203話 ヘウンに、自分が対抗者だと言われたアイニでしたが・・・
◇会話できる喜び◇
アイニは、前世はロードで、
騎士の恋人だった自分が
今は強くもないのに、
対抗者だと言うヘウンの言葉を
信じられませんでしたが、
彼が、このようなことで
嘘をつく理由はありませんでした。
アイニは、
それならば、対抗者が
2人いることになるのかと、
ヘウンに尋ねました。
彼は、
こういうことは、よく分からない。
自分が感じたままを
話しているだけだと答えました。
アイニは、さらに聞こうとしましたが
サディは対抗者ではないと
カルレインが確信していたことを
思い出しました。
もしも、サディが対抗者でなければ
自分が本当に対抗者なのか・・・
しかし、
対抗者の師匠であるギルゴールは
自分を殺そうとした。
アイニは、自分が対抗者でない理由を
探そうとしましたが、
彼女がギルゴールと会った時、
現世の姿ではなく、
前世の姿をしていたので、
ギルゴールは、それに惑わされて
見間違えたのかもしれないと
思いました。
アイニは考えれば考えるほど、
自分が対抗者かもしれないという
可能性が大きくなっていったので、
混乱しました。
しかし、彼女はすぐに、
自分が対抗者なら、
カルレインを狙わなくて済むので
かえって良かったと
肯定的に考えました。
いっそう明るくなった
アイニの顔を見て、
ヘウンはかすかに笑いました。
そして、アイニが
何を考えているか分からないけれど
良い方へ受け入れてくれて良かったと
言いました。
父親の頼みで、ヘウンが
自分を探していたということは
彼は父親と連絡を取っていると
察したアイニは、
自分は元気でやっているから
心配しないようにと、
父親に伝えて欲しいと頼みました。
ヘウンは、
アイニが行方不明になったことで
カリセンは大騒ぎになっていると
話しました。
彼女は、
ヘウンが生き返ったことでも
カリセンは大騒ぎになったと
告げました。
ヘウンの表情が揺れると、
アイニも罪悪感を覚えましたが
レドロの死体と、
ゾンビになって現われた
友達を思い出して、
その気持ちを押しやりました。
アイニはヘウンに背を向けると、
彼は、その後ろ姿を見て思わず
サディが対抗者かどうかは
分からないけれど、
彼女に特別な力があるかどうかは
もう一度確認してみると言いました。
アイニが振り返ると、ヘウンは
調べた結果は、
どこへ持って行けば良いのかと
尋ねました。
彼は、アイニに再び会えて
このように
会話できる喜びを隠すために
できる限り平然と
彼女を見ようとしました。
◇グリフィン◇
ハーレムに立ち寄って
大神官と食事をした後、
ラティルは百花に、
あれからグリフィンは
現われたかどうか尋ねました。
彼はため息をつきながら、
自分と聖騎士たちとで
熱心に探しているけれど、
一度も見たことがないと答えました。
ラティルが、
おかしい、どうしたんだろう?
