114話 ラスタの枕の中から青い鳥の羽を見つけたデリスでしたが・・・
◇私じゃない!◇
デリスは青い鳥の羽を見て
それが何なのか
すぐには思い出せませんでした。
チラッとラスタを見ると
彼女は、まだ腕を組んで
悲しそうにどこかを眺めていました。
デリスは
ラスタが迷信か何かで
枕カバーの中に
青い羽根を入れたのかと
首を傾げて考えていましたが
その時、
数か月前の出来事を思い出しました。
ソビエシュ皇帝が
ナビエ皇后に
青い鳥を贈ったけれども
彼女は送り返した。
その鳥は、羽が抜けていて
ラスタ皇后は ナビエ皇后が抜いたと
言っていたけれども
もしかしたら、
羽を抜いたのは ナビエ皇后ではなく
ラスタ皇后かも・・・
デリスは背筋がぞっとしました。
目を横に向けると
ラスタが、デリスを見ていました。
ラスタと目が合った時
デリスは心臓が凍り付きました。
何か見てはいけないものを
見てしまったような気がしました。
彼女は、
兄が話していたラスタの人柄を信じて
皇后陛下、
もしかしたら、陛下が鳥の羽を・・・
と言いかけると
デリスの言葉が終らないうちに
ラスタがとてつもなく
大きな悲鳴を上げました。
デリスが、
ラスタに近づこうとすると
ラスタは
どうして、お前が
そんなことをするの?
叫んだので、
デリスは反射的に後ずさりしました。
お前は、陛下の鳥の羽を抜いたのか?
とデリスに言いました。
デリスは、
ラスタが失言したことに気づかず
私がやったのではありません。
枕カバーを開けたら・・・
と言いかけると
再び、
ラスタが大きな悲鳴を上げたので
下女のリアンやベルディ夫人
護衛たちがやって来ました。
ラスタは、彼らを見ずに
デリスに向かって
生きている鳥の羽を
抜いてしまうなんて
何てことをするの!
と叫びました。
デリスは恐怖心でいっぱいになり
ラスタの足元に跪き
本当にやっていません。
私は皇后陛下がやったことだと・・・
ラスタはデリスを平手打ちして
彼女の口を塞ぎました。
皇帝陛下の鳥の羽を抜いて
ラスタの枕の中に入れるなんて
ラスタを呪おうとしたんだ。
とラスタは叫びました。
デリスは、
やっていないと言いましたが
ラスタに冷たくあしらわれました。
ベルディ子爵夫人や
護衛たちにも
自分はやっていないと訴えましたが
皆、自分に火の粉がかかるのを恐れて
知らんぷりしました。
デリスは、
ひどく傷つけられましたが
自分が悪かったと言って
ラスタに謝りました。
けれども、ラスタは
あなたのような
鳥肌の立つ子を
下女にしておけない
と言って、
ラスタは護衛に向かって
デリスを追い出せと命じました。
デリスは抵抗しましたが
力には勝てず、護衛に
廊下へ引きずり出されました。
人々は部屋の中を見まわすと
ラスタの枕カバーが開いていて
その周囲に、青い鳥の羽毛が
積まれていました。
あれは、何なのかと
尋ねられたラスタは、
デリスが皇帝陛下の飼っている
青い鳥の羽を抜いて
ラスタの枕に入れた。
それがばれたから
ああしている。
と言いました。
そして、
あれをすぐに片づけて、
いえ、燃やしてしまって。
枕も捨てて。
と命じました。
人々が出ていくと
ラスタは肘掛椅子に倒れこみました。
実際にラスタは怯えていたので
自分の腕をさすって
ぞっとした気持ちを
落ち着かせました。
青い鳥の羽は、処理する方法がなくて
とりあえず枕カバーの中へ入れて
隠しておいたのですが
その後、色々あったので
そのことをすっかり忘れていました。
ラスタは眉をしかめながら
青い鳥の羽のことを
忘れていた自分を責めました。
少し落ち着くと
引きずられていった
デリスのことを思い出し
ひどいことしたかな?
