89話 宮廷人はナビエの目の前で、クリスタを王妃殿下と呼びました。
◇宮廷人の本音◇
クリスタが本当の王妃殿下であると
訴える宮廷人に
クリスタは当惑しました。
クリスタと一緒にいるナビエが
現王妃であると、
その宮廷人に言えば
彼を叱ることになるので
彼自身に、ナビエは新王妃だと
気づいてほしかったようですが
全く、その気配がなく
クリスタのことを、
本物の王妃と言い続けました。
クリスタは、ナビエから、
自分が王妃だと
言ってもらいたがって
いるようでした。
しかし、ナビエは
自然に権力交代ができず、
年齢差のない2人の王妃が
いることに対して
宮廷人の率直な態度を見たくて
出しゃばらずに黙っていました。
方や、今は王妃ではないけれども
昨年までは王妃で、
今も王妃の役割を果たしている人。
友達や家族や支持者が西王国にいて、
宮廷人の大多数を彼女が雇っている。
方や、王妃になったけれども
外国人なので、友達、家族、支持者は
皆外国にいて
西王国の宮廷人とは何の関係もない。
宮廷人たちが誰に好感を持っているか
明らかだけれど
ナビエは自分の目で
確かめたいと思いました。
その後、何人かの宮廷人と
会いましたが
同じような状況が続きました。
クリスタは、気にしないように
皆、良い人たちなので、いずれは、
ナビエに従うと言いましたが、
クリスタにとって良い人でも
自分にとっては、
どうかなと思いました。
ナビエが馬車から降りてきたのを
見た者以外
出会った宮廷人は皆
クリスタのことを王妃と呼んでいたし
ナビエのことは、外国人で
離婚した後、すぐに再婚した
ずるがしこい女だ、
東大帝国出身だから傲慢だと
悪口を言っていました。
しかし、ハインリの兄嫁と皇后では
立場が違うとはいえ、
ラスタが来た時にナビエが感じた
自分の地位が
脅かされる不安と似た感情を
クリスタも持っているのだと思い
ナビエは何も言わずに微笑みました。
2人は美しい離宮に到着しました。
東大帝国の
クリスタルハウスに似ていたので
ナビエは戸惑いましたが
以前、先代の皇后が
クリスタルハウスを模した建物が
外国に多いと話していたので
そのうちの一つかと
ナビエは思いました。
しかし、それを口にすると
傲慢だと言われそうなので
ナビエは黙っていました。
クリスタは、
部屋をすべて紹介した後
彼女が雇った宮廷人は
引退をするには、まだまだ若いので
引き続き雇ってくれるように
ナビエに頼みました。
王権が変われば、
大きな人事異動が行われるので
クリスタは、
自分の雇った人たちが解雇されるのが
忍びないと思っていたようでした。
けれども、東大帝国にいた時、
ナビエの周りは、
彼女が雇った人たちばかりだったにも
かかわらず
ナビエの行動が
ラスタに知られていたので
クリスタが雇った人たちに
囲まれていれば
ナビエの一挙手一投足が
ゴシップの種となり
王妃の座に定着することが
できないのではと
ナビエは思いました。
彼女は、
自分と接点のない人は、
そのままで
自分と接点のある人は、
解雇はしないけれども
勤務地を移動させると
クリスタに伝えました。
クリスタは
無理なお願いをしたと言って
ナビエに謝りました。
◇奪われた地位◇
クリスタが自室に戻ると
彼女が王妃時代からの侍女たちが、
ナビエについて、
クリスタに質問攻めしました。
宮廷人が自分のことを、
王妃殿下と呼んでいるのに
隣にいたナビエ様は黙っていた。
自分を牽制している。
すでにクビにする人を選んでいると
クリスタが侍女たちに伝えると
彼女たちは、
ナビエ様に負けてはいけないと
言いました。
しかし、クリスタは、
自分は王妃ではないので
権力争いはできないと
答えました。
他の貴族の娘が王妃だったら
少しは気分が良かったかも、
ナビエ様が皇帝に
離婚されるという噂を聞いて
自分と同じ立場だと思い、
憐れんでいたのに
自分の地位を奪ってしまった。
クリスタは悔しい気持ちでした。
侍女たちは
クリスタも王と再婚すれば良いと
