外伝25話 マスタスとエベリーはダルタを探しに行きましたが・・・
◇狙われたマスタス◇
常時泉がハチの巣と
呼んでいるものがあります。
触れると損ばかりするもの。
気に障るが
放っておいた方がましなもの。
触れたら、
単純に騎士団を一つか二つ
送り込むレベルではなく
戦争レベルにまで広がるもの。
血の手(マスタス)は、
狂った騎士(コシャール)より
手強くないけれど
血の手はナビエ皇后の最側近だから
彼女を殺して
ハチの巣をつつくことになったら
どうするのか?
とケルドレックは尋ねました。
ビンセルは首長が行かなければ
1人でも行くと言いました。
マスタスはダルタを
スパイだと誤解していたが
北王国まで
追いかけてきたということは
私たちとも関係があることに
気づいたからだ。
とビンセルは言いました。
ケルドレックは腕を組んで
悩みました。
確かに、スパイで
癒しの魔法使いともなれば
マスタスが直接捕まえに来るのも
当然だ。
ダルタを捕まえて、殺すか
奴隷にすることもできると
思いました。
彼が知っている限り
西へ向かっているのは
マスタスだけでした。
ついにケルドレックは
やってみようと
決意しました。
◇手紙◇
魔法を身に着けたいと言って
やって来た
身分も正体も分からない女は
近くに住んでいると思ったのに
意外と遠くの国から来ていました。
マスタスは馬に乗り
しばらく走り続けると
野原にある
小さな池の前で立ち止まりました。
ダルタの家は、すぐ近くなので
彼女を訪れる前に
馬に水を飲ませました。
馬が水を飲んでいる間に
ダルタの住所を確認しようと思い
ポケットから手紙を取り出して
開きました。
しかし、取り出したのは
コシャールからの手紙でした。
マスタスは
急いでここまで来たので
数日前に、
ナビエからもらった手紙を
まだ確認していませんでした。
手紙には
一緒に馬に乗る人がいないので
寂しいです。
風が吹いて、
野営テントがはためくと
その向こうに
君がいるような気がします。
と書かれていたので
マスタスの顔は
真っ赤になりました。
マスタスは後で手紙を
読むことにしました。
マスタスは服の中に
手紙をしまった瞬間
ピンという音がして、
水を飲んでいた
馬が飛び跳ねました。
マスタスが馬の手綱を取ると
小さな手斧が飛んできて、
隣の木に刺さりました。
マスタスは槍を外しながら
頬を手の甲で拭うと
手斧がかすった所から
血がにじんでいました。
振り向くと
人の群れが近づいていました。
マスタスは
槍を握りました。
◇野営地で◇
強風が恐ろしい音を立てて
テントを揺らすので
中にいた人たちは
外へ出て行きました。
コシャールは
風にはためくテントの間で
誰かと目が合うような気がして
本当に目が合うと
照れくさそうな顔をして
槍を磨くような気がして
誰もいなくなったテントを
見ました。
コシャールは
気まずい気持ちを抑えて、
副官に
超国籍騎士団が
まだうろついているのか
尋ねました。
違う方向に向かっているという
副官からの返事に
ハイエナのように
振る舞っていたのに
どうしたのか?
とコシャールは尋ねました。
副官は
あいつらの異常行動は
一度や二度ではありません。
また、あの狐が
何か指示を出したのでしょう。
と答えました。
◇マスタスの行方◇
ナビエは松脂で
バイオリンの弦を拭いていると
なぜか急に切れてしまいました。
マスタスは
魔法使い宛にダルタが書いた手紙を
持って、どこかへ行ったまま
まだ帰って来ていませんでした。
ダルタの所へ行ったのか。
でも、彼女は
旅行へ行ったので
少し待てば帰ってくるのに。
クロウがいたら
様子が聞けるのに
彼もいませんでした。
◇瀕死のマスタス◇
どうすれば
ダルタが驚くことなく
産みの親の話ができるだろうかと
エベリーは
馬車の中で考えていました。
もっとも、ダルタが
ラスタの事件について知らなければ
それほど驚くこともないと
思いました。
それから、どのくらい経ったのか
御者が叫び声を上げました。
エベリーが驚いて
窓から顔を出すと
御者は
死体!馬!カラス!
