601話 ギルゴールの信じられない質問とは?
◇質問◇
お嬢さんは、
自分の子供の命を奪うことが
できますか?
と、ギルゴールは、
ラティルに尋ねました。
彼女は驚いて、
いいえ! 世の中にそんな狂った親が
どこにいるんだ!
と叫びましたが、考えてみれば、
その狂った親が自分の親でした。
残念ながら、身近に実例がありました。
ラティルはしょんぼりして
肩を落としましたが、
いるかもしれないけど、自分は違うと
訂正しました。
ギルゴールは、
それは本当かと尋ねました。
ラティルは、
「もちろんです」と答えました。
ギルゴールは、
どんな理由があっても、
子供の命を奪ったりしないのかと
尋ねました。
ラティルは、再び、
「もちろんです」と答えると、
そのような恐ろしい質問をする
理由を尋ねました。
ラティルの質問に答える代わりに、
ギルゴールは頷いて、
そうなんですね。
と呟くと、
彼はどこからか花を摘んで、
花びらをかじって食べ始めました。
真剣に悩んでいる横顔でした。
ラティルは、その訳の分からない質問に
首を傾げました。
いくらギルゴールが自分勝手とはいえ、
なぜ、そのような
恐ろしい質問をしたのか、
理由が分かりませんでした。
先ほどまで話していたのは、
歓迎パーティーの話と、
シピサがギルゴールを
追い出したがっているという話で、
今までの会話の中で、
そのような質問が出るような
流れはありませんでした。
ラティルは、ギルゴールが
その質問をした理由を
聞いてみようかと思っているうちに
以前、ランブリーが盗み聞きして
自分に教えてくれた、
ギルゴールとシピサの会話のことを
思い出しました。
確か、ランブリーは、
ギルゴールがアリタルに
何か大きな過ちを犯したようだと
言っていました。
もしかして、それが、先ほどの
ギルゴールの質問と関係があるのか。
彼は二人の子どものうち、
一人の命を奪ったのかと考えましたが
子供の命を奪うという、
ひどい想像をした自分に驚きました。
しかも幻影で見た昔のギルゴールは、
狂った人ではなく、
むしろ妻と子供たちを愛する
優しい父親でした。
しかし、普通の過ちを犯しただけで、
息子とこれほど疎遠になることが
あるのだろうか。
息子が父親に「出て行け」と
恐ろしいことを言うくらいなので、
何かがあるはずでした。
ラティルは、
そんなことを考えながら、
しきりにギルゴールの横顔を
チラチラ見ているうちに、
二人で互いに一つずつ質問して、
必ず答えるというアイデアを思いつき、
ギルゴールに提案しました。
しかし、ギルゴールは、
いつも彼自身と子供の話題を
避けて来たので、
彼はその提案を
受け入れないだろうと思いました。
しかし、ギルゴールは、
なぜか今日は「いいですよ」と
すぐに返事をして、頷きました。
シピサと戦って気が緩んだのか。
とにかくチャンスが来たので、
逃すわけにはいきませんでした。
ラティルは、すぐに、
シピサとセルに
何か悪いことをしたから
仲違いしたのかと尋ねました。
しかし、ギルゴールは、
質問が二つあるようなので、
どちらか一つだけを選ぶようにと
言いました。
そう言われてラティルは驚きましたが
それでも、ギルゴールが、
一つの質問には答えてくれそうなので
短い時間、悩んだ末、
ラティルはシピサを選びました。
シピサとセルの両方が
気になりましたが、
セルは死んでしまったけれど、
シピサは生きていて、歩き回り、
目の前まで来ているので、
彼のことを聞いた方がいいと
思いました。
ギルゴールは、しばらく考えてから、
あえて言うなら、
放置していたからだと答えました。
ラティルは「放置?」と聞き返すと
ギルゴールは、
自分は、あの子が生きていることを
知らなかった。
つい最近、知ったと答えました。
ラティルは、
それは本当なのかと聞き返した後、
放置期間がものすごく長いと
指摘しました。
そして、ラティルは、
ギルゴールが、
子供が死んだと思っていたということは
その前に、
別の事情があったのではないか。
今までギルゴールが、
その子供が生きていることさえ
知らなかったということは、
彼の方でも、ギルゴールに
自分が生きていることを
知らせなかったということなので、
100%、その前に別の事情があったと
思いました。
一方、ギルゴールは肩をすくめて
今度は自分の番だと言いました。
けれども、ラティルは、
どうしてシピサが
死んだと思ったのかと尋ねました。
しかし、ギルゴールは、
今度は自分の番だ。お嬢さんは、
自分があの子にした悪いことについて
聞いたと主張しました。
ラティルは、
それは聞かなかったことにして
質問を変えてもいいかと尋ねました。
ギルゴールは、当然ダメだと
答えました。
ラティルは、サービスでもう一つだけ
教えてくれるのはどうかと聞きましたが
ギルゴールは、ダメだと答えました。
ラティルは、
時間を10秒だけ戻そうと言いましたが、
ギルゴールに、
そんなことできると思う?
