126話 1話 プルトゥに平和な日々が訪れましたが・・・
クロイセンの皇后の名前が
イボンヌ・デルアから
リリアン・クロイタンに
変わってから、
いつの間にか、半年が過ぎました。
皇后についての黒い噂が消えるまで
かなりの時間を要しましたが、
いずにせよ、
カルロイ・クロイタンは
その困難な仕事に
最善を尽くしました。
だから、
誰かがプルトゥ宮殿で、
皇帝の面前で、
皇后のことで異議を唱えたのは
実に久しぶりでした。
ヘイジー伯爵である
アラン・ルーダーソンは、
このように
身の程知らずな言い方をしてしまい
大変申し訳ないけれど、皇后は、
ハンス・デルアの娘である上に
嫡子でもないから、
皇后がその儀式を行うのは
不適切ではないか。
皇后に対して、
個人的な感情があるからではない。
ただ、社会的慣習的や
雰囲気というものがあると
発言しました。
10日間、行なわれる
アルバ・ループ祭。
祭りの最終日に、
皇帝と皇后が民の前で、
一年の安寧を祈り、
聖水を撒く儀式があります。
皇帝と皇后を見ようとして、
多くの人々が首都に集まるほど、
人気のある儀式だけれど、
そこから皇后を
外すべきだという発言に、
ティニャはため息をつきました。
アランは伯爵の位を譲り受け、
首都に行き来するように
なったばかりなので
首都がどのような雰囲気なのか
よく分かっていないのではないかと
思いました。
カルロイは、
それは、どういう意味なのか。
ヘイジー伯爵の言っていることと、
皇后が儀式に参加することと
何の関係があるのか、
自分には理解できないと言いました。
ティニャは、カルロイが
その言葉に衝撃を受けて、
理解できなかったのかと思い
ため息をつきました。
それでも、以前だったら、
何の戯言かと、
すぐに厳しいことを
言ったはずだけれど、
この程度であれば、
立派に対処していると
ティニャは心の中で
カルロイを褒めました。
ヘイジー伯爵は、
もちろん法的には
何の問題もないことを
自分も良く知っている。
しかし、先程、話した通り、
社会的慣習や雰囲気が・・と言うと、
カルロイは、
どのような社会的慣習や
雰囲気なのかと聞き返しました。
ヘイジー伯爵は「え?」と
聞き返した後、「当然・・」と
言いかけましたが、
その場にいる人たちの雰囲気が
芳しくないことに気づきました。
ヘイジー伯爵は、父親が死に際に、
国はどうなろうとしているのか
分からない。
アンセン家が滅亡したおかげで、
自分たちは伯爵位に昇格した。
皇妃だった女は、
私生児の男とマハへ逃げた。
皇后の座には、反逆者の娘で、
しかも私生児が座り、首都が
めちゃくちゃになってしまったと
嘆いていたのを思い出しました。
ヘイジー伯爵は歯ぎしりをし、
父の言う通りだ。
皇后はすごい人だと思うけれど、
皇后という地位は、個人の品性だけで
決まるものなのかと思いながら、
重ね重ね話しているように、
自分は皇后に対して、
いかなる個人的な感情もない。
むしろ、多くの逆境を乗り越えた
皇后を尊敬している。
しかし、その儀式は、
代々、正統な皇統を称える意味で
行なわれた。
クロイセン人にとって、その儀式が、
どれほど大きな意味を持つか
知っているのではないかと
カルロイに向かって言いました。
カルロイは、
自分の妻が法に敵った
皇后であることを知っているけれど
社会的慣習を守り、
伝統が廃れるのを防ぐために、
そのような国家的儀式に参加するのは
控えた方がいいという意味なのかと
尋ねました。
ヘイジー伯爵は、
「そうです」と返事をし、
お勧めできることではないと
付け加えました。
2人のやり取りを
ティニャは心配そうに見ていました。
カルロイは、
特に国家的な行事は、
私生児の身分の人々が
前に出る時ではないと
言いたいのかと尋ねました。
ヘイジー伯爵は、
カルロイの質問を
疑問に思いながらも、
「はい」と答えました。
カルロイは、
どういう意味かは分かると
返事をした後、
なぜ、ヘイジー伯爵は
同意したのかと尋ねました。
モルトン卿は、
今回の耕作魔法の開発に
最大の貢献をした魔法学者で、
彼の魔法のおかげで、
自分たちの領地を含む多くの領地が
豊かになった。
彼はクロイセンの発展に
大きく貢献したから当然だと
ヘイジー伯爵は答えました。
それを聞いたカルロイは、
机を叩きながら、
