
うちの子供たちは、
この料理が好きみたいだと
言いました。
智彦は、
たくさん食べてと言いました。
ふと、智彦はカレンダーを見ると
11/20に麗奈の誕生日と
書かれていました。
智彦は、その日、
一日中、一緒にいないかと
提案しました。
麗奈は、
会社を休んでも大丈夫なのかと
尋ねました。
智彦は、麗奈の誕生日なので、
一日、休暇を取る。
その日、自分たち2人は
必ず、くっ付いていよう。
その日は特別な日なので、
麗奈のそばに必ずくっ付いている。
絶対に、
何も起こらないようにすると
言いました。
11月20日まで、あと10日でした。
今がとても幸せだからこそ、
運命の日が近づく恐怖は
耐えがたいことだと思います。
ただ、
麗奈たちが過去に戻ったことで、
未来が随分変わり、本来、
生まれるはずのなかった子たちも
誕生する予定です。
その子たちの命が守られるよう
運命が動くといいなと思います。