794話 ラティルは、牢屋にいる酔っ払ったレアンの腹心を訪ねました。
◇忠実な腹心◇
ラティルは腰を屈め、
腹心の汚れた姿を見ながら
彼が大丈夫そうだと言って
笑いました。
腹心の表情が歪みました。
彼はラティルに、
何の用でここへ来たのかと
尋ねました。
ラティルは、
聞きたいことがあると答えると
腹心は、
何も答えることがないと
返事をしました。
ラティルは、
まだ何も聞いていないと言いましたが
腹心は、
何を聞かれても答えることがないと
返事をしました。
ラティルは肩をすくめました。
彼女は、
それは今から確認すればいい。
まず、簡単な質問をすると告げると
レアンについてどう思うかと
尋ねました。
腹心は、
最初から沈黙を守っていましたが
心の中では、
何を聞いても答えない。
奸悪な皇帝と言いました。
ラティルはにっこり微笑むと
なぜレアンの腹心になったのかと
尋ねました。
彼は今回も沈黙していましたが、
彼が、薄暗くて狭い部屋に
横たわっていた時、扉が開き、
光と共にレアンが入って来た光景が
彼の脳裏に、
うっすらと浮かび上がりました。
レアンから恩恵を受けたのなら
懐柔するのは大変だと思いながら、
ラティルは、本当に腹心は
最初から返事をしないと呟くと
上辺だけ怒っているふりをしながら
なぜ、レアンは、
自分の正体だと言い張る部分について
暴露したがるのかと
具体的に尋ねました。
腹心は、心の中で
言い張っているだなんて。
本当のことなのにと叫びました。
ラティルは、
本当に答えないのかと尋ねました。
腹心は、
そうだ。一言も話さない。
自分は絶対にレアン様を裏切らないと
心の中で答えました。
ラティルは、
レアンと手を組んだ先帝の部下たちが
誰なのか、自分が知っていることを
知っているかと尋ねました。
その言葉に驚いている腹心に、
ラティルは、
自分が彼らを脅せば、彼らは
レアンの味方のままでいると思うかと
尋ねると、鉄格子から離れて
向かいの壁に寄りかかり、
腕を組みました。
腹心は、
そんなはずはない。
彼らは皇子と情報を共有している。
彼らは先帝の側近だったというだけで
うまくやっていけるにもかかわらず、
大義のために安定を放棄した。
脅威なんかに屈服しないと
心の中で言いました。
彼の肩は震えていました。
ラティルに対して、
荒々しい一言を吐き出したいけれど
そうすることで、訳もなく情報を
与えることになるのではないかと
心配しているようでした。
しかし、すでにラティルは
適当な情報を獲得した後でした。
彼女は、
満足そうな気持ちを隠しながら
口を開かないので、話にならないと
ブツブツ言いながら壁から離れ
また、後で来ると告げました。
◇先に出る時◇
ラティルが監獄の外に出てくると、
近くで待機していた
サーナット卿が素早く近づいて来て
彼は、きちんと答えたかと
尋ねました。
ラティルは静かに笑っているだけで
返事をしませんでしたが、
腹心から
話を聞き出せたのは確かでした。
サーナット卿が
訝しがっていると、ラティルは
答えにくい質問への返答を避けながら
側室たちやその他の者たちを呼べと
指示しました。
しばらくして、
ロードの仲間たちが
ハーレム内の会議室に集まりました。
ギルゴールの代わりに
ザイオールがやって来て、
ぎこちなく座ってはいるものの、
それを除けば
集まった人たちはかなりの数でした。
ラティルは、
レアンが集めた情報は、
先帝の側近たちも共有している。
だから、レアンが遠くに行って
連絡できない隙に
彼らに会うつもりだと
彼らに話しました。
ラティルは話に集中している人たちと
関心がなさそうな人たちを
交互に見回しました。
欠伸をしていたメラディムは
ラティルと目が合うと、
訳もなく姿勢を正しながら
「ロード、頑張って。」
と応援しました。
しかし、ラティルは首を横に振り、
自分が会うのではなく、
側室たちが会うことになると
話しました。
ラティルの言葉に、
