98話 ウォルター・ハルディへのビョルンの対処法は?
レチェンの王子妃の父親であり
王子の義父でもある
ウォルター・ハルディは
義理の息子である
ビョルン・ドナイスタの
所有する銀行で、
丁寧だけれど断固とした態度で
融資を断られると、
信じられないといった目で
行員を見つめました。
ウォルターは
自分が誰だか忘れてしまったのかと
尋ねましたが、行員は、
よく知っていると答えました。
ウォルターは
何か手違いがあるようだと
言い返しましたが、行員は、
ビョルン王子が、
直接主宰した理事会での決定だ。
確実な担保がない上に、
提出書類も不十分。
何より収益性のない事業であると
満場一致で結論が下されたので
他にできることがないと
告げました。
ウォルターは
自分の娘と一緒に暮らしているのに
何が担保だと、
不平を漏らしました。
先週までは、王子の義父に
努めてよく見せようとした者たちが
一日で態度を変えたので、
ヴァルターの顔は
侮辱感で赤くなりました。
順調に進んでいたことに
水を差したのが、
まさに、あのクソ王子である事実が
さらに彼を呆れさせました。
この程度の金なら、
何回でもタダで与えられる者が
こんな幼稚なことをするなんて。
どれだけ、
父親を馬鹿にしているのかと、
怒りが湧き起こって来ましたが、
すでに、王子は2番目の妻に
興味を失ってしまったのかもしれない。
大公妃の評判を考えてみれば、
その方がもっともらしいし、
まだ子供の便りも聞かないので
あの放蕩者の心が離れてしまっても
無理はないと、考え直しました。
機械的に謝罪の言葉を繰り返す
行員の顔を
一発殴りたい衝動を抑えながら、
ウォルターは
銀行の貴賓室を去りました。
馬車に乗ると、
自然に悪口が溢れ出ました。
詐欺に遭ったために作った借金は
エルナと結婚した王子が
解決してくれて、
王子妃の実家の家門らしい品位を
維持できるだけの支援を
してくれたりもしたけれど、
それは最小限の配慮に過ぎず、
依然としてハルディ家の全盛期には
はるかに及びませんでした。
どう見ても王子は
そこまでしてくれそうにないので
ウォルター・ハルディは
自分の力で再起するつもりでした。
ビョルン・ドナイスタの名が持つ名声と
若干のお金が必要だけれど、
タダで出せと言ったのではなく、
正式に借りると言いました。
それなのに、
こんなに恥をかかせられたことに
ウォルターは苛立ち、
唇をかみしめました。
もしかしたら、
二番目の妻の有効期間も
あまり残っていないかも知れないという
不安を感じた頃に、
馬車が屋敷の前に辿り着きました。
ウォルター・ハルディは
早足で妻の寝室に向かい、
ノックもしないで、
いきなり扉を開けると、
あの薬のことを、
まだエルナに伝えていないのかと
尋ねました。
ブレンダはため息をつくと、
少しも聞こうとしなかったのに
どうやって伝えるのか。
あの子は本当にもどかしいと
答えました。
ウォルターは、
愚かなところも母親にそっくりだ。
弱くて、子供一人も
まともに産めないところまで
間違いなくバーデン家の血筋だと、
憎悪と言ってもいい程の感情が
込められた言葉に、
ブレンダはびくっとしました。
いくらなんでも、
父が娘に言うような言葉では
ありませんでした。
しかし、結婚して十数年後、
奇跡的に一人の娘を授かった
バーデン男爵夫人と
最初の子供を出産してから、
次々と流産を繰り返して捨てられた
アネット・バーデンを見ると、
あの家の女性たちには
子供を産む才能がないのは確かだと
思いました。
ウォルターは、
エルナがずっとあの調子なら
王子が浮気するのも遠くはない。
彼がグレディス王女にしたことを
考えれば、
二人の間に冷たい風が吹く前に
大公妃の席から追い出されても
