247話 タッシールの部屋で、ラティルは何を見たのでしょうか?
◇尻尾が好き◇
タッシールの仙骨の辺りから
フワフワした
動物の尻尾のようなものが
付いていました。
ラティルは目を擦りましたが
確かに動物の尻尾でした。
ラティルは、タッシールにも、
種族の秘密があるのかと思い、
呆然としましたが、
ヘイレンは訳もなく恥ずかしくて
顔を手で覆いました。
一方、タッシールは、
非常に大胆で平然としていました。
ラティルは、
それは何なのかと尋ねると、
タッシールは、笑いながら
気に入ったかと尋ねました。
当惑したラティルは、
気にいるかどうかはともかくとして、
これはどういうことなのかと
尋ねました。
そして、尻尾をつかんで引っ張ると
すぐに抜けてしまったので、
慌てたラティルは悲鳴を上げて
尻尾を抜いてしまったと
大騒ぎしました。
後ろにいたヘイレンも
一緒に悲鳴を上げました。
尻尾が本物か偽物か
まだ区別が付かなかったラティルは、
わざと尻尾を抜いたのではないと
謝りましたが、
尻尾が消えた場所に残ったのが
タッシールのお尻だと分かると、
なぜ、それをさらけ出すのかと
再び、悲鳴を上げました。
しかし、タッシールは
尻尾で隠していたお尻を
さらけ出したのはラティルだと
指摘しました。
ラティルは尻尾を持ち上げて
タッシールのお尻を隠そうとしました。
そして、彼がラティルの方を
向こうとすると、
彼女は彼の背中を叩きながら、
後ろを向けと抗議しました。
ラティルは、
一体、何をしていたのか。
この尻尾は何なのか。
なぜ、ズボンを脱いでいるのかと
尋ねました。
タッシールは、
尻尾が見えるように
ズボンを履くのは難しかったので
尻尾の位置を確認した後、
ズボンをリフォームするつもりだったと
答えました。
今になって
ズボンをリフォームするということは、
尻尾は本物ではない。
タッシールの尻尾を
抜いた訳ではないことを知った
ラティルは、少し安心して、
尻尾を振りながら、
これは何なのかと尋ねました。
タッシールは後ろを向いたまま、
首を半分だけ
ラティルの方へ向けると、
尻尾が気に入ったかと
嬉しそうに尋ねました。
ラティルは、鼻で笑いながら、
自分がこういうものを
好きだと思うかと尋ねましたが、
タッシールの後ろ姿が
とても美しいせいか、
この状況が面白いせいか
分からないけれども、
力を入れても、
口元を下げることができず、
その顔で「気に入らない」と答えても
滑稽なので、
「少し可愛いね」と言いました。
その姿を眺めながら、
ヘイレンと護衛たちは
タッシールが
言っているだけだと思ったのに
皇帝は本当に、
そのような物が好きなようだ。
タッシールのお尻が
気に入ったのではないかと
話していましたが、
ラティルは尻尾が取れた衝撃から
まだ抜け出せていなかったので、
それに気づきませんでした。
タッシールは、
そうですよね?
可愛いですよね?
