250話 ラティルは、アイニについて、ギルゴールに聞きに行くことにしました。
◇ロードの敵◇
聖騎士が報告してくれた
問題のことで、
時間を取られたラティルは、
普段なら、
夕食を終えて散歩までした時間に
ようやく仕事を
終えることができました。
アイニは対抗者なのか。
なぜ、彼女が
対抗者の剣を持っているのか。
ラティルは、
ギルゴールに聞きたいと思いました。
側室なら、
そのまま夕食を一緒に取ればいいけれど
ギルゴールは、対外的には
月楼の王子の侍従だか護衛なので、
ラティルは時計を見て、
この時間に行っても大丈夫なのかと
悩みました。
けれども、月楼の王子の
イライラしている顔と、
嫌悪感を露わにした瞳を
思い出したラティルは、
ギルゴールに
会いに行くことにしました。
月楼の王子は、
ラティルが訪ねても訪ねなくても
嫌がる人なので、
それならば、
彼を煩わせたいと思いました。
月楼の使節団が
滞在している建物に近づくと、
彼らはラティルに挨拶をしました。
彼女は、簡単に返事をしながら
歩き続けました。
王子の使用人らしき人が、
そっとラティルに近づいて、
王子のことを話そうとしましたが、
ラティルは、
彼に用事があって来たのではないから
気にしないようにと、
不機嫌そうに答えて、
彼に目もくれませんでした。
そして、とうとう、
ギルゴールに花束を渡した所へ
到着しました。
以前も、
ラティルに付き添って来た護衛が、
ギルゴールが使っている部屋を
指差しました。
ラティルは、短く息を吸い込むと
扉を叩きました。
すると、中から、
いらっしゃい、お嬢さん。
と気怠い声がしました。
お嬢さんと聞いて、
護衛の表情が固まりましたが、
ラティルは部屋の中に入りました。
その中には、
植木鉢が50個並べられていて、
ギルゴールは、
43番目の植木鉢に水をやると、
扉の外にいる護衛が、
お嬢さんは顔しか見ていないと
ぶつぶつ呟いていると
教えてくれました。
ラティルは、冗談ではなく
本当に純情派のイメージが
なくなった。
それを持っている必要もないけれど
と返事をしました。
ギルゴールは、
自分の性格が悪そうに見えるかと
尋ねましたが、
ラティルは、護衛の安全のために
話題を変え、
アイニが本当に対抗者の剣を
持っているのかどうか
ギルゴールに確認しました。
彼は、
お弟子さんの物になるはずだったのが
他の人の所へ行ったのが
残念かと尋ねました。
それを聞いて、ラティルは、
アイニが剣を持っていることを
確信しました。
ラティルは、
ギルゴールが、最後の植木鉢に
水をやるのを待った後、
自分がサディだと分かったから、
今度は対抗者の味方をしないよねと
尋ねました。
前に来た時に、花束をあげたし、
彼にショックを与えるために、
サディとドミスが言ったことを
ギルゴールに伝えたので、
彼の心境に
変化があったのではないかと
期待していました。
しかし、ギルゴールは
何でも簡単に済ますつもりはないのか
ラティルに、
賭けをすることを提案しました。
ラティルは、ギルゴールを
本当に賭けが好きな吸血鬼だと
思いました。
ラティルは、何の賭けをするのかと
尋ねると、ギルゴールは
花をかじって食べると
口の中に香りが残るけれど、
長く香りが残った方が勝ちだと
ギルゴールは答えました。
ラティルは、
花を早くかじって、食べる人を
勝ちにすればいいと
意見を述べましたが、
ギルゴールは、
そうするとお嬢さんが負けると
答えました。
なぜ、このような賭けをするのか
分からなかったけれども、
ラティルは、
ギルゴールの提案を受け入れ
護衛に花束をいくつか、
早く持ってくるように指示しました。
護衛は、
急いで作った割には、
まあまあ綺麗な花束を
他の護衛の手も借りて、
たくさん持って来ました。
彼らがいなくなると、
ギルゴールは花束を取り、
「スタート」と言って、
すぐに、ゆっくりと花を
かじり始めました。
しかし、ラティルは花を食べず、
ギルゴールを眺めるだけでした。
