193話 カルレインの挑発的な態度にラティルは・・・
前日の記憶と
カルレインの服装が重なり、
しばらく、ラティルは
慌ててしまいました。
遅ればせながら、
気を取り直したラティルは、
カルレインを見たところ、
彼の上着がもっと開いていたので
驚きのあまり、
テーブルの上に並んでいるフォークを
叩いてしまいました。
落ちそうになったフォークを
カルレインが素早く受け止めて
元の位置に置きました。
気をつけなければいけないという
カルレインの言葉に、
ラティルは悔しくなり、
自分こそボタンに気をつけろと
抗議するところでしたが、
カルレインの不愛想な顔を見て、
最初から服はあれだけ開いていて
自分が見間違えたのかもしれないと
思いました。
ラティルは、お腹が空いたと言って
食事を始めましたが、
カルレインを呼んだ目的である、
「まだ妊娠したくない時に、
それを心配することなく楽しむ方法」
を、どうやって聞こうか悩みました。
自然に聞けばいいのかもしれませんが
果たして
自然に聞くことができるだろうか。
話しているうちに、
声が震えてくるのではないかと
思いました。
数百人の官吏の前で
話すのは難しくないけれど、
たった1人の側室の前で、
ベッドの話をするのに困惑しました。
時間が経てば
話せるかもしれないと思いましたが
先ほどから、考えが
突拍子もない方へ向かっていました。
怪訝そうな顔で見つめるカルレインに
ラティルは、
ありもしないカボチャを
美味しいと言いました。
そうしているうちに
ようやくラティルが
口を開いた瞬間、
カルレインは
プレゼントがあると言いました。
彼は、先にラティルに
話すように勧めましたが、
彼女は、
先に彼に話すように言いました。
カルレインはラティルの提案を
素直に聞き入れ、
懐に手を入れると
星を編んで作ったような
美しいブレスレットを取り出しました。
ブレスレットは溢れるほど
持っていましたが、
そのブレスレットは
その中でも、ひときわ美しく、
ラティルは嘆声を漏らしました。
玲瓏なのは言うまでもなく、
実際にブレスレットは
微かに輝いていました。
カルレインは、
いよいよ、このブレスレットを
差し上げることになったと
言いました。
ラティルは、前から用意していた
ブレスレットなのかと尋ねると、
カルレインは、
随分前からと答えました。
いつからなのかと
ラティルは気になりましたが、
カルレインは説明する代わりに
ブレスレットの留め具を外し、
ラティルの腕にかけると、
悲しそうに笑いました。
その表情を見たラティルは、
このブレスレットにまつわる
悲しい話があると思いました。
ラティルは、この状況で
ベッドの話をするのは
どうかと思いました。
しかし、カルレインはラティルに
何の話をしようとしていたのか
尋ねました。
彼女は返事をしませんでしたが
カルレインが
ラティルの様子をうかがいました。
彼女は後で話そうかと
何度も悩みましたが、
機会を逃せば、
結局、また聞けなくなると思い
前に、カルレインが
話そうとしたことを
聞きたいと言いました。
彼は何の話を想像しているのか、
顔が暗くなりました。
ラティルは、
カルレインは
良心が咎めるような
顔をしているけれど、
そのような部類の話ではないと
言いました。
彼は不思議そうな顔をしていましたが
ラティルは話す前から
顔に熱気が上がってきました。
ラティルはわざと視線を落とし、
キャベツを切りながら、
妊娠を心配しないで
楽しむ方法について聞きたいと
言いました。
ラティルは、
カルレインの顔色を窺いました。
質問をしてから
数秒も経っていないのに、
彼がすぐに答えないので
不安になりました。
しばらくしてから
カルレインは、
ラナムンと夜を過ごした後で、
このような質問をするということは
もしかして、
ラナムンのための質問かと
尋ねました。
的を得た質問なので、
ラティルは困りました。
ラナムンとだけ、
楽しい夜を過ごすために
聞いたわけではないけれど、
きっかけはラナムンでした。
率直に話すべきか、
違うと言い繕うべきか、
カルレインの行動を
一つ一つ見守っていましたが、
彼もラティルを見つめた瞬間、
彼女は、
過去のことを問わないのは
恋人同士の礼儀ではないかと
答えました。
カルレインは、
不意を突かれたような顔で
ラティルを見つめました。
その表情を見て、彼女は、
自分を困らせるための彼の質問に
きちんと答えられたと思って
嬉しくなり、いつもより
いっそう気分がよくなりました。
そして、カルレインの
外してあるボタンのラインを
上から指でなぞり、
彼が外さなかったボタンを
ゆっくり外しながら、
上の5つのボタンは、
誰が外したのかと尋ねました。
ラティルは
彼をからかおうとしましたが
カルレインは、
少しも恥ずかしがることなく
ラティルの指だけを見下ろしました。
500年も生きているから、
面の皮が厚い。
大胆に振舞いながらも、
自分の行動に
一々反応していたラナムンとは違う。
やはり500歳は老練だと
ラティルが舌打ちすると
カルレインは、ラティルにとって
前の晩の男も、過去の男なのかと
淡々と尋ねました。
彼女は、
未来の男ではないと答えました。
すると、カルレインは、
数時間後、他の側室に
今のように話をすることができる。
その時は、
自分が過去の男になるのかと
尋ねました。
ラティルは、
それが嫌かと尋ねると、
