119話。公の場でナビエのことを不妊と言ったラスタでしたが・・・
◇コシャールの逆襲◇
ナビエのそばにいた侍女たちの
顔がこわばりました。
マスタスが何か言おうとした
その時
経験者としてのお言葉かと
コシャールが
ラスタに話しかけてきました。
ラスタはコシャールの声を聞いて
ビクッとしましたが
すぐに、
あどけない表情を作り、
それはどういう意味かと
コシャールに尋ねました。
ナビエは兄の忍耐力が
切れるのではないかと
心配していましたが
彼は笑いながら
深い意味はない。
東大帝国の皇后が
先に赤ちゃんを授かったので
聞いてみただけと答えましたが
まさか、 東大帝国の皇后に
隠し子がいるという意味で
言ったと思ったのかと尋ねました。
後の言葉はいたずらっぽく
言ったので、
冗談に聞こえましたが真実でした。
ラスタの顔が目に見えて固まり
唇をヒクヒクさせていました。
ラスタは
自分を脅迫しているのかと
言いたげな顔でしたが
それを言ってしまえば
コシャールが言ったことが真実であると
認めることになります。
ラスタは、
話が大げさだ、棘があると
コシャールに言いましたが
彼は、自分の妹に
いきなり不妊症という人の言葉には
何があるのか、刀か牙かと
反論しました。
ラスタは、
そんなこと知らない、
自分は刀でも牙でもないと、
顔は笑っていましたが
慌てていたのか
自分のことを「ラスタ」と呼んで
元の話し方に戻っていました。
そして、コシャールは、
皇后の名前が書いてある
重要な書類。
私の書類だけれど
東大帝国の皇宮に置いてきた。
皇后の顔を見て思い出したと
言いました。
ラスタは、まだ何のことかわからず
対応できませんでしたが、
コシャールは
よく探してみるように。
重要な書類のようだからと言って、
ナビエの方を見て
ニッコリ笑った後
他の場所へ行きました。
兄の話していた書類は
もしかしたら、
ラスタの
奴隷売買証書ではないかと
ナビエは思いました。
コシャールは本当にラスタの奴隷売買証書を皇宮に置いてきたのでしょうか?
◇恋の妙薬 その1◇
ハインリとカフメン大公は
並んで歩いていました。
ハインリは面倒くさそうに
カフメン大公は
これから自分が
やろうとしていることに対して
複雑な気分でした。
ここまでやらないといけないのか
こんなことをしたら、
あの人が悲しむだろう。
それでもやるのかと
考えていましたが、横から
何の用事で自分を呼びだしのか。
面倒くさい。
早く帰って、クイーンと一緒に
いなければならないのにと、
ハインリの心の中の声が
聞こえてきたのと
前の晩の彼の記憶が
カフメン大公の理性を
吹き飛ばしました。
目的地に到着すると
カフメン大公は、官吏が運んできた
シャンパングラスを2つ手に取り
1つをハインリに渡しました。
そして、結婚式が終ったら
ナビエも
皇后としての仕事を始めるので
ルイフトとの交易を
優先して欲しいという話を始めました。
ハインリは頷きながら、
シャンパングラスを口元へ持っていくと
カフメン大公は、無意識に
その様子をじっと見つめていたので
ハインリは何かおかしいと思い
自分のシャンパングラスと
カフメン大公のシャンパングラスの
交換を提案しました。
カフメン大公は快諾し
ハインリから受け取ったシャンパンを
一気に飲み干しました。
ハインリは
自分が過剰反応してしまったかもと思い
安心してシャンパンを飲みました。
しかし、カフメン大公は
念のため、両方のシャンパングラスに
薬を入れておいたのです。
カフメン大公は、
ハインリが
シャンパンを飲んでいるすきに
目を伏せて、
どこかへ行ってしまいました。
ハインリは、
カフメン大公を呼び止めましたが
彼は立ち止まりませんでした。
変な人だなと思っていると
クリスタが
ハインリを呼びながら
目の前に近づいてきました。
なぜ、クリスタがここへ来たのか。
ハインリは驚いてクリスタを見ると
彼女と目が合った途端
動悸がし
彼女の姿が脳裏に焼き付き
無意識のうちに手を胸のあたりに
上げました。
クリスタは、カフメン大公と
コーヒーを飲んだ時に
