225話 アイニがカルレインを前世の恋人だと言ったことに、ラティルは疑問を抱きました。
◇奇妙な指示◇
アイニについての考えを整理する前に、
ラティルは、
「お客様がいらっしゃいます」と
誰かが叫んだのを聞き、
ドミスの視線に集中しました。
大きな扉が開くと、
仮面舞踏会なのか、
仮面をかぶった人たちが
うようよしていました。
押し寄せて来た客たちが、
どこかへ駆けつけると、
いつもより
格式ばった服装の下女長が
後ろで鐘を振りました。
そして、下女たちを
客が通らない廊下へ連れて行き、
壁沿いに並ばせると、
絶対にお客さんと
口を聞いてはいけない。
必ず2人1組で行動すること。
1人が勝手にいなくなり、
2人1組でなくなったら、
直ぐに自分に知らせるように。
と命じました。
どうして、あんなことを言うのか
ラティルも下女たちも、
怪訝に思いました。
ドミスは、
規則を破ったら死ぬかもしれない。
どうかアニャさんが
今日は規則を破らないように。
自分がアニャさんとペアを組めば
自分がずっと付いていられると
考えていました。
しかし、ドミスは
別の下女とペアを組むことになり、
彼女も、ドミスとペアになったことが
気に入らないようでした。
下女長は、
最近、長期滞在者と
トラブルを起こしたドミスに、
誰が声をかけても、
絶対に返事をするなと
念を押しました。
下女長の話した条件が
気に入らないけれど、
後にドミスは
カルレインと親しくなってから
死ぬので、
ここでは何も起こらないだろうと
ラティルは考えました。
◇謝るアニャ◇
ラティルが考え事をしている間に
ドミスは宴会場で
料理を並べていました。
そして、ワゴンから
器を半分くらい移し替えた時に
誰かが後ろから
ドミスを呼びました。
彼女は驚いて後ろを振り向くと
仮面を片手に持った義妹のアニャが
立っていたので、
さらに彼女は驚きました。
アニャは、
ドミスに話があると言いました。
アニャは、以前より
落ち着いた様子だし、
謝罪するようにも見えたので、
母親に怒られて来たのかと
思ったラティルは
少し安心しましたが、
下女たちは客と話してはいけないと
命じられていました。
ドミスは、アニャに背を向けると
自分の仕事に戻りましたが、
アニャは、もう一度、
自分が呼んでいるのにと
声をかけました。
けれども、
この城に長くいるドミスは
ここでの規則が需要だということを
知っていたので、
今回も返事をしませんでした。
それに、下女長からも
念を押されていました。
アニャは、
怒ろうとしているのではないので
返事をしてくれないか。
先日のことは、
自分が勝手に決めつけて
怒ったような気がするから、
謝りたいと言いました。
ドミスは心臓がドキドキしましたが、
屈することなく
自分のすべきことをしました。
アニャの表情が、
ますます硬くなっていきました。
ラティルは、
よりによって、なぜ、アニャは
今日謝りに来て、事を拗らせるのかと
舌打ちしました。
アニャは、腹が立ったのか
料理を置いて回っている
ドミスの後を追いかけながら
彼女の名前を呼び続けました。
そのために、
他の客たちが近くに集まり始めると
ドミスとペアを組んでいた下女は
ドミスを睨みつけました。
アニャは、
ずっと自分を無視するのか。
これが最後のチャンスだ。
それでも、まだ自分を無視するなら、
もう話しかけないと警告しましたが
ドミスはアニャに返事をせず
ワゴンを引いて台所に戻ろうとした時
アニャの隣で首を傾げていた
紫色の仮面を付けた人が
突然、ドミスに顔を突き出しました。
じっと立っている時も
人目を引き付けるほど、
何となく違和感のある仮面だったので
彼女は「あっ」と叫びながら
驚いて後ろに下がると、
誰かが大きく息を吹いたかのように
宴会場内の風景が
一度大きく揺れました。
その瞬間、誰かがドミスの腕をつかみ、
彼女を抱きしめたまま、
走り出しました。
驚いたドミスは、もがきましたが、
その人は
「私だよ、お嬢さん。」と言いました。
ギルゴールでした。
ドミスは、彼の肩を握っていましたが
2人1組でいるようにと
言われたことを思い出し、
ギルゴールの腕をつかんで振りました。
けれども、彼は、
奴がお嬢さんを見てしまったから
ダメだと言いました。
ギルゴールは、休まず走り続けました。
ラティルは、
死角に入り、見えなくなった
宴会場の中から、
短い悲鳴を聞きました。
◇紫色の仮面◇
ドミスが話をしてはいけない状況を
知っているギルゴールは、
ドミスを下女たちが泊まっている部屋へ
連れて行くと、