と叫びました。
御者の言う通り
前方から馬がトボトボ歩いて来て
その上には
死体と思われるものが
荷物のようにかけられており
その上にカラスが座っていました。
エベリーがそちらに駆け付けると
カラスは
あなたが来たので私はもう行く。
といった風に
空へ飛び立ちました。
エベリーと御者は
馬にぶら下がっている人を
下ろしました。
その人はマスタスだったので
エベリーは驚きました。
エベリーはすばやく
マスタスの鼻に手をかざすと
息をしていたので
本当に良かったと思いました。
心の中で祈った後、エベリーは
彼女を治療しようと思いましたが
隣にいる御者が気になったので
エベリーは彼に
私は医者だから
お酒を買ってきてください。
と頼みました。
御者が遠ざかるのを確認してから
エベリーはマスタスの
治療をしました。
しばらくして、
何度か身体を動かしていた
マスタスが
ぱっと目を覚ますと
エベリーの胸倉をつかみましたが
彼女だとわかると
謝りました。
マスタスはキョロキョロ見回し
彼らはどこにいるのかと
尋ねました。
エベリーは
自分が発見した時は
マスタスと馬とカラスしかいなくて
カラスは飛んでいったと
答えました。
マスタスは
常時泉のことを尋ねました。
エベリーは
見えなかったです。
彼らにやられましたか?
私がいなかったら
マスタス卿は
死んでいました。
と答えました。
マスタスは
ダルタは常時泉の仲間だった。
月大陸連合のスパイだと
思ったけれど
それは誤解だった。
と言いました。
エベリーは
マスタスの話の意味が
わかりませんでした。
マスタスは
ダルタを月大陸連合の
スパイだと思って追い出した。
けれども、
メモが偽物だと気づき
誤解を解くために
ここまで来た。
こちらには来ない常時泉が
待ち伏せをしていて
普段以上に
無理な攻撃をしてきたこと。
を説明しました。
ダルタは、
またマスタスの誤解だと
思いました。
彼女は
御者が来たら
通りかかった治癒系の魔法使いに
治療してもらったと言って
その馬車に乗るように。
誤解があるようなので
調べてきます。
と言って
マスタスの馬にまたがり
ダルタの家へ向かおうとすると
彼女は
じゃあ、ちょっと。
と言って
エベリーを引き留めました。
◇罠◇
もう少しで
マスタスを殺すところだった。
ところが
どこから現れたのか
裸の狂気に満ちた男が
急に割り込んできたので
マスタスを逃してしまった。
と話を聞いてダルタは驚き
それが気になって
仕方がありませんでした。
手を出さないのが一番
良かったけれど
そうしてしまったら
必ず殺すべきで
常時泉の仕業だとわからないように
死体を隠して
マスタスが死んだことも
隠すべきでした。
マスタスが生きて帰れば
西大帝国は大々的に
常時泉に復讐するだろうと
ダルタは思いました。
どうしよう。
ダルタはイライラしながら
部屋の中を歩き回っている所へ
エベリーが訪ねてきました。
エベリーは
ダルタに会いたかったので
手紙に書かれた住所を見て
訪ねて来たと言いました。
ダルタはとても喜びました。
彼女はマスタスのことが
気になりながらも
エベリーを家の中へ入れて
お茶を用意しました。
ダルタはエベリーの近況について
尋ねた後
エベリーがマスタスを
見かけたかと思い
自分の所へ来る途中
誰か見なかったかと尋ねました。
エベリーの心が凍り付きました。
ダルタが常時泉と関連があるという
マスタスの言葉を
否定しましたが
ダルタが、その話をし出したので
本当に知っていたんだと思いました。
エベリーは淡々と
見た。
と答えました。
その答えにダルタの心臓は
ドキッとし
その人の状態について
エベリーに尋ねました。
エベリーはダルタの質問に
いっそう苦しくなりました。
マスタスの
ケガのことまで知っているので
確実にすべてのことを
知っている、
ダルタもマスタスの襲撃に
加わったと思いました。
自分の知っていた
優しくて明るいダルタは
一体誰だったのか
エベリーは混乱しました。
エベリーは
ダルタの所へ来る途中、
近くに池がある
