319話 ラティルはラナムンを忙しくさせ、余計なことを考えさせないようにすることにしました。
◇紅葉祭り◇
翌日、ラティルは仕事中に、
皇配ができそうなことを一つ
ラナムンに任せてみたいけれど
何があるかと、
思い出したかのように、
侍従長に尋ねました。
ラナムンを皇配に推している侍従長は
ラティルの言葉に喜び、
にこにこ笑いながら出て行き、
40分ほど後になって戻って来ると
祭りやパーティの準備を
させてみるのがいい。
予算関連は、臨時に手を出すのが
少し難しいからと返事をしました。
ラティルは侍従長から、
もうすぐ紅葉祭りがあると聞くと、
昼食の時に、ラナムンを訪ね、
食事をしながら、
彼に、紅葉祭りを開催するよう
指示しました。
教本のお手本のように、
完璧な姿勢で食事をしていたラナムンは
少し驚いた目でラティルを見ました。
続けてラティルは、
普通は皇配がすることだけれど、
自分には、まだ皇配がいないので、
今後、このようなことも、
一人ずつ順番に任せてみると
説明しました。
カルドンは、
口が裂けそうなくらいの
笑顔を見せていましたが、
意外にも、ラナムンは、
渋っているように見えたので、
また、あの面倒臭い性格が
浮上して来たのかと
ラティルは思いました。
しかし、幸いそうではなさそうで、
ラナムンは素直に承知しました。
けれども、ラナムンは、
ハーレムの仕事は、
タッシールに任せたものと
思っていたと言いました。
ラティルは、
紅葉祭りは国の祭りで、
ハーレム祭りではない。
タッシールに任せたのは
ハーレム内部の管理で、
皇配は、
それら全て引き受けることになると
説明しました。
そして、ラティルは、
ラナムンが対抗者として、
熱心に活動するという
その考えを捨てなければ、
おそらく、ほとんどの仕事を
ラナムンが
引き受けることになるだろうと、
心の中で陰険に笑いながら、
表向きは優しい笑みを浮かべました。
彼女は、
ラナムンを一生懸命動き回らせ、
寝る時間もないようにしてやると
思いました。
◇決意◇
ラティルが去った後、
カルドンは我慢できずに万歳をし、
皇帝はラナムンを信頼していると
叫びました。
続けて、カルドンは、
ハーレムを管理することは、
ハーレム内の者しか
知らないことだけれど、
お祭りを直接開催することで、
全国民が、
ラナムンの業績を知ることになる。
そうなれば、
ラナムンが陛下の寵愛を
最も多く受けていることを
皆が知ることになると言って、
嬉しそうに笑いました。
そして、カルドンは
ラナムンのすぐそばに来て、
ラティルが置いていった書類を
早く見るよう急かしました。
ラナムンは、
こういうのをやったことがないと
心配しましたが、カルドンは、
以前、ゲスターとタッシールが
パーティの準備をする時、
皇帝の秘書が手伝ってくれたと
聞いているので、ラナムンも、
一度見てだめだと思ったら、
皇帝に知らせれば、
秘書をつけてくれると助言しました。
ラナムンは、書類をつまんで
かすかに笑いました。
情熱的な姿を見せたおかげで、
皇帝は、自分に
感心してくれたようだけれど、
まさか、
こんな大事な仕事をくれるとは
思ってもみませんでした。
ラナムンは、
この仕事も対抗者としての仕事も
完璧にやり遂げたい。
そうすれば、皇帝は、
今後、もっと自分のことを
気にかけてくれると思いました。
◇再び◇
一方、夕方頃、
ディジェットから休まず
走って来たカルレインは、
ようやく宮殿に戻って来ました。
そこそこの距離を全速力で走っても、
服の裾さえ皺にしないカルレインが、
すっかり疲れた姿で戻って来たので
デーモンは驚き、
どこに行って来たのか尋ねました。
カルレインは、
「狐の巣窟」「ディジェット」
「陰険な奴」と、
3文字で状況を説明した後、
浴室に入りました。
デーモンは、それを聞いただけで
カルレインが狐の穴にはまり、
ディジェットまで
行って来たことに気づき、
嘆きました。
カルレインが皇帝に
ゲスターの趣味は解剖だと、
話した時から、
ゲスターの復讐を
心配していたデーモンは、
舌を震わせました。
30分ほど経つと、
カルレインは入浴を終えて
浴室の外に出できました。
自ら身体を拭いて
服を着たカルレインは、
デーモンに
付いて来いという言葉もなく、
ゲスターを訪ねました。
彼の胸ぐらをつかんで、
これはどういうことだと
抗議するつもりでした。
とても緊張した様子で、
カルレインを出迎えた
トゥーリを追い出し、
カルレインは、
ゲスターの部屋の扉を開けて
中に入るや否や扉を閉めました。
そして、一歩踏み出した瞬間、
彼の身体が再び滑り落ちました。
カルレインは、
速いスピードで降りて行く、
チューブ型の滑り台のような
場所の中で歯ぎしりをしました。
あの陰険な狐の仮面の奴。
本当に片付けてやる!
