227話 大神官はラティルの部屋を見上げていました。
◇紫色の髪◇
ラティルは、
なぜ、大神官がここにいるのかと
尋ねました。
早朝の淡い光の中、
はるか下の庭に立ち、
ラティルを見上げている大神官は
神殿の絵の中に
出て来る人のようでした。
そして、彼の紫色の髪の毛は、
ドミスの夢の中に出て来た紫色の顔とは
全く感じが違っていて、
紫色に対するラティルの不快感が
消えました。
ラティルは、
神が彼を愛する理由の50%は
あの顔のせいだ。
性格も無邪気で優しいけれど、
と思いました。
大神官はラティルと目が合うと、
庭へ来た理由を叫び始めましたが
ラティルは上へ来て話してと
頼みました。
◇不吉なオーラ◇
庭から寝室へ上がって来るまでに
時間があるので、
ラティルは、
さっとお風呂に入りました。
そして、
ラティルがタオルを置くのと同時に、
大神官が寝室の中へ入ってきました。
彼女は、大神官に、
こんな時間にどうしたのかと
尋ねました。
彼は、不吉なオーラを感じたので
走って来たと答えました。
大神官は、この話をすることで
ラティルの機嫌を
損ねるのではないかと
心配しているのか、
彼女の顔色をうかがっていました。
今は大丈夫だと大神官が言うと、
ラティルは、不吉なオーラの話を
窓の下から叫ぼうとしたのかと思い
慌てました。
自分がロードだと知ったラティルは、
「不吉なオーラ」が訳もなく気になり
それは、どんなオーラなのかと
尋ねました。
大神官は、
言葉で説明するのは難しい。
けれども、
ラティルと話をする2-3分前には、
そのオーラが消えたので
安心するようにと言いました。
ラティルは、目を覚ますや否や、
その不吉なオーラを
感じなくなったのかと思いました。
大神官は、不吉なオーラよりも
ラティルの部屋へ来たことの方が
気になるらしく、
彼女が、
予定通り3日で帰って来たと言い、
ラティルが不在の時に、
2回、見舞いに来たけれど、
その時とは気分が違うと
浮かれていました。
しかし、ラティルは、
自分の見た夢が
不吉なオーラと
関連しているかもしれないと思い、
一緒に浮かれることは
できませんでした。
けれども、以前夢を見た時は、
大神官が、
不吉なオーラを感じたと言って、
やって来たことはなかったので、
夢の内容が乱暴すぎたせいなのか、
ドミスが
神秘的な力を使ったせいなのかと
考えました。
そして、彼女が死んだのではないかと
心配しました。
もしも、ドミスが夢の中で
悪いことを経験する度に
不吉なオーラが出るのなら、
彼女が覚醒する時に
自分も覚醒するのなら、
これ以上、ドミスの夢を
見てはならないと思いました。
ラティルは
覚醒したくありませんでした。
夢を見ても覚醒しなければ、
ドミスの過去や失敗を見ることで、
自分を治すことができると
思いました。
ラティルが深刻な顔をして
腕を組んでいるので、
大神官は心配しました。
彼女は、自分が死ぬ夢を見たので
気分が良くないと言いました。
大神官は、死ぬ夢を見ることで、
むしろ健康になると言いました。
ラティルは、
今見たのは自分の夢ではないし、
彼の言葉は
役に立たないと思いましたが、
「そうそう」と言って笑いました。
ラティルは、良くない夢のせいで
気分がすっきりしないので、
何か気持ちを
落ち着かせる話はないかと
尋ねました。
大神官は、自分は口下手だ。
運動すると心が軽くなる。
朝起きたばかりの運動は
醍醐味があると言って、
運動することを提案しました。
ラティルはわざと口元を下げると
大神官は額をポリポリ搔きましたが
ようやく口を開くと、
ラティルが留守をしていた間のことを
話そうかと提案しました。
ラティルは興奮して、
大神官をベッドへ引っ張り、
彼と向かい合って座ると
目を輝かせて、自分がいない時、
何をして遊んだのかと尋ねました。
大神官は、普段と同じ。
ラティルは
あまりハーレムに来ないので
別に違いもないと答えました。
すると、ラティルは
普段は何をするのかと尋ねました。
大神官は、
バラバラに遊んでいるけれど、
たまにタッシールが変なことをする。
今回も、そのせいで騒ぎになったと
答えました。
ラティルは、
やはりタッシールが
ハーレムの中心人物で、
唯一、トラブルも起こさないと
思いました。
彼女は、
その変なことについて尋ねると、
大神官は、
理由は分からないけれど、
タッシールは、ハーレムにいる人を
魚に例えて、
表と絵を作って回したと答えました。