と言って、
ラティルの方を向こうとしたので
彼女は悲鳴を上げて、
そのままでいるようにと言って
慌てて彼を止めました。
タッシールは、
ラティルが自分の後ろ姿を
好きなようだと指摘しましたが、
彼女は、前から見たくないからだと
言いました。
タッシールは、
前から見ても、満足してもらえると
言ったので、
ラティルは何か言おうとしましたが、
彼の後ろ姿が、
あまりにも美しかったので、
顔に熱が上がって来て、
ニヤニヤしました。
「皇帝の座、万歳!」と
叫びたいほどでした。
ラティルは、声だけでも
威厳を保とうとしながら
タッシールが何をしでかすか
分からないので、
本当に困ると言いました。
ところが、その瞬間、
タッシールは、尻尾で
ラティルの頬をポンポン叩いて
笑いました。
切れ長の涼やかな目元が
細く曲がる姿が可愛いくて、
ラティルは、しばらく
表情管理をするのを
忘れてしまいました。
自分は、こういうのが好きなんだと
ラティルは悟りました。
そうしているうちに、
タッシールはベッドの方へ
歩いて行き、
うつ伏せになりました。
ラティルは糸で引っ張られるように
後を付いて行きました。
それでも、タッシールに
完全に近づくことはできず
二の足を踏んでいたラティルに、
タッシールは、笑いながら
私の尻尾。
また付けてください、奥さん。
と言いました。
ラティルの頭の中で
砂糖をぎゅうぎゅうに詰め込んだ
爆弾が爆発しました。
◇アイニの反撃◇
アイニは、
頭だけになったヘウンに
あれこれ食事を用意していた時、
黒死神団と対抗者の件で
タリウムへ送っていた使者が
戻って来たと、
扉の外から報告する声を聞きました。
ヘウンは食餌鬼になった後も、
よく話をしていましたが、
首を切られたせいか、
生前のように、
話が上手な時もあれば、
言葉をろくに話せず、
目だけを動かす時もありました。
アイニは、
その姿に心を痛めました。
彼女は、
息苦しくても我慢するようにと言って、
ヘウンの頭を箱に入れて、
布を被せました。
それでも、念のため、
少し箱の蓋を開けておきました。
そして、
誰も入って来ないように、
言ってあるけれど、
指示に従わない者もいるので、
誰かが入って来たら、
じっとしているようにと
ヘウンに言い聞かせました。
彼は瞬きをすると、
アイニは箱に布を被せて、
悲しそうな表情を消して、
ホールへ向かいました。
ホールの中では、
使節団が並んでいて、
その前に、
ヒュアツィンテが立っていました。
アイニは彼に黙礼をした後、
その隣に行きました。
しかし、アイニの予想に反して
使節団は、
黒死神団について調べたいなら
直接、捜査官を
タリウムに送るように言われたと
報告したので、
彼女は不愉快になり、
眉を顰めました。
アイニは、
タリウムに捜査官を送っても
捜査を妨害されると主張しましたが、
使節団は、
カリセンに傭兵団を送ったら
まともに捜査をしてもらえるかどうか
信じがたい。
適当な証拠があれば、
捜査に協力すると
タリウムから言われた。
皇后が行方不明になっている間、
黒死神団の傭兵たちは、
タリウムの首都に現れた
食餌鬼を退治するのに忙しく、
席を外せられなかったほどなので
彼らが皇后を拉致したという主張は
信じがたいと言われたと
説明しました。
食餌鬼という言葉を聞いたアイニは
怒りのせいで、
血管が浮き上がりました。
ラティルは、
首都に現れた食餌鬼がヘウンだと
明らかに知っていながら、
彼女が殺した食餌鬼の話を
あえて持ち出したということは
自分を挑発しようとしている意図が
明らかでした。
アイニは、呼吸を整えると、
黒死神団の傭兵たちは
人間ではなく、吸血鬼なので、
対抗者である自分を消すために
捕まえようとした。
この件について、
ラトラシル皇帝が関与しているとは
思わないけれど、
捜査を妨害するなら、
彼女との関連性を疑うしかないと
冷たい声で言いました。
彼女の言葉に、
人々はざわめき始めました。
ヒュアツィンテは、
傭兵たちが吸血鬼なのは
確かなのかと尋ねました。
アイニは、
全員ではないけれど、
多数含まれているのは確かだと
答えました。
ヒュアツィンテの顔が強張ると、
アイニは、
彼が自分のことを
嫌いであろうがなかろうが、
