外伝50話 モテがグローリーエムではないかとソビエシュは思いました。
◇本当にモテは男?◇
露骨なソビエシュの表情の変化に
ベルディ子爵夫人と
近衛騎士団長が気付きました。
近衛騎士団長は
ソビエシュの調子が悪く
また倒れるのではないかと思い
彼を支えました。
ソビエシュは、違うと言って
手と首を振りました。
意地を張っているのではなく
いつにも増して
頭がはっきりしていました。
ソビエシュは、
ベルディ子爵夫人に
シーシーをすぐに連れてくるように
言いました。
なぜシーシーを呼ぶのか
ベルディ子爵夫人は
不安になりましたが
彼女と一緒に行くように
ソビエシュが
オロレオ(近衛騎士団長)に
命じたので
ベルディ子爵夫人は
仕方なく宮殿を出て
シーシーを連れて来ました。
パーティがあるので
会えないと言っていたソビエシュが
シーシーを呼んだので
彼女は途方に暮れました。
ベルディ子爵夫人も
何が何だかわかりませんでした。
ソビエシュは宮殿とは思えない
小さな庭に1人でいました。
シーシーがソビエシュに近づくと
彼は切羽詰まった顔をしていました。
ソビエシュは、
シーシーが以前連れて来た
ベルディ子爵夫人を
探すのを助けてくれた友達は
男かと確認しました。
シーシーは男だと答えました。
ソビエシュは
友達が男だと
目で確かめたことがあるか
尋ねました。
シーシーは、
幼馴染だけれど
そういうことを確認するのは
ちょっと・・・
と言葉を濁しました。
シーシーは
モテに何か問題があるのかと
尋ねました。
ソビエシュはその名前を
つい最近聞いたような気がしました。
何度かその名前を唱えているうちに
宝石を
探してくれた子だということに
気が付きました。
ソビエシュはシーシーが
常時泉の中で育ったのかと尋ねました。
そのことは話していないのに
どうしてわかったのか。
シーシーは当惑しましたが
もじもじしながら
頷きました。
シーシーが帰るや否や
ソビエシュは騎士団長に
ケルドレックを急いで呼ぶように
指示しました。
◇笑顔を見たい◇
宝石に問題が起こったのかと思い
ソビエシュの元へ
駆け付けたケルドレックは
いきなり、ソビエシュに
モテという子は女の子だったのか。
と聞かれ
シーシー以上に当惑しました。
突然、モテの
出生の秘密について聞かれたので
ケルドレックは
視線を固定することが
できませんでした。
ケルドレックは、
しらを切ろうと思いましたが
ソビエシュが泣いているので
困り果てました。
富川主夫妻が
モテの正体を秘密にして育てたのは
皇帝がモテを嫌い
見つかれば殺されるか
幽閉されると思ったからでした。
けれども、ソビエシュは
モテを恋しがっているように
見えました。
ケルドレックの心が揺れました。
もしも皇帝が
モテよりも先に真実に気づいて
この質問をしてきたのなら
ケルドレックは仕方なく
打ち明けていたかも
しれませんでした。
しかし、モテが先に
自分が廃位になった
皇女だと知り
荷物をまとめて
何も言わずに出て行きました。
ここでケルドレックが
真実を教えては
行けないと思いました。
それに、シーシーは
剣術に興味がなかったので
ケルドレックとは
親しくなかったけれど
彼女が幼い頃から
成長するのを見守ってきたので
彼女を傷つけたくありませんでした。
ケルドレックは
モテが男だと嘘をつきました。
しかし、ソビエシュは
冷たく微笑みながら
すでにシーシーから
モテが女の子だと
聞いている。
自然に嘘をつくんだな。
と皮肉を言いました。
ケルドレックは
顔から血の気が引きました。
モテが女の子であることは
常時泉の子供たちに
秘密にしていました。
けれども、モテとシーシーは
仲が良かったので
秘密を聞いていたかも
しれませんでした。
ソビエシュは
ケルドレックに
探りを入れただけでしたが
彼は、自分が嘘をついたことを
皇帝が知っていると思い
どんな罰を受けるかと思うと
自分の手をぎゅっと握りしめました。
ソビエシュは
