483話 側室たちの反対意見に沈黙を守っていたラナムンが、とうとう口を開きましたが・・・
◇側室たちの望む答え◇
ラナムンは、
それでは、
運命が定めた自分の道に従い、
自分はあなたたちの敵だと
宣言しました。
驚いたラティルは、ラナムンを見て
本気なのかと尋ねました。
ラナムンの宣言に
あっという間に
雰囲気が険悪になりました。
誰かが歯ぎしりする音がし、
ゲスターは、
抱きしめているレッサーパンダの
手を揉みながら、
ラナムンをじっと見つめました。
ラナムンは顎を上げて、
そのようなロードの仲間たちを
傲慢に見回し、
どうしたのか。
あなたたちが望んでいるのは、
こういうことではないのかと
尋ねました。
ラティルはラナムンが
本気で言っているのではないと
思いながらも、
もしかしたら機嫌を悪くして、
気が変わったのではないかと
少し疑いました。
心配したラティルは
ロードの仲間たちを睨みながら
早く、違うと言えと目で訴えました。
しかし、
彼らは全員ラナムンを見つめ、
ラティルの目配せに
気づきませんでした。
皆、ラナムンの言葉を
判断するのに忙しく、
様々な表情をしていました。
秒針の音だけが数十回聞こえた後、
最も敵対的だったサーナット卿が
会議に出席することまでは止めないと
言いました。
会議に出席させることはできるけれど
依然として信頼はしないという
ニュアンスでした。
それを聞いたラナムンの口元の
片方が斜めに上がり、
ここで何人かの人が言葉を発すれば
本当に喧嘩になると思ったラティルは
素早く手を叩き、
雰囲気を盛り上げながら
「やめなさい」と叫びました。
集まった人々の注意が
ラティルに集中しました。
喧嘩が大きくなるのが
嫌だったラティルは、
この話は後ですることにして、
今はもっと重要な話がある。
すでにグリフィンから
聞いた人もいると思うけれど、
アニャドミスと仲間の黒魔術師が
自分たちの隠れ家で
怪物を作っているらしい。
直接中に入って
見たわけではないけれど、
うじゃうじゃいるようだと
話しました。
その効果があったのか、
一気に皆の注意が、
ラナムンから逸れました。
ラティルは、
深刻な雰囲気を演出するために
わざと声を低くし、
もしかしたら、それで宮殿を一度に
攻撃するつもりなのかもしれない。
タッシールとカルレインを
交換しようとしたけれど、
タッシールが逃げたので、
全面戦争を
仕掛けてくるかもしれないと
話しました。
しかし、
ラティルの言葉が終わるや否や、
ゲスターは、
宮殿を守るのは
ガーゴイルの結界だけでも十分だ。
ダークリーチャーたちを
いくら連れて来ても、
結界を越えることはできないと
反論しました。
ラティルは、アニャドミスと
黒魔術師のカラスは越えて来たと
言い返すと、ゲスターは
少数なら、結界の隙を探して
越えて来ることもできるけれど、
大勢が押し寄せて来るのは難しいと
返事をしました。
ラティルは、
それは幸いだと言いかけましたが、
ゲスターは、
安心することはできない。
結界の外にいる人々は攻撃できると
付け加えました。
ラティルは、
幸いではないと言い直しました。
ラティルは、
イライラして唇を噛みました。
宮殿を安全に包むことができても
その外側が焦土化すれば
意味がありませんでした。
むしろ国民は、自分たちは
危険にさらされているのに
宮殿だけを保護していることに
怒るかもしれませんでした。
ラティルはゲスターに、
宮殿に結界を張ったように
タリウム全体を
保護する方法はないかと尋ねました。
ガーゴイル一族が出揃えば
可能かもしれないけれど、
彼らは絶対に出て来ないと
ゲスターの代わりに
ギルゴールが答えました。
期待できるような返事では
ありませんでしたが
それでも一縷の望みを抱いて
ラティルは、
レッサーパンダを見ました。
彼は、自分が一族の中で
一番社交性が高いと、
きっぱり言いました。
絶望的な答えに、
ラティルは両手を合わせて
ため息をつきました。
レッサーパンダは、
なぜ、そこでため息をつくのかと
ラティルを問い詰めましたが、
彼女はレッサーパンダに向かって
一度微笑むと、
別のロードの仲間たちを見回しながら
アニャドミスが攻め込んで来た時に
打開策はあるかと尋ねました。
カルレインは、