彼は嫌だと答える代わりに
長い足を
ラティルの椅子の脚に引っ掛け、
椅子ごとラティルを
彼の目の前まで引き寄せました。
お互いの息遣いが感じられるほど
近づくと、
ラティルは息を止めました。
カルレインは、
いつの間にか笑っていました。
そして、1日を過ごしただけで
過去になるなんて、
若僧ぼっちゃんであることが
こんなところでバレると
言いました。
そして、
自分の授業期間は長いけれど
大丈夫かと尋ねました。
ラティルは
カルレインの瞳と向き合うと、
昨夜、ラナムンが
首筋にワインを注いだ時のような
衝撃を受けました。
カルレインは、ラティルの手を
ゆっくり持ち上げると、
手首の青い血管が通っている上に
キスをしました。
これは吸血鬼式の
危険な冗談だろうか。
相手が
500年も生きている吸血鬼なら
もう少し、警戒しなければ
ならないのではないか。
血管の上にキスしながら、
狡猾に笑う吸血鬼なら猶更だと
考えました。
ラティルは、
カルレインが吸血鬼だと知って
衝撃を受けてから
大して経っていないのに、
彼の瞳を見て熱くなる自分に
当惑していました。
しかし、偽皇帝事件の時に、
カルレインは、
カリセンに向かう危険な道を
ずっと同行して
自分を守ってくれたせいか、
彼が吸血鬼だと気づいた瞬間、
危険だと警戒はしたけれど、
とても怖くはありませんでした。
それは、ドミスの夢の中で
彼を見たせいかも
しれませんでした。
ラティルは、
ドミスのことを考えると、
カルレインに
亡くなった愛する恋人が
いるという点で、
モヤモヤしました。
その相手は、
自分が夢の中で
熱心に応援していたドミスで、
彼女が養父と詐欺を働いた女と
商人に復讐するまで、
見ておきたかったのに、
彼女のことを考えると
ムカついて来ました。
カルレインは、ラティルに
何を考えているのかと
尋ねました。
彼女は、カルレインのことだと
答えました。
彼は、ラティルの目から
熱気が消えたので、
良いことを考えていないのではと
尋ねました。
ラティルは、
カルレインの愛している
女性のことを思い出したと
答えました。
カルレインは、
過去を問わないのは
恋人同士の礼儀だと言ったのは
ラティルの方だと指摘しました。
彼女は、まだ愛しているなら、
過去ではないと反論すると、
カルレインは、
それならラティルは、
ラナムン自身を
愛していないことになると
言いました。
彼の言葉に一言も同意しないと
答えたラティルは
呆れてカルレインの頬を
つねりましたが、
訳もなく好奇心が湧いて来て
彼の頬を、
牙がちらっと見えるくらい
もう少し引っ張ってみました。
そして、そっと覗いて歯を探ると
変な姿勢になったカルレインは
苦笑いしました。
そして、
それが、そんなに気になるのかと
尋ねると、ラティルは
キスをして、
自分の舌に穴が開いたら困るからと
答えました。
ラティルは照れ臭そうに
手を降ろすと、カルレインは
ラティルの指に触れながら、
自分が吸血鬼だと知った人々の反応は
飽きるほど見て来たけれど、
牙を直接確認したのは
ラティルが初めてだと
打ち明けました。
良い意味なのか悪い意味なのか
考えながら、ラティルは
冷たいけれど柔らかい石のような
カルレインの手触りを感じながら、
教えてくれるのか、くれないのか
彼に催促するかどうか迷いました。
そうしているうちに、ラティルは
他にもカルレインに
聞きたいことがあるのを
思い出しました。
それはなかなか重要な質問でした。
ラティルは、カルレインに
まだ尋ねたいことがある。
聞いてもいいかと尋ねました。
彼は、最初の質問に
答えていないと返事をしましたが
ラティルは、
それは、後で夜に教えるべきことで、
ここでどうやって学ぶのかと
言いました。
ラティルが、
できるだけ大胆なふりをしたのが
効果があったのか、
カルレインは少し驚いた顔をしました。
けれども、すぐに彼は
妙な笑みを浮かべながら、寛大にも
何でも聞いてくださいと答えました。
しかし、ラティルは
カルレインの手をいじっているだけで
簡単に聞くことはできませんでした。
しかし、
彼がちらっと時計を見たことで
業務時間が近づいていることを思い出し
カルレインの手を離して、
フォークを握ると、
カルレインは、側室の志願書で
年齢詐称したのではないかと
素早く尋ねました。
余裕だったカルレインの瞳が
揺れました。
ラティルはカルレインに
本当は何歳かと尋ねました。
カルレインは、
嘘をつくつもりはないのか、
ラティルの顔色を窺いながら
年上は嫌いかと尋ねました。
彼女は、
年上は大丈夫だけれど、
祖先は・・・
と答えると、
カルレインは爆笑しました。
ラティルは気まずくなり、
彼の口を塞ぐと、
本当に、自分の祖先と
同じ年なのかと尋ねました。
ラティルは皇帝だから、
カルレインより優位に立ちたい。
何とか、彼を
やり込めたいという気持ちが
伝わってくるのですが、
500年も生きているカルレインより
潜り抜けて来た修羅場の数も
圧倒的に少ないので、
彼に勝とうなんて
考えない方がいいのではないかと
思います。
ラティルは、
一度、彼が出て行ったことで
大騒ぎしているのですから、
あまり意地悪は言わないでと
思います。
かつてカルレインは
ドミスにひどいことを言って
傷つけたせいか、
ラティルの上げ足を
取るようなことはあっても、
傷つけるようなことは
言わないように思います。