68話 エベリーに会いに、ウィルウォルへ行くことにしたナビエでしたが・・・
◇留守の間に◇
いきなりウィルウォルへ行くと
言い出したナビエを
ソビエシュは引き止めませんでした。
ナビエが、彼と一緒に行くのを
拒んだのは
気に入りませんでしたが
ちょうど、彼も彼女がいない間に
すべきことがいくつかありました。
ソビエシュは、
南宮で治療を受けている
ロテシュ子爵を呼び出し
ラスタのことを尋ねました。
ロテシュ子爵は、泣きながら、
コシャールに話したことを
繰り返し伝えました。
しかし、ソビエシュの反応は
冷ややかでした。
ソビエシュは、
ロテシュ子爵がラスタの赤ちゃんを
隠す見返りとして
彼女を脅していたのかと尋ねると
ロテシュ子爵は否定しました。
ロテシュ子爵は、
ソビエシュが
ラスタを気遣っているのを見て
彼が彼女の過去に
目を瞑ろうとしていることに
気付きました。
ロテシュ子爵は
自分がラスタの子供を育てているので
彼女とずっと連絡を取って来たと
嘘をつきました。
そして、ラスタが自分のために
いくらか用立ててくれたのは
赤ちゃんを育ててくれと頼むためで
脅迫ではないと
ロテシュ子爵は言いました。
ラスタはいつも
ロテシュ子爵を庇っていたし
彼女が隠し持っていた
赤ちゃんの髪を見ていたので、
ロテシュ子爵の話は
もっともらしく
ソビエシュに聞こえました。
彼は、そのことについて
追求するのを止め
ラスタの奴隷売買証書は
どこにあるのか
ロテシュ子爵に尋ねました。
ロテシュ子爵は、
証書は、
ベア商会に預けてあるけれど
おそらくコシャールが
そこへ行ったと答えました。
◇奴隷売買証書◇
ロテシュ子爵を返すと
ソビエシュは
コシャールを訪ねました。
ソビエシュは、
コシャールを見るなり
彼を追放すると告げました。
ソビエシュとコシャールは
ナビエを間に挟んで
幼少期からの
知り合いでしたが、
2人はずっと不仲でした。
ソビエシュが
そのように出てくることを
覚悟していたらしく
コシャールは、追放と聞いても
驚きませんでした。
コシャールは、
ソビエシュのおもちゃが
どんな人か知っているかと
皮肉ると、ソビエシュは
聞くべきことは聞いたと答え、
自分の代わりに
コシャールがラスタの過去を
調べてくれたことに、
ご苦労様と言って
コシャールを挑発しました。
ソビエシュは
コシャールの部屋を見回し
ラスタの奴隷売買証書は
どこにあるのか尋ねました。
コシャールは
ベア商会からもらってきた
奴隷売買証書は
陛下の騎士の一人が
押収していったと答えました。
ソビエシュは、コシャールの
戯言だと思いましたが、
彼は
いくら探してもいい。
本当に自分は持っていない
と言ったので、ソビエシュは
コシャールを睨んで
一緒に来たカルル侯爵に
奴隷売買証書を探すように
命じました。
邸内を隈なく探しましたが
奴隷売買証書は見つかりませんでした。
ベア商会へも人を行かせましたが
奴隷売買証書は
コシャールが持って行ったと言って
そこにも証書はありませんでした。
いくら探しても
奴隷売買証書は見つからなかったので
ソビエシュは怒りを爆発させました。
証書がなくなれば、
再び、ラスタの奴隷疑惑が
浮上する可能性がありました。
コシャールが監禁されたことを
数時間後にナビエが
知っていたことから
ソビエシュは
彼女が奴隷売買証書を
持っているのではと疑いました。
騎士の中には
ナビエを崇拝する人が多いし
ラスタが嫌いなナビエなら
証書を手に入れても
絶対に渡さないはずだと考えると
ソビエシュは、
ますますナビエが怪しいと
思いました。
ソビエシュは、
ナビエがいない間に
彼女の部屋を捜索しなければと
思いました。
◇警告◇
トロビー家の邸内を
何度探しても
物足りなかったソビエシュは
トロビー家を出る前に
公爵夫妻に
コシャールが
自分の赤ちゃんを殺すために
あらゆることをしでかした。
皇后の面子を立てて
公式的な追及はしないが
コシャールは追放すると告げました。
息子が処罰を受けると聞いた
トロビー公爵は
額に手を当ててよろけました。
公爵夫人は夫を支えながら
ソビエシュを恨めしそうに見ました。
ナビエに似た視線に
ソビエシュは訳もなく
心臓がひやりとしましたが、
ソビエシュは
コシャールは追放されている間、
東大帝国で
いかなる法的権限も行使できない。
戻ってきたら、
すぐに刑務所へ入れられると
警告しました。
◇再会◇
魔法都市ウィルウォルは
明るく元気いっぱいで
まだ魔力消失現象が
人々を
憂鬱にさせていないようでした。
ナビエを護衛するために
付いてきた騎士たちが
不思議そうに周囲を
キョロキョロ見回す間
ナビエはゆっくり歩きました。
そして、
以前、ハインリと一緒に立ち寄った
食堂の前へ来ると
ひとりでに足が止まりました。
まだ1年も経っていないのに