集まった人々は同時に
目を見開きました。
タッシールは頬杖をつき、
メラディムとレッサーパンダを
チラチラ見つめながら
「全員ですか?」と聞き返しました。
ラティルは、
毛むくじゃらはダメ。
そして、ザイオールは
行かなくても大丈夫だと答えた後、
以前、自分が
シウォラン伯爵からもらったリストを
見せたのを覚えているかと
尋ねました。
メラディム以外、全員が頷きましたが
メラディムには
最初から何も期待していないので
問題ありませんでした。
ラティルは、皆で手分けして、
そのリストに載っている人々に
会いに行くよう指示しました。
ザイシンは戸惑いながら
彼らと会って何をしてくるのかと
尋ねました。
カルレインは、
レアンと敵対しろと
彼らを脅すのはどうかと尋ねると
ラティルは首を横に振りました。
ラティルは、
説得できるなら説得し、
説得できないようなら
確認だけしてくる。
脅迫をしないで、
手を握ってくれる人を
探すふりをする。
そうしながら、
情報を渡してくれる人を探す。
脅迫してはいけない。
危機を感じたら、自分たちだけで
情報を破棄してしまうだろうと
自信満々に話しました。
それからラティルは
自分の味方を見回しながら
満足げに笑いました。
特にタッシールの方を
集中的に見ていましたが、
彼の表情は、ずっと変わることなく
同じ角度で笑っているので、
彼の気持ちは、
よく分かりませんでした。
今度はゲスターが慎重に手を上げ、
自分たちが彼らに会いに行ったら
皇帝がレアン皇子を
本当に許したわけではないと
いうことが、
彼らに分かってしまうと
心配しましたが、ラティルは
もう大丈夫。
すでに彼らは知っていると思うと
返事をしました。
皆を騙してレアンを呼んだのは、
レアン本人とアイニを
騙すためでした。
しかし、レアンと自分のトラブルは
数回の衝突で明らかになったし、
アイニは花嫁に偽装して、
ここまでやって来ました。
もやは、気を使う時ではなく、
先に出る時でした。
ラティルが、
今は突進する時だと言うと
タッシールは手で唇をそっと押さえ
飛び出てきそうな心配の言葉を
無理矢理、堪えました。
◇グループ分け◇
側室に重要な仕事を任せたラティルは
あと数日間の待ち時間を
乗り越えればいいと考えました。
あの白魔術師が除名されないために
自発的に彼が
白魔術師協会に現れる日を待ち、
ロードの仲間たちが、
先帝の部下たちに会って
懐柔する時間を
待たなければなりませんでした。
その間も、ラティルは
一生懸命仕事をし、
熱心によく考えました。
しかし、しばらくは
少し余裕ができるだろうという
予想とは違って、その日の夕方、
カルレインがラティルを訪ねて来て、
一人、説得されたと報告しました。
ラティルはプレラの部屋で
歌を歌ってあげていました。
ラティルが歌うのを止めて振り返ると
カルレインは扉枠の所で立ち止まり
それ以上、中へ入って来ることなく
眺めているだけでした。
「どうぞ」とラティルが言うと
ようやくカルレインは
中に入って来ました。
しかし、彼の控えめな態度から
明らかにこの空間を
不快に思っていることが
見て取れました。
彼の視線が頻繁に
ゆりかごに向かいました。
カルレインを連れて行かなければ
ならないだろうかと
ラティルは考えながらも、
「話してみろ」と促しました。
カルレインは、
ターゲットの性質と
自分たちの性質を元にして、
自分たちが会う人物を
タッシールが割り振ってくれたと
話しました。
タッシールの言葉に、ラティルは
どうしてタッシールは
先帝の部下たちの性質を
知っているのだろうかと
一瞬戸惑いましたが、
カルレインと目が合うと
彼は、肩をすくめ、
タッシールがどうやって知ったのか
自分にも分からないと告げました。
ラティルは、
分かったと返事をすると
話を続けるよう促しました。
カルレインは、
メラディムが、純粋を熱望する人々を
引き受けたと話しました。
ラティルは、
純粋を熱望するとは、