あちらがダークリーチャーたちを
送ってくるなら、
こちらからも吸血鬼や
ダークリーチャーたちで防ぐしかない。
一般の騎士でも、
ダークリーチャーを
相手にできないわけではないので
彼らも戦うべきだと答えました。
ラティルは、
それこそ全面戦争だとぼやきました。
その様子を見ていたギルゴールは
昔、対抗者の中に領主がいて、
ロードが怪物たちを利用して
その領地を襲撃した時に、対抗者は
戦わない人々を
家の中に隠れさせたり、
神殿に避難させたりした。
そして周りを
聖水とかお守りのようなもので
囲んだと話しました。
ラティルは、効果はあったのかと
尋ねました。
ギルゴールが、「あった」と答えると
ラティルは、
ここには聖騎士と大神官がいるので
お守りや聖水を作るのに有利だ。
領地一つだけではなく、
全国民をそのように
避難させることができるかと
尋ねました。
ギルゴールは肩をすくめ、
それが問題だ。
領主は、領地の民さえ
気にすれば良かったけれど、
お嬢さんは、
保護しなければならないが人々が
とても多い。
アニャドミスが数多くの村の中で
どこを攻撃するかは
誰も分からないと答えました。
メラディムは、
それでも使えそうな方法だと
そっと呟きました。
ラティルは、
何もしないよりはいいと頷きました。
しかし、サーナット卿は
国が広いので、人々に
怪物の侵入に対応する方法を知らせ
避難訓練をさせれば
敵もすぐに気付くだろうと、
イライラしながら言いました。
ゲスターも、
人々は恐怖に怯え、
日常生活が苦しくなるかもしれないと
そっと付け加えました。
ラティルは、
確かにそうだけれど、
平和に過ごしていたのに、
いきなり襲われるわけにはいかないと
反論しました。
そして、タッシールなら
どんな意見を出しただろうか。
必死で頭を転がしながら
あらゆる話をしたはずだ。
今頃、タッシールは
どこにいるのだろうか。
誕生日の前には
戻って来られるだろうかと、
ぼんやり考えていると、
ラナムンはラティルを呼びながら、
彼女の膝の上に手を乗せました。
サーナット卿の目が
凶暴になりましたが、
ラティルは気を引き締め、
少し考え事をしていたと
笑いながら、返事をしました。
ラティルは、
タッシールを心配する気持ちを
脇に置き、
ロードの仲間たちを
じっくりと見回しながら、
一般の騎士たちと聖騎士たちを
あちこちに配置する問題は、
別途、国務会議で検討する、
そして、クラインとザイシンも
近いうちに、
ここに連れて来ようと思うと
話しました。
全員、驚きました。
ラティルは、
皆、表情が良くないけれど、
前もって心を落ち着かせておき、
今日のように、
２人を冷遇しないで欲しい。
クラインは、
姿を消したアニャドミスを
きちんと見ることができる
唯一の人だし、
都市や村ごとに
聖水とお守りを送るためには、
大神官の助けが必ず必要だと
言いました。
ラティルが頼んでも
ロードの仲間たちの表情は
あまり良くありませんでしたが
あからさまに嫌だと言う人は
いませんでした。
幸いだと思ったラティルは、
そろそろ帰る時間なので
立ち上がりました。
仕事に戻れば、
タリウム全体にお守りや聖水を補給し、
避難訓練をさせ、
避難所を決めることなどについて
緊急に話し合うべきだと思いました。
ラティルは、
自分は退席するけれど、
ラナムンは、
これから同僚になる人たちと
話をするようにと言って、
付いて来ようとするラナムンを
止めました。
◇悪党になりたがらない◇
ラティルは会議室の外に出ましたが
クラインと大神官に
真実を話すことを考えると
ストレスが溜まって来ました。
対抗者であるラナムンが
思ったより淡々と
真実を受け入れてくれたのを見ると、
クラインとザイシンも
理解してくれると思いましたが、
2人がショックを受けて
自分の顔も見たくないと言ったら
どうしようか。
それよりも、ザイシンが
タリウムの全民家に配れるほど
大量にお守りを作れるのか。
避難所にだけお守りを配り、
敵が侵入したら、
そちらへ逃げろと言うのが
効率的で一番いいと思う。
けれども、避難所から遠い家も
多いだろうし、
人々が避難所に行く間もなく
敵が侵入することもある、
と考えながら
ぼんやり歩いていると、いつの間にか
すぐ後ろにギルゴールが立っていて