しらばっくれていれば
よかったかなと思いました。
その一方で、自分の一言で
人を突き放すことができる
皇后の権力はすごいと思いました。
しばらくして、ベルディ子爵婦人が
ハーブティーを運んできました。
ラスタは、彼女も追い出したいと
思っていましたが
先送りすることにしました。
なぜなら、
ベルティ子爵夫人のことは
気に入らないけれども
頭が良く働くし
名前だけの貴族でも
仲の良い貴族が何人かいるようだ。
それにティーパーティーの時のように
態度を変える貴族を侍女にして
自分の弱点をつかまれるのも困る。
それなら、
ベルティ子爵夫人を
侍女にしておく方が
ましだと思いました。
ラスタはベルティ子爵夫人に
出ていくように命じました。
ラスタはお茶を飲みながら
青い鳥の羽がなくなったので
安心できると思っていましたが
突然、恐ろしい考えが浮かびました。
デリスがラスタを恨んで
悪い噂を流したら
どうしよう。
人はデマに踊らされやすいもの。
それを利用して
ラスタは
トゥアニア公爵夫人を追い出しました。
けれども、その対象が
自分になるかもしれないと思うと
恐怖を感じました。
デリスは真面目で魅力的に見えるので
外へ出てデマを流すのは
容易ではないかと
ラスタは考えました。
ただでさえ貴族たちに
無視されているのに
自分の味方の平民が
変な噂に巻き込まれるのは
長期的に悪いことだと思いました。
デリスの口を塞がないと・・・
ラスタは、
ベルティ子爵夫人を呼びました。
考えてみたら、皇后を呪うために、
陛下の鳥を虐待するなんて
大きな罪ですよね?
ベルディ子爵夫人は
不吉な予感がして
固唾をのみました。
ラスタはベルディ子爵夫人と
目を合わせないで
冷たく言いました。
デリスはひどいことをしたので
それ相応の罰を与えます。
彼女の舌を切って、
監獄に閉じ込めて。
◇鳥肌が立つ命令◇
翌日、ソビエシュはピヌル伯爵から
ラスタがデリスの舌を切って
監獄に閉じ込めるように
命令したことを聞いて
驚きました。
ソビエシュは
ラスタが善良な時と
そうでない時があることを
トゥアニア公爵夫人の事件の時に
確信しました。
下女が堕胎薬を
飲ませようとしたことがあったので、
ラスタが警戒するのは
わかるけれども
舌を切って
監獄に閉じ込めると言う命令に
鳥肌が立ちました。
ピルヌ伯爵も
ソビエシュと同じ考えなのか
顔をしかめていました。
ソビエシュは、以前ラスタが
青い鳥の羽を抜いたのはナビエだと
言っていたのを思い出しました。
ソビエシュは、それについて
直接ラスタに確かめることにしました。
デリスのことで落ち込んでいたラスタは
ソビエシュを見て
彼に抱きつきました。
ソビエシュは、
適当にラスタを慰めて
彼女が落ち着いて笑い出すと
皇后が送り返した鳥を
デリスが受け取ったので
自分のところへ持ってくるよ
命じたと
言っていなかったけ?
