612話 ラティルが待ちに待った百花が帰って来ましたが・・・
◇話の前に風呂◇
百花は、
調査はした。
しかし、伝説のような話なので、
少し、非現実的に聞こえる部分も多く、
誇張された部分も多かった。
それに、全体的に
内容がそんなに良くなかったと
話しました。
ラティルは、
内容がそんなに良くないの?
どのくらい誇張されているの?
信じられないくらい?
と矢継ぎ早に尋ねました。
信じられないほどの話なら、
ただの誇張された神話ではないかと
思い、百花が帰って来たことで
浮かれていたラティルの気持ちが
少し落ち着きました。
百花は、
かなり荒唐無稽な話だけれど、
昔は、今より魔術と黒魔術が
発達した時代だったし、
異種族も多く目に留まったので、
色々なことを考慮すると、
正直、ある程度は虚偽で、
ある程度はもっともらしいと
結論づけることは難しいと
答えました。
四方に防御幕が
垂れ下がっているのを見ると、
百花が聞いたのは
かなりとんでもない話のようでした。
ラティルの心は
もう少し落ち着きました。
しかし、サーナット卿は、
それでも聞いておいて
損はないだろうと言ったので、
ラティルは頷きました。
そして、百花が、
アリタルのことだけでなく、
ロードと怪物が
何の関係もないということも
調べようとしていたことを思い出し、
それはどうなったのかと思いました。
アリタルの過去は、
ギルゴールとシピサ、
議長の間に漂っている微妙な感情と
500年周期の呪いを解決する
ヒントでしたが、
ロードと怪物の関係は、
百花がラティルを
敵対しないようにする鍵でした。
現実的な安全だけを考えると、
アリタルの過去よりは、
ロードと怪物のつながりの方が
重要だと思ったラティルは、
あまり焦った様子を見せないように
努めながら、
怪物とロードが無関係であることは
分かったのかと尋ねました。
しかし、百花は相変わらず
曖昧な表情をしていたので、
ラティルは困りました。
彼女は百花に
それについて調べたかと
尋ねましたが、
百花は目を細めると、
サーナット卿をチラッと見ながら、
急いで来たので
風呂に入ることもできなかった。
話が長くなるので、
まず風呂に入って、何かを食べた後に
話してもいいかと尋ねました。
ラティルは承知しました。
百花が出て行くと、
サーナット卿は
ラティルの肩をもみました。
彼女は彼のお腹に頭をもたれ、
手を伸ばして、
彼のきれいな顎を撫でると、
緊張するけれど、
虚偽であれ誇張であれ、
何かが分かるだろうと言いました。
◇アイニの決意◇
アイニは密偵の話を聞いて
目をギュッと閉じました。
元侍女で友達でもあるアプテが
震える声で「皇后陛下」と
以前のようにアイニを呼びました。
アイニもアプテも、
その失言に気づきませんでした。
アプテは素早く立ち上がると、
冷たい水を持って来て
アイニに渡しました。
彼女は水を一口飲むと、
自分たちを裏切って出て行った
使用人と下女15人全員が
カリセンを離れて良い家に引っ越し、
元気に過ごしているということは
誰かが、
彼らをそそのかしたに違いないと
落ち着いた声で話しました。
アイニは、
一体、彼らは、いくらで
自分たちを売ったのか。
むしろ彼らが、公爵家に不満を抱いて
出て行った方が、はるかに
心が痛まなかったと思いました。
そして、密偵の話では、
その15人だけではなく、
事件が起きる前に、
様々な理由でダガ公爵家を辞めた
使用人9人程度も
裏切る準備をしていて、
公爵家について
多くのことを知っている彼らは、
裏切った使用人やメイドに
会おうとしているとのことでした。
アプテはアイニの腕を握りながら
密偵に、誰が背後にいるか
分からなかったのかと尋ねました。
密偵は、
15人とも誰とも接触していないので、
背後に誰がいるか分からなかった。
カリセン内にいる
彼らの家族に接近してはいるけれど、
皆なぜ大金ができたのか
理由が分からない様子だったと
答えました。
アイニは額を強く押さえながら、
別の密偵に、
ラトラシル皇帝から
返事はないのかと尋ねました。
彼は、「はい」と返事をし、
噂では、相次ぐ大きな事件で
無理をしたせいで、
かなり健康を害した。
謁見はおろか執務室にも出られず、
部屋に閉じこもっているようだと
話しました。
ラティルが
再び執務室に出るようになったのは
最近のことなので、
タリウムとカリセンは
距離が離れているせいか、密偵は
最新情報を知りませんでした。
アプテは、
本当に具合が悪いのか。
タリウムで見た時は、
あんなに元気だったのに。
それに、すぐ近くに
大神官もいるではないかと疑うと、
密偵は肩をすくめて
確かに具合が悪かったようだ。
妊娠中という噂もあり、
そのため、わざと寝室に閉じこもって
安定期に入るまで待っているという
噂もあったと返事をしました。
アイニは腕を組んで額を指差しながら
