自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

問題な王子様 150話 ネタバレ 原作 あらすじ 彼女だけしか見えない

 

150話 ビョルンは倒れている最前列の車両の窓ガラスを割って、中へ飛び下りました。

 

壊れた扉が外れる音が、

地獄のような風景の中に

響き渡りました。

ビョルンは、その扉を乗り越えて、

次の車両に向かいました。

 

頭上から、割れたガラスの破片が

雪と共に降り注ぎました。

切れた頬から流れ出た血を

手の甲で拭ったビョルンは、

めちゃくちゃになったコートと

ジャケットを脱ぎ捨てました。

そして再び、淀みのない足取りで

歩き始めました。

 

客車が横向きになっているせいで

廊下と客室の間の壁を下にして

歩かなければなりませんでしたが

ビョルンは、

少しも躊躇いませんでした。

 

「エルナ」

白い息と共に、

その名前が流れ出ました。

雪は依然として、

止む気配がありませんでした。

 

「エルナ!」

ありったけの力を振り絞った絶叫が

墓のような列車の中に

響き渡りました。

 

雪が積もった床の上で

滑って転んでも

ビョルンは気にしませんでした。

再び立ち上がって歩き、

壊れた客室の扉を開けて、

窓ガラスを壊しました。

 

いくつかの車両では、

負傷者と遺体を

発見したりもしました。

両目を開けて向き合うのが難しい

むごたらしい光景が現れても、

ビョルンは退きませんでした。

明らかに両目で見ているのに、

頭は、その像を、

きちんと結ぶことができませんでした。

ただエルナ、

彼女だけしか見えませんでした。

三両目の最後の客室の扉の前で

立ち止まった頃、

近づいて来た救助隊が、

危ないので自分たちがやると

言いました。

 

引き寄せるように

王子を押しのけた彼らは、

急いで土砂の残骸を取り除き、

歪んだ扉を取り除きました。

一歩下がった所で、

ぼんやりとその光景を見守っていた

ビョルンは、

遅ればせながら、自分の手が

傷だらけになっていることに

気づきました。

しかし、そんなことは、

どうでもいいことでした。

 

熱いため息をついたビョルンは、

列車の残骸の上に積もった雪で

手についた血を拭いました。

扉が開く音が聞こえて来たのは

その時でした。  

 

「人がいます!」と

驚いた救助隊員の叫び声が

意識を鋭く引っ掻きました。

血が滲んだ雪玉を下ろした

ビョルンは、

床に開けられた穴のような形をした

扉の前に急いで走って行きました。

上から降り注いできた家具に

押し潰された人が、

客室の椅子と窓の間に

横たわっていました。

長くて柔らかい茶髪の、

小柄で、か細い女でした。

 

ビョルンは「放せ」と言って、

自分を引き留める手を振り払い、

むやみに、

その客室に飛び降りました。

ぶるぶる震える手で

壊れたテーブルと棚を片付けると、

奇妙にねじれている女性の体が

現れました。

すでに息が切れているという事実を

予感させる姿でした。

 

ビョルンは、よろめきながら

その女性のそばに近づきました。

下を向いている顔を、

注意深く上に向けると、

安堵のため息が、

うめき声のように出てきました。

 

救助隊が

その遺体を収拾している間、

ビョルンは、

その客室を去りました。

投げ捨てた鉄の棒と灯りを持って

次の車両に向かうビョルンの体は、

雪と汗で、

びしょ濡れになっていました。

 

次の車両でも、その次の車両でも

同じことが繰り返されましたが、

どこにもエルナはいませんでした。

ビョルンはその事実に安堵し、

また絶望しました。

しかし、崩れ落ちた山に飲み込まれて

決して、生存者が

存在できないように見えた

最後の車両に近づいていくほど、

平衡を保っていた感情の軸は、

次第に絶望の方に

傾き始めました。

それを否定するために、ビョルンは

さらに狂ったように

列車を走り抜けました。

 

エルナ、エルナ、エルナ。

大声で呼ぶその名前は、

いつの間にか

悲鳴に近づいていました。

窮地に追い込まれた田舎娘が

シュベリンを訪ねて来た、

あの春から始まったエルナの記憶が

絶望的か光景の上に

浮び上がりました。

 