自分たちは、カリセンのために
手をつながなければならない。
タリウムが、
吸血鬼で構成された傭兵団を
庇うなら、
自分たちは、彼らの底意を疑い
警戒しなければならない。
自分のことが嫌いでも、
タリウムが吸血鬼と手を結んだ場合
自分たちに何が起こるのか、
まず考えて欲しいと訴えました。
使節団に、休んだ後、
再びタリウムへ行くように
指示したアイニは、
複雑な気分になり、
自分の部屋へ戻りました。
自分はカルレインを愛していたし
彼を守りたかった。
黒死神団の吸血鬼の中には、
前世で仲良くしていた人もいた。
それなのに、なぜ、こんなに
腹が立つのか。
なぜ、彼らを
吸血鬼だと言ってしまったのか。
理性と感情が入り混じり、
胸がむかつくと、
寝室に到着する頃には、
それが頭痛に変わっていました。
アイニは眉を顰め、
扉にもたれかかり、
しゃがみこみました。
なぜ急に、
激しい頭痛が起きたのか。
私はカルレインを愛しているのに
彼に害を及ぼしてはいけない。
脳に向かって、
囁く声が聞こえるようで
アイニはさらに辛くなりました。
彼女は、
薬を持って来いと言おうとしましたが
そのまま気絶してしまいました。
クローゼットの中で、
アイニが作ってくれた箱の隙間から
その様子を見守っていたヘウンは
倒れたアイニの肩と首の間に
真っ黒な煙が付いていたことを発見し
目を見開きました。
その煙は、
アイニを攻撃しているようにも
見えました。
気絶した状態でも
アイニが苦しんでいるので、
ヘウンは我慢できなくなり、
皇后陛下が倒れたと
叫んでしまいました。
それを聞いた護衛と侍女たちは、
驚いて、部屋の中に入りました。
急いで、侍女たちは、
アイニをベッドへ寝かせ、
2人の護衛が
宮医を呼んで行っている間、
残った護衛は
部屋の中をゆっくり見回しました。
皇后しかいない部屋から
男の声が聞こえてきたので
当惑していました。
ヘウンは、ぎゅっと目を閉じました。
◇処分◇
アイニは目を覚ますと、
自分を心配そうに見つめている
侍女たちに、
自分が倒れたことを聞きました。
すでに、
ひどい頭痛は収まっていました。
ため息をついたアイニに、
侍女たちは、
ヘウンの亡霊が
彼女を攻撃したに違いないけれど
もう大丈夫だからと言いました。
彼女たちの言葉の意味が
分からなかったアイニは、
それはどういう意味かと尋ねると、
侍女の1人が、怯えた顔で
クローゼットを目で指して、
あの中に、ヘウン皇子の頭が
入っていたけれど、
もう処分したので大丈夫だと
答えました。
処分したとは、どういうことなのか。
アイニは目を見開きました。
クライン襲撃事件のせいで
一度は失脚しかけた
ダガ公爵とアイニでしたが、
彼女の嘘のせいで、
元の皇后の位置に戻れたのは
見事だと思います。
ドミスの義妹のアニャは
対抗者で、アイニは、
アニャの生まれ変わりのような
気がしますが、
一般的に、対抗者は救世主だと
思われているのに、
アイニに憑りついていた黒い煙は
邪悪なもののように思えます。
アニャはカルレインのことが
とても好きだったようなので、
ただでさえドミスに
良い感情を持っていないところに
彼女とカルレインが
相思相愛になったら
その恨みは相当なものになりそうです。
あくまで、私の想像で、
実際、どのように
お話が展開していくか分かりませんが
アニャは、ドミスを
亡き者にすることができたけれど、
ギルゴールが、
ロードを退治した対抗者を殺すと
言っているように、
アニャも殺されてしまった。
けれども、今度こそ、
カルレインの気持ちを
自分に向かせようと思い、
転生した後も、
自分の気持ちを必死で訴えた。
けれども、500年経っても、
カルレインの
気持ちが変わらないことに苛立ち、
ラティルがドミスの夢を見ている時に
ドミスの心と身体の痛みを
ラティルが感じているように
アニャも悪霊のごとく
アイニに憑りついて、
彼女を苦しめたのかと
思いました。
考えてみると、
ラティルの周りには、
彼女のことが好きで
彼女の気持ちを振り向かせようと
必死になっている男性たちが
たくさんいるのに、
アイニにはヘウンしかいません。
その彼を失ったら、
女性として彼女を愛する人が
いなくなってしまうのは
可愛そうだと思います。