126話 謁見にラスタの子供を連れて来たアレン、その後ろには妹を捜しているジョエンソンが・・・
◇わが子を抱く◇
ざわめきが大きくなったので
ラスタはやむを得ず
赤ちゃんを抱き上げました。
ラスタは赤ちゃんの黒い瞳を見ると
恐怖に襲われました。
自分にそっくりな顔を見て
誰が見ても
自分の子供であると思いました。
髪の色も同じでした。
隣に座っていたソビエシュが
本当に可愛いね。
と言いました。
ラスターはその声にいらだち、
赤ん坊の顔を隠すように
強く抱きしめました。
不思議なことに、
それまでむずかっていた赤ちゃんは
ラスタに抱かれるや否や
静かになりました。
しかしラスタは、
赤ん坊を抱いていると、
ぐったりしたした
小さな死体を抱きしめたことを
思い出しました。
ラスタは、
あの時のことを思い出して
鳥肌が立ち
強い恐怖感が押し寄せてきました。
すぐにでも
抱いている赤ちゃんが
血を吐きながら
死んでしまうのではないかと、
手や足がぶるぶる震えました。
しかも隣にいるソビエシュが
自分によく似た赤ちゃんの顔を見て
変に思うのではないかと
思いました。
ラスタは耐え切れなくなり
赤ちゃん、可愛いですね。
と言って
アレンに押し付けるように
赤ちゃんを返しました。
ラスタはアレンを見つめた後
すぐに目をそらしました。
額には汗が滲んでいました。
彼女はソビエシュの顔を
見られませんでしたが
すでに彼は、
その赤ちゃんが
ラスタの子供だと知っていたので
余計な心配でした。
ソビエシュは
ラスタが自分の子供のことを
いつも恋しがり、
愛していると思ったので
彼女は
自分の赤ちゃんを見て
懐かしくて、切なくて
あんな顔をしたのだと
いたたまれなくなり
ラスタの硬い表情も
美化して受け入れました。
ラスタは思っていたよりも
優しくないことを
ソビエシュは認めていましたが
子供への愛情は
純粋で真実だと思いました。
アレンは
アン、あなたのお母さんは
あなたを見ていると
悲しいんだね。
あなたといられなくて
悲しいんだね。
と子供に囁きました。
ラスタの隣に座るのは
自分のはずなのに
なぜ、他の男性が
座っているのだろうか。
アレンは悲しくなりました。
◇ジョエンソンとの謁見◇
次にジョエンソンが前に進み出ました。
ラスタは、彼が平民の記者で
自分のことを
東大帝国の未来であり
平民の光、希望であると
記事に書いた人であることを
思い出し
私を支持する人なら
余計なことは言わないだろう
と安心し、口元に
柔らかくて美しい笑みを
浮かべました。
先ほどの赤ちゃんのことを
思い出すと、まだ怖いけれど
先日、ロテシュ子爵に
冷たくしたから
アレンは脅しにきたのだろう。
適当になだめれば大丈夫だ
とラスタは思いました。
ソビエシュに用件を聞かれた
ジョエンソンは、
宮殿で仕事をしていた妹の消息が
1か月前からわからない。
心配になり、
宮殿の官吏に問い合わせたところ
すでに退職していると言われたことを
伝えました。
自分を褒め称えると思っていた記者が
妹の話をし出したので
ラスタは、眉間に皺を寄せました。
ジョエンソンは話を続けました。
妹は退職したのなら
家に帰ってくるはず。
官吏に、騎士と逃げたのではと
言われたけれど
妹は未婚なので
逃げる理由はない。
と。
ソビエシュは、
ジョエンソンの言葉に頷き
彼女がどこで働いていたか
尋ねると
ジョエンソンは
皇后のメイドのデリスだと
答えました。
ジョエンソンの言葉に
ラスタの顔は血が抜けたように
真っ白になりました。
ラスタは玉座を握りしめ
瞬きもしませんでしたが
すぐに悲しそうな顔をして
ジョエンソンを見ました。
ソビエシュは、
ラスタが命令して
舌を切って牢屋に閉じ込めた
メイドがジョエンソンの妹だと
すぐにわかり
舌打ちをしました。
まだジョエンソンは、
ラスタのことを信じていたので
彼女にすがれば
妹の消息がわかると思っていました。
ラスタは、
本当に残念なことですね。
とジョエンソンに言いました。
彼はラスタに
妹に何が起こったか知っているかと
尋ねました。
ラスタは首を振りながら
私のメイドは2人しかいないので
仕事がたくさんあり
それが大変だと言って
デリスはやめた。
それから彼女が
どうなったかわからない。
と残念そうに答えました。
ラスタの言葉にジョエンソンは
絶望しましたが
ラスタが瞬きもせずに
嘘をついているのを
横目で見ていたソビエシュは
彼の妹について、
徹底的に調査をすると約束しました。
ジョエンソンは、お礼を言って
帰りました。
謁見が終るとすぐに
ラスタはソビエシュに
ジョエンソンに本当のことを言うのか
尋ねました。
デリスへの処罰は
皇后の権限で行ったことなので
ソビエシュが知っているとは
思いませんでした。
ラスタは、
デリスが先に間違いを犯した。
皇后だから、
デリスを処罰してもいいと思った。
そのために、
皇室侮辱罪があるのではないか。
とソビエシュに訴えました。
ソビエシュは、
デリスが先に間違いを犯したなら
それを家族に言うべき。
皇室侮辱罪はあるが
それに対する非難を
避けることはできない。
と言いました。
ラスタは
何も悪いことはしていない!
