255話 ラナムンはラティルに、一緒にカリセンへ連れて行ってくれと頼みました。
◇行きたい理由◇
ラティルはラナムンに
何が気になっているのかと
尋ねましたが、
彼は返事を躊躇しました。
言いづらい内容なのかと尋ねると
ラナムンは「はい」と答えました。
ラティルは、
ラナムンがカリセンへ
行きたがっている理由が
気になりましたが、
彼は、口を固く閉じていました。
ラティルがカリセンへ行くのは、
アイニが対抗者であることを
明らかにするのを防ぎ、
クラインから
鍵を返してもらいながら、
彼を説得するためでした。
そこへラナムンを
連れて行ったらどうなるのか
ラティルは心配でした。
彼女はラナムンを見つめると
彼は眉の両端を下げました。
かわいそうに見えるように
しているのかと思い、
ラティルは反射的に
笑ってしまいました。
すると、ラナムンは怒ったのか
今度は眉の両端を上げました。
ラティルは、
また笑いそうになったので、
頭を下げて、
ラナムンの申し出を承諾しました。
ここしばらく、
ラナムンとの仲が曖昧だったので
一緒に旅行をすることで、
和解するのもいいと思いました。
◇連れて行くべきか◇
カリセンへ行く準備をしていると
月楼の王子がやって来ました。
彼は、ラティルが
自分の護衛を気に入っているけれど
自分は母国へ帰して欲しいと
要求しました。
それに対して、ラティルは
自分が王子を
引き留めているわけではないので、
望むなら、いつでも帰ってよい。
自分は気にしないと答えました。
王子はひどく怒った顔で
帰りましたが、
彼は怒った顔の方が似合うので
ラティルは気にしませんでした。
それよりも問題はギルゴールでした。
彼をカリセンへ連れて行くべきか
置いて行くべきか、
決定を下すのが困難でした。
連れて行く場合、
アイニに会わせたくないし、
置いて行けば、自分がいない間
何をしでかすか分からないので
恐怖を感じました。
カリセンへ行くという話をすれば
付いて来そうだし、
話をしなければ、
機嫌を悪くすると思いました。
この悩みのせいなのか、
カリセンへ出発する前夜、
ラティルはドミスの夢を見ました。
◇いつもアニャ◇
最後に見た夢で、
ギルゴールはドミスに
何か聞いていたような気がしましたが
最初に出て来たのは、
その場面ではありませんでした。
ドミスはベッドから立ち上がり
冷たいスープを飲みながら、
自分とアニャの縁は、
彼女が自分を覚えていない時代に
途切れるべきだったのに、
なぜ、こんなに執拗に
会うことになるのだろうか。
互いに望んでいないのにと
考えていました。
ドミスはスープを飲み終えると
皿を洗い、
床の掃除を始めました。
そして、掃除を終えても
外へ出ることなく、
窓にぴったりと張り付き、
邸宅を眺め始めました。
外へ出ると、
また養父と会うのではないかと
心配しているようでした。
私が借りているのに、
入ることもできないなんて。
ドミスは嘆きましたが、
それでも外へ出ませんでした。
そうしているうちに
雨が降り始め、稲妻が光り、
雷がゴロゴロ鳴っていました。
ドミスは裁縫道具を持って来て
窓際に座りました。
ところが、
破れた袖を繕い終える前に、
誰かが扉をドンドン叩きました。
ドミスは
カルレインが夕方に来ると言っていた
約束を守ったのかと思い、
カルレインの名を呼んで、
扉を開けると、
立っていたのは養父でした。
彼の後ろには、大柄な部下が
5-6人立っていました。
養父の頭上で光る稲妻は、
険悪な彼の顔を
さらに恐ろしくしていました。
ドミスは逃げようとしましたが、
養父は彼女の髪をつかみ、
引っ張りました。
捕まったドミスは悲鳴を上げました。
養父はドミスの髪を放すと、
部下たちに連れて行くように
命じました。
彼らはドミスを
荷物のように持ち上げて
移動しました。
ドミスはもがきながら、
カルレインとギルゴールの名を
呼びましたが、その声は
雨と雷の音でかき消され、
ラティルにも聞こえないほどでした。
それでも、ドミスが叫んでいると
養父は彼女の耳を
裂けそうになるくらい強く引っ張り
ドミスが来てから、
自分の家に悪い事ばかり起こった。