ラティルは、自分だけでなく、
他の側室たちにも同じことをしたんだと
思いました。
そして、大神官は
昨晩、カルレインがそれを見て
タッシールを殺そうとした。
自分は、
そんなに悪くないと思ったのにと
話しました。
ラティルが、カルレインの所には
何が書かれていたのかと尋ねると、
大神官は吸血イカだと答えました。
吸血イカを悪くないと言う
大神官は寛大なのか、
あえてカルレインに
「吸血」と付いた魚に
似ていると言ったタッシールは
感が良いのかと考えている時に、
ラティルは、
タッシールとラナムンに、
食事のマナーとダンスを教えると
約束していたことと、
ゲスターの怪しい点を思い出しました。
ショードポリで血人魚たちと会い、
自分がロードだと知ったせいで
あらゆることを忘れていました。
ゲスターは
グリフィンと普通に話していたので、
彼はサーナット卿とカルレインの
仲間だろうかと、
ラティルは考えました。
眉をしかめたまま、
考え込んでいるラティルを、
邪魔してはいけないと思った
大神官は、
自分は帰った方がいいかと
尋ねましたが、
ラティルは、
一緒に食事をすることを提案しました。
大神官は、満面の笑みを浮かべて
そうすると答えました。
最近、上半身を中心に
鍛えているという大神官の腕は
以前にも増して硬くなっていました。
彼女は、その腕を押しながら、
自分は吸血鬼のロードなのに、
なぜ大神官は、
自分から悪いオーラを感じないのか
不思議に思いました。
ラティルは、彼が自分を見る時に
気分が悪くなることがあるかと
尋ねましたが、
彼は否定しました。
ラティルは、覚醒しなければ、
問題にならないのかと思いました。
◇サディの行方◇
ギルゴールは邸宅に戻ってくると
ザイオールに、
サディのことを尋ねました。
彼は、彼女は来ていないと答えると、
ギルゴールは眉間に皺を寄せました。
帰りは、
自分がおぶってこなかったから、
時間がかかるかもしれないと言うと
サディが来たら起こすようにと、
ザイオールに指示しました。
◇戻って来た人◇
ハーレムに駆けつけ、
ゲスターに
あれこれ質問したいのを我慢して、
ラティルは、3日留守をしていた間に
滞っていた仕事を処理しました。
ラティルは、
大神官と朝食を取るや否や
執務室へ行くと、
サーナット卿がいたので、
嬉しくて、何を言っていいか
分かりませんでした。
彼は、いつものように、
ラティルの机の後ろに立っていましたが
目が合うと、
照れくさそうに笑いました。
彼は、久しぶりですと
挨拶しました。
ショードポリで会ったばかりだけれど
本当に久しぶりに
会うような気がしました。
彼がメロシー領地から
なかなか戻って来なかった時は
腹を立てていたけれど、
彼が行方不明になったと
聞いた時のことを思い出せば、
そこに無事に立っているだけでも
ありがたいと思いました。
侍従長は、
2人の間に割り込む代わりに、
そこにいないかのように
静かに立っていました。
ラティルは、
彼が帰ってきたのが遅すぎたと言って
サーナット卿の肩を叩きました。
なぜか抱きしめたかったけれど
彼は自分の騎士であり、
側室ではないので止めました。
サーナット卿は、
ラティルが懐かしかったと言うと、
彼女は、それなのに、
こんなに遅く帰って来たのかと
文句を言いました。
すると、サーナット卿は
ラティルも
自分が恋しかったようだと
言いました。
しばらく2人は見つめ合いながら
立っていましたが、
侍従長の視線を感じたので、
ラティルは咳ばらいをした後、
椅子に座りました。
サーナット卿はペンを取り出すと、
インクをつけて、
ラティルに渡しました。
彼女はペンを受取りながら、
もう、他の所へ行ってはいけない。
ずっと自分のそばにいてと
小声で頼みました。
大神官が感じた不吉なオーラは、
ドミスではなく、
彼女を襲った紫色の仮面が
発したものではないかと思いました。
それに、
ドミスとペアを組んだ下女以外にも、
行方不明者が出ているので、
紫色の仮面以外にも、
何か怪しい物が
潜んでいたかもしれません。
ようやくサーナット卿が戻って来て
ほっとしました。
彼はラティルのそばにいるのが
一番、しっくりくるのではないかと
思います。
ラティルは、サーナット卿を
抱き締めてあげればよかったのにと
思いました。
吸血イカは、コウモリダコの
別名だそうです。
見た目が少しグロテスクなので、
こんなのに似ていると言われたら
カルレインでなくても、
嫌がるのではないかと思いました、