とソビエシュに訴えたものの
彼の部屋には、
ラスタが羽を抜いた鳥がいて
その鳥が、彼女を見たら
変な反応を起こし
羽を抜いたのがデリスではなく
ラスタだと
わかってしまうのではと思うと
ソビエシュの部屋に行けない状態が
続いていました。
ソビエシュは、ため息をつき
ジョエンソンのことをどうするか
何も言わないまま
行ってしまいました。
ラスタは地団太を踏みましたが
恐怖に襲われ
エルギ公爵を訪ねました。
◇困った時はエルギ公爵◇
ラスタは、
エルギ公爵に会うと
自分を呪おうとしたメイドに
大きな罰を与えたことがあった。
仕方がなかった。
そんな人を許せば
また何をしでかすかわからないから。
ところが、彼女の兄が、
彼は、以前、自分を
インタビューした平民記者だけれども
謁見の時に
妹を探してくれと訴えてきた。
どうしたらよいか。
と泣きながら話しました。
メイドがどこにいるのか
エルギ公爵が尋ねると
ラスタは牢獄だと答えました。
エルギ公爵が
何々の罪を犯したから
牢獄に入っている。
と記者に伝えれば良かった。
と話すと
ラスタは
それを信じないし
信じたとしても
ラスタのことを憎むだろう
と言いました。
エルギ公爵は、
ソビエシュに解決してもらえると
ラスタに伝えると
ラスタは、
自分がメイドを罰したことで
陛下は腹を立てた。
メイドはきれいだったから
陛下は密かに
気にかけていた。
メイドも、ソビエシュのことを
崇拝してた。
そのことで、ラスタは
メイドを罰したわけではない。
陛下は何も言わずに
怒って行ってしまった。
ラスタを助けてはくれないと思う。
どうしたらよいか、わからない。
怖いです。
とエルギ公爵に話しました。
彼は、
ラスタ様は皇后なので
事をうまく運ばないと
皇室の威厳が一緒に落ちる。
お腹の中には赤ちゃんもいるので
皇帝陛下は、
口では何を言っても
ご自身で処理をしてくれる。
と言って、
ラスタを安心させました。
エルギ公爵がいなかったら
本当に大変だったと
ラスタは言いました。
エルギ公爵が
ラスタの力になれてうれしいと言うと
彼女の目頭が熱くなりました。
エルギ公爵の態度は
冷たいソビエシュの反応とは
全く違いました。
エルギ公爵は手を伸ばして
ラスタの肩を包むと
最初、彼女は驚いたものの
エルギ公爵の胸に
顔を埋めました。
彼はニヤリと笑いました。
◇クリスタの思い◇
まだ自分の執務室がないナビエは
自分の部屋に帳簿10冊を
持ってきて
雇われている人の給料と仕事を
帳簿と照らし合わせて
みることにしました。
すると、マッケナが
新たに整備すべきことが書かれている
一時的処理をした書類を持ってきて
それを実用的な物に変えてくれと
頼みました。
ナビエは、3つの仕事を
同時にすることになった上に
両親と1日1回以上
食事をしたかったので
とても時間が足りなくなりました。
ナビエが3本のペンと
6冊のノートを並べて
仕事をしているの見た
ローズとマスタスは
仰天しましたが
むしろローラは嬉しそうに
あの女性が皇后陛下のように
仕事ができるか分かりませんね。
と言いました。
シュベール伯爵夫人も
ソビエシュ陛下は大変ですね。
と笑いながら言いました。
ナビエが必死で仕事をしている時
ハインリの秘書が
彼女を迎えに来ました。
ナビエがお願いしていた執務室を
ハインリが用意してくれたのです。
ナビエの執務室は
ハインリの執務室の向かいにあり
壁全体が大きな本棚で覆われ
窓際に大きな机が置かれていました。
部屋の前には待合室があり
執務室の奥には、
休憩室もありました。
ナビエは、
とても気に入りました。
副官の候補者は
ハインリが
有罪な人材から選んでおいたけれども
気に入らなければ
最初からもう一度選んでも良いと
言いました。
ナビエとハインリは
窓枠に並んで座って
話をしましたが
クリスタについての話題に移りました。
ハインリは顔をこわばらせながら
披露宴の時のクリスタの様子について
ナビエに話しました。
そして、クリスタを皇帝命令で
コンプシャの宮殿に
送りたいけれども
前国王の、クリスタを頼むという
遺言を聞いた人がたくさんいるので
頭を痛めていると話しました。
ナビエは、ハインリの話から
クリスタがハインリのことを
好きだとわかり
執務室を見て
舞い上がっていた気持ちが
沈んでしまいました。
クリスタの気持ちに
気づいてしまったナビエ。
ハインリのことを
愛していなければ
他の人が彼のことを好きになっても
何とも思わないはず。
自分では気づいていなくても
ナビエはハインリのことを
愛しているのだと思います。
自分の保身のために
平気で嘘をつくラスタ。
ラスタが瞬きもしなかったのは
嘘をつくことに
何のためらいもなく
良心の呵責すら
感じていなかったのではないかと
思います。