相変らず理解できない。
ヘイジー伯爵の話によれば、
爵位というものは、
社会通念を害さない人に渡すべきで
モルトン卿には、
ひそかに、別の褒美を
与えるべきではなかったのか。
彼は私生児だからと言いました。
ヘイジー伯爵は
「え?」と聞き返しました。
カルロイは、
だからヘイジー伯爵の主張によれば
モルトン卿は構わないけれど
自分の妻はダメ。
しかし、その主張に
個人的な感情は一切ないという
ことになるけれど、違うかと
怪訝そうな顔で尋ねました。
ヘイジー伯爵は冷や汗をかき、
慌てながら、
そうではないと弁解すると、
カルロイは、
違うのか?と尋ねました。
ヘイジー伯爵は、
誤解だ。
自分はモルトン卿について
詳しく知らなかったと
言い訳をしました。
カルロイは立ち上がりながら、
それならば、
これからよく知れば
いいのではないか。
首都にしばらく滞在して、
自分と皇后について調べる時間を
持つように。
皆、忙しいので、
今日はここまでにしようと言って
会議場を出て行きました。
ヘイジー伯爵は暗い顔で、
カルロイを呼びましたが、
ティニャはヘイジー伯爵に、
外で少し話をしようと誘いました。
カルロイは、
椅子の背によりかかりながら、
ため息をつくと、
今日一日の始まりは、
本当に非の打ちどころがなかった。
朝、ルーから先に口づけしてくれた
最高の日だった。
なぜ、ルーの気分が良かったのか、
わからないけれど、
ニコニコ笑いながら
2回もキスしてくれたのに、
あの愚かなヘイジー伯爵に
自分の一日を台無しにされたと
腹を立て、
あいつをどう処分すべきかと
考えました。
すると、ルーがやって来たことを
伝えられたので、
カルロイは笑顔になりました。
ルーは、思ったより早く
会議が終わったようだと言いました。
カルロイはルーを抱き締め、
彼女の額にキスをすると、
そのおかげで、
ルーの顔を早く見ることができたので
良かったと返事をしました。
ルーは、
今日は言葉だけ?と尋ねました。
カルロイは、ヘイジー伯爵のせいで
今日のプレゼントである本を
執務室に置き忘れて来たことを
思い出しました。
カルロイは、
毎日、プレゼントを渡しているのに
今日、渡さなければ
ルーが、がっかりすると思い、
言葉だけだなんて絶対に違うと
返事をして、
ルーの額にキスをしました。
彼女は、椅子に座ると、
これで済ますんだと言いました。
カルロイが「え?」と
聞き返すと、ルーは、
大丈夫、がっかりしていない。
これも好きだと言いました。
カルロイは冷や汗をかきながら、
全然、そう見えないと指摘しました。
ルーは冷たい顔で、
そんなことはない。
本当に大丈夫だと返事をしました。
カルロイは、
それならば、本当にプレゼントには
興味ないんだね?と聞きました。
ルーは、他に何かあるのかと
尋ねました。
カルロイはルーの唇に
自分の唇を重ねました。
カルロイは唇を離すと
これではダメ?と聞きました。
ルーは、うっとりとした
表情をしていましたが、
カルロイは、
ダメみたいだ、分かったと
言いました。
そして、カルロイは、
ルーを抱き上げ、
ダメなら良くなるまでやる。
ベッドに行こう。
ルーが満足するまで、
自分が努力しなければならないと
言いました。
ルーは笑いながら、
分かった、分かった。
プレゼントが気に入った。
だから早く下ろしてと頼みました。
カルロイは、
それはそれで、これはこれ。
やりかけたことは全てやると言うと、
ルーは笑顔でカルロイの口を抑え、
真昼間に何を言っているのか。
下ろしてと言いました。
テーブルに着いたルーとカルロイ。
ルーはコーヒーを飲みながら、
先程は、
カルロイをからかおうとして、
わざと、がっかりしたふりをしたと
打ち明けました。
カルロイは、とびきりの笑顔で
自分も知っていたと返事をし、
ルーに謝りました。
ルーは、憎たらしいと言うと、
会議で何か悪い事でもあったのか。
もう話して欲しいと
カルロイに頼みました。
ルーと一緒にいる時は
子供のようなカルロイ。
まるで、ままごとみたいな
夫婦に思えますが
不遇な子供時代を過ごした二人は
大人になった今、
子供の時に得られなかった幸せを
味わっているような気がします。
公衆の面前で、
きちんと皇帝と皇后らしく
威厳を保っていれば、
二人だけの時に何をしても
構わないと思います。