どういう意味なのかと尋ねました。
カルレインは、
自分も分からない。
タッシールが任意に付けた
グループ名だと答えました。
ラティル自分の口を叩き、
邪魔をしないので
続けて話すよう促しました。
ザイシンは、信仰心の深い人々。
タッシールは
利害得失を計算する人々。
ラナムンは血統と名分を
重視する人々。
自分は野望のグループを担当したと
カルレインは説明しました。
ラティルは、本当はこれ以上
口を挟みたくありませんでしたが
カルレインが
ゲスターだけを省略したのが
とても気になりました。
しかし、カルレインは、
自分が会った5人のうち4人は
少し考えてみると言った。
そのうち、自分たちだけで
話をすることもできるだろうと
次の話に移りました。
ラティルは頷きました。
それから、カルレインは
そのうちの一人が
すぐにラティルに会いたがっていると
告げました。
ラティルは、
ゲスターがどうなったのか
ずっと気になっていたので
半テンポ遅れて、
「えっ?本当に?」と
聞き返しました。
カルレインが「はい」と答えると
ラティルは「明日でも?」と
尋ねました。
カルレインは、
いつでも可能だそうだ。
今すぐでも問題ないと答えました。
ラティルは、
でも、早過ぎるのではないかと
尋ねると、カルレインは、
その人物は、シウォラン伯爵と
親交があったからだと答えました。
◇会ってみる◇
こんなに早く説得されるなんて
むしろ怪しい。
ラティルは部屋の中を
行ったり来たりしながら悩みました。
カルレインに、
彼を連れて来てもらうべきか。
それとも、
会いに行くべきだろうか。
その人は本気だろうか。
お酒を飲ませたら
本音がわかると思うけれど、
レアンの腹心を酔わせて会ってから
一日も経っていないので、
また同じ方法を使えば、
頭の良い人たちは、
ラティルと酒の関係を
疑うと思いました。
ラティルは、頭が痛いと呟くと、
カルレインはベッドに腰をかけ
ラティルを見つめながら、
そういう者の言うことに
振り回される必要はない。
行きたくなければ
行かなくてもいいと助言しました。
ラティルは、
レアンが何をしようとしているのか
大体、分かったし、
自分は、それを覆そうとしている。
そして、レアンが調査した情報を
父親の側近たちが
分けて持っているので、
自分はそれを回収したいし
破棄したいと話しました。
カルレインは、
ラティルが何を言っても
肩を持つという表情で
彼女を見つめました。
すべてを庇ってくれる
彼の視線と向き合った
ラティルの口から、
「その人に会ってみる」と
自然に言葉が飛び出しました。
ここで誤った決定を下しても、
側室たちは、それについて
非難しないはずでした。
大切な人たちの中で
一番大きくミスを非難するのは
ラティル自身でした。
それに耐えられるなら
会ってみる方が良いと思いました。
ラティルは、
ここにいても何も解決しないと
言いました。
カルレインは、
ご主人様を騙そうと
しているのかもしれないと
心配しましたが、
ラティルは傲慢に顎を上げて、
マントを肩の上に掛けました。
自分を騙そうとしたら、
その時に対応すればいいだけ。
まだ騙しているかどうかも
分からないので、
会ってみると言いました。
◇力のコントロール◇
宮殿に彼を呼ぶと人目に付くので、
ラティルもカルレインが説得した彼も
それを望んでいませんでした。
ラティルは首都から
約2ルルプサードほど離れた森へ
移動しました。
カルレインが説得したという者は
すでにそこに到着していました。
荷馬車の階段に腰掛けていた者は、
ラティルとカルレインが近づくと、
素早く立ち上がって挨拶しました。
彼は、ラティルに挨拶し、
自分のことをラティルに
話してくれたカルレインに
お礼を言いました。
ラティルは複雑な目で
イーリス伯爵を見つめました。
彼は皆が認める中立で、
シウォラン伯爵がリストをくれるまで
ラティルは、彼を
ただの浮気者の貴族程度にしか