目の前に娘がいたのに
2度も逃してしまった。
と言いました。
ソビエシュは
ケルドレックの反応を見て
モテが男装をした女の子で
自分の娘だと確信しました。
嘘をついたことで
縮こまっていた
ケルドレックでしたが
勇気を振り絞って
モテを捕まえて欲しくない
と言いました。
ソビエシュは威圧的に
ケルドレックを見下ろしました。
狂った皇帝と聞いていたけれど
ソビエシュは
本当に目つきが悪いと思いました。
その恐ろしい視線に
ケルドレックはつばを飲み込み
モテが先に真実を知った。
それなのに、あの子は
去っていった。
自分はあの子の実父でも
養父でもないので
こんなことを言う資格は
ないかもしれないけれど
あの子のためを思うなら
知らないふりをした方が良い。
と言いましたが
自分はおかしくなってしまった、
黙っていれば良かったと
思いました。
ソビエシュはケルドレックに
お前の出る幕ではない。
水をかけられたから
帰ってもいい。
と言いました。
ケルドレックは
よろけながら立ち上がりましたが
ソビエシュは
当分は残って欲しい。
時が来れば出発しても良いと
伝えるように。
と言いました。
ケルドレックが帰った後
ソビエシュは
彼が首都から出ないように
よく見ているように。
隠れて見張らなくても良いと
命じました。
そして、ソビエシュは部屋へ戻り
密かに出かける時に着る服に
着替えました。
そばで様子を見ていた騎士団長は
家を尋ねるのかと聞きました。
以前より、
状況は好転しているとはいえ
まだ幻想と幻聴に
悩まされているソビエシュが
また病気になるのではと
騎士団長は心配しました。
しかも、モテは
姫だと知りながら立ち去ったので
会ったところで
良い返事が来るとは
思えませんでした。
ソビエシュは
一度だけきちんと顔を見たい。
一度だけ笑顔を見たい。
と囁きました。
そして、自分のそばに
来ることができなくても
遠くからでも豊かに暮らせるように
助けたい、と言いました。
着替えたソビエシュは
出発しました。
騎士団長も
近衛騎士であることを示すものを外し
彼の後を追いました。
モテをアンだと誤解した日
ソビエシュは念のため
モテに人を付けていました。
今も付いているはずだから
モテの位置を知るのは
それ程難しくないはずでした。
◇兄に会いたい◇
自分の正体を知り
全てを知りながら
立ち去らなければならない悲しみなど
複雑な感情が絡み合っていたモテは
一歩遅れて
ラリのことを思い出し
苦しくなりました。
ソビエシュ皇帝が実父かどうかは
わからないけれど
ラスタ皇后が実母であることは確か。
モテの知る限りでは
ナビエ皇后とラスタ皇后は
仲が良くない。
ナビエ皇后の娘のラルス皇女が
自分を側近の騎士に
してくれるだろうか。
ラリ皇女とソビエシュ皇帝は
仲が良いので
自分がラスタ皇后の娘でも
気にしないかもしれないけれど
これは最大限肯定的な推測で
逆に冷たくされるかもしれない。
だからと言って
それを恐れて
隠していれば
後で事実を知った時に
ラリ皇女が騙されたと思い
不愉快になるかもしれないと
モテは思いました。
やはり話すべきだと
モテは思いましたが
まだ騎士の叙任を受けていないモテが
一国の皇女と会い
個人的に話すのは
大変骨の折れることでした。
モテは、それについて
考えながら歩いていると
分かれ道にやって来ました。
片方の道の端に
リムウェル領地と書かれていました。
私が本当に悲運の皇女なら
私のお兄さんは
あそこに住んでいるのだろうか。
悲運の皇女のお兄さんの話は
聞いたことがありましたが
当時は、全く関心がなくて
聞き流していました。
モテは手綱を握ったり
離したりしながら
悩みました。
父親が同じか違うかは
わからないけれど
母親が同じなのは確かでした。
その人は、
元気で暮らしているだろうか。
思いがけず、
兄がいたことがわかり
モテは会いたくなりました。
奴隷だと聞いているけれど
とても苦労して
暮らしていたらどうしよう?
