69話 ナビエが王妃になってくれたら、国民が大喜びするとハインリに言われましたが・・・
◇命を懸けた誓◇
夫は、自分を捨てたくて
離婚するのを待っていて、
自分のことを薄情で不親切だと言って
責めるのに
他国の王は
国民が自分を愛してくれると
称賛する。
奇妙なことだと
ナビエは思いました。
ナビエは笑って
お礼の言葉を述べました。
ハインリは、すぐに
ナビエの表情が暗いことに気付き
何かあったのかと
真剣に尋ねました。
ナビエは答えませんでした。
ハインリは良い友達だとしても
自分の屈辱的な事情を
全部話したくありませんでした。
自分の過ちではないと知っていても
もうすぐ、一方的に
ソビエシュに離婚されると話すのは
プライドが傷つきました。
ハインリは
それ以上問い詰める代わりに
口先だけで称賛したのではなく
本気だ。
クイーンが王妃だったらいいと
断固とした声で言いました。
誰が聞いても
冗談に聞こえませんでした。
ナビエは、
本当に自分を王妃として
迎えてくれと言ったら
どうするかと尋ねました。
彼は飛び切りの笑顔で
そうなれば、
本当に良いことだと答えました。
ナビエは冗談だと言いましたが
ハインリは、
自分は本気だ。
クイーンが自分の所へ来たら
すぐにクイーンを連れて行く。
命を懸けて誓うことができると
言いました。
彼が本気で言っているのか
ナビエを慰めるために
空事を言っているのかは
分かりませんでしたが
気分は悪くありませんでした。
ナビエは、ハインリが
自分のことを
よく見てくれていることに
お礼を言いました。
ハインリは、
ありのままを見ただけだと
伝えました。
しばらく2人は
静かに食事をしました。
◇エベリーの嘆き◇
食事が終わるころ、ハインリは、
ナビエが
ウィルウォルへ来た目的を
尋ねました。
彼女は、魔法学園にいる
自分の支援している子の魔力が
消失しつつあるので
慰めに来たと答えました。
ハインリは、
しばらく驚いた表情をしていました。
食事が終わり
魔法学園へ行く途中の道で
ハインリは、食堂にいた時より
静かでした。
初めにナビエが
魔力消失の話をした時は
驚いた様子ではなかったのに
エベリーの話をした後は
何か気になることがあるのか
ずっと深刻な顔をしていました。
彼は魔法学園まで
付いてきました。
ナビエは学長から
エベリーの成績表を
見せてもらいました。
初めの頃、魔法関連の科目は
ほとんど上位にいたのに
最近では、
悲惨なほど落ちていました。
隣で見ていたハインリは
舌打ちをしました。
学長は
エベリーは一生懸命勉強しているのに
ついていけなくて大変そうなこと、
ナビエの支援を受けているのに
結果が出ないので
プレッシャーを感じていること、
前日、無理をして
訓練しているうちに気絶してしまい
その後、魔力が完全に消失したと
話しました。
エベリーに会えば
彼女が負担に思い
さらに彼女に
悪い影響を与えるかもしれないけれど
今のエベリーには
寄り添う人が必要だと思い
ナビエはエベリーに
会うことにしました。
ハインリは付いてきましたが
部屋の外で待っていました。
エベリーはナビエを見ると
泣き出しました。
ナビエは彼女を抱きしめて慰めると
エベリーは
さらに大声で泣きじゃくったので
ナビエの目頭が熱くなりました。
エベリーが少し落ち着くと
2人はベッドに並んで座り、
エベリーが魔法使いであろうと
なかろうと
エベリーは自分にとって
大切な存在だから
ずっと彼女を助ける。
身体が壊れるまで苦しまないように、
と話しました。
けれども、エベリーは
皇后の役に立つことが
一生の目的だった。
でも、自分は魔力以外
何も持っていないので
魔法使いになって
皇后の役に立ちたいと思っていた。
それなのに、
自分から魔力が消えたら
自分の価値が消えるのと同じだと
泣きながら言いました。
ナビエは、
泣き疲れてエベリーが眠るまで
そばにいました。
◇恐怖◇
ハインリはドアの横の壁に
もたれたかかったまま
目を閉じていましたが、
ナビエが部屋から出てくると
彼はパッと目を開けました。
