54話 ハインリからの手紙を読んだナビエは・・・
◇手紙の返事◇
ハインリの手紙は
ナビエが戴冠式へ
出席する期待感でいっぱいでした。
ハインリの推測通り
最初にナビエが手紙を書いた時は
戴冠式へ行くことを考えていました。
けれども、
ラスタの食事に
中絶薬が入れられていたことに
コシャールとパルアン侯爵が
関わっている状況で
ナビエは、長い間宮殿を
離れるわけにはいきませんでした。
ナビエは、ハインリが青い鳥を
送ってくれてよかったと思いました。
ナビエは紙とペンを取り
日程を調整するのが難しいので
戴冠式へは行けない、
お祝いの気持ちだけ伝えますと
書きました。
すると、
青い鳥が変な音を立てました。
書くのを止めて
青い鳥の方を見ると
手紙をじっと見ていました。
しかし青い鳥は
ナビエの視線を感じると
突然、毛づくろいを始めました。
不思議で可愛いと思いましたが
今は、手紙を書くのが先でした。
青い鳥は忙しいのか
ナビエが足に手紙を結ぶや否や
窓の外へ飛んで行きました。
◇謝罪◇
ナビエはその日の夜まで悩んだ末
意を決して、
ソビエシュの所へ行きました。
彼に見え透いた嘘をつくか、
プライドを捨てて謝罪するか、
どちらを選んでも
プライドが傷つくなら
いっそのこと謝った方がまし。
謝れば、それで終わりだけれど
嘘をつけば、ずっとそれに
捉われることになると
ナビエは思いました。
ナビエは気が変わらないように
すぐに、
ソビエシュの所へ行きました。
もしかしたら、ソビエシュは
ラスタと一緒に
いるのではないかと思いましたが
謝る時間くらい取れるだろうと
思いました。
幸いにもソビエシュは1人でした。
彼は、今度はすぐにナビエを
部屋へ入れました。
「調査は済んだのか」の
ソビエシュの問いかけに
ナビエは、
無理矢理、答えようとすると
ソビエシュは手のひらを
ナビエの唇に当てました。
彼女は黙るしかありませんでした。
ソビエシュは
ナビエが言おうとしていることは
わかるので言う必要はないと
言いました。
謝罪を求めていたのではないかと
ナビエが尋ねると、
腹立ちまぎれに言ったことだと
答えました。
そして、
今回は、ナビエを守るために
コシャールが自分の子供を
傷つけようとしたことに
目をつぶるけれど
次に同じことがあれば
自分の子供を守る選択をすると
言いました。
ナビエは、
その言葉が信じられませんでした。
むしろ、このことが公になれば
事態が複雑になり
頭を痛めることになるからと
言う方が、
もっともらしいと思いました。
けれども、ナビエは
兄がしでかした
恐ろしいことを謝りに来たので
強いて、その話を
持ち出しませんでした。
◇赤ちゃんを守って◇
ソビエシュは窓際に立ち
ナビエが完全に去るのを
確認してから
ラスタの寝室へ行きました。
ソビエシュは
眠っているラスタの
お腹をじっと見つめ
慎重に耳を
お腹の上に当てると
ラスタは目を覚ましました。
彼女は、まだお腹が痛いので
強い薬だったようだ。
犯人は捕まったのかと
ソビエシュに尋ねました。
彼は、犯人を捕まえないといけない。
前の下女たちと
料理長を追い出したので
新しく来た人たちは
気を付けるだろうと言いました。
ラスタは犯人が分かるけれど
誰であるかは話さないと
言いました。
ソビエシュは、
皇后のことを言っているのかと
尋ねました。
ラスタは、
確かではないから話さないと
答えました。
彼女は、
犯人が誰であっても
自分たちの赤ちゃんを
守って欲しいと頼みました。
◇パルアン侯爵への頼み事◇
翌日、ナビエはもう一度
パルアン侯爵を呼びました。
ナビエは彼に
再びコシャールが
同じようなことをしたら
止めて欲しいと頼みました。
コシャールが
かっとなって悪事を働くタイプなら
パルアン侯爵は
落ち着いてそれに
参加するタイプでした。
パルアン侯爵は
コシャールは恐ろしい性格だからと
言い訳をしました。
ナビエは、
簡単でないことはわかっていると
彼に伝えました。
パルアン侯爵は笑っているばかりで
返事はありませんでした。
ナビエは、
ソビエシュは
中絶薬を使った犯人が誰なのか
知っていること、
今回は見逃してくれるけれど
次は絶対に容赦しないと
言っていると伝えました。
彼女の話を聞いて、パルアン侯爵は
ようやく深刻な顔をしました。
ナビエは、2人とも自重して欲しい。
ソビエシュが気づかなくても
中絶薬を使うことを
自分も望んでいないと
話しました。
◇このままではダメ◇
ハインリは
東大帝国にいる時に
魔法庁で、