と聞かれました。
ラティルは可哀そうに見えるよう
目を丸くしてギルゴールを
見つめましたが、彼はびくともせず
そのような目で見ても無駄だと
言いました、
ラティルは、
仕方なく公平になることにし、
分かった、聞いてみて。
と言いました。
するとギルゴールは、
ラティルがアリタルの体にも
入れるのかと尋ねました。
その質問を聞いたラティルは、
花木の茂みの後ろに身を隠すと、
この人は本当にひどい!
と叫びました。
ギルゴールは、
訳が分からないようでしたが、
ラティルは、
やはりギルゴールは、前に自分が
クリーミーと話していたことを
聞いていたのに、
聞いていないふりをしていたのだと
思いました。
ラティルは
ずるいです!
と叫ぶと、まともに息もできずに
ギルゴールを見つめました。
彼は平然とラティルに近づき、
彼女の目元にある花びらを摘みました。
障害物が無くなったので、
ラティルは花木の後ろから
力なく抜け出しました。
そして、
こんなふうに質問するなんて、
本当にひどいと、
ギルゴールを責めました。
彼は、何がひどいのかと尋ねると、
ラティルは、
本当に過去のロードの体に
行けるかどうか確認するのではなく
アリタルの過去を指定して
聞いからだと答えた後、
唇を固く閉ざしました。
自分は、たった一つの質問の機会を
フワフワ浮いている風船のような
答えと引き換えにしたのに、
ギルゴールはクリーミーとの会話を
聞いていないかのような
そぶりをして、
しっかり、質問の答えを聞く
機会を得たかと思うと
ラティルは悔しくなりました。
ラティルは、
ギルゴールの落ち着いた視線を
見るや否や、
会話を盗み聞きしていたなら、
この部分も聞いたと思うけれど、
自分がコントロールできる
能力ではないと答えました。
そして、これ以上は
聞かないで欲しいと
きっぱり言おうとしましたが
ギルゴールの目つきが
沈むのを見るや否や、
すぐに身を翻して、
温室の外に逃げました。
ギルゴールが、
過去に戻って過去を変えてほしいと
自分に頼むのではないかと思い、
恐怖を感じました。
ドミスの体に入って過ごしても、
結局、過去は変わらなかったので、
今さら過去を変えることはできない。
過去を変えると、
自分が消えてしまうと思いました。
幸い、ギルゴールは、
ラティルを捕まえませんでした。
温室を抜け出したラティルは、
扉まで几帳面に閉めた後、
早くその場を離れながら、
あちこちを見回しました。
サーナット卿は
シピサに会えただろうかと
気になりました。
◇シピサの質問◇
サーナット卿は、
無事にシピサを見つけ出して、
彼の近くにいました。
しかし、簡単に話しかけることは
できませんでした。
シピサの顔を見るや否や、
皆で驚愕してしまったことを
気にしていたためでした。
知らないふりをして、
声をかけることもできましたが、
それは、あまり騎士らしくない
行動のような気がしました。
シピサが、
ギルゴールの息子だということを
知る前と後のイメージの差が
大きすぎて、
言葉の扉が簡単に開きませんでした。
しばらく悩んだ末、サーナット卿は、
まず自分のしたことについて
謝罪することにしました。
サーナット卿はシピサに近づいて
彼を呼ぶと、シピサは、
また逃げ出そうとして、
足を動かしました。
サーナット卿は、
自分が安全な人であることを
知らせるために、
もっとシピサに近づく代わりに、
彼との距離を空けたまま両手を広げ、
あなたは妖精ですか?
どうして、しきりに
逃げようとするのですか?
と尋ねた後、
シピサがギルゴールに似ていたために
皆で無礼を働いてしまったことを
すぐに謝りました。
効果があったのか、
シピサは逃げることなく、
少し憂鬱そうな表情をしただけでした。
サーナット卿は、
ギルゴールの顔で、
そのような表情をするのを見て、
鳥肌が立ちましたが、
それを顔に出さないように
最大限、努力しました。
憎いのはギルゴールで、
あの青年ではありませんでした。
けれども、彼と一緒にいた議長は
ギルゴールと同じくらい、
イライラする存在でした。
幸いシピサは、逃げることなく
「大丈夫です」と答えてくれました。
けれども、マントをギュッと握って、
自分の顔を完全に隠してしまいました。
彼が顔を隠すと、
サーナット卿は少し安心しました。
ギルゴールと
よく似た青年の顔を見るのが
とても負担だったからでした。
サーナット卿は、
これからどうすればいいのか。
何があったのか、
事情を聞かなければならないのかと
考えましたが、まだ彼とは
親しい間柄ではないし、
身内のことを聞くのは、
少し無礼かもしれないと思いました。
そして、サーナット卿は、
シピサを年長者として扱うべきか、
それとも愛する恋人の息子として
扱うべきかも悩んだので、結局、彼は
皇帝からシピサの泊まる部屋を
案内するよう言われているので、
部屋に案内すると無難な話をしました。
シピサが「部屋?」と聞き返すと、
サーナット卿は、
今度は本当の部屋だ。
先程は騙して申し訳なかったけれど
シピサをもてなしたかっただけだと
