132話 コンプシャへ行ってはどうかという提案を受けたクリスタでしたが・・・
◇クリスタの決意◇
コンプシャへ行っても
生活は便利だけれど
そこへ行けば、自分は完全に
見捨てられた存在になると
クリスタは思いました。
自分のおかげで権力を固めた側近や
家族、友達も一緒に
過ぎ去った時代の人のように思われ
力を失う。
コンプシャへ行くことは
すべての権力が
ナビエの所へ行ってしまい
自分は残された足跡になり、
それさえも、消えるのを
待たなければならない。
クリスタは、皇帝も
悪い噂に悩まされているのに
なぜ自分だけ
逃げなければいけないのかと
侍女たちに尋ねました。
彼女たちの一人は
もともと皇帝は
評判が悪いと答えました。
他の侍女は、
クリスタは
そのようなイメージではないので
皆、驚いている様子だと
答えました。
クリスタは、ナビエと
大して年の差がないのに
離婚した彼女は美しい夫と再婚し
希望の未来が待っているのに
夫と死別した自分は
このような扱いを受け
過去の人となってしまうことを
悲しく思いました。
クリスタは、
このままコンプシャへ行けば、
自分の人生は終わり、
目的も、することもなく
死ぬのを待つだけ。
コンプシャへ行っても
良くない噂は自分についてくる。
逃げるように去れば
その噂は
もっと大きくなるかもしれないと
言いました。
これからやろうとすることは
とても危険だけれど
何もせずに
全てを失うことはできないので、
クリスタは噂を利用しようと、
決意しました。
◇憎たらしいけど気になる◇
夜になり、ナビエは
夫婦の寝室へは行かずに
自分の部屋で仕事をしていました。
何度も、夫婦の寝室の方が気になり
仕事に集中できませんでしたが
ナビエはあまりにも
ハインリのことが
憎たらしかったので
彼の顔を見たくありませんでした。
すると、夫婦の寝室の扉を
内側からノックする音がしました。
ナビエは返事をする代わりに
紙をめくる音を
わざと大きくしましたが
ハインリは、ノックをするのを
止めませんでした。
ナビエは、
絶対に開けてやらないと
思いましたが
ノックが止まないので
彼女は、自分の部屋から
こっそり抜け出し
向かいの空き部屋へ移りました。
ナビエは、その部屋の机に座り
書類を広げましたが
机と扉が離れているので
気になって仕方がありませんでした。
ナビエは扉の横にクッションを置いて
その上に座り、膝の上に書類を置いて
指が入る程度に扉を開きました。
こうしておけば
ハインリがナビエの部屋から出てくるか
確認できると思いました。
しかし、ハインリは
部屋から出てきませんでした。
彼は、まだ、
ノックをしているのだろうかと
ナビエは考えました。
今いる所は、ノックする音が
聞こえませんでした。
もし、ハインリがノックのし過ぎで
手の骨にヒビが入ったり
皮がむけたらどうしようと
心配になったので
書類を持って、扉を開けると
その横に、ハインリが立っていました。
ナビエは心臓が止まりそうになるほど
驚きました。
ハインリは、
ここへ逃げてくるくらい
自分が嫌だったのかと尋ねました。
ナビエは、
逃げて来たのではなく仕事が多い・・
と言いかけましたが
夫婦の寝室に入らなかった
本当の理由が
「重い」と言われたことに
ショックを受けたなんて
些細なことにクヨクヨする
小心者のように思われたくないので、
ナビエは、
馬から落ちて痛いのに、
ケガをしている人の横で寝れば
具合が悪くなると思ったと答えました。
ハインリは
自分が痛くないことを
知っているのに、
自分の羞恥心を利用して
自分をもて遊んでいるのかと
反論したので、ナビエは、
最初に冗談を始めたのは誰か
考えるようにと
ハインリに言いました。
そして、
ナビエが部屋の中へ入ると
ハインリが後から
ちょこちょこ付いて来ました。
ハインリはナビエに謝ってから
彼女の視線を釘付けにするために
お芝居をしたと言いました。
その話し方が可愛くて
ナビエはハインリに
キスをしたくて
たまらなくなりましたが
ナビエは、
お芝居のことを
怒っているのではない、
胸に手をあてて
よく考えてみるように。
ハインリの良心は自分ほど
重くないかもしれないけれどと
言いました。
ナビエは、結構意地っ張りなところがありますよね。
◇ナビエの怒っている理由◇
ナビエが仕事をするようになってから
マッケナの仕事は減りましたが
逆に、ハインリのプライベートな
悩みのせいで、
彼の仕事の効率が落ち
ハインリの秘書であるマッケナも
仕事のペースを落とさざるを
得なくなりました。