ドミスがいなくなったら、
いい事ばかり起こった。
ところが、またドミスが現われたら
悪い事が起こる。
これはどういう意味なのか
分かるかと、乱暴に尋ね、
ドミスの頬を叩きました。
彼女は養父を睨みつけました。
養父は、
ドミスも自分のことが
嫌いだろうから、
会わないで暮らそう。
自分はドミスを見ていると
鳥肌が立つと言いました。
ドミスは、
自分が先に来ていたのに
養父たちが後から来たと
叫びました。
しかし、養父は、
それでもドミスが消えるように。
今後は、
自分たちの影だけ見ても
消えるように。
ドミスの方から避けて立ち去れ。
互いに嫌がっているのに、
どうして
絡まなければならないのかと
陰険な顔で叫びました。
そして、
二度と自分たちの前に顔を出すな。
アニャの将来を
台無しにしようとしたら、
ドミスを殺すと脅しました。
養父はドミスの耳を放すと、
部下たちはドミスを縛り付けて
移動しました。
泣きながらもがいても無駄でした。
彼らはドミスを暗い山へ連れて行き
一筋の光も射さない、
ぞっとするような場所へ
下ろしました。
彼らはドミスを放り投げ、
背を向けましたが、
そのうちの1人が戻って来て、
ドミスの足を引っ張って折りました。
彼女は大きく目を開けて、
部下を見つめると、彼は、
自分たちのせいにするな。
ドミスが、
また戻って来るといけない。
自分たちも、
ずっとこんなことをするのは
嫌なので、
一度で終わらせると言いました。
このような山の中で
足を折っていくということは
死ねと言うことと同じでした。
ドミスは足の痛みのせいで
口を閉じることもできず、
部下を見つめましたが、
彼はもう片方の足も
折ってしまいました。
その瞬間、ラティルは
ドミスの心の中から、
ゾクゾクするほど速く、
蛇が囁くような、
とても変な音を聞きました。
しかし、それを聞いたのは
ラティルだけで、
部下たちはドミスを置いて
行ってしまいました。
ドミスは苦しみながら、
彼らの背中を睨みつけ、
絶対に許さない。
ハエ叩きで殴った商人。
私を騙して船に乗ったあの子。
伯爵家で私を殺そうとした人々。
私の足を折ったあの人。
絶対に許さない。
と呟き続けました。
ドミスは全て覚えていたんだと
ラティルは感心しました。
しかし、今は
彼女が生きることが優先でした。
いつの間にか、周りには、
木のように見える、
木でないものが
ゆっくりと歩いていました。
稲妻が光ると、葉の代わりに
木のてっぺんにかかった
舌を見ることができました。
風が吹くと、
舌がひらひらするので、
見ている者をぞっとさせました。
舌のかかった木は、
高さが5mほどあり、
見た目はぞっとするものの
害を及ぼすことはなく、
自分たちだけで、
森をうろうろしていました。
その時、土の中から
人の指をくわえた蜘蛛が
頭を出しました。
その蜘蛛は、
ドミスの方が新鮮な餌だと思ったのか
くわえていた指を吐き出し、
ゆっくりと身体を起こしました。
足の長さは1mくらいありそうでした。
ドミスはカルレインの名前を
叫びましたが、
当然、彼はいませんでした。
巨大な蜘蛛は足で
ドミスを刺しましたが、
足が肉に食い込む前に、
彼女は横にある石で、
蜘蛛の足を叩きました。
すると蜘蛛は悲鳴を上げて
あっという間に消えてしまいました。
ドミスは、伯爵家にいた時も
このようなことがあった。
自分には、
何か変な力があるのかと思いました。
その時、カサカサと音がしたので、
ドミスは別の石を持って、
音のする方を見ました。
そこにいたのはカルレインで、
いつもは無表情の彼が
驚いた顔でドミスに駆け寄りました。
彼は、
どうしたのかと尋ねると、
ドミスの前に来るや否や
片膝を地面につきました。
そして、
それぞれ違う方を向いている
ドミスの足を見て驚きました。
彼女は、泣きながら、
どうして今頃来たのかと
恨みの言葉を吐きました。
カルレインは、
その言葉にドキッとして
ドミスを見上げると、彼女は、
どうしていつも遅く来るのかと
恨み言を言いました。
カルレインは、
それはどういうことかと
聞こうとしました。
ラティルは、
私がロードだ。バカ!