大きな珍しい木の所で
死体を見たと言いました。
そして、
ダルタが引き留めたものの
死体を見たせいで気分が悪いので
帰ると言いました。
エベリーが完全に遠ざかるのを見て
ダルタはマスタスの死体を
片付ける準備をしました。
そうしているうちに
マスタスを追って
森に入ったビンセルが
ダルタに近づいてきました。
ダルタはビンセルに
マスタスの死体がある場所を
教えました。
その話を誰から聞いたのかと
ビンセルが尋ねると
ダルタは
以前話した信用できる妹から
聞いたと答えました。
スコップを持って
死体を
片付けに行こうとするダルタを
ビンセルは捕まえて
自分が行くと言いました。
エベリーは
村へ行くふりをして
遠回りをした後
マスタスが
死んだ振りをしている
場所を見下ろせる
小高い丘へ行きました。
エベリーは
大きな木の後ろに身を隠して
様子をうかがっていました。
エベリーはダルタが
マスタスを襲った人たちの
仲間だと確信したものの
マスタスが死んだと聞いて
ダルタがすぐに駆け付けないように
願っていました。
ダルタが盗賊と関係があっても
彼女がマスタスを
殺そうとしたのでなければ良いと
ダルタは思っていました。
しばらくすると
斧を背負った見たことのない人が
現れました。
お姉さんが
盗賊を呼んだに違いない。
お姉さんも盗賊の仲間だったんだ。
お姉さんが
マスタスを殺そうとした。
その人は、
死んだ振りをしている
血まみれのマスタスに
近づきました。
彼女の周りには罠が仕掛けてあり
その人が罠を踏んだ瞬間
足首を引っ掛けられ、
木に逆さ吊りになりました。
マスタスはその人の心臓を
一気に短刀で刺しました。
ダルタに失望したエベリーは
後ろを向いてむせび泣きました。
その瞬間、
おかあさん。
と叫ぶ聞こえたので
再びエベリーは
木の間から眺めると
そちらの方へ走っていく
ダルタを見ました。
彼女は落とし穴に落ちました。
マスタスは落とし穴に近づき
中を見下ろしましたが
ダルタを殺さずに
行ってしまいました。
先にマスタスを殺そうとしたのは
彼らなのに
自分が彼女を見つけなければ
死んでいたかもしれないのに
落とし穴の中で
お母さんと呼ぶ声が
ダルタの心臓を締め付けました。
エベリーは木に吊るされた
盗賊を見ると
彼女は死にかけているのに
穴に向かって、
手を差し伸べていました。
今なら盗賊を助けることができると
エベリーは思いました。
けれども、ダルタは
マスタスを殺そうとしました。
エベリーはダルタの叫び声を避けて
逃げるように近くの村へ行きましたが
いつまでも、ダルタの叫び声が
幻聴のように聞こえました。
エベリーは迷った末
イスクア子爵夫妻が生みの親だと
短い手紙を書いた後
傭兵を雇い
ダルタを助けた後
その手紙を渡すように頼みました。
自分が依頼したことは
言わないようにと伝えました。
これで最後だ。
あの人とは二度と会いたくない。
とエベリーは呟きました。
◇クロウが戻ってきた◇
ナビエが
東大帝国の港を陣取った
超国籍騎士団の騎士たちを
武力を動員しても
追い出さなくてはいけないと
父親に手紙を書いていると
ダルタを見張らせておいたクロウが
素早く窓ガラスを叩いていました。
第21話で、
ナビエと侍女たちが
お菓子を食べている時に
マスターズの笑みを見たのが
最後になったと書かれていたり
今回のお話で
コシャールがマスターズのことを
思い浮かべたり
ナビエのバイオリンの弦が
急に切れたりと
不安になるようことが
書かれてあったので
マスターズが死んでしまうのかと
気になっていましたが
助かって本当に良かったです。
そもそもダルタとエベリーが
親と生き別れになったのは
常時泉のせいですが
ダルタは
常時泉に育てられることになり
エベリーは孤児院に預けられました。
盗賊でも
母親と呼べる人がいたダルタの方が
幸せなのか、
盗賊に育てられるくらいなら
孤児でいた方が良かったのか。
ただ、ダルタがとても明るく
育っているのを見ると
愛情をかけられて育つことは
大事なのかなと思います。