443話 ミロの王と王妃の寝室に現れた人は誰?
◇ザリポルシ姫の話◇
カーテンの間に立っていたのは
行方不明になっていた
ザリポルシ姫でした。
王と王妃は、急いで娘の所へ
駆けつけましたが、彼らが来ると、
死体のように立っていた王女は
脇へ避けて、両親を避けました。
王と王妃は戸惑いました、
それでも、姫は
そのままそこにいたので、
彼らは姫との距離を保ったまま、
一体どこへ行っていたのか。
姫が行方不明になったと思っていた。
姫と侍女1人以外は皆死んだと聞いて
とても怖かったと、
話しかけ続けました。
すると、姫は、
ロードが隠れている
洞窟の位置を聞いたので、
そこへ行ったところ
急襲されたと話しました。
驚いた王は、
ロードが姫たちを急襲したのかと
尋ねました。
王女は首を横に振り、
それがロードだったかどうかは
分からないけれど、
何もなかったら急襲されなかった。
何か危険なことがあったようだと
答えました。
王妃は姫に近づこうとしましたが、
彼女が来ようとするや否や、
姫は再び遠ざかりました。
なぜ、しきりに
遠ざかろうとするのかと
王妃は切なそうに
娘に呼びかけると、
姫は王妃との距離を保ちながら
自分はすでに
邪悪な存在になってしまったと
悲しそうな声で言いました。
王妃は、
聖騎士団長の姫が
邪悪な存在になったというのは
どういうことなのかと尋ねました。
しかし、姫は王妃に、
まだ自制心が足りないので
近づかないで欲しいと頼みました。
王妃は、遅ればせながら、
姫の侍女であり聖騎士でもあった
ピアルが言った言葉を
思い浮かべながら、
ピアルが意識を失う前に
大神官のお守りが偽物だったと
言ったそうだけれど、
それは一体どういうことか。
そのお守りは、姫が持っていた
お守りのことではないかと
尋ねました。
姫は「そうです」と答え、
お守りが変えられたと告げました。
王妃は、
大神殿から直接買ってきたお守りが
どうして偽物なのかと尋ねました。
姫は、
お守りが変えられたようだと答え、
そんなことができる場所は・・
と言いかけて、
しばらく沈黙していた姫は
沈んだ声で、
「タリウムだけだ」と言って、
話を終えました。
◇話の基準◇
会議を終えたラティルが
食堂へ行くと、
すでに食事が用意されていました。
ラティルは椅子に座りながら、
サーナット卿に一緒に食べようと
誘うと、彼はラティルの向かいに座り
ずっと脇に抱えていた書類を
手渡しました。
それは、神殿行事に
参加した人々の名簿で、
見物に来た人々の他に、
神官たち、神官が雇った人々、
他の役割を担うために
招待された人たちまで
全て入っていました。
名前に下線が引かれている人は
名簿を作成した当初は、
入っていなかったけれど、
聞き込みの結果、神殿に来たことが
後で確認された人たち。
クエスチョンマークが書かれた人は
最後の行事があるのを知らずに
帰った人たちでした。
ラティルは、
いつも持ち歩いているペンを取り出し
この人たちは違うと言って。
その人たちの名前に下線を引きました。
ラティルは、遠く離れた人の本音まで
読み取ることはできませんでした。
どの距離まで可能なのかは
正確には分からないけれど、
今まで、心を読めた人たちは皆、
ラティルの目が届く範囲にいました。
だから、犯人が捕まった時に、
先帝の墓に残されたメモのことを
思い浮かべた人は、
きっと神殿に残った人たちの中にいて
先に帰った人たちではないと
思いました。
ところが、ペンで線を引いていると
サーナット卿が怪しそうな目で
ラティルを見ていました。
彼女は笑いながら
どうしたのかと尋ねると、
サーナット卿は、
ラティルが何を基準にして、
そんなことを話しているのか
気になると答えました。
ラティルは真顔でフォークをつかみ、
「食べましょう」と言いました。
◇ラティルの調査方法◇
食事を終えて、
ラティルが仕事に戻ると、
タイミングよく
ゲスターがやって来ました。
ラティルは、
昨日、ゲスターが
一人で行ってしまったことに
少し寂しさを感じていましたが
プライドを守るため、
平気なふりをして
昨日、ゲスターは
急にいなくなってしまったけれど
用事は済んだのかと尋ねました。
意外にもゲスターは
躊躇うことなくラティルに近づき
聖水事件の犯人について
少し調べてみたと告げました。
ラティルは、
犯人は死んだはずだ。
昨日、死ぬところを見たと
反論すると、ゲスターは
少し起こしてみたと
口ごもりながら告げました。
その言葉を聞くと、
ラティルから寂しさが消え、