と尋ねました。
ラスタはドキッとしましたが
意気消沈した様子で
あの時は、
廃妃が1人でやったと思いましたけど
デリスは手先だったのですね。
と言いました。
ソビエシュは部屋に帰った後
鳥籠を部屋の真ん中に置きました。
今では、鳥はソビエシュと
かなり仲良くなって
歌を歌いながら
ソビエシュの手に
乗るまでになりました。
その賢い鳥は
自分を苦しめた者に反応すると
ソビエシュは思い
ラスタを呼んで、
鳥と会わせることにしました。
◇夕食の誘い◇
結婚式が目の前に迫っているのに
ソビエシュとラスタが来ないので
2人は結婚式に出席せず
東大帝国の代表として
リルテアン大公が
やってくるものと
ナビエは思っていました。
その話をハインリにすると
彼は、
リルテアン大公に会ったら
必ずやってあげたいことがる。
とナビエに意味不明のことを
言いました。
ところが、ナビエの予想に反して
結婚式の2日前に、
2人はやってきました。
未来にまで伝わる
皇室秘話になるだろうと
ナビエは思いました。
侍女たちはナビエの顔を
窺っていました。
ナビエは、ハインリが
喜んでいるのか
悔しがっているのか
どちらだろうと考えていると
驚いたことに
その日の夕方、ハインリの求めで
彼とソビエシュは一緒に
夕食を取っていることを
侍女から聞きました。
ハインリとソビエシュは
初めて会った時から
ずっと仲が悪かったので
ナビエは何度も、
ソビエシュが誘ったのではなく
ハインリが誘ったのかと
聞きました。
ハインリがソビエシュを
結婚式に招待したのは
私たちの結婚する姿を見て欲しい。
という意味でした。
ローズは、確かに2人だけで
夕食を取っていると
ナビエに伝えました。
ナビエは心配になり
窓を開けて、
本宮の方を眺めました。
ハインリがソビエシュに
押されるのではないかと
思いました。
ソビエシュも、ナビエ以上に
ハインリが夕食に誘った理由が
気になっていました。
彼は、食事が始まるとすぐに
その理由を尋ねました。
ハインリは
あなたのことは嫌いだけれど
見方によっては
ありがたい方なので
一緒に食事をしたいと
思っていました。
と答えました。
ソビエシュはハインリの言葉が
理解できなかったので
眉間に皺をよせていると
ハインリは言葉を続けました。
陛下が、
ナビエ様と離婚してくれたから
もうすぐ結婚できる。
元々、
私はナビエ様に片思いをしていた。
ということは、
陛下が私の結婚を
取り持ってくれたことになる。
陛下がナビエ様と
離婚しなかったら
彼女の影を追って、
1人で苦しんでいたと思う。
陛下には感謝している。
ハインリの
砂糖菓子のような笑顔を見て
ソビエシュは、彼を殴りたくなり
拳を握りしめていました。
ソビエシュは、
ハインリがこのように
稚拙に育ったことを
ナビエは知るべきだと言いました。
ハインリはソビエシュと違い
自分が稚拙だということを
絶対にばれないようにすると
言いました。
ハインリは自分をからかうために
夕食に呼んだのかと
ソビエシュは呆れました。
ところが、
先ほどまで
腹が立ってたまらないといった様子の
ソビエシュが
急に肩を震わせて笑い始めたので
ハインリは食事の手を止めました。
ソビエシュは
油断はチャンスを作る
今のあなたを見ていると
私にもチャンスが来るだろう。
私は誤算でナビエを失ったが
取り戻す準備をしている。
と言いました。
ハインリは
ナビエはソビエシュのことが
好きではない。
取り戻したいと言っても
彼女は物ではないと
反論しました。
ソビエシュは、
ナビエは物ではないから
彼女が戻りたいと言えば
いつでも、
取り戻せるのではないかな?
きみには、二面性がある、
ハインリ王。
ナビエは随分、君を
信用しているようだけれど
きみの、もう一つの顔を知れば
ナビエは私のところへ
戻って来たくなる。
と話しました。
ハインリは苦笑いをしましたが
ソビエシュは
きみのように、
二面性のある人間は
ばれると困る秘密がたくさんある。
と言って
にっこり笑いながら、
ソビエシュは
囁くように付け加えました。
きみが呼んだエルギ公爵とか。
これまでも、
ラスタは自分を守るために
色々な悪事をやってきましたが
デリスの舌を切って
監獄に閉じ込めるというのは
ひどすぎて
とても辛くなりました。
権力を持たせてはいけない人に
権力を持たせると
本当に恐ろしいことになります。
それを見抜けずに
ラスタを皇后にしたソビエシュは
愚かだと思います。