109話 ソビエシュがナビエに戻って来てくれと言うのを聞いて、ショックを受けたハインリでしたが・・・
◇ハインリの悩み◇
結婚式から帰ってきたハインリは
元気がありませんでした。
東大帝国へ行く時は元気だったのに
帰りの馬車の中では
ナビエと目を合わせることがなく
彼女が心配して、
どうしたのかと聞いてみても
返事がありませんでした。
ただ、時々、ナビエの手を握って
私のそばにいてくれますよね?
奥さんですよね?
とナビエに聞きました。
ナビエが
どうして、
そんな当たり前のことを聞くの?
と笑いながら問い返しても
ハインリは、何も言わずに
手を頬に当てて
目を閉じたり
ナビエの手の甲と手のひらに
唇を当てたりしました。
くすぐったいし可愛いけれども
ナビエが同じ質問をすると
また同じ返事が返って来ました。
西王国に戻って来てからも
ハインリは元気がなく
ナビエの部屋に来ても
不安そうな様子でウロウロしたり
何か言いたげなのに
黙っていました。
ナビエが、
どうしたの?
と聞いても
返事をしませんでした。
そんなことが何日も続きました。
ナビエは、ハインリが
東大帝国に行ったことで
彼の心が傷ついているのだと
思いました。
ナビエは、彼女を
東大帝国へ連れて行ってくれた
ハインリを
元気にしてあげたいと
思いました。
どうすれば、
ふくれっ面をしているハインリを
元気にすることができるのか。
しばらく悩んでいると
ローズの編み物が目に入りました。
ふわふわの毛糸を見て
ナビエは、クイーンの服を
作ることにしました。
◇ハインリの不安◇
ハインリは、今にも落ちそうな姿勢で
窓枠に座り、空を見上げていました。
好きなことが
机の上に山積みになっているのに
それすらも目に入って来ませんでした。
頭の中で
披露宴の最終日のことが
苦痛なほど繰り返されて
気がおかしくなりそうでした
帰って来てくれ
あなたが
他の人の妻でなかったら良かったのに
私たちは夫婦だ、ナビエ。
ソビエシュの戯言に
ナビエが何と答えたか
知りたくて仕方がありませんでした。
全て話を聞くことができれば
良かったのに
ナビエの声が淡々としていて
きちんと話を
聞くことができませんでした。
最後に、ソビエシュが困ったように
ナビエの名前を呼んだので
彼女は断ったのだろうとは
思いましたが・・・・
けれども、ナビエとソビエシュは
幼い頃から一緒に育ったので
兄弟のようなものだし
ソビエシュのナビエへの感情が
愛情で
ナビエが再びソビエシュに
機会を与えたくなったらどうしようと
ハインリは悪い方へばかり
考えていました。
その時、
ローズがハインリを訪ね
ナビエから
ハインリにプレゼントがあるので
時間がある時に、
遊びに来て欲しいと伝えました。
まさか離婚通知ではないよね?