驚きの気持ちが沸いて来て
親指を突き出しました。
死体を起こして何かを調べるなんて
新しい捜査法だと思いました。
ラティルは、
それは便利そうだ。
他にも使えるのではないかと
言いました。
しかし、ゲスターは
それを否定し、
色々制限もあるし、魂を呼んでも、
返事をしない場合がある。
死んでから数日経った死体は
このような方法で
少しだけ起こすのは大変だ。
堂々と復活させることはできるけれど
そうすれば誰が見ても・・・
と話しながら両手で顔を覆い、
自分は、こういうのは怖いので
やりたくないけれど、
ラティルのためなら耐えられると
言いました。
後ろにいたサーナット卿の唇の両端が
下がり続けましたが、
ラティルは心から感動し、
ゲスターは天使だと言いました。
世の中に、
こんなにおとなしい天使が
いるだろうかと考えながら
ラティルはゲスターに近づき、
彼を抱きしめると、
再び自分の席に座りました。
そして、死体が何と言っていたか
尋ねました。
ゲスターは、
死体は脅迫されて
仕方なく犯行に及んだようだ。
申し訳ないと思っているのか
素直に話してくれたと言って、
死体が教えてくれた
いくつかの情報について、
ラティルに伝えました。
そして、死体に仕事を依頼した者の
手の甲にタトゥーがある。
そして、これは、
死体が言った言葉ではなく、
自分の考えだけれど、
死体は死刑囚なので、
独房にいる死刑囚に
会いに行ったり、
連れ出すことができたのは
少し地位が高い人だと思うと
話しました。
ラティルは真剣に悩んだ末、
サーナット卿が持ってきた名簿を
ゲスターに渡し、
書き写すよう指示しました。
ゲスターは、それが
昨日、神殿の行事に
参加した人たちの名簿だと聞くと、
どうして、
これを書き写すのかという目で
ラティルを見ました。
彼女は、
以前、先帝の墓を傷つけた事件があり、
その時、墓の近くに、
自分が先帝の命を奪ったと書かれた
メモが落ちていた。
そのメモを書いた人が、
昨日、神殿行事の参加者の中にいた。
そして、高い確率で、その人が
聖水事件の犯人か共犯だ。
ゲスターとサーナット卿が、
それぞれ調べて来た情報を組み合わせて
容疑者たちを絞るように。
自分も別に調べてみると
指示しました。
それを聞いたサーナット卿は驚き
危ないので、
ラティルが直接調べるのは
やめて欲しいと言いました。
しかし、ラティルは首を横に振り、
大丈夫。
自分が動かなければならないことも
あると言いました。
他の人たちが、
いくら尋問が上手だとしても、
自分のように、
他人の本音を聞く人は珍しい。
もちろん自分も、いつでも本音を
聞けるわけではないけれどと
考えながら、ラティルは、
今度こそ、
あの犯人を捕まえられると思い、
拳を握り締め、
やる気を起こしました。
サーナット卿は、
そんなラティルを見つめながら
首を傾げました。
ラティルが話してくれない
彼女のその調査方法というのが
一体何なのか気になりました。
たまに、ラティルは
人の本音が聞こえているような
口ぶりをするけれど、
すぐにサーナット卿は
そんなはずがないと
自分の考えを否定しました。
ラティルが自分の心を読めるなら、
こんなに長い間、
自分の心を知らなかったはずがなく
こんなに平然と自分に接するのは
難しいはずだからと考えました。
◇末っ子◇
ちょうど交代の時間なので、
サーナット卿は
他の近衛騎士を執務室に入れると、
自分はゲスターと外に出ました。
それから、
サーナット卿とゲスターは黙ったまま
廊下を並んで歩いて行きました。
一緒に歩きたいからではなく、
行く方向が同じだったからでした。
ゲスターはサーナット卿に
どこまで同じ方向に行くつもりなのかと
尋ねました。
廊下が、ずっと一本道なので、
窮屈に感じたサーナット卿は
本当に不便だと
答えるしかありませんでした。
実はゲスターとサーナット卿は
味方でもぎこちない仲でした。
サーナット卿は
ロード側の基準で言うと
赤ん坊なので、何をしても
「幼いから何も知らない」という
扱いを受けました。
ロードの仲間たちとは
付き合う時間が短いため、
憎しみはないけれど、
気まずい思いをしました。
そんな中、ゲスターとは
メロシー領地で
密かに口論したこともあるので、
仲が良いわけがありませんでした。
しかし、カルレインは
500年間ずっと生きてきたけれど、
考えてみればゲスターは
同年代でした。
特殊な事情が色々あるので、
完全に同年代ではないし、
サーナット卿は
末っ子の立場ですが、