ハインリは、お芝居をしたことが
ナビエにばれて、恥ずかしくて
布団に潜っていた時に
マッケナが、その上から、
覆いかぶさったかどうか
マッケナに尋ねました。
マッケナは、
そんないやらしいことはしていないと
答えました。
ハインリの顔が真っ青になりました。
ハインリは、
その時、ナビエが自分の所へ来たか
マッケナに尋ねました。
彼は、ナビエが来た時
夫婦喧嘩が始まるのに備えて
その場を離れ
すぐに階下へ降りていました。
てっきりマッケナは
ハインリがナビエと
話をしていたと思いました。
ナビエがその場にいたと
マッケナが答えると
ハインリは顔を手で覆って叫びました。
ハインリは、
布団の上から覆いかぶさったのは、
マッケナだと思い
彼女に重いと言ってしまった。
ナビエは重いという言葉が嫌いだから
怒っていると
マッケナに言いました。
マッケナは、
重いから重いと言ったのに、
なぜ、皇后が怒っているのかと
ハインリに尋ねると、後ろから、
重いものを重いと言っただけで
怒る理由はない。
重いから重いと言っただけ。
それなのに、なぜ怒っているのか
理由が聞きたいのかと、
低く沈んだ声が
ハインリに尋ねました。
マッケナは寒気がしました。
後ろを振り返ると
戸口にたっていたナビエが
にっこり笑っていましたが
すぐに、その顔は
冷たく険しくなりました。
少し触れただけで
氷の棘が飛び出してきそうでした。
◇クリスタの爆弾発言◇
2人の男の顔が固まっているのを
無視して
ナビエは、ハインリとマッケナに
書類を渡しました。
ハインリは、
自分の失敗を
もみ消そうとするかのように
きれいな顔で愛らしく
ナビエに笑いかけました。
実は、ハインリがナビエの
機嫌を取らなくてはいけないほど
ナビエは怒っていませんでした。
ラスタが自分のことを姉と呼び
ソビエシュが
ラスタに関することをすべて
ナビエのせいにしたことに比べれば
ハインリのしたことは
ましだと思っていました。
その時、クリスタが
ハインリを訪ねてきました。
用事は直接会って話すとのこと。
ハインリは、仕方なくクリスタを
執務室へ入れました。
カトロン侯爵も一緒でした。
クリスタは、いつもより
暗い色の服を着て
アクセサリーは1つも着けず
髪も1つに束ねただけでした。
なぜかユニムは、
ナビエに申し訳なさそうな顔をして
彼女の顔色をうかがっていました。
カトロン侯爵は
怒ったような顔をしていました。
ナビエは不吉な予感がしました。
クリスタは、
ナビエをチラッと見ましたが
挨拶をすることなく
ハインリに人払いを
頼みましたが
彼は、きっぱりと断りました。
ナビエはハインリのそばに立ったまま
カトロン侯爵を観察しました。
彼は怒っているような
顔をしているけれど
なぜか見せかけているように
感じました。
クリスタは苦笑いをしながら
ハインリに
自分を側室にして欲しい
と言いました。
驚きのあまり
執務室が静まり返りました。
クリスタは複雑な顔をしていたし
ナビエは、自分の常識では
理解できないと思いました。
ハインリは、クリスタに
聞き間違えたようだと
無表情で冷たく言いました。
クリスタは
自分が側室になれば
自分と自分の家門の人たちが
西大帝国を繫栄させるのを
手伝うと言いました。
ハインリは、
クリスタの家門が自分を助けて
大帝国を安定させるのは
貴族として
当然の義務だと言いました。
クリスタは
人々が噂をしているように、
自分はハインリのことを
気にかけている。
ハインリは自分のことを
気にかけていないけれど
一度だけ自分を受け入れてくれた。
自分たちが密会しているところを
多くの貴婦人に見られたので
自分の貞淑なイメージと評判が
崩れてしまった。
目撃者がいなければ
一夜の夢として
収めようと思ったけれど
こうなった以上仕方がない。
自分たちは大人なのだから
自分もハインリも、あの夜のことに
責任を負わなければならないと
言いました。
ハインリがノックのし過ぎで
骨にヒビが入ったり皮がむけたら
どうしよう・・・
このナビエ様の発想が可愛くて
笑ってしまいました。
カフメン大公の恋の妙薬のせいで
とんでもない展開に
なってしまいました。
夫が亡くなったために
王妃としての権力を
失ったクリスタ。
一度手に入れた権力を失うのは
とても耐えがたいことだと思います。
恋の妙薬の一件がなくても
クリスタは
権力を失うことに耐え切れず
何か行動を起こしたかもしれません。
プライドを捨ててまで
ハインリの側室になろうとするなんて
クリスタを哀れに思います。