おかしくない。
だから、その前に
終わらせなければならないのに、
どうしたらいいのか。
すでに投資家に配当金まで約束し、
足りないお金は
王子が補填してくれると
大声で言ってしまったと
焦って歩き回るウォルターを
見守っていたブレンダは
何か決心した顔で
クローゼットの奥に入れておいた
箱を取り出しました。
ウォルターは、
その中に入っている宝石を見て
目を丸くしました。
エルナは、
社交界では蔑視されていても
そこに足を踏み入れることのできない
成金たちからは、かなり人気が高く、
何とかして大公妃と
コネを作りたい成金たちが
差し出した高価な贈り物でした。
ウォルターは、
これを売る程度で解決できる
金額ではないと言うと、
ブレンダは、
もっと集めればいいと答えました。
彼女は、
気が急く貿易商が一人いるけれど
会ってみるか。
非常に卑賎な出自だけれど、
その懐具合は、
首都のどの貴族の家にも
引けを取らないと言いました。
最近、ビョルンは、
ウォルター・ハルディは誠実だという
彼の数少ない長所の一つを知りました。
ただ、その誠実さが
無駄なことにだけ発揮されるのが
問題でした。
これまで、ウォルターが立てた
情けない事業計画は、
ビョルンの指示を受けた執事が
せっせと動いてくれたおかげで
ほとんどが初期段階で
失敗に終わりました。
しかし、問題は
ウォルターが、その何倍も誠実で
執念深い事でした。
ある面では本当にすごいと、
グレディスに感じたのと似ている
畏敬の念を抱くほどでした。
ウォルターが
具体化させることに成功し、
銀行まで引きずりこんだ
野心的な計画は、
経営不振の商業組合を買収して
株式会社に転換させることでした。
最初から株式会社として登記するより
はるかに簡単な方法なので、
かなり頭を使ったわけだけれど
虚偽の財務諸表まで見た時は、
心から感嘆しました。
詐欺の被害者から
詐欺師に生まれ変わるなんて
驚異的な成長でした。
ビョルンは、
グレッグにいくつかの指示を下した後
妻の寝室に向かいました。
エルナは今日も先に眠っていました。
不思議なほど勤勉な女が、
最近、寝る時間が増えました。
ビョルンは
妻のそばに横になりました。
あの父親から、
この娘が生まれたことに
改めて感心したビョルンは、
思わず枕の上に乱れている
茶色い髪を撫でました。
父の痕跡を消すために
一日中炎天下に立っていたという
幼い少女の話が、
ふと思い浮かびました。
切実に日差しに似た髪の毛を
欲しがっていたという、
あまりにも早く人生の理不尽さを
知ってしまった可哀想で愛らしい、
見たことのないエルナの姿が
はっきりと描かれました。
ウォルター・ハルディが
どんな髪の色をしていたのか
記憶が鮮明ではないので
エルナの髪の色が、
ウォルターに似ているのかどうか
分かりませんでした、
似ていたとしても、別に関係ないし、
エルナの髪がどんな色であれ
エルナはエルナでした。
しかしこの女に一番似合うのは、
この美しい茶色の髪でした。
ビョルンは
甘い香りがする髪にそっとキスをし、
そのキスは、額、頬、
日焼けして皮がむけたという
鼻の頭に移動し、唇にキスした瞬間、
エルナが
ゆっくりと目を覚ましました。
眠りから覚めたばかりの
水色の瞳が官能的でした。
そっと開いた唇に
再び口を合わせながら、ビョルンは
自然に妻の上に上がりました。
エルナは素直に応じていましたが
ビョルンが
パジャマを脱がせようとすると、
今日は疲れているからと
暗に断りましたが、
ビョルンは
穏やかな笑みを浮かべ、
エルナは休んでいればいいと言って
パジャマの前を握っている
エルナの手を片付けました。
彼女は悩んでいる様子でしたが、
結局、彼を受け入れました。
