937話 外伝46話 黒死神団が保護してタリウムの首都へ連れて来た東大陸の予言者とは?
◇予言者◇
その予言者の予言のために
色々なトラブルが起きたけれど、
その中の一つが、
強大国の太子が死んだことだそうだと
部隊長は説明しました。
その言葉にラティルは目を見開き
どのようにして太子が死んだのかと
尋ねました。
部隊長は、自決したそうだと
答えました。
ラティルは、
そうではなく、預言者は
一体何と言ったのかと尋ねました。
部隊長は首を横に振り、
そこまでは
自分にも分からないけれど、
東大陸では、その予言者を
東大陸に送り返すよう
強く要求していると答えました。
ラティルは、黒死神団が
困難な立場に置かれていることを
理解しました。
偽の未来のことではあるけれど
黒死神団の傭兵たちは、
自分がタリウム皇帝と領主に
追われていた時も、依頼を受ければ
保護してくれました。
黒死神団の傭兵たちは
信頼度が高いことで非常に有名でした。
ところが、
彼らに保護を要請した予言者を
東大陸で要求したという理由で
送り返すならば、
黒死神団全体の信頼度が
低くならざるを得ませんでした。
困ったことになったと
ラティルは舌打ちしました。
部隊長は
ラティルの顔色を窺いながら
その予言者は、
黒死神団が不安なのか、
タリウムやカリセンの皇室の方に
助けを求めたがっていると
付け加えました。
ラティルは、
だからカルレインを呼んだのかと
尋ねました。
部隊長は「はい」と返事をし、
いずれにしても、自分たちが
任意に決定を下すことは
困難だからと答えました。
静かに話を聞いていたカルレインは
不愉快そうに眉を顰めました。
傭兵団を運営していると、
たまに、にっちもさっちもいかない
困難なことに遭遇することがあり
このような困ったことは
今回が初めてではありませんでした。
しかし、以前と今の状況が違うことが
問題でした。
かつての黒死神団は、
傭兵団のイメージを
最も優先していましたが、
今やラティルはタリウムの皇帝であり
カルレインは皇帝の夫なので、
タリウムの体面も
考慮しなければなりませんでした。
部隊長も、このような点を
よく知っていたので、
どうすればいいかと
心配そうに尋ねました。
カルレインは部隊長には返事をせず
ラティルの方を向いて、
どう思うかと尋ねました。
ラティルはこめかみを擦りました。
彼女も、ただ軽い気持ちで
遊びに来たので、すぐに良い考えが
浮かびませんでした。
ラティルは、
困ったことだ。
東大陸は遠く離れているので
タリウムと戦うことはない。
しかし、東大陸から
個人的に利益を得ている商人が多い。
東大陸と仲たがいして、
その商人たちの商売が
すべてダメになったら、
不満が大きくなるだろうし、
黒死神団の信頼度の問題もあると
答えました。
しかし、カルレインは、
東大陸がタリウムに、
個別に人を送って来て、
要求するならともかく、
他の全ての国に知れ渡るよう
大騒ぎしながら要求して来て、
タリウムがその要求に従えば、
タリウムがバカだと思われると
懸念しました。
ラティルは、
「そうですね。 それも問題だ。」
と返事をすると、
ラティルは部隊長をちらっと見ました。
部隊長は、ラティルが
何を気にしているのかに気づくと、
彼は、
黒死神団支部に、
密かに伝えられた要求ではなく、
他の国の皇室から、
そこの黒死神団支部を通じて
伝えられた話だ。
おそらく、他の国々も皆、
東大陸の予言者の話を
知ることになるだろうと
すぐに答えました。
東大陸では、
どの国でも予言者を
保護したがらないだろうから、
あえて秘密裡に、
一国だけに頼む理由がないだろう。
そう考えたラティルは
額を押さえました。
部隊長は息を殺して
ラティルの返事を待ちました。
傭兵団の隊長は
カルレインでしたが、
タリウムとも絡んだ事である以上、
たとえ、そのせいで
黒死神団の信頼度が
少し低くなったとしても。
カルレインは最大限、
ラティルの意思を尊重するだろうし
傭兵たちは、
皆これを知っていました。
カルレインが
ラティルの意思を尊重するかのように
何も言わないと、
彼女は考え込んだ末に、
そんなにすごいという予言者なら、
まず自分が会ってみたいと
言いました。
カルレインは心配そうな声で
「大丈夫ですか?」と尋ねました。
いくつかの国を
騒がせた有名な予言者なら
すごい人なのだろう。
しかし、その予言によって
強大国の太子が自決するほどなら、
話す時に憚ることがなく、
ひょっとしたら、剣のような舌を
振るう人かも知れないからでした。
彼女は、
大したことがないといったように
笑うと、
不当に追われているかどうかくらいは
確認してみなければならないと言い
部隊長に、
彼はどこにいるのかと尋ねました。