不安と期待が
同時に浮かび上がりました。
すぐにハインリは窓枠から降りて
ナビエの部屋へ行きました。
◇手編みのクイーンの服◇
ローズが戻って来てから
5分も経たないうちに
ハインリが来たので
時間のある時に
来るように言ったのに。
とナビエは笑いながら
ハインリを叱ると
彼は、ちょうど休憩中だったと
困ったように笑いながら
言い訳をしました。
ハインリは目を輝かせながら
贈り物は何か尋ねました。
彼の顔を見ると
贈り物が何か知りたくて
走って来たようでした。
以前の陰鬱な雰囲気が
少し薄らいだような気がしました。
ナビエは引き出しから、
贈り物の箱を
取り出しました。
ハインリが箱を開けると
中に、
ナビエの手編みのクイーンの服が
入っていました。
以前、ナビエの前で
ハインリがクイーンになったら
服を着せると、
彼に言ったことがありましたが
ローズの編み物を見て
ナビエは、それを思い出しました。
ハインリは赤ちゃんが着るような
小さな服を見て笑い出しました。
この何日間か
暗かったハインリの顔が、
明るくなりました。
ナビエが、
クイーンになったら
この服を着せてあげる。
と言うと、
ハインリはすぐにクイーンになり
ナビエに駆け寄りました。
ナビエは、クイーンを膝の上に乗せ
服を着せました。
そして、クイーンを撫でながら
歌を歌ってあげると
クイーンは寝てしまったようでした。
ナビエは、
かわいい
と言って、
クイーンの額にキスをしました。
◇ハインリの別の悩み◇
午前中、
しかめっ面をしていたハインリが
午後はずっと笑っていました。
自分の額を触りながら
ヘラヘラ笑ったり
柱に映った自分の顔を見て
私は可愛い
と呟くので、マッケナは
ハインリが躁うつ病ではないかと
心配していました。
ところが、
浮かれて歩いていたハインリが
突然立ち止まり、片手で口元を抑え
深刻な目で空を見つめ
眉間に皺を寄せました。
ハインリは
もうすぐ結婚式だと思った時に
結婚式後の最初の夜のことを
考えていたのでした。
ハインリは
その日のことを考えるだけで
胸がドキドキして
心が弾みました。
好きな人と手を触れただけで
こんなに楽しいのに
胸にギュっと抱いたら
どんな気持ちだろうか。
ハインリは、対外的に
浮気者で通っていましたが
実は、
男女の経験がありませんでした。
浮気者なら、
上手だと
思われているのではないか
習えば、
うまくやる自信はあるけれども
初めての夜に、
できなかったら
2番目の夜があるのだろうか。
ハインリは、ナビエの前では
完璧な男でありたいと思いました。
ハインリの様子を見ていたマッケナは
本当に平気なのか
ハインリに尋ねると
彼は手で、
大丈夫だと合図をしました。
そして、話をそらし
騎士たちの歴訪に出ていた
騎士たちは
いつ帰ってくるのかと
マッケナに尋ねました。
騎士たちの歴訪は西王国の伝統で、王の騎士たちが各都市を回り、人々を助けると言うものです。97話に、ハインリがコシャールを、そのメンバーにしたことが書かれています。
マッケナが今日、到着すると答えたので
ハインリが
歓迎会を開かないと
と言うと、マッケナは
王妃に、
ハンカチを用意する必要があることを
伝えた方が良いか、尋ねました。
◇騎士たちの帰還◇
ナビエは、
騎士たちの歴訪に
参加していた騎士たちが
今日、帰ってくるので
ハンカチを準備する
必要があることを
マッケナから教えてもらいました。
帰ってきた騎士たちは
礼装で王宮まで行進し
それが終ったら
女性たちが自分の騎士のポケットに
ハンカチを入れるのです。
コシャールには恋人がいないから
私がハンカチを入れてあげないと。
でも、東大帝国で私が受けた
沈黙を考えると・・・
ナビエが心配していると
マッケナが笑いながら
コシャールは、今回の歴訪で
一番人気のある騎士だから
大丈夫だと言って
慰めてくれました。
◇コシャールへの歓呼◇
翌朝、ナビエはお堅く見える
格式の高いドレスを着て
髪1本も残さないようにアップし
何度も鏡を見て自分の姿を確認し
馬車に乗り、城門の外へ出ました。
その日は、歴訪に参加した騎士たちと
彼らと関連のある令嬢や貴婦人と会い
挨拶を交わすことになるので
まだ社交界に馴染んでいない
ナビエにとって
侮れない行事でした。
馬車から降りると
先に到着していた貴族たちが
ナビエに挨拶をしました。
親交のない状態では
身分の高い人が
先に話しかけることに
なっていたので
彼らはナビエの顔色を
うかがっていました。
ナビエは彼らに
話しかける代わりに
いつ頃始まるのか、
ローズに尋ねました。
もうすぐ始まると
彼女が返事をするや否や
遠くから角笛の音が聞こえました。
角笛の音が止むと
しばらく静かになりましたが
やがて、遠くから大きな歓声が
聞こえてきました。
歓声が近づいてくると
騎士たちが、馬に乗ったまま
3列縦隊で行進してくるのが
見えました。
歓声が彼らに続き
人々は、カゴに入っている花びらを
まき散らしていました。
最前列にコシャールがいました。
誰も彼を無視することなく
コシャールと呼ぶ声も聞こえました。
最も人気のある3人が最前列にいて
次の列は、
2番目に人気のある人たちです。
とマスタスが教えてくれました。
コシャールは、ぎこちなく
笑いながら手を振っているのを見て
ナビエは涙が出そうになりました。
やがて、騎士たちは、
ナビエたちの近くまで来て止まり
マッケナの合図で、馬から降りました。
その中には、コシャールもいて
彼は数歩歩いて、
ナビエをじっと見つめながら
笑いました。
私が一番最初にハンカチを
差してあげないといけないのかしら?