彼は妙なことを言いました。
彼女がハインリのことが好きで
彼に近づきたいと思うなら
カフメン大公の指定する時間に
ここへ来るようにと。
クリスタは
彼の言葉を信じませんでしたが
好奇心で来てみたところ
ハインリが
ショックを受けたという表情で
自分を眺めていました。
その上、何かを拒否したいのか
首を横に振って
唇を噛んでいました。
クリスタは
ハインリのことを心配して
注意深く手を差し伸べましたが
ハインリは後ずさりしました。
しかし、
ハインリの顔は赤くなっていました。
ハインリは
カフメン大公が変な物を
飲ませたと思いましたが
彼の心臓は狂ったように
高鳴っていました。
ハインリは、ようやく口を開き
「義姉上」と言いましたが
その声は、自分が聞いても
甘ったるい声なので
ハインリは絶望してしまいました。
しかし、クリスタはその声に
胸を躍らせました。
10年以上、夢見ていた彼が
ようやく、自分を
まともに見てくれたと思いました。
冷や汗をかいていたハインリの額を
クリスタはハンカチで
拭いてあげました。
クリスタは
カフメン大公が何かしたのは
間違いないと思いましたが
彼女にとって、今、この瞬間が
夢のように感じました。
ハインリは金縛りにあったように
身体が動かず、
コントロールできませんでした。
そして、ハインリとクリスタの
ただならぬ様子を
西大帝国の貴婦人たちに
見られてしまいました。
彼女たちは、
先代が墓の下で悲しんでいるとか
元々、クリスタはハインリが好きで
皇太子妃になった時に
泣きわめいで大騒ぎになったけれど
人はそんなに簡単に変わらないなどと
口々にクリスタの悪口を言い
結婚している彼女たちは
兄嫁とあのようにしている
ハインリを腹立たしく思いました。
彼女たちは
急にナビエが可哀そうになり
皇后の力になるために
急いで、披露宴会場へ向かいました。
◇恋の妙薬 その2◇
そんなことが起こっていることを
全く知らないカフメン大公は
自分の部屋へ戻って
解毒剤を飲むつもりでした。
ハインリへの嫉妬心から一転して
深い後悔の念に苛まれていました。
カフメン大公はナビエの提案通り
他の誰かを愛して
苦しむことにしようと思いました。
カフメン大公が
どこへ行こうか考えていると
テラスから
もの悲しく泣く声が聞こえてきました。
そこへ行ってみると
ラスタが手すりにもたれて
泣いていたので
カフメン大公は驚愕しました。
この人はダメだと思いましたが、
ラスタと目が合ってしまいました。
ラスタの目にたまっていた涙が
ポトンと落ちた瞬間
薬効が猛威を振るい
自分の着ていた上着を
ラスタにかけてしまいました。
ラスタは
いつも自分に不満を抱いていた
カフメン大公の
このような態度に驚きました。
カフメン大公はラスタに
彼女が泣くと、
見ている人も悲しくなるので
泣かないで欲しいと言いました。
びっくりしたラスタは
立ち上がりました。
カフメン大公は自分の舌を呪いながら
ラスタに背を向けました。
◇副作用?◇
ナビエは披露宴会場で
ハインリを待っていましたが
カフメン大公に
会いに行ったハインリが
なかなか帰ってこないので
ナビエは寝室に戻りました。
すると、ハインリはすでに
戻ってきているとのこと。
ナビエは共用の寝室から
ハインリの部屋の扉を叩きましたが
彼は気分が悪いと言って
ナビエを拒絶しました。
ナビエは、
魔石のベッドを利用したハインリに
副作用が起きたのではないかと
心配しました。
一方、カフメン大公は
ラスタと並んで
ベンチに座っていました。
夜空の白い星が
ラスタに似ていると思う一方で
隣の月は
ナビエに似ていると思いました。
カフメン大公は、
頭がおかしくなりそうでした。
いつもは冷たいカフメン大公が
優しいのでラスタは、
カフメン大公の本心がわからないまま
先ほどの出来事に対する不満を
ぶちまけていました。
彼女のお兄さんは
本当にひどいと思わないか。
ほとんど脅迫だった。
自分は良い意図で姉を
心配していただけなのに。
と言う一方、
「廃妃が不妊であることを
何人、聞いただろうか?