◇遊びに行った?◇
翌日、朝食を終えたラティルは
カルレインを訪ねましたが、
彼が、まだ帰っていないので
当惑し、デーモンに
カルレインのことを尋ねました。
彼は、照れくさそうに笑いながら
どこに行ったのか分からない。
急に消えたと答えました。
デーモンの表情を見ると、
何か知っているようなので、
ラティルはさらに腹を立てました。
カルレインは、
遊びに行ったのではないかと思い
彼は、昨日も今日もいないと
デーモンを問い詰めてみましたが、
彼は「はい」と返事をするだけ。
遠くに行ったのかと尋ねると、
デーモンは、
たぶん、そんなに遠くには
行っていないと答えました。
しかし、吸血鬼の速度で
2日以上かかるということは、
かなり遠い所へ行ったのではないか。
それとも吸血鬼の速度で
戻ってくる気がないほど
面白いところに行ったのではないか。
1人で行ったのだろうかと
ラティルは疑いました。
デーモンは、
使いを送ってみようかと提案しましたが
ラティルは、
大丈夫。
カルレインは楽しそうだ。
荷物が増えて
邪魔にならないか心配だと言って
彼に手を振り、背を向けました。
デーモンと別れたラティルは、
すぐにカルレインのことを忘れました。
タッシールの部屋の近くを通った時に、
彼のことを、あれこれ考えて、
胸が苦しくなったためでした。
彼に全て話してあげると言いながら
いざ話そうとすると、
勇気が出ないのは、どうしてなのか。
たった一言、言うのは
難しくないと思いながらも
一時、先皇帝の命令により、
タッシールが、
自分を調査までしたことを
思い出しました。
自分を先皇帝の暗殺者だと
考えたこともあるタッシールに
全てを話せば、自分を、
また疑うようになるのではないかと
心配でした。
しかも、まだ、先皇帝の暗殺者を
探している途中でした。
ラティルは、
簡単に選べることは少ないと
思いました。
彼女の母親は良い家門の出身で、
皇太子妃時代を経て、
皇后の座に就いた
正統性のある皇后でしたが、
結局、高まるストレスに耐えきれず
自ら、神殿に
閉じこもってしまいました。
かつて、他の貴族と
変わらなかった純粋な姿は、
アナッチャと、彼女に従う貴族と
彼女を愛する夫と
向き合っているうちに、
次第に変わっていきました。
ラティルはハーレムを出る頃、
恋人関係について、自分より
よく知っていると思われる母親に
アドバイスを求めれば、
ラナムンの問題は、
解決できるかもしれないと
思いました。
ラティルは、
そのまま母親の部屋を訪ねました。
本を読んでいた母親は、
ラティルが入ってくると
笑いながら、彼女を迎えました。
アナッチャ以外の先皇帝の側室たちは
ラティルが慣例に従って、別宮に送り
皆、そこで多くのお金をもらい、
楽しく過ごしていました。
母親を一番苦しめたアナッチャは、
行方不明になっているせいか、
母親の表情は、
以前、ここに住んでいた時より、
ずっと良くなっていました。
ラティルは、
一緒にお茶を一杯飲みたいと言うと、
母親は頷き、侍女に目をやりました。
侍女が出て行くと、
母親は本を脇に置き、
安らかに笑いながら、
この時間はあまり来ないのに、
どうしたのかと尋ねました。
ラティルは、
母親にアドバイスして欲しいと
頼みました。
母親は、それについて
話すように促すと、
ラティルは、
誘惑したい側室がいるけれど、
どうしたらいいか分からないと
告げました。
最初、母親は、渋い顔をして、
「誘惑したい側室?」と
聞き返しましたが、
ラティルが真剣に頷くと、
母親は爆笑しました。
母親は、
誘惑するのはラティルではなく、
側室たちがやるもの。
ラティルはじっと見守って、
心惹かれる人を
愛せばいいと告げました。
母親の表情は、
すっきりしているようで
悲しそうにも見えました。
ラティルは首を横に振ると、
単に側室だから、
自分が皇帝だからという理由で
誘惑されるのではなく、
本当に真心を得たい側室が
一人いると言いました。
母親はラティルに、
好きな人がいるのかと尋ねました。
母親が誤解しているので、