カードゲームの席で始まった

賭けのトロフィー。

ただ、それだけだと

思っていましたが、掛け金など、

最初から興味がありませんでした。

どうせ、適当に飲み食いして

使えと言って、

投げ出したお金だったから。

ところが、

あえて、その滑稽な賭けに

足を踏み入れた理由は、

純粋にエルナのためでした。

 

彼女が欲しかった。  

賭けをする人たち、

ウォルター・ハルディが集めた

結婚市場の年寄りとゴミ。

パーベル・ロアー。

それが誰であれ、他の男に

彼女を渡したくありませんでした。

 

それが愛だったのかは、

よく分からない。

今になって、

そんな言い訳をするのは

お粗末な言い訳に過ぎないだろう。

社交シーズンの関心事として

片付けたのは

明らかな事実だったから。

金で買ってきた物扱いしたという

非難も、やはり

否定することはできない。

 

ところで、なぜ自分はエルナを

手放せなかったのだろうか?

自分もよく分からない。

あえて足を踏み入れた賭けに勝ち、

パーベル・ロアーと一緒に

発つことにした日にも、

あえて介入して、

彼女をひったくった。

カーテンを閉めて目隠しまでして。

 

そんな風に連れて行ったエルナを

自分の家に置いたら

どんな噂が立つのか。

その噂が、その女性の前途を

どう阻むのか。

その時は意識できなかったけれど、 

もう一度考えてみると、

最初から全部知っていた。

知っていながら、

やらかしたことでした。

 

考えてみると、無意識のうちに

エルナと結婚するしかない

状況の中に、自分を

追い込んでいったようなものでした。

そうするしかないと

自分を納得させるような

理由を作りながら。

 

静かに、美しく

当たり障りなく、

大公妃の席を埋めて、

自分の人生に平安をもたらす女性。

そのような、

もっともらしい名分を掲げて

プロポーズしましたが、

実は、そのすべては

自己欺瞞に過ぎませんでした。


もし、あの日投げたチップの

裏が出ていたら、

エルナを行かせただろうか。

「いや、絶対に」

という、その質問に対する答えは、

実は、その瞬間にも、

すでに知っていました。

 

ビョルンは

次の車両の扉を足で蹴って開き、

絶叫するように、

エルナの名前を叫びました。

客室のない三等車両は、

さらに残酷な形をしていました。

ビョルンは、息を切らしながら、

そこに入りました。

 

捜索作業中の救助隊の間に

茶髪の小さな女性を

探し回りました。

そのような自分の姿が

どのように見えるのか、

もう見当もつかなくなってから

随分、経ちました。

 

自分は、グレディスから

平安な生活を守るための

盾のようなものだと

エルナは言っていました。

彼もやはり、

そうだと思っていました。

身震いする前妻との

再婚を求める世論にうんざりして、

面倒だったからでした。

 

しかし、果たして

グレディス・ハードフォート

一人くらい、

どうしようもできなくて、

再婚したのだろうか。

 

「いや、エルナ、とんでもない。」

という、その質問に対する答えも

ビョルンは、すでに知っていました。

 

この返事を

聞かせてあげなければならない人の

名前を呼ぶビョルンの上に

白い雪片が舞い降りました。

 

ビョルンは、

ぼんやりとした目を上げて

頭の上を見ました。

紙切れのように破れた

電車の壁の間から

静かに雪が降っていました。

 

エルナ。

そら笑いのように溢れ出た

その名前に目頭が熱くなりました。

ビョルンは呆れて

くすくす笑いながら、

絶望しかない周囲を見回しました。

ふと視界がぼやけたせいで、

ランタンの明かりが

白く広がって見えました。

そのぼんやりした風景の中に、

舞い散る雪があまりにも美しく、

また笑いが出ました。

 

彼の濡れた睫毛と頬の上に

舞い降りた冷たい雪片は、

しばらくすると溶けて消えました。

 

行かないでと、

あの夜のように哀願したかった。

こんなことはあり得ない。

まだ愛してるという言葉も

言えていない。

それさえも許してくれないのは

残酷な反則ではないか。

 

震える手で、濡れた顔を

ゆっくりとなで下ろしたビョルンは

さらに冷たく沈んだ目で

最後の車両に繋がる扉を

見つめました。

エルナがいる所。

その事実が、外から見た惨状を

消し去りました。

 

そこはダメだと叫びながら、

青白い顔の救助隊員が、

有刺鉄線が張られている

次の車両の扉に近づく

ビョルンを阻みました。

 