ラティルを呼びました。
全然、気づかなかったラティルが
驚きのあまり、よろめくと、
ギルゴールは、
ラティルの手を握りました。
彼女はギルゴールに
急にどうしたのかと尋ねました。
彼は、
ラティルが忙しそうなので、
歩きながら話そうと言いました。
ラティルは不思議に思いましたが、
忙しいのは確かなので、
進行方向に足を運びました。
ギルゴールは、ラティルの手を
自分のポケットに入れたまま
前に、自分が
言おうとした言葉を
覚えているかと尋ねました。
ラティルは、覚えていないと
答えました。
ギルゴールは、
すっかり忘れてしまったようだ。
アニャドミスについて
話そうとしたのだけれどと残念がると
ラティルは、
全く分からないと答えながら
自分と彼の手が入っているため
突き出ているギルゴールの
コートのポケットを見ました。
ラティルは、
もしかして、
自分と手をつないで歩くために
わざと走って来たのかと尋ねると、
ギルゴールは、
アニャドミスが堂々と
攻め込むことはないかもしれないという
話をしたかったと答えました。
ラティルは、
手を繋ぎに来たわけでは
なかったのかと言って、
照れくさそうに笑うと、
わざと淡々とした表情で
ギルゴールを見上げ、
どういう意味なのかと尋ねました。
ギルゴールは、
アニャドミスが侵入して来ても、
彼女は表に出ない。
皆、忘れているようだけれど、
アニャドミスは、
一生、英雄として生きて来た。
500年の間に、彼女の性格は
さらに悪くなったようだけれど、
英雄扱いを受けた彼女が、
一瞬にして、悪党に
なりたがらないと思うと話しました。
ラティルは、
アニャドミスの性格は、
ギルゴール同様に悪党だと思いながら
すでにアニャドミスは、
ここに侵入し、
タッシールを拉致するなど、
あらゆる悪事を働いていると
主張しました。
ギルゴールは、
悪事を働くけれど、
悪党扱いされたがらない。
お嬢さんはロードだけれど、
ロード扱いされたくないのと
似ている。
この前、そんな気がした。
実は、自分が
アニャドミスの立場だったら
あの時、そのまま姿を現して
邪魔者を片付けていた。
しかし、彼女は最後まで
自分の姿を隠していたと
説明しました。
ギルゴールが、
自分とアニャドミスを
同じように比較することに、
少し気分が悪くなり、
ラティルの表情が歪みました。
さらに悪いのは、彼の言葉に
特に反論する点がないことでした。
ギルゴールの言葉のように、
やはりラティルも、
対外的には彼女をロードに仕立て上げ
自分は逃げ出そうとしていました。
ラティルは、
アニャドミスの目的は、
アイニの命を奪い、
カルレインを連れて行って
新婚生活を送ることかと尋ねました。
ギルゴールは、
そうだと答えました。
ラティルは、
アニャドミスが対抗者として、
また英雄ごっこをしたがるだろうかと
尋ねました。
ギルゴールは、
身体がロードだから大変だろうと
答えました。
ラティルは、
それでは、彼女は
何を望んでいると思うかと尋ねました。
ギルゴールは、
それを突き止めなければならないと
答えました。
ラティルは眉をひそめました。
ラティルは、
ギルゴールの言うことが正しければ、
それが良いのか悪いのか
分からないと言うと、
彼は目元を細く曲げ、
カルレインを渡せばいい。
そうすれば、
カルレインを手に入れた
アニャドミスが、
１人で楽しく生活するのか、
それとも、他の野望があるかが
分かるだろうと言いました。
ラティルは、
憎たらしいことを言う
ギルゴールのわき腹を
くすぐるように
つねってしまいました。
しまったと思って
彼を見上げると、ギルゴールは、
これは何ですか？という目で
ラティルを見下ろしていました。
目が合うと、
彼の口元がゆっくりと上がり、
お弟子さんは
自分を触りたいのかと尋ねました。
ギルゴールは変な発言をしたり、
とんでもない行動をするけれど
必要な時は、的確な助言を
してくれていると思います。
おそらく、ギルゴールが一番長く、
対抗者のアニャと一緒にいたので
彼女のことを
一番よく知っているのでしょうけれど
ギルゴールは気まぐれだから、
彼に彼女のことを聞いて
素直に答えてくれるかどうかは
疑問です。
彼が、自ら話す気になるまで、
待つしかないのがじれったいです。