モテは、悩んだ末
リムウェル領地へ向きを変えました。
モテは
領地内の食事ができる旅館に
入りました。
そして従業員に食事の注文をしながら
あの城に、アンという人がいるか
尋ねましたが
口にした後で
あからさまに、
そんな質問をしたことに
しまったと思いました。
ところが
そのような人が来たのは
一度や二度ではないようで
従業員は
お姫様のお兄さんを
見物に来たの?
それなら、見世物ではないので
帰りなさい。
何を期待しているのか
わからないけれど
普通の人です。
とてもよく暮らしているので
立ち寄らないように。
どうせ城の外へは出られません。
と言いました。
モテは
兄が元気で暮らしていることを
聞けて良かった。
城の外へ出ないのなら
顔も見るのも難しいだろう
と思いました。
そして食事をしながら
兄への好奇心や心配や恋しさを
後ろへ追いやりました。
従業員が
味方になってくれているのなら
いじめられていないだろう。
とモテは思いました。
◇狩場で◇
モテはその旅館へ一泊し
馬を休ませました。
翌日、宿泊代を払う時に
隣の領地に最も早く抜ける道を
尋ねました。
色々な理由で一晩泊まったけれど
再び気が焦ってしまい
誰も追ってくる人はいないのに
両親に会いたくなりました。
従業員は狩場へ行けばいいと
言いました。
狩場の中へ入ってよいのか
モテが尋ねると
従業員は
急用があればそこを通る。
普段はほとんど使わない。
と答えました。
モテは馬に飛び乗りました。
狩場を通り過ぎている時
後ろから話し声が聞こえました。
その音が速いスピードで
近づいてきたので
モテもつられて
スピードを上げると
モテを呼ぶ声がしました。
四方八方に
鳴き声の混じった
男の声が響き渡りました。
モテは、その声が
皇帝の声であることに
気が付きました。
なぜ来たのかわかりませんでしたが
モテは反射的に手綱を振りました。
もう一度、
モテを呼ぶ声が聞こえましたが
彼女は振り向かず先を急ごうとすると
後ろで、馬の裂けるような
悲鳴が聞こえました。
どうしたのかと思い
モテは走るのを止め振り返りました。
悲鳴と共に
沈黙が起きたので
モテは心配になりました。
馬から降りて
そちらへ向かうと
馬は罠を踏んだのか
地面に倒れていました。
ソビエシュも
馬から落ちた時に
別の罠を踏んだようで
地面に倒れていました。
そして、何とか上体を起こすと
足から罠を引き抜こうと
していましたが
うまく行かないのか
苦痛に満ちたうめき声を
上げていました。
彼はモテがそばに来たことに
気づいていないようでした。
1人で来てはいないだろう。
帰らなければ、
放っておかなければ。
と考えながら
モテは無理やり足を後ろへ引くと
落ち葉を踏む音がしました。
ソビエシュは
罠を外そうとするのを止め
そちらへ顔を向けました。
モテと目が合いました。
かつてラスタが
リムウェル領地で
罠にかかったのを
ソビエシュが助けましたが
今度は、同じ場所で
ソビエシュが罠にかかりました。
作者様は
モテとソビエシュの再会を
彼とラスタとの出会いに
重ねることで
ドラマティックに
演出したかったのかなと
思います。
マンガの41話、原作45話で
ソビエシュは
ラスタの子供が
いい子かもしれないと
ナビエに言っていますが
大きくなったモテは
友達や兄のことを大事にする
いい子になったと思います。
それは、
ケルドレックの温かい見守りや
富川主夫妻がモテのために
盗賊をやめてもいいと
思ったくらい
モテを愛情を込めて
育てたからなのだと思います。