こっそり写しを取ってきた
極秘文書です魔法使い消失現象の
報告書を読み、フフフと笑いました。
予想以上に、
魔法使いが減っていくスピードが
深刻でした。
魔法使いたちは
東大帝国の皇帝を支える力だと
ハインリは呟き、微笑みながら
報告書をたたむと
窓の外で
青い鳥が羽ばたいていました。
ハインリは、青い鳥の足から
手紙を取ると
人間の姿になった
マッケナには目もくれず
手紙を読みました。
ナビエが戴冠式に
来られないことが分かり
ハインリはがっかりしました。
彼は
クイーンは忙しいのか、
無理をすると身体に良くないのにと
ナビエのことを気遣っていると
マッケナは
ラスタが中絶薬を飲まされ
大騒ぎになっていること、
その犯人がナビエの兄だという
話があることを
慎重に伝えました。
ハインリは、
ソビエシュが
ナビエを責めていなかったかと
マッケナに尋ねましたが
そこまではわからないと
答えました。
新年祭の特別パーティの時
ソビエシュがラスタを
気遣っていた姿を見て
心を痛めていたナビエを
思い浮かべると
ハインリの胸も痛みました。
ハインリは、じっと立ったまま
深く悩んでいました。
そして、
やはりこのままではダメだと
ハインリは呟きました。
彼は複雑で悲しい顔をして
立っていました。
ハインリは、素早く
エルギ公爵宛に手紙を書くと
マッケナに持っていくように
指示しました。
◇意地悪な貴族◇
ソビエシュは
ラスタの気分を晴らすために
小さなパーティを開くと、
多くの人が集まりました。
皇后は出席しなかったので
ラスタがパーティの主役でした。
彼女は嬉しそうに笑って
騒いでいましたが、
ある貴族が、
ロテシュ子爵の娘のルベティを
ラスタに紹介すると
彼女から笑顔が消えました。
ラスタはルベティを見て
とても驚いたので
ルベティを紹介した貴族が
意地悪そうに笑ったことに
気付きませんでした。
以前、アレンに
皇帝の側室ラスタについて
絶え間なく話していた
何人かの貴族たちも
意地悪な目つきをしました。
まだ貴族たちの中には
ラスタが本当に
ロテシュ子爵のところにいた
奴隷だったのか
知りたがる人たちがいました。
ラスタは、
人々が故意にルベティを
連れて来たことに
すぐに気が付きました。
しかし、ラスタは怒る代わりに
表情管理をして、笑いながら
ルベティに挨拶をしました。
ラスタがいることを
知らされていなかったルベティは
最初、驚いた顔をしたものの
ラスタから挨拶を受けると
おかしくてたまらないという風に
笑いました。
ラスタは努めて笑い続けましたが
心臓がひやりとしました。
けれども、ルベティが
何か言おうとすると
アレンがやって来て
妹を連れて行ってしまいました。
アレンはラスタの方を
ちらっと見ましたが
挨拶どころか
一面識もない人のように
知ったふりさえしませんでした。
ラスタとルベティを
面白がって見ていた人たちは
興覚めして、
散り散りになりました。
状況を楽しんでいた人たちも
ラスタに優しく声を掛けました。
けれども、ラスタは
先ほどのようにパーティを
楽しむことができませんでした。
わざとルベティを連れて来たのに
悪意のないふりをする彼らを
忌まわしいと思いました。
ラスタは適当に機会を見て
外へ出て行きました。
しかし、
帰ったとばかり思っていたアレンが
すぐ近くにいました。
アレンは、ラスタに近寄り
父は知らないふりをしろと
言っていたが
それでも、アンのことは
話してあげるべきだと思い
やって来たと言いました。
隠し事と嘘をつくことで
受けるダメージは
とても大きいと思います。
ソビエシュは、
ラスタが逃亡奴隷ではないと
嘘をついたことで
皇帝だから黙認されたけれど
皇帝以外の人がやれば
処罰されるようなことも
平気でやっています。
ラスタも、
嘘に嘘を重ね
次から次へと犯罪に手を染め
ソビエシュと出会ってから
1年も経たないうちに
死んでしまいました。
ナビエは、
どうせプライドが傷つくなら
嘘つきより
正直になる方を選びました。
もし、ナビエは嘘をついていたら
ソビエシュは彼女を
軽蔑していたと思います。
後に、ハインリは、
ナビエに嫌われることを覚悟して
東大帝国と
戦争をするつもりだったことと
魔力消失問題に関わっていたことを
ナビエに正直に話しました。
けれどもナビエは
ハインリに失望することなく
その後、2人のラブラブな関係は
ずっと続きます。
嘘と隠し事をし続けることで
人生を狂わせてしまうくらいなら
一時、辛い思いをしても
正直になる方が良いのではと
思います。