802話 ラティルが先帝の死去と関連があるという証拠を受け取ったと、とんでもないことを言いだした者がいました。
◇だからバレた◇
証拠を受け取ったという者は、
先帝が最も大切にしていた子供が
悪魔と変わらない
ロードであることを知り、
それによって死に至ったという
内容だったと話しました。
ラティルは、
今日扱う案件のリストを見ている途中
ちらっと頭を上げました。
これはどういうことなのか。
ラティルは
言い出した人の顔を確認して
もう一度、驚きました。
急に、この言葉が出て来たのにも
驚きましたが、
それを言い出したのは
父親の側近ではなく、
レアンの支持者でもなく
完全に第三者だったからでした。
その場の雰囲気は一度凍りついた後、
大きな音を立てて崩れ始めました。
ざわめく声が
あちこちから聞こえてくると、
突然、声が大きくなりました。
何の妄言を吐いているのか!
口に気をつけろ!
など、あちこちで怒りの声が
質問した人を非難しました。
しかし質問した人は、正直な目で
ラティルを見つめました。
彼女は姿勢を正すと、
誰がそんな証拠を出したのかと
尋ねました。
騒めきは、ラティルの小さな一言で
一気に収まりました。
質問した者は、
レアン皇子だと答えました。
静まりかえった会議室が、
また、騒めき始めました。
ラティルは
壇上に腕をついて立ち上がると
笑いました。
そして、なぜ、レアンが彼に
そのようなものを与えたのかと
尋ねました。
彼は、
自分は政治色がはっきりしておらず
一方に偏っていないので、
最も正確に証拠を確認できると
話していたと答えました。
ラティルは頷くと、
それで、証拠を確認してみて
どうだったかと尋ねました。
彼は、
信憑性が高かったので
皇帝に質問したいと前置きをした後、
皇帝は、本当にロードなのかと
尋ねました。
大臣たちは、再び静かになりました。
言い出した若い貴族は、
黙々とラティルの返事を待ちました。
ラティルはレアンの支持者を
ちらりと見ました。
彼らも当惑した表情でした。
予想していたよりも早く
レアンが暴露したようだけれど、
まだ彼らの準備は
完璧ではなさそうでした。
彼は、ただ聞いてみただけなのかと
ラティルは考えました。
若い貴族は、改めて
皇帝の返事を待っていると言いました。
サーナット卿が後ろで
カサカサと音を立てているのが
聞こえました。
ラティルは
先帝の支持者たちの方を見ました。
彼らも当惑した表情で、互いに
疑いの目で見つめていました。
レアンもラティルも
準備ができていない状況で
知らない人が一線を画しました。
ラティルは、
その証拠は一人で見るつもりなのかと
平然とした様子で聞き返しました。
皆を騙し続けるつもりなら、
ラティルは、その貴族の言葉を
すぐに否定しなければ
なりませんでした。
しかし、ラティルは、
近いうちに真実を明らかにする
準備をしていました。
ところが、
今、ロードであることを否定すれば
その後、どれだけしっかり準備しても
信頼性は失われると思いました。
彼は、
証拠の原本は、
レアン皇子が持ち帰った。
自分が持っているのは写しだけだと
答えると、
ラティルの支持者たちは、
証拠もないのに、
むやみにそんなことを言ったことや
ラティルをこのように追い込んだことに
腹を立て、今すぐ閣議の出席権を
剥奪しなければならないと
訴えました。
何人かのレアンの支持者たちも
皇帝とレアン皇子を
仲たがいさせようとする策略だ。
レアン皇子が、
そんなことをするはずがないと
主張しました。
彼らは、
レアンの支持者ではあるけれど、
内密な情報は
共有されていないようでした。
ラティルは、
このすべての騒ぎが収まるのを
じっと立ったまま、
待っていました。
横で侍従長が、落ち着いて
体をひねっているのが
感じられました。
大臣たちが静かになると、
ラティルは
先帝の支持者たちの方を見ながら、
このような状況なので、
レアン本人が来るべきだと思うと
言いました。
しかし、彼らの中の一人は、
皇子は治療後、まだ戻って来ていないと
過度に真顔で答えました。
確かに、彼らも、
今日、こんなことが起こるとは
思っていなかっただろうと
ラティルは考えました。
彼女はしばらく悩んだ末に、
その写しを持って来いと指示しました。
ラティルの支持者たちは、
不安そうな表情で
互いにチラチラ見つめ合いました。
皇帝が、とんでもない主張を
否認しないなんて、
あのような言葉を慎重に聞くなんて
どうしたのかと訝しみました。
若い貴族は外に出ると、
しばらくして薄い箱を持って
入って来ました。
彼は前に進むと箱を床に置き、