ゲスターまで年上扱いを
しなければならないのが
とても嫌でした。
一方、ゲスターは
側室でもない者が
皇帝に自分の気持ちを隠すことなく
彼女の前で
きれいな羽を振り回す姿を、
とても見たくありませんでした。
いくら歩いても
2人の進む方向は同じなので、
サーナット卿は、
ため息をつきました。
それでも、
ろくでなしの下衆ターよりは
自分の方が大人しいので
先に手を差し伸べなければならないと
思うや否や、彼は、
「一緒にしましょうか?」と
渋々提案しました。
しかし、サーナット卿が
苦労して口を開いた甲斐もなく、
ゲスターは、すぐに
「嫌です。」と断りました。
サーナット卿は、
まだ何をするかも言っていないと
抗議しましたが、ゲスターは、
それが何であっても嫌だと
拒否しました。
そして、サーナット卿が、
皇帝のために、2人が力を合わせて
調査をすれば、もっと早く・・・
と話している途中で、ゲスターは、
周りに人がいなくなったかと思うと
あっという間に姿を消しました。
サーナット卿は、
誰もいなくなった隣を見て
苦笑いしました。
◇こちらが本物みたい◇
その時刻、偽物のドミスが待っている
洞窟に戻ってきたアニャは、
イライラしながら、
手に持っている食べ物を
見下ろしました。
一応、約束した通り
祭りの食べ物を持ってきたけれど、
出かけた時の気持ちと
帰って来た時の気持ちが違うので
息詰まる思いでした。
アニャは、
長い洞窟の中を歩きながら、
偽ドミスが誰なのか
堂々と尋ねるべきか、
それとも、
知らないふりをしてみようかと
決めかねていました。
しばらくそうして歩いていると、
棺桶の上に立ち、空を見上げている
偽ドミスが見えました。
その姿は、
自分が妹のように思っていた
ドミスの姿なので、心が痛みましたが
彼女に話す気があったなら
すでに言っていたはずだと思い、
彼女が誰なのか聞いてみようと
決心しました。
アニャは偽ドミスに近づき、
食べ物を差し出しながら、
せっかく連れて来た黒魔術師も
いなくなってしまったけれど
これからどうするのかと
尋ねました。
偽ドミスは顔を上げて
食べ物を受け取りました。
アニャが偽ドミスの表情を
くまなく調べていると、偽ドミスは、
食べ物を持っていない方の手で
いきなりアニャの手を握りました。
驚いたアニャが偽ドミスを見ると、
偽ドミスは、ドミスのような笑みを
浮かべていました。
そしてアニャに「いつもありがとう」と
お礼を言いました。
急にそんなことを言われたアニャは驚き
偽ドミスがお礼を言った理由を
尋ねました。
偽ドミスは、
ランスター伯爵の城へ行って以来、
アニャがずっと自分を
守ってくれたことを知りながら、
規則を破って勝手に歩き回り
アニャを不安にさせてしまった。
今、自分は混乱していて、
たまに、ひどいことを言ったりして、
本当に申し訳なかったと謝った後、
でも、自分は、
アニャが大好きだということを
知っているよねと確認しました。
アニャの瞳が揺れました。
このドミスが偽物だと思ったのは
自分の判断ではなく
多数の判断によるものでしたが、
このドミスが、
突然、以前のドミスのように
振る舞うと当惑し、
こちらが、
本当のドミスのように思えました。
固まっているアニャを、
アニャドミスは両腕を広げて
抱きしめ、
アニャはいつも自分の味方ですよねと
確認しました。
サーナット卿とゲスターが
メロシー領地で
言い争いをしたのは
143話で、ラティルがゲスターを
メロシー領地へ
連れて行った時のことでしょうか。
この時、ゲスターは
サーナット卿が
ラティルの横に並んで
笑っているのを見て、
子供のボールを
潰してしまいましたが
本来、ラティルの後ろにいるべき
サーナット卿が、
彼女の隣にいたことに腹を立て
言い争いになったのではないかと
思います。
ゲスターは、自分以外の側室が
ラティルに近づくことも許せないのに
仕事とはいえ、
側室でもないサーナット卿が
常にラティルと一緒にいることを
苦々しく思っているのかもしれません。
しかも、彼はロードの騎士で、
ラティルのことが好きなので
ゲスターは、
ラティルの周りにいる男性の中で
サーナット卿を真っ先に蹴落としたいと
思っているのかもしれません。
それにしても、
カルレインもサーナット卿も
ゲスターも、
ラティルが皇帝になる前から
知り合いなのに、
そんなことは、おくびにも出さず、
しばらく過ごしていたのは、
仲は良くなくても、
ロードの側に立つ者同士、
結束力が強いのではないかと
思います。