彼はその姿を見て、
奇妙に思いましたが、
ラティルは依然として
花を食べませんでした。
口の中に花の香りが
どのように残るか分からないけれど
ラティルは、ギルゴールのように
花をたくさん食べることが
できませんでした。
無理して食べても、
せいぜい、3輪くらい。
それ以上食べると、
しかめっ面になるので、
花を食べるのが好きなギルゴールは
それを見て、
気分が悪くなると思いました。
だから、
賭けに勝つ自信のないラティルは
トリックを使うことにしました。
ギルゴールは、
花束を3個ほど食べた後、
首を傾げながら、
ラティルは花束を食べないのかと
尋ねました。
その質問を待っていたラティルは、
ソファーから立ち上がり、
ギルゴールに近づくと、
彼の唇に軽くキスをしました。
ラティルはギルゴールの顔色を窺うと
彼はこのような事態を
全く予想していなかったのか、
完全に石のように固まっていました。
睫毛さえ震えなかったので、
本当に人間のようでありませんでした。
彼は瞳だけを下げてラティルを見ると、
彼女は明るく笑いながら、
ギルゴールの香りを
全部、持ってきたので、
自分の勝ちだと宣言しました。
自分でも、戯言を言っていることが
分かっていましたが、
ギルゴールを相手にするなら、
小細工が必要でした。
ラティルは
心臓をドキドキさせながら、
ギルゴールの反応を見ました。
今まで見て来たギルゴールは
意外な状況に弱いようでした。
嘘かもしれないけれど
サディに、恋愛をしようと
持ちかけたこともありました。
ギルゴールは、ラティルのことを
浮気者だ。
自分を揺さぶると、
ため息交じりに非難しました。
ラティルは、
自分の策に満足して
明るく笑いました。
しかし、ギルゴールに
賭けは無効だと言われたので、
どうしてなのかと抗議しました。
ギルゴールは、詐欺だと答えると、
ラティルは、
最初から自分に不利な賭けだったと
不平を漏らしました。
すると、ギルゴールは、
賭けの種類を変えて欲しいと
提案すべきだったと言いました。
それならばと、ラティルは、
名前の長い方が勝ちという
賭けをしようとしました。
すると、
ギルゴールの両側の口の端が
下がりました。
ラティルは落ち込んで、
元のソファーに戻り、
ギルゴールの顔をちらっと見ると
口をへの字型にしていた
ギルゴールが、今は笑っていました。
そして、本気なのか、
からかっているのか
分からないけれど、
彼は、今すぐ、
他の所へ行くつもりはないので
心配しないように。
少しでも油断したら、
どこへ行くか分からないけれど、
と言いました。
そして、ギルゴールは
ラティルの鼻先まで近づくと、
自分がどこにも行けないように、
お嬢さんが見張っていればいいと
言いました。
ラティルは、
自分を脅迫しているのかと
聞きましたが、
ギルゴールは、
お嬢さんのような詐欺師に
対抗するには、
仕方がないと答えました。
そして、彼は、
お嬢さんが対抗者の剣を
抜いた理由が気になる。
お嬢さんは、
気にならないのかと尋ねました。
ラティルは、「気になる」と答え、
他のロードは抜けなかったのかと
尋ねました。
ギルゴールは、
試したことがない。
お嬢さんが、一番最初に、
自分を対抗者だと言って騙した
ロードだと言って、
お祝いの言葉を述べました。
ラティルは、
ギルゴールが、しきりに自分を
詐欺師に追い込もうとするような
気がしました。
ラティルは、
ぼんやり彼を眺めていると
ギルゴールは、
敵になった時に、
一番危険なのは自分だけれど、
今すぐ、その気はない。
安全のためなら、
他のことに急ぐべきだ。
お嬢さんが
気をつけるべき敵は、
1人や2人ではないと忠告しました。
それはどういう意味なのかと
ラティルは、思いました。
敵と言われて思いつくのは、
ギルゴールと、対抗者、
聖騎士くらいでした。
ギルゴールは頭を傾けると、
自分と対抗者だけで
ロードに勝てたと思っているのかと
尋ねました。
ラティルは、手を振り、
聖騎士がいるけれど、