と呟くと、百花は
ラティルもグリフィンを
見たけれど、
あえて、皇帝の名は出さずに、
クラインが
見間違えたのではないかと
返事をしました。
内心は絶対に違うと思いながらも、
ラティルは、そうかもしれないと
言いました。
しかし、彼女は
時期が時期なので、
気をつけるに越したことはない。
グリフィンだけでなく、
他の怪物が見つかるかもしれないので
もう少し気を遣って調べるように
指示しました。
話をしている間に、
2人はハーレムの入口近くに
到着しました。
ラティルは湖を眺めながら、
グリフィンについての注意点など
他に知っておくことはあるかと
尋ねました。
グリフィンが、
クラインの目には見えず
ラティルにだけ
見えたことがあったからでした。
百花はしばらく考えた後、
伝説のように伝わっているので
自分も何が事実か分からないと
前置きをしたうえで、
グリフィンの吐く言葉は
90%嘘だ。
戯言で人々を誘い出すと、
自信なさそうに説明しました。
ラティルは、
人を発見したら、
釣り上げて放り投げるグリフィンが
どうやって、
会話をしたのだろうかと
尋ねました。
百花は首を傾げると、
伝説のような話なので、
自分にもわからないと答えました。
分かったと言って、
頷いたラティルは、
なぜ、伝説の辻妻が合わないのか
考えながら、
自分の部屋へ戻りました。
そして、寝室に入ると、
侍女たちに
お風呂の用意を指示しました。
その間、ラティルは
窓際に椅子を置いて座り、
本を取り出して開きました。
15分程経ってから、
お風呂の用意ができたと
侍女たちが知らせに来ましたが、
ラティルは、くつろいでいたので、
今すぐ、お風呂に入るつもりはなく
侍女たちに出て行くように
指示しました。
そして、読んでいた本を
最後まで読み終えると、
椅子から立ち上がりました。
ところが、
以前、クラインの窓の所にいた
小さなグリフィン、
百花の推測によれば、
子供のグリフィンが
少し悲しそうな表情で、
ラティルの部屋の窓の所にいたので
驚きました。
ラティルは人を呼ぶべきかどうか
悩んだ末、
グリフィンに近づきました。
狂暴だという噂を聞いていたけれど
どう見ても、
ライオンの尾が付いているだけの
鳥のようで、
脅威的に感じられませんでした。
油断させるためかもしれないと
思いつつ、ラティルは
窓をそっと開けると、
グリフィンは逃げる代わりに
ラティルを見つめました。
鳥が小さすぎるせいか、
ラティルは親近感を覚えました。
その瞬間、
ラティルを悲しそうに眺めていた
グリフィンが、
突然、大きな目から
涙をポロポロ流しながら
泣き始めました。
どうして泣いているの?
ラティルは、
相手がグリフィンであることを
忘れて、話しかけましたが
返事が返ってくるはずがないと、
すぐに悟りました。
ところが、
グリフィンは質問を聞くや否や
すぐに返事をしました。
私のロード、ついに会えました。
小鳥が話すにしては
随分、太い声なので
ラティルは慌てて、眉を上げると
赤ちゃんグリフィンは
ラティルをじっと見て
ライオンの尻尾で窓枠を
ポンポン叩きながら
羽で自分の顔を覆いました。
わあわあ泣きながら待っていたら
声がこんなに枯れました。
お前、声が太い、
いや、言葉を話すのね。
ラティルは、慌てて
口をパクパクさせましたが、
今、問題なのは
グリフィンが話ができることではなく
あの鳥が自分のことを
ロードと呼んだことでした。
僕はまだ身体が小さいんです、
ロード。
でも250年だけ待ってくれれば
この身体も大きくなるので
心配しないでください。
ロードって?
私のことをロードって言ったの?
ラティルは、どれほど困惑したのか
声が震えていました。
グリフィンは目を瞬いて
首を傾げながら
ロードではありませんか?
と尋ねました。
ラティルは、
違うと返事をしたものの
動悸がしました。
自分がロードかもしれないという
可能性を何とか受け入れたものの
衝撃的でした。
しかも、
ロードが乗っているという鳥が
自分を訪ねてきて、
ロードと呼んだので
背筋がぞっとしました。
自分は本当にロードなのか?
ギルゴールは何か間違えたのかと
思いました。
でも、百花は
グリフィンの言うことは
90%嘘だと話していたので
あのグリフィンは、
自分を誘うために
嘘をついているのかと思いました。
しかし、
自分がロードの部下だという嘘を
つくだろうか?
あの言葉が10%の真実ではないことが
どうしてわかるのか、
ラティルは心臓がドキドキしました。
ところが
ラティルの緊張感が
最高潮に達した瞬間、
あれ、本当に
ロードじゃないのですか?