◇予言◇
部隊長が
予言者を呼びに行っている間。
ラティルは黒死神団本部の
最上階にある部屋で
カルレインと並んで座り
コーヒーを飲んでいました。
カルレインは、
ラティルが心配そうな表情よりも、
好奇心旺盛な表情を
時々見せることに気づきました。
カルレインはラティルに、
その予言者が気になるようだと
尋ねました。
ラティルは、
心配ばかりしていても仕方がないので
良い方向についても
考えなければならないと答えました。
カルレインは、
預言者に、ご主人様の将来のことを
聞いてみたいかと尋ねました。
ラティルは、
将来のことは気にならない。
自分は運命に引きずられて生きて、
ようやく、そこから抜け出した。
自分の前途は、ただひたすら
自分が一生懸命に
生きる通りになるだろう。
すでに、知っていることについて
何も聞かないと答えました。
カルレインは、
それでは何を聞きたいのかと
尋ねました。
ラティルは、
何が言えるのか、それを聞くと
答えました。
それから階段を上ってくる音がすると
カルレインとラティルは、
ほぼ同時に会話を中断しました。
ラティルとカルレインは見つめ合い
何の意味もなく微笑みました。
その微笑が消える前に
扉が開きました。
中に入ってきた男は
貴族のような身なりでした。
一見、東大陸のいくつかの国が
一斉に追いかけている人のようには
見えませんでした。
詐欺師のようにも見えませんでしたが
霊験あらたかにも見えませんでした。
男は歩いて入ってくる途中、
カルレインの顔を見て
一度、驚いて魂が抜け、
隣に座ったラティルを見て
再び驚いて魂が抜けました。
それでも、予言者は気を取り直し
自分を呼んだと聞いていると
言いました。
彼は、
ラティルの向かいの席に座りました。
預言者はここに入る前、
これから会う2人は、
皇帝に意見を述べることができるくらい
高い地位にいる貴族だと、
黒死神団傭兵団の部隊長という人から
あらかじめ聞いていました。
ラティルは予言者の表情が
徐々に変わるのを見てから、
彼が東大陸で、
とても有名な予言者だと聞いたと
話しました。
予言者は「はい」と慎重に答えました。
ラティルはじっくり考えた後、
カルレインに、
何か聞きたいことあるかと
尋ねました。
彼が首を横に振ると、
ラティルは預言者に、
何が一番得意なのかと尋ねました。
預言者は、
気になることがあるなら、
聞いてくれれば答えると
今回も慎重に返事をしました。
失言して、他の大陸まで
逃げてきた状況なので、
今回は、そんなことは避けたいと
思いました。
ラティルは、
予言者が本当に有能なのか、
まず確認してみたいと言いました。
予言者は、
ラティルのその質問に安心し
「どうぞ」と答えました。
相手は慎重に行動しながらも、
こちらを無視する態度ではないので
話がよく通じそうだと
預言者は思いました。
ところがラティルが
何が一番得意なのかと、
先程と同じ質問を繰り返すと
予言者は初めてたじろぎました。
この位の高い貴族だという女は
強情な人のようでした。
預言者は、
手相を見るのが得意だと
仕方なく答えました。
得意なものについて話すと、
けちをつけられやすいけれど、
相手があんな風に問い詰めるので、
仕方がありませんでした。
ラティルは、
「手相?手を見て当てるのか?」
と尋ねると、預言者は
「はい」と答えました。
ラティルは、
向かいに座っている予言者に
自分の手を差し出し、
「そうだね、当ててみて」と言って
笑いました。
予言者は、
カルレインとラティルを
交互に見た後、
ラティルの手を握りました。
カルレインの眉が
ピクピクしましたが、
予言者は知らないふりをして
自分の握った手を
じっと見下ろしました。
預言者は、どれだけ長い間、
ラティルの手を見ていたのか。
彼は目を細めて、
ラティルの人生には
裏切りがいっぱいだと嘆きました。
カルレインは、他の男が
ラティルの手を握ったのが気に入らず
無表情でいましたが、
その言葉を聞いて、
唇に力を入れました。
本当に面白かったのではなく
相手が、
突然正しいことを言ったので
驚きのあまり、空笑いが
出そうだったからでした。
ラティルは眉を顰めて、
自分の手にそれが出ているのかと
尋ねました。
預言者は「はい」と答えました。
ラティルは、
自分が裏切る側なのか、
それとも、裏切られる側なのかと
尋ねました。
預言者は、両方だと答えました。
預言者は、依然として
ラティルの手を見つめていました。
そして、ラティルが何か言う前に
男運がいいけれど、
相手に、ひどく気苦労させられる。
希代の浮気者だと言いました。
カルレインは唇を噛み締め、
顔を背けました。
今度は、本当に笑いが
出そうになったからでした。
ラティルの夫の1人として、
