753話 ラティルはグリフィンを捕まえて、ディジェットへ連れて行ってと頼みました。
◇変態のせい◇
水に濡れたグリフィンは
もがきながら目を丸くしました。
けれども、ラティルが
早くディジェットへ連れて行ってと
催促すると、
グリフィンはブツブツ言いながらも、
あっという間に大きくなりました。
すぐにラティルは
グリフィンの上に乗り込みました。
そして「行こう」と声をかけると
すぐにグリフィンは
空に上って行きました。
グリフィンはラティルに
ディジェットへ行く理由を
尋ねました。
ラティルは、
クラインを探すつもりだと
落ち着いて答えた後、
いつグリフィンは
ここへ来たのかと尋ねました。
ラティルは、
ここへ来る途中でも、
ここへ来てからも、
グリフィンを見かけなかったのに、
外出して帰ってみると、
グリフィンが来ていたからでした。
ちょうど必要としている時に
現れてくれたからなのか、
普段は
あまり信用できないグリフィンが
とても可愛らしく思えたので、
ラティルはグリフィンの首筋を
優しく撫でながら、
ランスター伯爵より、グリフィンの方が
百倍は可愛いと思いました。
グリフィンはくすぐったいのか
首の筋肉に力を入れ、
ライオンの尻尾を振りながら
実は、今来たと答えました。
ラティルは、
そうだと思ったと返事をすると、
グリフィンは、
変態が急に現れて、
いきなり自分を捕まえると
噴水台に放り投げて
自分一人で消えてしまった。
自分が、どれだけ呆れたことかと
文句を言いました。
ラティルは
嬉しそうに笑いましたが、
タリウム首都の宮殿に突然現れ、
グリフィンを掴んで、
フローラの別宮に投げて行けるのは
ゲスターだけなので、
まさかと思いながら、グリフィンに
ゲスターの話をしているのかと
尋ねました。
グリフィンは、一層激しく
ライオンの尻尾を振り回しながら、
そうだ、 とても悪い奴だと
答えました。
ラティルは慌てて
グリフィンの羽をいじくり回しました。
ディジェットへ連れて行くのは
嫌だと言って、
一人で行ってしまったのに
グリフィンを連れて来てくれたことに
戸惑いました。
グリフィンは、
後で変態をやっつけて欲しい。
変態のお尻を叩いて欲しいと
訴えました。
ラティルは、
変態、いやゲスターも
事情があるはずだと思わず呟くと
グリフィンの背中に
上半身を伏せました。
◇輝く文字◇
アクシアンは、
ここで地面に吸収されて死ぬか、
それとも、ここで飢え死にするか、
選択を迫られました。
アクシアンは、
さらに2つのボタンを外して、
前方に投げてみました。
今回もボタンは
地面にしばらく止まってから
スルスルと下に入りました。
アクシアンは歯を食いしばって
前に足を踏み出しました。
ボタンは、
すぐに地面に吸収されなかったと
考えながら、
アクシアンは猛スピードで歩きました。
そのせいなのか、それとも
アクシアンが大き過ぎるからなのか、
それとも、彼が生命体だからなのか、
幸いアクシアンは
地面に吸収されませんでした。
しかし、止まった瞬間、
地面に引きずり込まれることを
心配し、アクシアンは
ほっとする暇もなく歩き続けました。
その時、アクシアンの目に
他の柱と違う一本の柱が見えました。
その柱に刻まれた文字だけが
白い光を放っていたからでした。
アクシアンは何も考えずに
そちらへ行きました。
そして柱の前で、アクシアンは
歯を食いしばって立ち止まりました。
彼は素早く呼吸しながら、
もし自分の体が沈む気配が見えたら、
すぐに走れるよう準備をしました。
恐怖のせいなのか、
体がどんどん下がっていく感じがして、
アクシアンは何度も
自分の足元を確認しました。
しかし、そう感じただけで、
実際に体は下がっていませんでした。
どうやら人は沈まないようでした。
もしかしたら、他に条件が
あるのかもしれないけれど、
自分はそれに
当てはまらないようでした。
それを確認すると、
アクシアンは安心して
柱と文字を改めて確認しました。
どこの国の文字なのか。 古代語なのか。
彼は一文字も読むことが
できませんでした。
横を見ると、他の柱にも
似たような文字が書かれていました。
アクシアンは、
いつも持ち歩いている手帳を取り出し
光り輝く柱の中の文字を、
すべて書き写しました。
彼は、これが何なのか
分かりませんでしたが、
クライン皇子は明らかに
何かを探していたので、
この文字が役に立つかもしれないと