密偵たちに出て行くよう指示しました。
密偵たちが出て行くと、
アプテは、アイニの腕を
より一層力を入れて握りながら、
うまく解決できるので
心配しないように。
前公爵には何の問題もないのだからと
アイニを慰めました。
しかし、アイニは
父親に問題があるので問題だと
思いました。
もし問題がなければ、
ヒュアツィンテが聖騎士や
神官を呼ぼうと言った時、
堂々と「そうしてください」と
言ったはずでした。
しかし、前ダガ公爵は食餌鬼なので
聖騎士も神官も呼べませんでした。
まともに暮らしてみたかったのに、
何かをする前に足を引っ張られたと
アイニが嘆くと、アプテは
うまくいくと言って慰めました。
しかし、アイニは、
自分がヒュアツィンテ皇帝を救えば
すべてがうまくいくと、
ラトラシル皇帝に説得されたけれど
そうしたことで、むしろ、
攻撃が集中するようになったと
嘆きました。
アプテはアイニに
声をかけましたが、
アイニが一人なりたいと言ったので
彼女は出て行きました。
アプテが出て行くと、
アイニは両手に顔を埋めました。
アイニは、
本当に皮肉なものだと思いました。
ドミスが生きていたら、
彼女が自分の命を奪おうとしても
むしろ家には
手を出さなかったと思いました。
実際、ドミスとその一味は
母親を誘って、彼らの味方になるよう
誘導しましたが、
ダガ公爵家を攻撃することは
ありませんでした。
彼らも拠り所が必要だったので、
むしろ、ここを
根拠地にしようとしていました。
しかし、ドミスが死んで、
その一味が瓦解すると、
むしろダガ公爵家は、
色々と攻撃を受けるようになりました。
自分の選択が間違いだったのかと
ぼんやりと考えていた時、
外から騒ぎが聞こえて来ました。
何事かと思って部屋の外へ出て
手すりを伝って歩いて行くと、
たった一人で入ってきた弟が、
誕生パーティーに招待されて
行っただけなのに、
自分がその家に入れないよう阻まれた。
自分がいると、
訳もなく火の粉が飛ぶと言って、
これからは仲良くしないと言われた。
他の子たちも、両親から、
自分と遊ぶなと言われているので、
自分がパーティーに来ると
知っていたら
来なかっただろうと言われたと
泣きながら母親に訴えていました。
友だちの誕生パーティーに行った弟が
門前払いされて
帰って来たようでした。
母親は子供を抱きかかえて、
必死になだめようとしましたが、
結局、一緒に
泣きじゃくってしまいました。
私が、何か悪いことをしましたか?
もう、姉上が
皇后じゃないからですか?
母上、姉上が、
また皇后になったらだめですか?
アイニは、母親と弟が
抱き合って泣く姿を見つめながら
手が白くなるほど、
手すりを握りしめましたが、
耐えきれなくなり、
再び部屋に戻りました。
アイニは、
扉に寄りかかりながら、
天井を見て、涙を堪えました。
運命が選択した人は3人なのに、
2人は幸せに、
のんびりと過ごしていて、
自分だけが苦しんでいることが
悔しくてたまりませんでした。
それにラトラシルは対抗者でもなく
ロードでした。
彼女の運命は、人々に後ろ指を差され、
追い詰められ、
孤独に死んでいくことでした。
しかし、ラトラシルは
自分の運命を覆して幸せになり、
アイニはヒーローどころか、
後ろ指を差される対象に
なってしまいました。
アイニは、
一体、ラトラシルと自分の何が違うから
このように二人が、
かけ離れてしまったのか、
理解できませんでした。
自分は対抗者なのに
何もしなかったせいなのか。
しかし自分は、
わざと何もしなかったのではなく、
最初は対抗者であることを
知らなかったので、何もできなかった。
対抗者であることを知った後も、
対抗者として
何かを学ぶ機会を得るのが
あまりにも遅過ぎた。
ギルゴールが自分の所へ来た時、
彼を追い払ったけれど、
彼がヘウンの首を切ったことを
知りながらも、無理矢理笑って、
彼を歓迎すべきだったのか。
怒りのせいで、
彼を喜んで師匠として
迎えられなかったのが、
これら全てのことを招くほどの
過ちだったのだろうか。
アイニは考えれば考えるほど、
呆れて、悔しくなりました。
ギルゴールは、
ラトラシルとラナムンの所へ行き、
彼らを助け始めた。
自分は対抗者なのに、
何も学ぶことができず、
何もできなくなった。
タリウムに行って、
やっと授業を受けるようになった時も
十分な時間を持てなかった。
3、4時間の睡眠しか取れなくて、
手のひらが割れるまで
剣を振り回したのに、
自分が強くなるよりも早く、
決戦の時が訪れた。
甚だしくはその決戦の時に、
ラトラシルは、
いつも自分を排除した。
自分を守ると言って、
いつも、自分を置いて行った。
アイニはしばらく泣き続けた後、
ベッドに近づき、
布団の中にうずくまりました。
ラトラシル皇帝がロードであることを
明らかにしたいという衝動が