しかし、ビョルンが
首筋の、か弱い肌を吸い込むと、
エルナは、慌ててビョルンを制止し、
ピクニックで着るドレスのことを
口にし、そこがダメな理由を
真剣に説明しました。
エルナの意見を
喜んで尊重することにしたビョルンは
そっと首筋を舐めた後、
胸に顔を埋めると、
エルナは、微かな痛みが混じった
うめき声を上げました。
ビョルンは、痛いのかと尋ねると
エルナは真っ赤な顔で頷きました。
どうもエルナの体調が
少し悪いようだけれど、
もう止められる線は
過ぎてしまった後でした。
膨らんだ欲望と自責の間で
しばらく止まっていたビョルンを
目覚めさせたのは、
優しい温もりでした。
目を上げると、
彼の首筋を抱きしめたまま
笑っているエルナが見えました。
ビョルンは「ゆっくり」と
呪文を唱えるように繰り返し、
再び動き出しました。
貪欲になっても構わないことは
知っているけれど
そうしたくありませんでした。
微熱があるせいか、エルナの中は
いつもより柔らかくて居心地が良く、
思う存分動けなくて
おかしくなりそうなのに、
ビョルンは、この瞬間が良いと
思いました。
自分を見つめる瞳、幼い笑顔。
触れ合った胸から伝わる
心臓の鼓動のようなものが、
快楽と同じくらい良いと思いました。
これ以上、理性的判断が
介入しにくい瞬間が訪れると、
エルナは足をもう少し広げて
彼が思う存分動けるように
してくれました。
ビョルンは腰を上げて座ると
何一つ気に入らないところがない
女性を見下ろしました。
抑えてきた欲望の大きさほど
強く押し付け始めると、
エルナの胸が大きく揺れました。
唇を固く閉じても
隠すことができないうめき声さえ
きれいな女でした。
神がウォルター・ハルディのような者を
創造した理由は、純粋にこの女を
自分の懐に抱かせるためでは
なかったかという、
情けなくて感傷的な考えが
狂おしい欲望と入り交じりました。
その雑念を払うように、
ビョルンは
この瞬間にだけ没頭しました。
エルナの目頭は、
目に見えて赤くなっていました。
彼女の苦しそうな嬌声から
潤いが出て来て、ビョルンは、
それさえも良いと思いました。
ビョルンは午前0時過ぎに
パッと目を覚ましました。
彼を起こした夢は、
目を覚ましたその瞬間、
煙のように消えてしまい、
とても温かかったという
かすかな残像だけしか
ありませんでした。
しばらく、
闇の向こうの天井を見ていた
ビョルンは、虚しく笑って
頭を横に向けると、
エルナがいませんでした。
ビョルンは眉をひそめ、
起き上がって座りました。
寝室を見回しても、
どこにも、エルナはいませんでした。
彼女がどこかにいるということを
確かに知っているし、
これは非理性的な判断だということを
知っているのに、
エルナがいないことで襲ってくる不安を
ビョルンは振り払うことが
できませんでした。
ビョルンはベッドから降りると
寝室と応接日を結ぶ扉の隙間から、
かすかに光が漏れていることに
気づきました。
自嘲混じりのため息をついた
ビョルンは、ゆっくりと
そちらへ向かい始めました。
いつも、たくさんのコメントを
ありがとうございます。
air0113様やジュン様のように
私もエルナが
妊娠しているのではないかと
思います。
ただバーデン男爵家の女は
子供を産む才能がないという
ブレンダの言葉が、エルナの前途に
暗雲が立ち込めていることを
予感させているような気がして
不安になりました。
エルナがいないだけで
不安になるビョルン。
それが愛だということに
いつ気づくのでしょうか。
nonmirolove様
私の感覚で
「いやはや」という言葉を
選びましたが、マンガでは
違う言葉に訳されるかもしれません。
その際は、申し訳ありません。