おそらく、もう話しても大丈夫だと
言いました。
しかし、ドミスはあまりに驚いたせいか
声を出そうとしても
話すことができませんでした。
何度試みても言葉が出ないと、
彼女は泣きべそをかきながら、
下へ降りなければいけないと
言いたいのか、
指で階段を指しました。
しかし、ギルゴールは
階段を降りなかったので、
ドミスは、何とか声を絞り出して、
下女長に必ず2人1組でいるように、
お客さんと話してはいけないと
言われた。
でも、宴会場に、
私とペアを組んだ下女を置いてきた。
あの子が
悲鳴を上げていたと話しました。
ギルゴールは、
下女長は何が危険な存在なのか
分からないから、
気をつけろと言うしかなかったと
言いました。
ドミスは、
そうではなく、あの子が危険だ。
ここは規則が重要なので、
守らないと、どうなるか分からない
と言うと、ギルゴールは、
ドミスがわざと
無視したのではないことを
自分がアニャに話しておく。
彼女は自我が強いけれど、
頭は悪くないから
話せばわかると言いました。
彼は、
ドミスが、ペアを組んだ相手を
探さなければならないと言ったことは
聞き逃したふりをしました。
ギルゴールは扉を開けると
安全のために、中に入っていてと
ドミスに指示しました。
彼女は、再びペアを組んだ下女のことを
口にしましたが、
ドミス以外のことに関心のない彼は
扉を閉めると、
そのまま行ってしまいました。
ドミスは3秒ほど、
ぼんやり立っていましたが、
ギルゴールが助けてくれないなら
一人でも、そこへ行こうと思い
扉を開きました。
ところが、すでにギルゴールの姿は
見えませんでした。
ドミスは混乱しましたが、
気を引き締めて、
廊下を走り出しました。
(宴会場の中へ入らなければいい。
アリーは私とペアを組んでいたから
私が確認しなければ。)
ラティルは、
そこにいればいいのにと思いましたが
ドミスは臆病だけれど
責任感が強いのか、
階段を駆け下りました。
ところが、
2つ目の階段を通り過ぎた瞬間、
突然、向かい側に、宴会場で見た、
紫色の仮面を付けた人が現われました。
ドミスは慌てて立ち止まりましたが、
紫色の仮面は、
ドミスの方へ走って来ました。
ラティルは、
奇怪な模様の仮面を付けた姿に、
鳥肌が立ちました。
下女長に念を押されていたし、
ギルゴールは
ドミスを連れて逃げたので、
彼女は紫の仮面を避けて
逃げようとしましたが、
彼はあっという間に
ドミスの前に迫ってきました。
彼女は、
驚いて悲鳴を上げましたが、
意外と反射神経がいいのか、
紫色の仮面をつかんで剥がしました。
ところが、
仮面の下の顔も紫色だったので、
ドミスは、
さらに大きな悲鳴を上げました。
ラティルは心の中で、
ドミス、殴って、殴ってと
大声で叫びましたが、
紫色の仮面は、
ドミスの首を絞め始めました。
お前を殺せば
ロードが喜ぶだろうか。
お前を殺して、
ロードに褒められるぞ。
ニヤニヤ笑いながら呟く紫色の顔は
ぞっとするほどでした。
ドミスと一緒に
息が詰まる感じを受けている
ラティルは、
お前が首を絞めている子がロードだ。
このイカれた野郎が!
と、知っている限りの悪口を
吐きましたが、
そのうち腹が立って来ると、
カルレインへの悪口を吐き、
悔しくなってきたら、
ギルゴールへの悪口を吐いた瞬間、
ドミスは紫色の顔に手を伸ばし、
聞きづらい言葉を叫びながら、
紫色の顔をつかみ、
足に力を入れて蹴りました。
剣術を身に着けたラティルは、
この一撃が有効ではないと
確信しました。
足に何かが触れたものの、
相手を蹴り飛ばすほどの
力を感じなかったからでした。
ところが、紫色の顔は
おろおろした顔で、
後ろにゆっくりと下がり始めました。
ドミスは、
自由になった首をつかみながら
咳込んでいましたが、
その間も、混乱に満ちた顔で
後ろに下がり続けていた
紫色の顔は、ある程度、
ドミスと、ある程度、
距離を置いた場所で立ち止まると
突然、空を見上げて
切り裂くような悲鳴を上げ始めると
粉々になって、消えてしまいました。
これは覚醒なのかと、
ラティルは思いました。
紫色の仮面は怪物?
下女たちは2人一緒にいて、
客と話さなければ、
怪物から
姿が見えなかったりするの?
でも、客は見えているようだから
それは違うかも。
ドミスが「あっ」と
言ってしまったことで、
紫色の仮面はドミスに気がついた?
ドミスを殺すことで
ロードに褒められると
言っているということは
彼女が対抗者か
ロードに害を及ぼすものだと
勘違いをしている?
今回も謎だらけの展開でした。