ちらっとハインリを見ると
彼は目で合図をしたので
ナビエはコシャールのポケットに
ハンカチを差しました。
2列目には、マスタスの兄の
エイフリン卿がいたので
彼に目で挨拶をしました。
騎士たちは、
自分たちが処理した内容を
会議室で
報告することになっていたので
ナビエがコシャールと会えたのは
短時間でした。
けれども、ナビエは
コシャールが、
きごちなく照れながらも
適応しているように見えたので
安心しました。
ナビエは、
東大帝国でのコシャールの悪名が
少しでも解消されるように、
神殿へ行って、祈りました。
◇たくさんの手紙◇
ところが、翌日、ナビエは
自分が思っていたより
コシャールのイメージが
良くなっていることに驚きました。
歓迎式に出席して
コシャールに一目ぼれをした
あらゆる家門の令嬢たちが
ナビエに、手紙を送って来たのです。
内容は、平凡だけれども
親しみやすい内容でした。
ナビエが不思議に思っていると
ローズが
コシャール卿は絵のように美しいし
今回の活躍もすごかった。
令嬢から見れば、
とてもかっこいいのでしょう。
おまけに、
東大帝国大貴族の後継者で
王妃様の兄なので。
と理由を教えてくれました。
コシャールは7歳の時から
悪名が高く
西王国の令嬢たちも
それを知らないはずは
ありませんでした。
ただ、コシャールの噂の震源地は
西王国ではないので
噂が誇張されている可能性が
ありました。
翌日、
前日よりも多くの手紙が届いたので
西王国の人たちは
コシャールの噂が誇張されていると
感じてくれたのではと
ナビエは思いました。
これは良い兆候だと思いました。
マレーニの助けを借りなくても
ニアンとコシャールの力で
社交界にナビエの居場所を
作ることができるかも
しれないと思いました。
マレーニと手を組めば
簡単に社交界に
溶け込むことができるけれども
社交界の半分を
敵に回すことになるので
長期的に考えれば
良いことではありませんでした。
全ての人が
ナビエのことを好きになる必要は
ないけれども
社交界の半分の人たちを
敵に回す必要は
ありませんでした。
最側近を選ぶのは
慎重になる必要があるけれど
適度な親交であれば
クリスタのお手付きでも
関係ありませんでした。
ナビエは、
クリスタと少しでも近づける可能性が
あるかもしれないと思い、
彼女に会いに行くことにしました。
着替えて別宮を出て、
回廊を歩いていくと
異国的な馬車と人々が
本宮へ行くのが見えました。
ルイフトの馬車で
カフメン大公が見えました。
ナビエの視線に気づいた
カフメン大公は
ナビエの方へ顔を向けました。
ナビエのために、
コシャールの評判を上げようと
彼を歴訪の騎士たちの
メンバーに入れた
ハインリでしたが
予想以上の結果が出て
本当に良かったと思います。
ハインリは
家族思いの人なのですね。
自分が部下に用意させた
ラスタの偽親を
コシャールが連れて来たと行って
罪をなすりつけ
ナビエとの離婚の理由にした
ソビエシュとは大違いです。