蓋を注意深く開けました。
中にはインクの色が鮮明な紙が
何枚も積まれていました。
若い貴族は、
写しはこうだけれど、
証拠の原本は様々な形をしていて
古い紙も多かったと説明しました。
若い貴族が後ろに下がると、
侍従長が近づいて
箱の中から紙だけを持って行き、
ラティルに渡しました。
彼女は、
ベールに隠されていた
父親とレアンが集めた情報に
ようやく、
ざっと目を通すことができました。
ロード誕生の合図。
ロードの見分け方。
正体を隠したロードの
目に見える兆候と、
ラティルは大きな声で
リストを一つ一つ読み上げました。
貴族たちの表情は様々でした。
ラティルは紙を置いて
笑い出しました。
それから、彼女は、
一体、なぜ父親が
自分をロードだと疑っていたのか
ずっと気になっていたと言いました。
ラティルの意味深長な言葉に
空気は凍りつき、
割れてしまうように張り詰めました。
ラティルに初めて証拠を渡した
若い貴族も、目を大きく見開きました。
ラティルは壇上にもたれて笑いました。
そして、「だからバレたんだ。」と
言いました。
ラティルが「バレる」という言葉を
使った瞬間、
息の音さえ聞こえなくなりました。
大臣たちは目を大きく見開いて、
口をギュッと閉じたまま
ラティルをぼんやりと見つめました。
◇ワンちゃんがいるから◇
白魔術師の痕跡を見つけたと言う声に
ゲスターは、
顔の上まで上げていた手紙を
下ろしました。
窓の向こうにカルレインがいました。
「そうなの・・・?」と
聞き返したゲスターは、
窓を開けると、
手紙をカルレインに渡し、
偶然にも、
自分も同じだと言いました。
カルレインは便箋を広げました。
黒魔術師の村から送られて来た
助けを求める手紙でした。
数ヶ月前から、変な白魔術師が
村の中に、
ちょこちょこ入って来ようとした。
入ることができないので
安心していたけれど、
彼は正気ではない。
白魔術師は入るのを諦めると、
この周囲を廃墟にしている。
どうしたらいいかと書かれていました。
カルレインはゲスターに
便箋を渡しながら、
黒魔術師村の場所を尋ねました。
ゲスターは、ダナサンだと答えた後、
カルレインは、どこで
白魔術師の痕跡を見つけたのかと
尋ねました。
彼も、ダナサンだと答えました。
ゲスターが、
西北にある紅葉山だと言うと
カルレインは、東と言いました。
ゲスターは、
同じ場所みたいだと言うと、
カルレインは歯ぎしりしながら
窓枠を越えて中に入り、
一緒に行こうと誘いました。
しかし、ゲスターは
すぐに出発する代わりに、首を傾げ、
変ではないかと尋ねました。
カルレインは、
「何が?」と聞き返しました。
ゲスターは、
あれだけ探しても見つからなかった
白魔術師の居場所が、
なぜ急に分かったのか。
しかも、 自分たち二人にと答えました。
カルレインは、
ゲスターが握っている手紙を
じっと見つめました。
ゲスターは、
クルクル巻かれた手紙で
手のひらをトントン叩きました。
そして、カルレインに、
どこで、その情報を見つけたのかと
尋ねました。
カルレインは、
白魔術師協会で見つけた。
彼の居場所が、また嘘だと
言っておいたら、
再び訂正しに来たそうだ。
今回も嘘の場合は、
自動退会となるという誓約書まで
書いて行ったと聞いたと
答えました。
ゲスターは首を傾げました。
そう聞いてみると
偶然の一致のようではありました。
慎重に振る舞うゲスターを
見守っていたカルレインは、
それでは、一人はここに残って、
もう一人が
ダナサンへ行くのはどうかと
提案しました。
しかし、ゲスターは、
そちらへ行くなら、
二人とも、行かなければならないと
答えました。
カルレインが、その理由を尋ねると
ゲスターは、
ワンちゃんが捕まっているからと
答えました。
カルレインは軽く悪態をつきました。
確かに、
一人が白魔術師と戦っている間、
もう一人は、
馬鹿を助け出さなければ
なりませんでした。
ゲスターは、
一緒に行こう。二人で行けば、
早く終わらせられるだろうと
言うと、カルレインは
ゲスターの腕をぎこちなく握りました。
二人の姿は、あっという間に
部屋の中から消えました。
彼らがいなくなってから、しばらく後に
トゥーリが扉を叩きました。
しかし、しばらく待っても
ゲスターが出てこないので、
トゥーリは焦って足を踏み鳴らし、
「坊ちゃん、 忙しいですか?」と
尋ねました、
それでもゲスターが出てこないので、
トゥーリは当惑した表情で、
二本足で立っている
レッサーパンダを見下ろすと、
「どうしよう。
うちの坊ちゃんは留守のようだけれど、