言い訳をしました。
シピサは、
大丈夫。 少しの間だけだったけれど
嬉しかったと返事をしました。
サーナット卿はシピサの返事に
さらに申し訳なくなり、
すぐに宮殿に向かう道を指差しました。
シピサは、サーナット卿と
ある程度の距離まで近づきました。
サーナット卿は、シピサが
もっと近くに来るのを
待っていましたが、
それ以上は、来そうにないので、
サーナット卿は、
不自然に距離を空けたまま、
歩き始めました。
その時になって、ようやくシピサは
サーナット卿の後を追いました。
その状態で、どのくらい歩いたのか、
サーナット卿は、
客が滞在している区域と、
温室との距離が、
思ったより近くないことに
気づきました。
普段は、そんなに離れているとは
思いませんでしたが、
歩いても歩いても
終わりが見えませんでした。
歩く距離が長くなるにつれ、
沈黙が負担になりました。
しかし、シピサが先に
話しかける気配はなさそうなので、
サーナット卿は、
議長は元気かと、
共通の話題を振ってみました。
シピサは、議長が
ずっとカレンダーばかり見ていると
答えました。
サーナット卿は、
何か理由があるのかと尋ねると、
シピサは、
良い知らせを待っていると答えました。
サーナット卿は、
「良い知らせ?」と聞き返しましたが、
シピサは、
また口を閉じてしまいました。
サーナット卿は、
もしかして、シピサは、
静かに道を歩きたいのか。
気まずい思いで話しかけるのは
シピサにとって、負担なのだろうか。
それなら、彼が好きなように、
静かに道だけ案内する方が
良いのだろうかと考えていると、
初めて、シピサが、
皇帝はどんな人かと、
先に質問して来ました。
淡々と答えていた先程とは違い、
少し気落ちした声でした。
サーナット卿は、
皇帝が前世の母親だから、
聞いてみたいのかと思いました。
サーナット卿は、
情熱的な人だと答えました。
シピサは、
あまり情熱的には見えないと
言いましたが、サーナット卿は、
目標が決まったら
諦めずに最後まで推し進め、
いつも何かをしようと努力している。
そして、引き受けた仕事は
徹底的にやり遂げようとする人だと
説明しました。
シピサは、
そうなんですね。
と返事をしました。
サーナット卿は、
シピサのラティルへの関心が
高いことに気づき、
また気になることがあれば
何でも聞いて欲しい。
自分は子供の頃から皇帝を見て来たので
他の側室たちより、
ずっと知っていることが多いと
優しい声で話しました。
シピサが、
そうなのですか?
と尋ねると、サーナット卿は、
他の側室は、皇帝のことを
よく知らない人が多いと答えました。
すると、シピサは躊躇いながら、
皇帝の側室は全部で何人いるのかと
尋ねました。
サーナット卿は、
八人だと答えました。
シピサは、
なぜそんなに側室が多いのかと
尋ねました。
その質問にサーナット卿は、
何でも聞いてみろと自信満々だった
10秒前の自分を責めました。
サーナット卿は、この質問の返答に
困ってしまいました。
最初、サーナット卿は、
ラティルが
ヒュアツィンテに復讐するために、
側室を置いたと思いました。
しかし、彼女が側室を好きな姿を見て、
ラティルは、本当に少し好色なところが
あるのではないかと
疑っているところでした。
しかし、どちらを話しても
シピサは嫌がると思いました。
しかし、シピサは、
どうしても答えを聞きたいかのように、
彼との距離を縮めて来ました。
サーナット卿は
困ってしまいましたが、
ようやく彼は、
皇帝になると、望まなくても
側室を多く受け入れる必要があると
答えをでっち上げました。
しかし、シピサは、
来る途中、タリウムで
一番流行っている雑誌を買って
側室の項目を見た。
父親の名前もあった。
幸い、父親の肖像画はなく、
名前だけが載っていたと話しました。
サーナット卿は、
なぜ、それを見たのかと尋ねました。
彼自身も定期購読をしている
雑誌の話を、シピサがするので
彼は、不安になりましたが、
シピサは、
皆、同じように美しい人たちだった。
彼らも皇帝が、
やむを得ず受け入れた人たちなのか。
父親はどうなのかと尋ねました。
サーナット卿が
答えられないでいると、シピサは、
皇帝が渋々受け入れた側室もいれば、
望んで受け入れた側室もいるのか。
父親はどちらの方かと尋ねました。
サーナット卿は一瞬にして
目が落ち窪みました。
彼は、自分がギルゴールを
なだめに行った方が
良かったと思いました。
相変らず胡散臭い議長。
彼がカレンダーを見ているのは
もしかして、
ラティルが妊娠するのを
待っているのでしょうか?
議長の目的は
呪いを終わらせることだけれど、
議長の意味不明の行動から、
呪いを終わらせようとしていることが
未だに読み取れません。
まさかシピサまで
雑誌を見ていたなんて!
きっとシピサは母親の転生である
ラティルが、
たくさんの夫を持っていることに
興味津々なのでしょう。
シピサは、ギルゴールのことを
嫌がっているけれど、
本当は、心の奥底で、
彼の愛を求めているような
気がします。