32話 ハインリの計画が気になるナビエですが・・・
◇ハインリの計画◇
ハインリが立てていたのは、
何の計画なのかと
ナビエは尋ねました。
ハインリは驚いた表情でした。
彼は簡単に答えられず
口を閉じて目を伏せました。
物思いに耽っているだけなのに
冷たい雰囲気がしました。
しばらくすると
ハインリは顔を上げて
ナビエに嘘をつきたくないと
答えました。
この言葉の意味を
ナビエは考えました。
良い方に解釈すれば
彼は私に真の友情を
示してくれている。
適当に
言い繕うことができたのに
そうしなかったのは
それなりの危険を冒した
行動だから。
悪い方に解釈すれば
私に言えない何かを
企てていること。
私的なことや国家機密を
話すことはできないけれど
エルギ公爵を
呼び寄せるほどの計画・・・
言いづらければ、
答えなくても良いと
ナビエは笑いながら
さりげなく言うと
ハインリは苛立った視線で
ナビエをじっと見つめ
ため息をつきました。
◇あの方が好き◇
応接室の壁に寄りかかり
ハインリの帰りを待っていた
マッケナは
外国の皇后の前で
自分のことを
愚かな鳥扱いしたことに
抗議するつもりでした。
ところが、
部屋の中に入って来たハインリは
よろよろ歩きながら
ソファーに倒れ込んだので
マッケナは彼の心配をしました。
けれどもハインリは手を振って
マッケナに消えろと
合図を送りました。
それでもマッケナはハインリに
皇后に何か悪いことを
言われたのかと尋ねました。
ハインリは、
自分は思っているより
あの方が好きなようだと
突拍子もない返事をしました。
そして、腕に顔を埋めながら
自分は失言したと思う。
警戒されたらどうしよう。
あの鋭い目で問い詰められた
どうしようと
心配していました。
マッケナは
ハインリが鳥であることが
ばれたのかと尋ねましたが
ハインリは否定し
別のことだと言いました。
◇ナビエの心配◇
ハインリ王子はいい人だし
いい友達だけれど
立場が違えば敵になったり
ライバルになったりするものだと
考えたナビエは、
アルティナ卿を呼んで
内密に
ハインリとエルギ公爵の行動を
調べて欲しいと頼みました。
アルティナ卿は
クイーンを通じて
手紙を取り交わしている相手を
調べろと言われたことが
不思議なようでしたが、
ナビエは新年祭の前、
東大帝国に入る前の行動を中心に
調べて欲しいと頼みました。
アルティナ卿は、
あえて理由を問わずに
ナビエの頼みを承諾しました。
西王国は
東大帝国の最も強力な
ライバルだけれど
そう遠くも近くもない仲。
このような中、
ハインリがエルギ公爵を引き入れて
できることは何なのかと
ナビエは考えました。
◇紅炎の星◇
その後5日間は何事もなく
ナビエは忙しい日々を過ごしました。
ナビエは、カフメン大公に
ルイフトについて教えて欲しいと
頼みましたが
時間の都合で断られました。
けれども、彼が
月大陸言語を学んだ時に使った本を
送って来ました。
国が支援する孤児院出身の子供が
初めて魔法学園へ入学するという
良い知らせがありました。
ナビエは、その子の
顔見知りということもあり
喜んで、
彼女に奨学金を出すことにしました。
彼女に直接、
お祝いの言葉を伝えたいと
思いました。
魔法学園のあるウィルウォルへは
1日で行ける距離ではないので
ナビエは、
ソビエシュに相談するために
執務室へ行きました。
ソビエシュは机に座り
なくしたという紅炎の星を
不思議そうに見つめていました。
ソビエシュは、
この指輪をラスタにあげたけれど
その効能を知らなかった彼女は
下女にあげてしまった。
ピルヌ伯爵に
同じような物を探すように
頼んだところ
昨日、競売に出ていたのを
買って持ってきた。
ピルヌ伯爵は
この指輪が自分の物だと
知らなかったようだと
ナビエに話しました。
本当に生活が苦しいのなら
指輪より現金が欲しいので
売ったのではないかという
ナビエの意見に
ソビエシュは同意しました。
そして、ソビエシュは
ラスタの善意を
無駄にしないためにも
その指輪を売った人が
指輪の価値に見合う金額を
受け取ったかどうか
ピルヌ伯爵に調べさせている、
と言いました。
◇トゥアニア公爵夫人の弱点
ラスタを訪れたロテシュ子爵は
20年前のゴシップ紙を
ラスタに差し出しました。
そして、
トゥアニア公爵の婚約者である
トゥアニア公爵夫人に、
トゥアニア公爵の兄のマリアン卿が
恋してしまった。
マリアン卿は、
トゥアニア公爵夫人を追いかけ回し、
彼女も彼に心を開いていたけれど、
結局、トゥアニア公爵夫人は
トゥアニア公爵と結婚し、
失恋したマリアン卿は
神殿に入ったけれど
1週間も経たないうちに
自殺したこと、
そしてトゥアニア公爵夫人が
結婚してから7か月後に
出産をしたけれど
その子供がマリアン卿の
子供ではないかと皆騒いだと
話しました。
ラスタこれだと思いました。
この噂に再び火を点ければ
社交界の骨の役割を
トゥアニア公爵夫人へ
渡せそうでした。
ラスタは宝石箱から
いくつかの宝石を
ロテシュ子爵に渡すと
神殿の関係者を買収し、
マリアン卿が死ぬ前に
美しい貴婦人が
何度か神殿を訪れたという話を
広めるように指示しました。
ラスタは舞踏会の時
数日間、
トゥアニア公爵夫人を
見守っていたので
彼女の周りに
いつも不満そうな顔をして
公爵夫人を見ていた
1人の男性に気付いていました。
おそらく、
あの人が公爵だと思ったラスタは、
他の人が皆、
公爵夫人を信じても
一番近い人が不信感を抱けば
意見が分かれることになると
ラスタは思いました。
ロテシュ子爵が帰った後
イライラしながら
次は信頼できる人に
赤ちゃんのことを
調べさせなくてはと
考えました。
◇ 指輪を売った人◇
奇妙なことだと、
ピルヌ伯爵は
物思いに耽りながら
回廊を歩いていました。
考えれば考えるほど
理解できませんでした。
すると、西宮と本宮の
回廊が交差する所で
ロテシュ子爵に
ぶつかりそうになりました。
ロテシュ子爵は
ピルヌ伯爵に挨拶をすると
ヘヘヘと笑いながら
その場を抜け出しました。
ピルヌ伯爵は、しばらく
その後ろ姿を眺めた後
皇帝の執務室へ直行しました。
そして、紅炎の星は
適正価格で売られたけれど
売ったのは下女ではなく
ロテシュ子爵だと報告しました。
ハインリの目的は
東大帝国に戦争を仕掛けること。
けれども、それを
ナビエ様に話すことはできません。
これが、他の人だったら
質問された途端、
へらへら笑いながら
嘘をついたり、
しらばっくれたり、
誤魔化すのでしょうけれど、
ナビエ様には
それができませんでした。
自分を騙したラスタと下女には
情け容赦のなかった
ハインリなのに、
ナビエ様に嘘がつけなかった。
これこそ、ハインリが
ナビエ様を深く愛してしまった
証拠なのだと思います。
後にハインリは
ナビエ様にすべてを打ち明けますが
「あなたに嘘をつきたくない」
と言ったのは、
この時点で、ハインリにできる
精一杯の
誠意の示し方だったのだと
思いました。