魔法学園での用事が全て済んだので
ナビエはハインリと一緒に
魔法学園を一周してから
帰ることにしました。
学長が、貸してくれた
学生用のローブを着ると
誰もナビエとハインリを
気にしませんでした。
ハインリに、エベリーのことを
聞かれたので、ナビエは
エベリーにとって
魔力は単純な能力ではない、
あの子の気持ちがよくわかると
率直に答えました。
ソビエシュが離婚を決心したのだから
自分はやられるだけ。
離婚を拒否して
裁判を起こすこともできるけれど
時間稼ぎにすぎず、
いずれ自分は皇后の座から追い出される。
離婚するまでの長い過程で
自分の評判は落ちる。
最初、人々は
ソビエシュを罵るだろうけれど
長い時間がかかれば、
プライドを捨ててまで
皇后の座に執着していると言われると
思いました。
ナビエは、ハインリに
エベリーは魔法能力に
自分の価値と使い道があると
思っている。自分も同じ。
自分は皇后であることに、
自分の価値と使い道があると
思っている。
それが消えてしまえば
絶望的な気持ちになる。
悲惨で漠然として
先が見えなくなってしまうと
話しました。
ソビエシュがラスタを連れて来て
自分を無視した時、
人々に同情されたけれど、
皇后は自分なので我慢できた。
自分が生涯学んできたことが
自分を支えてくれた。
これは皇后として生きるもので
ソビエシュの妻として
生きるものではなかったから。
けれども、今、その全てが
なくなろうとしている。
皇后ではないナビエって何なのか。
皇后でないナビエは
どうやって生きていくのか
見当もつかない。
みんな私を扱いにくいと
思うだろうから
平凡な貴族の令嬢にも戻れない。
兄が追放され
自分が皇后の座を追われたら
両親と家門は笑いものになると
ナビエは考えました。
ハインリは
しばらく当惑していましたが
ぎこちなく笑いながら
クイーンは
皇后の座を奪われることがないのに
どうして、その気持ちが
わかるのかと尋ねました。
ナビエは返事をしないので
ハインリの顔は暗くなりました。
彼は、何かあったのかと
ナビエに聞きましたが
今度も彼女は答えませんでした。
ハインリは歩くのを止め
ナビエの方を見ました。
ナビエは無言で
ぼんやりとハインリを見上げました。
自分は何をすればいいのか。
自分は何になってしまうのか。
皇后でない自分は、
一体、どうやって
生きて行けばよいのか。
ナビエは恐怖で
身体がブルブル震えてきました。
ハインリは何度も
ナビエを呼びました。
彼女は大丈夫と言おうとしましたが
唇が震えて、声が出ませんでした。
ナビエが落ち着かないので
ハインリは、彼女の名前を呼び
両手でナビエの顔を包み込みました。
◇プロポーズ◇
ハインリの手の温かさが
顔に広がるにつれて
恐怖に襲われていた
ナビエの心が少し落ち着きました。
ハインリの瞳は揺れていました。
彼は恐れおののいていました。
彼が怖がるのを見て
ナビエは
落ち着きを取り戻して行きました。
ナビエは、本当に自分が
王妃だったらいいのかと
衝動的に質問しました。
ハインリは口をパクパクさせました。
ナビエは、
狂ったことを言っていると
思いながらも
ハインリの返事を待ちました。
彼は震える声で、
望むと答えました。
ナビエは、ハインリの手の上に
自分の手を置いて
彼の王妃になると告げました。
皇后でなくなった後
自分はどうしたらいいのか
ナビエ様の心の叫びが
胸に迫って来ました。
カフメン大公の言う通り
彼女の心は壊れてしまう寸前だったと
思います。
子供の頃から
皇后になる選択肢しかなかった
ナビエ様には
皇后になる以外の未来は
考えられなくなっていたのだと
思います。
悪く言えば、
自分の進む道を決めるために
王妃になって欲しいという
ハインリの申し出に
飛びついてしまったわけですが
ナビエ様本人も認めているように
相手がハインリだから
王妃になろうと思ったのだと
思います。
最初の動機はどうであれ
ハインリと結婚をし
ナビエ様はとても幸せになりました。
ナビエ様の選択は、
間違っていませんでした。