あの時、楽しく笑って騒いだことが
はるか昔のように思えました。
強く懐かしさを覚えたナビエは
お腹が空いたと言い訳をして
店の中へ入りました。
ところが、以前、
ハインリと一緒に座った席に
見慣れた後ろ姿が見えました。
すでに王になった人が
ここにいるはずがないのに
何度見ても、
ハインリのようでした。
顔を確認して、
他の人なら近くに座るつもりでしたが
やはりハインリでした。
思いがけなかったのか
ハインリもナビエを見ると
飛び跳ねました。
彼のナビエを見る表情は明るく
先ほどまでの
ナビエの暗い心が消えて
一緒に笑いました。
騎士たちを別の席に座らせ
ナビエはハインリと同じ席に
座りました。
ハインリは、
この食堂でナビエに会えたことに
どれだけ驚き
どれだけ感動しているか
ナビエにはわからないと思うと
話しました。
ナビエはハインリにとっても
この食堂が
特別な思い出になっているのかと
思いました。
ナビエはハインリのことを
王と呼ぼうとすると
彼は、ハインリと呼んでくれと
頼みました。
ナビエは、ハインリと呼ぶと
彼は恥ずかしいのか
真っ赤になって
視線をそらしました。
ナビエは、
ハインリがどうやって、
ここへ来たのか尋ねました。
周りには、
彼の護衛も見えませんでした。
ハインリは、
家臣たちの小言を避けて
こっそり遊びに来たと
笑いながら答えました。
王が内緒で遊びに来られるものなのか。
危険だし、それが可能なのかと
ナビエは驚きました。
ハインリはニヤリと笑って
西王国の王族ほど
脱出の才能がある者はいないはずだと
呟きました。
それは危険だと言うナビエにハインリは
今日みたいに、危険を冒せば
驚くべきステキなことが起こると
言いました。
ナビエには
ハインリは、
自分に会うことが素晴らしいと
言っているように聞こえました。
それが戯言でも、本気でなくても
自分の錯覚でも
人を気持ちよくさせてくれる言葉だと
ナビエは思いました。
ハインリは彼女をじっと見つめ
会いたかったと言いました。
驚くナビエにハインリは、
ナビエと共に過ごした日々は
自分が王子として自由に過ごした
最後の日々だったからと
付け加えました。
そして、唸り声を上げて
俯く姿を見て、ナビエは
彼が公務で大変なのかと思い、
自分が皇后の座に
就いたばかりの時の
不安な気持ちを思い出しました。
ナビエは彼を慰めましたが
ハインリは、仕事のことで
泣き言を口にしたのではない、
いつか機会があれば話す、
仕事は難しくないと
言いました。
ナビエは戸惑っていると
ハインリは自信満々に笑いながら
カップを手にしました。
◇王妃に迎えたい人◇
その後、食事が運ばれてきて
店の従業員がいなくなると
ハインリは、
早く王妃を迎えるように
臣下たちに促されていると
躊躇いながら打ち明けました。
そして、
彼は皇太子ではなかったので
結婚問題から少し自由だった。
自分に必要な王妃は
すぐに国政に参加できる人。
いくら鋭敏な令嬢でも
皇太子妃の時代がない人が
すぐに国政に参加するのは難しいと
言いました。
ハインリの言葉に一理あると思い
ナビエはゆっくり頷くと
ハインリは、
クイーンを見ていたら
理想が高くなった。
クイーンのような人でなければ
王妃に迎えることができないと
言いました。
彼の言葉は
冗談めかしていましたが
瞳は真剣でした。
きまりの悪くなったナビエは
気まずそうに笑いながら
視線を避けました。
ソビエシュは自分と
離婚しようとしているのに
ハインリは自分のような王妃を
迎えたがっているので
訳もなくすっきりしない気分に
なりました。
ハインリは
ナビエの顔色をうかがいながら
クイーンが西王国の王妃になったら
国民が大喜びするだろうと
時々考えると話しました。
最終的に
ラスタの奴隷売買証書は
エルギ公爵の部屋から
見つかりますが
なぜ、エルギ公爵が
持っていたかは
明らかになっていません。
エルギ公爵の部下が
ソビエシュの騎士の
ふりをして
コシャールから
証書を取り上げたのか、
それとも、
騎士を買収していたのかと
勝手に想像しています。
この時点で、ハインリは
自分の思いをナビエ様に
受けて入れてもらえるとは
思っていないでしょうけれど
ナビエ様のことが
本当に好きで好きでたまらない
ハインリの
ストレートな愛の表現が
心に染み入ります。
ここでハインリがナビエ様に
王妃になって欲しいと言わなければ
この後、ナビエ様自ら、
王妃になると言わなかったと
思います。
可能性はほとんど0なのに、
必死で思いを伝えたハインリの
逆転勝利です。
ラスタと出会ってからのソビエシュは
ナビエ様をけなしたり、批判したりと
ひどいことをたくさんしましたが、
ハインリは、
ナビエ様を褒めてばかりいます。
残酷な性格をしていても、
ナビエ様を心底愛するハインリを
ナビエ様が愛するのも、
当然だと思います。