思いました。
アクシアンは、
全ての文字を書き写せれば一番いいと
思いましたが、周囲を
一通り見回した後、
そうするのは絶対に不可能だと思い、
肩をすくめると、
手帳をポケットに入れました。
もう、ここから脱出する方法を
探さなければなりませんでした。
◇バニルの忠誠心◇
クラインは相変らず隠れながら
アイニと黒いマントを
注視していました。
彼らは、バニルを連れて
あちこち歩き回り
クラインも気配を押し殺しながら
彼らに付いて行きました。
幸い、この呪われた都市のあちこちに
崩れた建物の残骸が溢れていたので
身を隠す場所は十分ありました。
そのようにして、
どれだけ歩き回ったのか、
日が暮れ始める頃、アイニ一行は
比較的屋根が丈夫な家を発見し、
その中に入りました。
扉と窓が破れていたので
クラインは建物の内側を
見ることができました。
クラインは、黒いマントの一人が
木の椅子にバニルを座らせ、
固く縛りつける姿を見守りました。
哀れなバニルは、恐怖で顔が青ざめ、
目だけを
キョロキョロ動かしていました。
死角に入ったせいで、
アイニと他のマント二人が
何をしているのか見えませんでした。
冷たい空気が混じった激しい砂風が
クラインの髪の毛を乱すと、
彼は上着を脱いで頭を覆い
目を保護しました。
クラインは喉が渇いたので、
水はないかと周りを見回しましたが、
建物の残骸と
砂しかありませんでした。
彼は首を撫でながら
再び前を見てびっくりしました。
椅子にまっすぐ座っていたバニルが
椅子ごと横に倒れていました。
それから、黒いマントは
バニルのお腹を蹴りました。
クラインは危険を冒して
もう少し建物に近づきました。
身体を屈めて窓の下にしゃがむと
奥から声が聞こえて来ました。
黒いマントのものと推定される
低く険しい声が、
クライン皇子の侍従であるバニルが
ここに一人で来るはずがない。
皇子はどこにいるのか
はっきり言えと、
バニルを怒鳴りつけていました。
しかし、バニルは
休暇で、自分一人で来たと
大声で叫びました。
けれども、
誰が休暇でこんな所へ来るのか。
とんでもない話だと
再び怒鳴り声が聞こえると
バニルは悲鳴を上げました。
クラインは怒りで
目の前が真っ赤になるようでした。
バニルは、
対抗者と名乗りながら
黒魔術師と手を組むなんて。
アイニ元皇后は、それでも人間かと、
泣きながらアイニに向かって
叫びました。
バカだと言うべきなのか、
可哀そうだと言うべきなのか。
バニルの主人に言うべきことを
自分に言うなんてと、
アイニの澄んだ声も聞こえてきました。
彼女は、
ラティルがロードで、
クラインは、その仲間なのに、
自分が黒魔術師と手を組んだと
クラインの侍従であるバニルに
非難されたことに
呆れているようでした。
今度は別の声が、
クライン皇子の居場所は
言うまでもないので、
なぜ、皇子がここに来たのか
理由を話せと質問すると
何かをバシッと叩く音が
また聞こえてきました。
バニルの泣き声がしました。
しかし彼は、自分は知らない。
一人で来たと主張しました。
馬鹿な奴だと、
かなり年配者のような声がしました。
その声の主は、
自分たちの質問に
バニルが答えなかったとしても、
誰もバニルの忠誠心を知ることはない。
バニルはここで死ぬけれど、
苦痛に喘いで死ぬか、すぐ死ぬか、
それしか違いはないと言うと、
再び、バニルのすすり泣く声が
しました。
バニルは、
アイニも含めて彼ら全員に
天罰が下るだろうと叫ぶと、
またもや、ドンという音がしました。
それから、
役に立たないので始末して捨てろと
淡々とした声が指示しました。
クラインは、
バニルを無事に救出する機会を狙い、
顔が爆発する直前のように
真っ赤になるまで
怒りを抑えていましたが、
その指示を聞いた瞬間、
彼はいくら我慢しても
彼らがバニルの命を奪う前に
油断することはないという事実に
気づきました。
それならば、
もう我慢する必要はないので、
クラインは窓枠を飛び越えて
剣を抜きました。
◇アドマルへ◇
グリフィンはゆっくりと高度を下げ、
巨大で威厳のある砂地を飛びながら
ここがデイジェットだと
教えてくれました。
上から見ると、もっとすごいと、
ラティルはグリフィンの肩越しに
巨大な都市を見て感嘆しました。
こんなに遠くなければ、
後で正式に旅行に来てもいい。
後に自分の後継者に皇位を譲れば
クラインを連れて