とグリフィンは
目を丸くして尋ねました。
ラティルは、違うと答えると
グリフィンは、恥ずかしそうに
ごめんなさい。
ロードかと思いました。
と謝りました。
そして、
飾ると綺麗だと言って
お詫びの印に
自分の羽を一本抜いて、
ラティルに渡すと
飛んで行ってしまいました。
ラティルは呆れて口を開けたまま、
遠ざかるライオンの尻尾を
見ました。
完全に見えなくなると、
グリフィンが残して行った
羽を見ながら
自分は対抗者なのか。
もしもロードなら、
違うと返事をしただけで、
ロードに仕える鳥が
あんな風に行ってしまうことは
ないだろうと思いました。
◇約束◇
ラティルは、翌日の夜明けに
図書館へ走って行き、
朝食も食べずに
グリフィンのことを調べましたが
これといった内容は
ありませんでした。
結局、ラティルは
普段通り、業務を行いましたが、
その日は、ギルゴールと
会うことになっていました。
数日前、彼が案内した邸宅迷路から
ラティルが
簡単に脱出してしまったので
ギルゴールは
訓練内容を変更すると言って、
また会う約束をしていました。
彼より強くなるには、
学ばなければいけないし、
グリフィンについても
聞きたかったので、
ラティルは、
しなければならない業務を終えた後、
秘密の場所へ行って、
仮面をかぶり、着替えると
宮殿を抜け出しました。
◇特別なデザート◇
約束の場所は、あの邸宅迷路で、
ギルゴールは庭で待っていました。
ラティルは笑いながら、
彼に手を振りましたが、
ギルゴールの表情が
いつもより楽しそうなので、
ラティルは怪しいと思いました。
ラティルはギルゴールに
何かいいことがあったのか、
普段も楽しそうだけれど、
今日はひときわ楽しそうだと
指摘すると、彼は、
弟子のための
特別なデザートを見つけたと
返事をしました。
ラティルは、
また花なのかと尋ねましたが、
ギルゴールは
弟子が強くなるのに
役立つデザートだ。
食べ物ではないと答えました。
ラティルは、
まさか迷路を、
もっと複雑にしているのか、
いや、そんなことはないだろうと
怪しんでいると、
ギルゴールは邸宅の中へ入りました。
また閉じ込められるのではないかと
ラティルは疑いましたが、
ギルゴールは先に歩いて行きました。
ラティルは
慎重に後について行きました。
一見するだけで、
以前と迷路の配置が
変わっていました。
そして、ギルゴールが
ある部屋の扉を開けて中へ入ると
正常な室内が現われました。
それでも、ラティルは警戒を緩めずに、
周りをキョロキョロ見回していると、
ギルゴールはにっこり笑いながら、
以前、ラティルが
食餌鬼と戦ったことがあることを
確認しました。
ラティルは、戦ったことがあると
返事をした後、
もしかして、
自分と戦わせるために
食餌鬼を捕まえておいたのかと
尋ねました。
ギルゴールは、
察しがいいと、感嘆して、
ソファーの後ろへ歩いて行くと、
そこから縛られている何かを
立ち上がらせました。
ギルゴールは、
対抗者の剣で、
食餌鬼を退治してみてと
指示しました。
ラティルは何も考えずに、
壁にかかっていた対抗者の剣を
鞘から抜きましたが、
ギルゴールの捕まえている食餌鬼が
ヘウン皇子だったので、
彼女は目を丸くして驚きました。
ギルゴールは、
食餌鬼の首を叩きながら笑いました。
ゾンビを1人、
手に入れようと思ったけれど、
ちょうど、
目の前を通り過ぎて行った。
退治してみて。
ちなみに首を切っても駄目だよ。
ヘウンが反乱を起こす前まで、
どのような人生を送っていたのか
分かりませんが、
アイニを好きになってしまったせいで
人生を狂わせてしまったように
思います。
アイニと何の関わりを持たなかったら
クラインのように、
お気楽な皇子のままで
いられたかもしれません。
アイニへの純粋な想いを
ダガ公爵と彼女に利用されている
ヘウンが哀れです。