言いましたが、
慰めになりませんでした。
◇ハインリの主張◇
ハインリは、官吏と宮廷人を集め、
自分が1人で東大帝国へ行ったことは
軽率な行動だったと認めましたが
それはナビエに呼ばれたからではなく
自分が1人で決めたことだと
強調しました。
そして、
ずっと崇拝して、慕って、
皇后としての優れた能力を
尊敬していたナビエを
苦労して連れて来たのに
と言って
彼女が来るや否や
ナビエを見物に来た人たちを
非難しました。
クリスタ元王妃の従兄の
カトロン侯爵が
突然、他の国の皇后を
王妃として扱えと言われても
無理だと言うと、ハインリは
自分は、明日、
カトロン公爵の席に他の人がいても
彼に対するのと同じように、
接することができるよと言いました。
◇宝石の束◇
クリスタが去った後、
ナビエは、
テーブルに座って考え事をしていると
外から窓を叩く音がしました。
窓を開けると、
ハインリが
宝石の束を持って立っていました。
急に宝石の束をもらい
困惑したナビエは、
花束だったら良かったのにと
言うと、ハインリは、
宝石の間に入っている
数本の赤い花を指して
花があるから、花束だと言いました。
ナビエが宝石の束を受け取ると
ハインリは、とても喜びました。
ハインリを部屋の中へ入れようと思い
ドアを開けようとしたら、
ハインリは
窓を乗り越えて入ってきました。
なぜ、窓から入ったのか、
ナビエはハインリを問い詰めましたが、
彼は、習慣でと言ったきり
極まりが悪そうだったので
ナビエは、それ以上追及するのを
やめました。
ナビエは、ハインリに
会議について尋ねましたが
ハインリは
自分がいなかったことが
一番大変だったようだと
答えました。
ハインリは、
ナビエが自分の妻であり
王妃であることを
西王国の人たちに、
はっきりさせたいと言いました。
しかし、ナビエは
皇帝のソビエシュでさえ、
ラスタの評判を
制御できなかったので
自分のことは、
自分で何とかすると言いました。
ハインリは、
自分で役立つことがあれば
全て話すようにと、
ナビエに伝えました。
ナビエはハインリに
お礼を言った後
必要な物があると伝えました。
ナビエは、
近衛隊長ユニムの姉を
侍女にしてほしいと
ハインリに頼みました。
それを聞いたマッケナは驚きました。
王妃の部屋の前での、
ナビエに対する
ユニムの態度を見ていたし、
ハインリが東大帝国に捕まったのは
ナビエのせいだと
ユニムは言っていました。
その話を聞きながら、ハインリは
コシャールの姿が見えないことに
気が付きました。
ハインリは、
コシャールと数日間一緒に過ごしてみて
彼が妹を溺愛しているのを知ったので
ナビエが西王国へ来たら
すぐに駆けつけて来ると思いました。
しかし、悪名高いコシャールは、
今、ナビエに会うと
妹に迷惑がかかると思い
近くにいても、
彼女から極力離れているようでした。
ハインリは、
コシャールの評判を良くする仕事を
任せようと思いました。
ハインリは、
書類が山積みされている机に座りながら
結婚式の準備を早くするように
マッケナに伝えると
彼は、
結婚式は
王妃が準備するものだと答えました。
通常は、皇太子が皇太子妃を迎えるので
王妃が結婚式の準備をする。
しかし、ナビエはすでに王妃。
先代王妃のクリスタが
結婚式の準備をするのが
一番良いけれども
その過程で、数週間、宮廷人を指揮し、
管理すれば
西王国での彼女の力が強まってしまう。
だからといって、
ナビエが自分の結婚式を準備したら
贅沢にしても、質素にしても
非難を浴びてしまう。
ハインリとマッケナは
困ってしまいました。
ハインリは
うまく権力交代ができないことを
心配していましたが
まさに、その状況になっています。
自分は王妃ではないと
言っているにもかかわらず
ナビエが自分の地位を
脅かすことを恐れている
クリスタは
まだ自分が王妃のつもりで
宮殿を牛耳ることを
望んでいるようです。
今後のナビエの戦いが
楽しみです。