遊びに来ることができるだろうか。
そんな日が、
いつかは来るだろうと思いました。
グリフィンは、
もう少し高度を下げると、
ラティルを呼んで、
どこで降ろせばいいか尋ねました。
ラティルは、
まっすぐ行くと首都に出るし、
向こうに点在している町や都市は
国境に近いという
グリフィンの説明を聞き、
自分が訪問した国境都市の位置を
推察してみました。
それから、ディジェットと
大きく離れている都市を指しながら
あそこは、どこなのかと尋ねました。
都市に近いけれど、
荒廃している上に
捨てられた感じがする場所でした。
グリフィンは
その方向に飛んで行きましたが
すぐに向きを変え、その近くに
行きたくないかのように
グルグル回りながら
あそこはディジェットではないと
返事をしました。
ラティルは、
隣の国なのかと尋ねると、
グリフィンは、
あそこはアドマルだと答えました。
グリフィンの説明に
ラティルは一気に嘆息しました。
アドマルは呪われた都市で、
ラティルが持っている
顔を変える仮面の位置を知らせる
古地図が発見された所も
アドマルでした。
ラティルは、上から見ると、
管理の行き届いていない
ただの都市のようだと呟きました。
そして、大怪物のグリフィンでさえ
あの都市の上空を飛ばないのが
不思議だったので、
どうしてグリフィンは
向こうに飛ばないのかと尋ねました。
グリフィンは、あの下から
とても気持ち悪いオーラを感じると
答えました。
ラティルは、全くそのようなオーラを
感じなかったので、
きょとんとして、目をパチパチさせると
ため息をつきました。
しかし、突然、
あっ!
と声を上げました。
グリフィンは
悪いオーラを感じたのかと尋ねると
ラティルは、それを否定した後、
自分をあの街の近くで
降ろして欲しいと頼みました。
グリフィンは驚いて
その理由を聞くと、ラティルは、
クラインはあそこへ
行ったみたいだと答えました。
クラインが
食事をした都市は
アドマルと最も近い所にある
領地でした。
その上、クラインは
首都に向かったのではなく、
外に出たと聞きました。
ラティルはクラインが
アドマルに行ったと確信しました。
グリフィンはゆっくりと速度を落とし、
人の頭ほどの大きさの石で
境界線が引かれた場所の近くに
座りました。
ラティルはさっとその上から降りて、
境界線の前に近づきました。
小さくなったグリフィンは
ラティルの肩の上に座りながら
あの内側に入るのかと尋ねました。
ラティルは、
あの内側にクラインがいるなら
入ってみなければならない。
クラインは弱いからと答えると、
ラチルは大股で歩き、
一気に境界線を越えました。
しかし、グリフィンは
ラティルが境界線の内側に入ると、
すっと後ろに下がりました。
ラティルが後ろを振り向くと、
グリフィンは地面にうつ伏せになり、
翼で頭を抱えて
気絶したふりをしていました。
ラティルは
一緒に行かないのかと尋ねましたが
グリフィンは答えず、
ずっとその姿勢でいました。
ラティルは、
グリフィンの揺れる獅子の尻尾を見て、
一人でさらに内側に入りました。
グリフィンは、
砂を踏む足音が遠くなると、
そっと頭を上げました。
ロードは、
一人でも構わないかのように
内側に入って行きました、
その物怖じしない姿には
自信が溢れていました。
グリフィンがライオンの尻尾で
地面を叩く度に
砂がはね上がりました。
グリフィンは
悲しそうに目を見開いて、
遠ざかるロードの後ろ姿を見ました。
ゲスターは、
ラティルと、楽しくデートを
するはずだったのに、
彼女が、ずっとクラインのことを
心配しているので、
デートが台無しになってしまった。
だから、ラティルに
再びディジェットに連れて行けと
言われても断った。
ゲスターかランスター伯爵か
その両方かもしれないけれど、
恋敵のクラインを
助けに行きたくはなかった。
けれども、
ラティルを助けなかったことで
彼女に恨まれたり、
嫌われたりするのは嫌。
だから、自分の代わりに
グリフィンをラティルの所へ
連れて来たのではないかと
思いました。
ラティルは
黒魔術師と手を組んでも
悪いことはしないし、
人々を助けるために
奔走している。
けれども、アイニは
黒魔術師と手を組んで
悪事に手を染めている。
黒魔術師と手を組んでいる点は
共通しているけれども、
やっていることは正反対であることを
アイニは気づくべきだと思います。