扉が閉まっていて入れないんだよね?」
と尋ねました
レッサーパンダは舌打ちをし、
すぐに向きを変えて
廊下を四つ足で走って行きました。
トゥーリは、
その後ろ姿をぼんやりと眺めた後
顔を背けました。
そして、坊ちゃんはどこへ行ったのかと
呟きました。
一方、廊下を走って行ったランブリーは
大変だ。 ゲスターが留守だと
クリーミーに伝えました。
クリーミーは両手で顔を押さえて
飛び跳ねると、
どうしたらいいのか。
今、執務室は大騒ぎなのに
カルレインも留守だと嘆くと、
ランブリーは、
仕方がないので、残りを連れて行こうと
提案しました。
◇ロードを倒したのは誰?◇
「バレた」とはどういうことなのか。
会議室の中の静寂を破り、
ラティルのそばで侍従長が、
慎重に声をかけました。
それを皮切りに、大臣たちが
一言ずつ質問を投げかけると、
一人一人の声が混ざり合って
区別することも難しくなりました。
さらに、ラティルには、
彼らの本音まで混じって
聞こえてくるようになりました。
ラティルは落ち着いて
「その通りです」と
本当に何でもないかのように
答えました。
しかし、 大臣たちは興奮して
ずっと自分たちだけで話をしたせいで、
ラティルの声は
騒ぎの中に埋もれてしまいました。
ラティルは壇上を
ポンと音がするように叩きました。
ガチャンと音がして演台は
簡単に真っ二つに割れました。
二つになった演台がバラバラに倒れると
皆が再び静かになりました。
恐怖におびえた人々の何人かが
アーチ型の出入り口に逃げようと
試みました。
ラティルは、
逃げようとした者たちの名前を
知らなかったので、
適当に「伯爵」と呼びましたが、
彼らは自ら元の場所に戻りました。
話が聞こえる雰囲気になると、
ラティルは、
そうでなくても、この問題を正すために
準備中だったけれど、
レアンが一歩先んじて暴露するとは
思わなかったと、
今日の件が、レアンの計画より
一歩先んじていることを知りながらも、
その事実を知らないふりをして
呟きました。
ラティルは、
自分はロードと怪物は何の関係もなく、
ロードは、ただ強い力を持って
生まれた人に過ぎないと
何度も言ったのに酷くないかと話し、
人々の反応を観察しました。
人々はまだ魂が抜けていて、
ラティルの言葉を、
まともに聞くことが
できないようでした。
彼らは真っ二つに割れた演台だけを
ずっと見つめていました。
ラティルは、
先帝支持者の間に立っている
イーリス伯爵に
そっと目配せしました。
彼は、
その意味をすぐに理解すると、
ロードと怪物が関係ないなんて、
それはどういうことかと
追及するふりをして声を上げ、
ラティルが言いたいことを
もう一度、繰り返してくれました。
彼が人々の間で声を荒げると、
少し効果が現れ、
何も知らない別の大臣が、
皇帝は、ずっと対抗者だと
主張していたと叫びました。
そして、他の大臣も、
皇帝はカリセンを侵略した
他のロードを打ち破って、
英雄と称えられたのに、
これは一体どういうことなのかと
尋ねました。
ラティルは、
最後の質問をした大臣を指差して
いい指摘だと叫びました。
注目された大臣は青ざめて
慌てて身をすくめました。
ラティルはわざと口元を上げて
自信満々に笑いました。
ラティルは、
自分たちが知っている
でたらめな伝説を
思い浮かべてみて欲しい。
ロードが一人、対抗者が一人。
ロードが怪物を操り、
対抗者がロードを退治する。
しかし、今の状況は、
ロードだけでも二人現れ、
自分が抜けても対抗者は二人。
カリセンを攻撃し、
カリセン皇帝を拉致した
ロードを退治したのは
対抗者ではなく自分だと言いました。
それから、
鎖骨を大切そうに手で2、3回叩き
「私だ!」と断言しました。
ラティルでさえ、
これならバレても仕方がないと思った
彼女がロードである証拠を
知りたいのですが、
本文中に出て来なくて残念です。
後で出て来ると嬉しいのですが・・・
さて、予定よりかなり早く、
ラティルがロードであると
暴露されてしまったけれど、
少しも慌てることなく、
冷静に対処しているのは、
いつ、暴露されてもいいように
覚悟していたからではないかと
思います。
レアンは理詰めで
ラティルを攻撃して来るけれども、
今世でのロードと対抗者の人数は
伝説とは違うし、
ラティルは自分を除いて
二人だと言っているけれど、
実際はプレラがいるので対抗者は三人。
ラティルは、人々が
「ロード」と「対抗者」という名称に
とらわれず、
彼女自身のこれまでの言動を見て
ラティルが
本当に伝説のロードのように
悪の権化なのか、
見極めさせるつもりなのかと
思いました。