救助隊員は、

あの車両は完全に埋没したと言って

ビョルンを止めましたが、

彼は、

「どいてください」と言って

抵抗しました。

救助隊員は、

生存者はいないと訴えましたが

ビョルンは「どいて」と叫ぶと

何かに取り憑かれたように

彼を押しのけて、

その扉に近づきました。

 

もう残っているのは一車両だけ。

だから、あの車両に

生存者がいないというのは

話にならない。

まだエルナを

見つけられていないのだから、

あそこが、

エルナがいるべき場所では

ないかと思いました。

 

「危ないです!」と叫びながら

ビョルンを追いかけて来た

救助隊員は、

有刺鉄線を押し出す彼を捕まえました。

しかし、その一人の力では、

死地に追いやられた獣のように

喚きながら抵抗するビョルンを

防ぐのに、力不足でした。

結局、さらに二人の青年が

駆けつけて来ると、

彼らは王子を壊れた列車の外に

引き出すことができました。

 

ビョルンを取り囲む男たちの間から

彼を呼ぶ聞き慣れた声が

聞こえて来ました。

ビョルンは眉をひそめて

そちらを見つめました。

強張った顔をしたレオニードが

彼に近づいて来ていました。

 

救助隊員に挟まれたレオニードは

ビョルンに落ち着くようにと

告げると、彼の肩を掴みました。

ビョルンは、

ようやく焦点が合った目で

自分の前に立つレオニードに

向き合いました。

彼の向こうに見える

雲に覆われた空は、いつの間にか、

微かに灰色を帯びていました。

もう一夜が

過ぎてしまったという事実を

ビョルンは、その時初めて

気づきました。

 

「これは一体・・・」

と、レオニードは言葉を濁しながら

ため息をつきました。

ビョルンが、どのような狂ったことを

しているのかは

すでに聞いて知っていましたが、

両目で確認した兄の姿は、

はるかに呆れて惨憺たるものでした。

事前に事情を知らなかったら、

ビョルンが大けがをしたと

信じたかもしれないほどでした。

 

ビョルンは、血走った目を

ゆっくり瞬きしながら、

レオニードに離してくれと言い、

彼の手を振り払って

振り向きました。

疲れ果てた顔をしていましたが、

依然として眼光だけは

異様にギラギラしていて、

まるで狂気に、

とらわれたかのような様子でした。

 

大公妃はそこにいないと

レオニードは急いで叫ぶと、

再び転覆した列車に向かおうとする

ビョルンの前に立ちはだかりました。

「行こう」と言って

急いでコートを脱ぎ、

ビョルンの体を包んだ

レオニードは、大公妃を見つけたと

落ち着いて話を続けました。

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エルナを見つけたくて

助けたくて、

怪我をすることも厭わず、

必死でエルナを探し回るビョルン。

一国の王子が危険も顧みずに、

一人の女性を探し回るなんて

あってはならないはずなのに

エルナを失うかもしれないと思うと

恐ろしくて、

ビョルンは居ても立っても

居られなかったのだと思います。

 

本当にエルナを失うかもしれないと

思って初めて、

ようやく、今までの全ての感情を

認められたビョルン。

もう少し、早く気づければ

良かったけれど、

このくらいの荒療治が必要なほど

ビョルンは、自分の気持ちを

がんじがらめに縛り付けて

鍵までかけていたのではないかと

思います。

 

ビョルンの狂ったような行動のおかげで

どれだけ多くの人が迷惑したことか。

けれども、このことで、ビョルンが

どれだけエルナを愛しているか、

全国民が知ることになるのでしょう。

レオニードも

本当にお疲れ様でした。

 

いつもたくさんのコメントを

ありがとうございます。

すぐに承認ができない時も

ありますが、ご容赦ください。

 

お話の合間に挿入している画像は

大抵、無料のものを使用しておりますが

私自身、花を見て、

写真を撮るのが好きなので

ネットで開花状況を調べて、

撮影に出かけることもあります。

今日も、午前中、

車で1時間ほどの所へ

花の写真を撮りに出かけたのですが

「あっ、これ綺麗!」と思って

撮ろうとしたところ、

スズメバチが・・・

一匹だけだったので、

慌てて、逃げて来ました。

花に蜂はつきものですね。

 

それでは、明日も更新します。

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