121話 カフメン大公は人の心が読めることを知ってしまったナビエでしたが・・・
◇カフメン大公の能力とナビエの頼み事◇
カフメン大公の伏せた瞼が
プルプルと震えていました。
ナビエは、一旦、
心の中を整理するために
カフメン大公の見えない所へ
移動しました。
カフメン大公に
自分の考えを
読まれたくなかったからです。
カフメン大公がハインリに
薬を飲ませたことに対して
ナビエは、まだ腹が立っていました。
薬のせいで
ハインリはとても苦しみ
今でも、しょんぼりして
ナビエの顔色をうかがっていました。
しかし、カフメン大公が
自分の能力のことを話した時の顔は
ハインリが鳥一族であると
バレた時の彼の顔に似ていました。
しかし、ナビエは、
たまに、思い浮かべてしまう
ハインリが噴水にいた時の姿や
彼がベッドでうめき声をあげている姿を
カフメン大公は
わかってしまうのかと思うと
人の本心を読むと言う能力を
恐ろしく感じました。
ナビエは考えを整理した後で
カフメン大公のところに戻りました。
彼は、ペンダントのようなものを
ギュっと握っていました。
ナビエの肖像画入りのペンダントですね。
ナビエは、
カフメン大公のやったことは
自分には悪いことだし
ハインリには間違ったことだし
国際問題に
飛び火する可能性があったことを
指摘した上で
ルイフトとの交易をするにあたり
西大帝国側に有利な条件を3つ
取り入れることを提案しました。
カフメン大公は
有利な条件とは
どの程度のレベルのことか
ナビエに尋ねました。
人の心が読めるカフメン大公でも
ぼんやりとした考えは
読めないようでした。
彼女は、
とんでもないことを要求すれば
交易を断られるので、
常識の範囲内での要求だと
答えました。
すると、カフメン大公が
ナビエの鋭い計略も
天使のハーモニーと
甘い言葉を言いました。
ナビエは、ハインリは
薬効が一晩で切れたのに
なぜ、カフメン大公の
自分に対する薬効は切れないのかと
思いました。
心の中が読めるのに
カフメン大公は答えなかったので
ナビエは同じことを口に出して
尋ねました。
カフメン大公は、渋々
ナビエを愛しているからと
答えた後、
これは戯言だと訂正し、
自分自身が作った薬だから
自分に強く作用していると
答えました。
ナビエは、
ラスタへの効果は
すぐに消えたように思うと尋ねると
最初に会った人がナビエだからと
答えました。
ナビエを本当に愛していることは言わないのですね。
ナビエが
もう一つお願いしたいことがあると
カフメンに大公に告げた時
彼女の心の中を読んだ彼の表情が
固まりました。
彼の能力は恐ろしいけれども
非常に有用でした。
カフメン大公が
自分に対して罪悪感があると
思ったナビエは、
その罪悪感と薬効を
利用していると思われても、
ナビエの頼み事を
聞いてくれると思いました。
カフメン大公は口をギュっと閉じたまま
ナビエを長い間見つめた後
ナビエの頼みごとを受け入れました。
ナビエの頼み事が気になります。
ナビエの帰り際
カフメン大公は
ナビエの夫は彼女のことを
心から愛していると言いました。
◇私のことを愛している?◇
ナビエは部屋に戻った後
複雑な気分で
部屋の中を歩き回ってしました。
ハインリは自分のことを
本当に愛しているのだろうか?
ハインリ本人も
自分のことを愛していると
言っていたけれど・・・
人の本音を読めるカフメン大公が
罪悪感に苛まれて
嘘をついたとは思えませんでした。
ハインリが、どうして
自分のことを愛しているか
理解できない。
それはいつからなのか。
たまに、もしかしてと
思うことはあったけれど。
その時、すでに自分のことを
愛していたのか?
結婚してから?初夜の時から?
ハインリは
本当は浮気者ではないそうだけれど
社交界で人気があって
魅力的な人にたくさん会っているのに
なぜ、彼は自分を愛しているの?
自分は一緒に遊んでも
楽しい人ではないし
話をするよりは聞く方が得意。
冗談を言うのは好きだけれど
私の冗談を理解できる人は珍しい。
人と付き合うのは嫌ではないけれど
部屋で本を読んだり
書類を見ることが多いから
面白くない性格だと思う。
こんな面白くない人を
愛しているのか?
ソビエシュだって
別の人に目を向けたのに・・・
考え事をしていると
共用寝室から音がしたので
扉を開けて中に入ると
ハインリが
ベッドの上でうつ伏せになり
枕を抱きしめていました。
絶対に、
匂いを嗅いでいたのではないと
言い訳をして、
小さくなっているハインリを
可愛いいと思い
ナビエはハインリの頭を
抱きしめました。
ハインリからは慣れ親しんだ
クイーンの香りを感じました。
ハインリが自分のことを
愛しているという
思いがけない事実に、
ナビエの心臓はドキドキしました。
しかし、それよりも恐怖心の方が
勝っていました。
愛は甘くて美しいけれど
それを信じることが
できるのだろうか?