このことが廃妃に
影響するだろうか?」
と心の声は言っていました。
カフメン大公は
ラスタの話を聞きながら
内心、笑いました。
ラスタの外見は美しいし
声は可愛らしい。
心の声も柔らかくて
和やかだけれど
その優しい声で
露骨に悪いことを考えているので
カフメン大公は皮肉に感じました。
ラスタが嘘をついていることと
彼女がナビエを辱めていることに
苦痛と怒りを感じても
薬効のせいで
ラスタの弱そうな姿が気になりました。
自分の外見に酔って
カフメン大公のような態度を取る男は
1人や2人でないことを
知っているラスタは
「男なら自分を愛するしかない。
ハインリも最初は
自分を愛したよね。」
と思いました。
ラスタの本音を聞き、
軽く笑ったカフメン大公は
薬効が少し切れてきたので
再び変な行動をする前に
部屋に戻ることにしました。
上着は返さなくてよいと
ラスタに言いました。
カフメン大公が
向きを変えようとしたその時
ソビエシュの
「皇后の座に
長く置いておく人ではない。」
という淡々とした
本音が聞こえてきました。
ソビエシュが、
斜め上のテラスの欄干に
もたれかかっていて
カフメン大公とラスタの方を
見ていました。
驚いたラスタは立ち上がり
言い訳をしようとしましたが
ソビエシュは
別のテラスへ行きました。
ラスタは慌てて
上の階へ行きましたが
ソビエシュは、
すでにいませんでした。
ラスタはしばらくうろたえましたが
安心しました。
陛下は、自分を釣った魚だと思って
油断していたようだけれど、
自分がどれだけ愛されているか
そろそろ彼も気づいたはず。
カフメン大公のような人が
自分に接近すれば
嫉妬して気になるはず。
前の奥さんを懐かしんでいたら
自分まで逃すことを伝えなければと
思いました。
そして、階下へ降りて行って
カフメン大公を捕まえ
もう少し話をしようと誘いました。
◇恋の妙薬 その後◇
翌日、ハインリは
ナビエに手作りの朝食を残して
急な仕事で出かけていました。
その料理を見ながら
ナビエは心細くなりました。
自分たちの初夜は
義務的なものだったのか。
そのせいで、自分たちの友情まで
消えてしまったのか。
それでも、
昨日は西大帝国の貴婦人たちが
とてもよくしてくれた。
ハインリとは
恋愛結婚をしたわけではないし。
最初の夜、彼の熱意に
酔いしれていたのかもしれない。
自分を抱きしめて
好きだと言ってくれたこと、
このまま死にたいと言ったこと、
少しも離れていたくないと
言ったこと。
腕がしびれるのに、
一晩中、抱きしめてくれたこと。
彼は、
初めての経験に興奮していただけかも。
苦々しい気持ちを紛らすために
ナビエは庭に出ると
カフメン大公に会いました。
ナビエは、
わざと私的なことを排除して
交易の話を切り出しました。
カフメン大公も同意して
二言三言、言葉を交わしていると
ラスタがやって来て
2人に挨拶をしました。
ラスタは
カフメン大公のそばにくっついて
美しく微笑みながら話しかけましたが
彼は、ラスタを冷たくあしらい
使いを通して、
上着を返すように言いました。
その態度にラスタは驚きました。
ナビエは、それを
不思議に思いました。
カフメン大公は
いつもぶっきらぼうなのに
2人の間に何かあったのか
ナビエは尋ねましたが
カフメン大公は
何でもないと断言しました。
カフメン大公は
ショックを受けていました。
前の晩は確かに薬効があったのに
寝て起きたら消えていました。
けれども、
いまだにナビエに対しては
薬が効いていました。
カフメン大公は
ハインリの様子を
見てみることにしました。
カフメン大公は、
薬を飲んだのは2回目なので、
片方の効果が
早く消えたのではないかと思いました。
ちょうどハインリはクリスタと
話をしていました。
ハインリは、
前の晩のことは
お酒に酔っぱらっていたせいだ。
誤解するといけないので
今度、
自分が酔っ払っているのを見たら
そのまま通り過ぎるようにと
クリスタに頼んでいました。
先にクリスタが
ハインリの額を拭いたのに
それもハインリは
自分のミスにしていました。
前日のことで
期待をしていたクリスタは
足の力が抜けてしまいました。
ハインリの汗を拭いてあげると
彼は急に目が覚めたように
逃げたけれど
自分への気持ちに驚き
そうしたのかと思っていました。
カフメン大公は、ハインリの薬効も
一晩で消えたことがわかりました。
けれども、ナビエに対する薬効は
まだ切れていませんでした。
元々好きだったところに
薬効が加わったという
師匠の仮説が
カフメン大公の耳元から
離れませんでした。
ハインリへの嫉妬心から
彼に恋の妙薬を飲ませた
カフメン大公でしたが
自分自身も
ドツボにはまってしまうという
何とも情けないことに
なってしまいました。
けれども、2人とも
無事に薬効が切れて
良かったと思います。
ラスタは自分の美貌を武器にして、
皇后の座へ這い上がって
来たのでしょうけれど、
自惚れが強すぎると思います。
ソビエシュとラスタがを
繋ぎ止めているのが
お腹の子供だけであることを
知らないラスタが哀れです。