ラティルは、
すぐに否定しようとしましたが
彼女はラティルが
ロードであることを知らないので、
ラティルが楽な人生を送るために、
対抗者であるラナムンを
本気にさせたいという説明は
できませんでした。
ラティルが、
母親の誤解を解かなかったので、
彼女の口元に、
面白がっているような
笑みが浮かびました。
母親は、自分の娘の心を
つかんでいる男は誰なのかと
尋ねると、ラティルは、
命綱だと答えました。
母親は、
カルレインではないかと
尋ねましたが、
ラティルが返事をしないので、
母親は残念そうに、
自分は彼が一番いいと思うのにと
呟きました。
ラティルは照れくさそうに笑いました。
実際、第一印象で惹かれた人を
挙げるなら、
おそらくカルレインで正解でした。
ラティルは、
彼の致命的で情欲的な美しさに、
初めて会った時から、
強く心が揺れました。
彼が「ご主人様」と呼ぶ時は、
恥ずかしくて、
心臓がドキドキしました。
カルレインの愛する
ドミスという女性が
どんな人だろうかと思った時は、
心が少し痛んだりもしました。
ラティルは、ヒュアツィンテの次に
彼を愛するようになるかもしれないと
思いました。
しかし、
ドミスが自分であることを知ると、
安心する一方で、
その気持ちが妙に変化しました。
彼の愛するドミスが、
自分と同じ魂を持っていることは
知っているけれど、
彼が愛するのはドミスであって、
自分ではないとも考え続けました。
彼との間に、透明だけれど、
厚い壁ができたような
感じがしました。
母親は、ラティルの曖昧な表情に
注目しましたが、
ラティルが再び自分を見ると、
すぐに微笑み、
自分はラティルの父親と
政略結婚をしたので、
どうやって誘惑すればいいのか
分からないと告げました。
ラティルは、母親に、
父親を愛していなかったのかと
尋ねました。
彼女は、
最初は、ただただ仲良くしていた。
愛するようになったのは、
レアンが生まれた後からだ。
自分の子供を一緒に作った人だから
自分がとても愛する子に、
父親の姿が見えるので、
その時から愛するようになったと
答えました。
あまり役に立たない話だったので
ラティルは渋い顔で頷きました。
ラナムンの心をつかむために、
最初に子供を作ることは、
できないと思いました。
母親は、思いやりのある目で
ラティルを見ました。
そして、ラティルは、
自分が彼女の父親を
愛するようになってから
生まれた子だと告げました。
ラティルは、
感動的だと言いましたが、
あまり役に立たないと思い、
ため息をつきました。
どうすればラナムンの心を
掴むことができるのか。
しかも、ギルゴールの視線も
掴む必要がある。
ラナムンの愛と、
ギルゴールの視線の両方を
掴むことができるだろうかと
疑問に思いました。
侍女が運んできたお茶を
数口ですすったラチルは、
すぐに立ち上がりました。
もう帰るのかと尋ねる母親に、
ラティルは、仕事が多いと
答えました。
ラティルは思い出したついでに
キルゴールの所へ
行くことにしました。
温室はまだ工事中なので、
ギルゴールは今、
何をして過ごしているのかと
思いました。
ハーレムに帰って来たばかりなのに
ゲスターに再び遠くへ追いやられた
カルレイン。
彼が、抗議してくることを予想し、
ゲスターは、事前に狐の穴を
開けておいたのでしょうね。
カルレインが、
ゲスターを何とかしてやりたいと
思っても、
その度に、ゲスターが同じ手を使えば
カルレインは、
たまったものではないと思います。
正々堂々と、正面切って戦わず、
陰でこそこそ動くゲスターは
卑怯者なのかもしれませんが、
陰険なやり方であっても、
ライバルを蹴落とすためなら
ゲスターには、
何でもありなのかもしれません。
カルレインはゲスターに
ひどい目に遭ったし、
ラティルの母親は、
夫の側室問題で苦しんだことを
思い出して、
悲しい思いをしましたが、
今回のお話は、タッシールが、
パヒュームローズ商団の頭が
命を奪われたことを知る前の
嵐の前の静かさ的なものを
感じました。