高まって来ましたが、
この状況では、
誰もその話を信じてくれないと
思いました。
すでにラトラシルが
別のロードを作り出し、葬る様子を
多くのカリセン兵たちや大臣、
宮廷人たちが、
一緒に見たからでした。
窮地に追い込まれたアイニの心は
しきりにラトラシルの方へ
向かいました。
努めてその気持ちを
抑えようとしましたが、
切迫した気持ちは、
ずっとアイニの隙を突いていました。
そうしているうちに、アイニは、
扉がぱっと開く音を聞いたので、
素早く目元を拭いた後、
布団の外に出ました。
弟がすすり泣きながら
走って来ました。
弟は布団の上に上がってきて、
アイニの腰を抱えて
うつぶせになると、
姉の慰めが必要だと言いました。
アイニは、弟の背中をなでながら
唇を噛みました。
子供の背中が、切なく震えると、
心臓が裂けるように
痛くなってきました。
百歩譲って、
母親と父親と自分は
何かしたかもしれないけれど、
この子は、
何の過ちも犯していませんでした。
弟は姉に、
再び、皇后になってくれないかと
懇願しましたが、すぐに姉に謝り、
姉もやりたくないことは
やらない方がいい。
自分の言ったことは
聞かなかったことにして欲しい。
自分は友達と遊ぶより、
姉が幸せな方がいいと
小声で呟きました。
アイニは耐え切れなくなって、
弟の頭をギュッと抱きしめました。
こんなことをしている場合ではない。
今は、自分が
この家を導かなければならない。
どんなことをしてでも、弟と母親を
守らなければならないと思いました。
しかし、どうすればいいのか。
ヒュアツィンテ皇帝は、
父が聖騎士や神官から
検査さえ受ければ、
その後のことは、彼が
何とかしてくれると言った。
しかし、その父親が問題だ。
だからといって、父をどこかへ
行かせることもできない。
そんなことをすれば、
誰が見ても怪しむだろうし、
父を連れ去ったように見える。
一体、どうすればいいのか。
いっそのこと、父が
食餌鬼でなくなったら・・・
そう考えていたアイニの視線が
弟の首に掛けられた
ネックレス型の大神官の
お守りをとらえました。
アイニは、
今、自分のすべきことが何なのか。
家族を守るために、
最初に何をすべきかを悟りました。
アイニはゆっくりと弟の頭を離し、
努めて平然とした声で、
そのネックレスを一日だけ
貸して欲しいと頼みました。
◇百花の報告◇
結論から申し上げますと、
最後の血縁大神官が
ロードになったという陛下の
お言葉は正しいです。
そして、
その大神官の子孫たちは、
大神官がロードに堕落し、
呪われるようになったきっかけを
家族の殺害と見ています。
百花はラティルに告げました。
ダガ前公爵が
密かにクラインを
亡き者にしようとしなければ、
クラインに
首を噛まれることはなかった。
その事実を隠したかったのか、
父親の命を助けたかったのか、
その両方なのかは分からないけれど
アナッチャの誘いに乗って
ダガ前公爵を食餌鬼にしたのは
アイニの選択。
それに、
アイニがカルレイン恋しさに
ドミスに化けて
タリウムへ行かなければ、
ヘウンもダガ公爵に頼まれて
アイニを追いかけたりすることも
なかったし、
ギルゴールにも会わなかったので
ヘウンが首だけになることも
なかったはず。
アイニは、
今、自分に降りかかっている苦難を
人のせいにしようとしているけれど
ダガ前公爵やアイニのして来たことが
自分に降りかかって来ているだけだと
思います。
おそらく、
アイニが憂き目に遭っている陰には
タッシールがいると思いますが、
それだって、
アナッチャにそそのかされたとはいえ、
彼女がパヒュームローズ商団の頭の死に
責任があるからです。
アニャドミスが
自分の魂を完全にするために、
アイニの命を狙っていたことを
彼女は知らなかったので、
仕方がないとはいえ、
アニャドミスとの戦いに
ラティルが彼女を
連れ出さなかったことを恨むのも
筋違いのような気がします。
アイニは、自分とラティルと比べて
なぜ自分だけ不幸になのかと
嘆いていますが、
ラティルは、自分の行動に
責任を持ち、
人のせいにしたりしないけれど、
アイニは、人に責任転嫁ばかりして
ラティルを逆恨みし、
自分は何も悪くないと
思っていることが、
彼女の不幸の原因だと思います。
韓国語で年下の兄弟を表す
동생という単語は
弟と妹の両方の意味があり
文の前後から、弟か妹か
判断していますが、
アイニの場合、弟か妹が
混乱しています。
ダガ前公爵が食餌鬼になった後に
出て来た時は、
妹のような気がしたので、
アイニは妹と弟の両方がいると
思ったのですが、
そうではありませんでした。
いい加減で曖昧なままで
申し訳ありませんが、
アイニの兄弟が弟でも妹でも
話の流れに問題はありませんので
どちらか、はっきり分かるまで
弟のままにしておきますことを
ご容赦ください。