彼は気絶しそうでした。
一方、ラティルは
予言者が自分のことを
かなりよく当てているのに、
気分が悪くなりました。
どうして、
こんなによく分かるのか。
もちろん、露骨に怒るほどでは
ありませんでしたが。
予言者は、ラティルが
落ち着いた表情を維持しながらも
こめかみの血管が
浮き上がって来たのを見て、
自分がよく当てたということに
気づきました。
それでも知らないふりをし、
預言者は
ラティルの手を離しながら
きちんと当てられたかどうか
尋ねました。
ラティルは手を引っ込めることなく、
今のところ、よく当たっている。
ほとんど当たっていると
答えました。
相手が体面を気にせず、
素直に認めたので、
予言者は安堵しました。
皇帝とも縁があるという
この位が高い貴族の女性は、
余計な揚げ足を取って
彼を害するような人では
なさそうでした。
しかし、予言者が安堵するや否や、
ラティルは、
それでは今度は試験ではなく
質問を一つする。
自分は子供との縁はあるかと
再び尋ねました。
予言者は目を細めて
ラティルの手相を再び調べました。
ところが、一体何を見たのか、
彼の瞳が揺れました。
ラティルは訳もなく緊張しました。
どうしたのか。
何か悪いことが見えるのだろうか。
ラティルが、そう考えた瞬間、
上手く過ごせればいいけれど
上手く過ごせなければ良くないと
予言者の心の声が聞こえて来ました。
ラティルが緊張した割には
大したことのない言葉でした。
ラティルは、
生まれつき、
本当に極端に悪い性格で生まれた
子供でなければ、
ほとんどの子供は、
皆、そうなのではないか?
でも予言者は、
それが何だから、急に緊張して
本音までさらけ出したのかと
不思議に思いました。
とにかく、これくらいでいいと思い
ラティルが予言者の返事を
上の空で待っていた時、彼は、
自分が東大陸から送られて来た
暗殺者たちに命を奪われたり
捕えられたりすることなく、
ここで定着できるように
助けて欲しいと訴えました。
ラティルは、
それが、自分の子供と
何の関係があるのかと
つっけんどんに尋ねました。
静かにコーヒーを飲んでいた
カルレインは、
すでに半分飲み干し、
ハンカチで口元を拭きました。
予言者は首を横に振ると、
関係ない。 しかし、自分が
元々住んでいた所で、太子の未来を
むやみに話したせいで、事が拗れて、
このような境遇になった。
だから、今回は、話す前に
自分がどんな話をしても、
絶対に無条件で
自分を保護してくれることを
約束して欲しいと訴えました。
予言者の言葉を聞くと
カルレインの表情が曇りました。
ラティルは、
そんなに子供との縁がないのか。
良い話をする前なら、
あんなことを言う必要はない。
悪い話をしようとするから
あんなことを言うのではないかと
カルレインは心配しました。
彼はラティルを見ました。
しかし、ラティルは
渋い表情をしていましたが
予言者の言葉を、
少しも心配する気配が
ありませんでした。
そして、しばらくしてラティルは
呆れた表情で苦笑いをすると、
預言者は
自分を騙そうとしているのかと
尋ねました。
すでに自分が
子供との縁があるかどうかは
やり方次第だということを
彼の本音を聞いた後なので、
ラティルは予言者が、
ただ、ほらを吹いているように
聞こえました。
彼はわざと不安を煽って、
自分の安全を
保証してもらうつもりに違いないと
思いました。
ラティルは疑心暗鬼になり、
もしかして東大陸でも
あのようにしたせいで、
憎まれたのではないかと疑いました。
予言者は唾を飲み込みながら
ラティルの返事を待ちました。
彼女は、
その期待に満ちた表情を無視し、
席から立ち上がると、
ここで自由に暮らせ。
あなたを捕まえて
東大陸には行かせない。
しかし、皇室の立場で
あなたを守ることはない。
東大陸にもそう言っておくと
話しました。
最初は少し保護することも
考えました。
しかし、今の予言者の行動を見ると
彼は100%、真実だけを
語る人ではなさそうなので、
ラティルの気が変わったのでした。
人によって言葉を変える人なら、
関わらない方が良さそうでした。
預言者は、
東大陸の恐ろしい暗殺者を
思い浮かべると、
恐怖に怯えて立ち上がり、
「でも・・」と言いかけました。
しかし、ラティルは、
皇帝にも、そう伝えると言って
線を引きました。
そして、出て行こうとすると、
「二人は寿命が短くて・・・」
と言う予言者の別の予言が
頭の中に流れて来ました。
顔も実力も備えた側室たちに
恵まれているラティルですが、
彼らのせいで
気苦労しているのは事実、
しかし、だからといって、
一人を選んで、それ以外の
側室たちを追い出すことは
できないでしょうから、
気苦労については、
諦めるしかないと思います。