考えていませんでした。
ラティルはイーリス伯爵に
自分に会いたかったのかと
尋ねました。
彼は、突然で申し訳ないけれど
実は、自分と自分と志を
共にする人々にとっては、
それほど、突然のことでもなかったと
話しました。
ラティルは、
どういうことなのかと
考えていると、イーリス伯爵は
シウォラン伯爵が去った後、
自分は、皇帝に会う機会を
いつも待っていたと話しました。
ラティルは、それでカルレインが
説得しに行くや否や、
自分に会うと言い出したのか。
しかし、この話は真実なのか。
嘘を言っている可能性はないのかと
考えました。
目の前に立っている先帝の側近を
信じるかどうか、
ずっと悩んでいるラティルを、
イーリス伯爵は
真剣な声で呼びました。
ラティルは、
ぼんやりとしていた視線を
元に戻すと、
伯爵は目を輝かせながら、
自分は、皇帝がロードであることを
疑っているのではなく確信している。
皇帝は、その力で
何をするつもりなのかと尋ねました。
ラティルは目を細めて、
伯爵を見つめました。
自分を探ろうとしているのか。
本気で聞いているのか。
やはりお酒を飲ませるべきだったと
考えました。
ラティルは、
自分はロードではないと否定すると
なぜ、それが気になるのかと
尋ねました。
イーリス伯爵は、
先日のパーティーの時、
皇女が奇妙な力を見せた。
皇帝は皇女が大きくなったら
その力をコントロールできると
話してくれた。
皇帝もそうなのかと尋ねました。
ラティルは、
それが関係のある質問なのかと
聞き返しました。
イーリス伯爵は、
皇帝が力をコントロールできるなら
怪物を防御するだけでなく、
本当に、たくさんの色々なことが
できるだろうからと答えました。
タッシールが、なぜこの男を
野望グループに入れたのか、
その理由を確信しながら、
ラティルは、自分の国民を守ると
きっぱり話しました。
しかし、伯爵は、
少しがっかりしたような
顔を見せました。
ラティルは、
全世界をタリウムの下に置くという
答えでも、望んでいたのだろうかと
考えました。
伯爵はしばらく黙った後、
「なるほど」と頷きました。
伯爵は、答えが
気に入らなかったのだろうか。
それとも、自分は、
彼が自分の腹を探るのを
よく避けることができたのかと
考えました。
ラティルは息が詰まりそうになり
伯爵の顔の筋肉を睨み続けました。
ようやく伯爵が再び顔を上げると、
先程よりは
熱意が少し薄れた微笑を浮かべながら
防御するだけだなんてもったいない。
皇帝がその力をコントロールできると
言うなら、皇帝を敵対する理由は
少なくなると話しました。
ラティルは、
なくなるのではなく減るのかと
聞き返しました。
イーリス伯爵は、
皇帝が、そのように話すだけでは
本当に安全なのかどうかが
分かりにくいと答えました。
ラティルは、
自分はロードではないと言ったと
反論すると、イーリス伯爵は、
皇帝がその力を
コントロールできるということと
国民を守ろうとしていること、
そして、これ以上、国民を
傷つけることがないということを
少し見せてもらえるかと尋ねました。
タッシールの考えでは、
ラティルの指示したことが
心配なのでしょうけれど、
時には、ラティルのやり方が
合っていることもあるという
経験から、
ラティルの計画が成功するよう
彼女が知らないうちに
側室たちを適材適所に割り振るなんて
さすがだと思います。
ザイシンへの割り当てが、
信仰心のある人だけでなく
運動が好きな人だったら、
面白かったのにと
思ってしまいました。
ラティルはトゥーラを処刑したり
慈しみ深い表情をしながら
残酷なことをしたりしたので、
ある人たちにとっては
恐れられている存在。
その彼女がロードだと分かれば
ますます、彼女を恐れるようになる。
イーリス伯爵の
国民を傷つけることが
ないようにという発言は、
もしかして、ラティルの残忍な面を
なくしてほしいという気持ちから
出て来たのではないかと思いました。