冷たいカフメン大公を混乱させ
衝動的にさせた。
理性的なソビエシュを愚かにして
衝動的にさせた。
ラスタの全ての過ちをかばうほど
彼女を愛していたのに。
自分に帰って来いと言い出した。
自分を追い出して
ラスタを皇后にしたのに
また自分に皇后になれと言っている。
愛とはそういうもの。
ハインリが自分のことを愛しているから
結婚したとしても、
その愛が、どれだけ続くのか。
彼が自分を愛さなく時のことを考えると、
ナビエは恐怖を感じました。
ナビエが物思いに耽っていると
ハインリが
「愛しています」と呟きました。
そして、
今は答えなくてもいい。
自分たちは夫婦なので
一生、ナビエのそばで
返事を待つことができると言って、
抱きしめていた枕を下ろし
両手でナビエの腰に抱きつきました。
◇ソビエシュの謝罪◇
結婚式に出席した貴賓たちが
馬車に乗り
次々と帰って行きました。
披露宴と結婚式で
ソビエシュとラスタに会いたくないと
言っていた両親は
貴賓たちが帰ってしまった後に
やって来ると思いました。
遠ざかる馬車を眺めながら
ナビエは静かな所で
心を落ち着かせようと思い
早足で歩きながら
別宮の近くを通ると
ソビエシュが立っていることに
気づきました。
目が合うと、
彼はナビエの方へやって来たので
彼女は、外国の皇帝に対するように
挨拶をしました。
ナビエは、
今日、帰るのかと
ソビエシュに尋ねると、
彼は、顔をゆがめました。
何か言いたそうな顔をしていましたが
何も言わなかったので
ナビエは立ち去ろうとしました。
人の視線が気になるので
黙ったままソビエシュと
立っていることはできないし
大帝国の皇帝である彼を
理由もなく
排斥するわけにはいかないし、
元夫である彼と2人で
悲しい雰囲気を演出したくも
ありませんでした。
ソビエシュは低い声で
ナビエの名を呼びました。
彼女は無表情を作り出して
彼を見つめました。
ソビエシュは
人は誰もがミスをするもの。
自分のミスは傲慢にも
1人で計算をしたこと。
ナビエに全部話すべきだったと
謝りました。
ナビエは、彼のミスで
自分の人生が引き裂かれたのは
残酷だと思いました。
ソビエシュは、どうしたら
取り返しがつくのかと
ナビエに尋ねたので
彼女は、最大限、淡々とした声で
2人の夫婦の縁は切れたけれど
ソビエシュは
彼女の母国の皇帝なので
これからも、東大帝国の面倒を
よくみてくれるように頼みました。
たとえソビエシュが
誤って離婚をしたとしても
カフメン大公の薬を飲んだせいで
離婚をしたとしても
すでに取り返しはつきませんでした。
ナビエの予想外の返答に
ソビエシュは力なく笑った後に
「愛している」と言いました。
2人でやっていた仕事を
ソビエシュが
1人でやるのは大変なので
帰って来てくれと言う言葉は
百歩譲れるとしても
3日前に結婚した自分に向かって
今になって
愛していると言うなんて、
ふざけていると思いました。
ソビエシュは再び
「愛している」と言いました。
ナビエは
息が詰まりそうになりました。
彼女は怒りながら
今になって、
そんなことを言えば、
自分が帰ると思っているのかと
尋ねました。
ソビエシュは否定し、
自信満々で離れたくせに
後悔をした愚か者が
ナビエの前夫で、
後で自分の気持ちを知って
苦しんでいるのを
いい面の皮だと思うように。
自分たちの離婚に
ナビエが傷つくことなく
あざ笑いながら
いい気味だと言えるようにと
話しました。
ナビエの頬に涙が伝わりました。
東大帝国での出来事が
一つ一つ思い出されました。
ソビエシュが自分を疑ったこと。
ラスタの肩を持ち
自分を傷つけたこと。
人前で自分を捨てて
ラスタを選んだこと。
兄を追放したこと。
離婚を申請したこと。
記憶はどんどん遡り
ラスタが初めて来た日のこと
ラスタが来る前に
一緒に食事をしたこと。
最高の皇后が
自分の妻だと言って笑ったこと。
戴冠式、子供の頃の結婚式
婚約した日
ナビエは泣きたくないのに
涙が止まりませんでした。
昔のように
彼を枕で叩きつけたい。
なぜ自分を捨てたのか聞きたい。
自分たちは、濃い愛を
分かち合ってはいなかったけれど
友達だった。
自分はソビエシュのことが好きだった。
そして、
ソビエシュは自分の夫で
自分は彼の妻だったのに
どうして、
そんなことができたのかと
泣きながら叫びたいと思いました。
ナビエは表情管理をしようと
思いましたが
しきりに涙が出てきました。
ハンカチを探しましたが
ありませんでした。
ソビエシュは最後に、
自分たちのことを思い出す時
今、この瞬間のことを
覚えていて欲しい。
自分の与えた傷を痛がることなく
ナビエにしがみついていた
汚ならしい元夫のことを思い出して
笑いなさいと言いました。
ソビエシュは、自分の計画を、
きちんとナビエ様に話していれば
彼女を失わずに済んだと
思っています。
けれども、たった1年間でも
ナビエ様が皇后の座を
離れることができたのか
再び皇后になった時に
ラスタの子を育てることができるのか
その答えは、わかりません。
最後の方のナビエ様とソビエシュの
やり取りがせつなくて
涙が出てきましたが
それは、すべてソビエシュが
招いたことなのですよね。
どんなに後悔しても
元に戻ることはできません。