今回、彼らは自分の味方だと
答えました。
すると、ギルゴールは
聖騎士がお嬢さんの味方なのは
確かなのか。
彼らは、お嬢さんの正体を
知らないのではないかと
尋ねました。
その言葉に、
ラティルは落ち込みました。
それを見たギルゴールは、
もう少し深刻な顔をして腕を組み、
その聖騎士たちは、
一生、お嬢さんの正体を知らずに、
味方になってくれるとしても、
どうして、騎士団が
1つだけだと思っているのかと
師匠モードで尋ねました。
ラティルは、さらに驚き、
他の騎士団もいるのかと
尋ねました。
彼は、
いない方がおかしいのでないかと
答えました。
ラティルは、カルレインの夢の中で
彼とドミスを取り囲んでいる
多くの騎士たちを見たことを
思い出しました。
百花繚乱は、
自分の正体を知らないから
諸刃の剣と同じだし、
彼らが味方になってくれても、
もっと多くの敵がいることを
ラティルは知りました。
◇味方にするよりも◇
ラティルは、
もっとギルゴールに
話が聞きたかったものの、
彼は、
突然、正気を失った人のように
ソファーにどっかり座ると、
花をかじって食べ始めたので、
これ以上、話を聞くことが
できませんでした。
ここで、うるさく言うと、
彼の精神が
どこかへ飛んで行きそうな気が
しました。
ギルゴールの精神力は弱すぎる。
味方になっても、
危険な存在のようなので、
彼を味方にするより、
敵にしないようにしようと
ラティルは思いました。
次にラティルは
カルレインを訪ねました。
ラティルは、彼に、
ドミスの念願について
話さずに帰ってしまったので、
いつもより少し不愛想に
彼女を迎えましたが、
対抗者の話を切り出すと、
彼は最大限、私感を抑えて、
対抗者が、
まともに対抗者の役割を果たす時、
自分はそばにいたことがないので、
分からないと、正直に答えました。
カルレインは、
全てのことを知っているようなのに、
意外と知っていることが少ないと
ラティルは指摘しました。
彼は、
敵の数が非常に多かったことを
知っていると話すと、
ラティルも、
それは知っていると言いました。
ため息をついたラティルは、
席を立ちました。
ギルゴールが正気になったら、
彼に聞いてみるしかないと
思いました。
ラティルはカルレインの肩を叩き、
外へ出ましたが、
彼は、遅れて
ラティルの後を追いかけて来て、
なぜ、彼女が、
そのようなことを知っているのかと
尋ねました。
カルレイン自身が知らないことを
ラティルが知っているので、
不思議に思っているようでした。
カルレインは、
ギルゴールが月楼の使節団に混ざって
ここへ来たことを、
まだ、知らないので、
そのことを話すべきかどうか
ラティルは迷いました。
しかし、彼女が決定を下す前に、
「自分が教えた。」と言う声が
後ろから聞こえてきました。
その声を聞くや否や、
カルレインは、
眠っている豹から
本物の吸血鬼のような
殺伐とした雰囲気に変わりました。
後ろを振り向くと、
いつからいたのか、
ギルゴールが、ニヤリと笑ったまま
植木鉢を抱いて、立っていました。
ギルゴールは吸血鬼なので、
本来、
ロードの味方をするはずなのに
対抗者と共に
ロードと戦うようになり、
裏切り者の吸血鬼と
呼ばれるようになったのは
何か理由があると思います。
何千年もロードを敵に回した
ギルゴールが、
あっさり、その考えを
変えるとも思えませんが、
ラティルは、
それをしようとしています。
ラティルは
子供っぽいところがあったり、
人の気持ちを思いやれなかったり
感情に任せて行動したりするけれど
一応、皇帝としての仕事は
きちんとしているし、
正義感もあると思います。
そして、彼女は、
側室を大事にしていないけれど、
色々なタイプの男性と接することで、
男性の扱い方を学んでいように
思います。
彼女は、
ギルゴールにキスをしたりと、
今までのロードとは
違った行動をしています。
もしかしたら、彼女は
ギルゴールを変えて、
今までの歴史を
塗り替えるかもしれません。