と、ドミスが
カルレインを怒鳴りつけることを
期待しましたが、
彼女は、
自分が何を言ったかも
分からないように泣き出しました。
カルレインは変な感じがして、
しばらくドミスを眺めていましたが
どうして、こうなったのか。
こんな天気の中、
歩き回ったら危険だと言いました。
ドミスは、自分で来たのではなく
養父に連れて来られたと訴えました。
カルレインは、
ドミスの足が大けがをしているので
帰って、
医者を呼ばなければならないと
言いました。
そして、
ドミスを持ち上げようとしましたが
彼女はカルレインを振り切りました。
帰ったところで、
またどんな目に遭うと思っているのか。
自分の借りた邸宅に
勝手に入って来て泊っているくせに、
どうして、こうなるのか。
帰ったら、
またどうなると思っているのかと
ドミスは尋ねました。
ラティルは、
ドミスが長々と話すのを
初めて聞きました。
カルレインも、
ドミスの見慣れない様子に
しばらく、たじろぎましたが、
ロジャーさんを追い出す。
アニャには、まだ
保護者が必要だから
連れているけれど、
これなら、いない方がましだと
言いました。
しかし、ドミスは
養父だけの問題ではない。
アニャも同じだと
声は震えているものの、
断固として訴えました。
しかし、カルレインは
ドミスがアニャの悪口を言うと、
表情を硬くして、
アニャがドミスに
優しく接しているわけでは
ないけれど、
養父のように
接しているわけでもない。
アニャが嫉妬しているという
理由だけで
2人を同じように
扱ってはいけないのではないかと
諫めました。
しかし、ドミスは
養父に追われた後に、
アニャの名前を聞き続けたので、
彼女を庇うカルレインの言葉に
怒りが爆発してしまいました。
ドミスは泣きながら、
アニャの名前を何度も叫ぶと、
立ち上がり、
カルレインを全力で睨みながら、
アニャの話しかしない
カルレインは
自分に近づくなと叫びました。
足が折れているはずなのに、
なぜかドミスは
走ることができました。
しかも、頭が10個ある
変な鳥が飛びかかると、
ドミスは手でポンと叩いて
走り続けました。
ドミスが気づかないうちに、
無意識のうちに
やっているようでした。
ラティルは、
これを見たカルレインの表情が
とても気になりました。
カルレインは、
ドミスがロードだと
分かっただろうかと思いました。
ラティルが
前回のドミスの夢を見た時、
ギルゴールはドミスに
ロジャーさんがいなくなったら
彼女は泣かなくなるのかと
尋ねていました。
ロジャーさんは、
ドミスの養父ですが、
ギルゴールは、
彼に何かするつもりなのでしょうか?
ドミスが
養父母と一緒に住んでいた時に
何があったか書かれていないので、
なぜ、養父がこれほどまでに
ドミスを憎んでいるのか
分からないのですが、
元々、
養母がドミスを拾ってきたことが
気に入らなかったところへ、
たまたま、その家族に
悪い事が続けて起こった。
それを、ドミスのせいに
しているだけのような気もします。
ドミスがいなくなった後、
彼らが幸せになったのは
たまたまドミスがいなくなった時に
アニャをロードだと勘違いした
カルレインとギルゴールが
彼らを助けるために、
何かしたのだと思います。
そして、養父は
ドミスが現われたから
また悪い事が起こったと
主張していますが、
それもドミスのせいではなく、
養父やアニャが
ドミスに過剰反応し過ぎることで
自分たち自身で、
不幸を
招き入れているような気がします。
養父が犬に嚙まれたことも
ドミスのせいではないと思います。
それなのに、養父は
ドミスにひどい暴力を振るい
山へ捨てさせるなんて残酷です。
本当に、ギルゴールに
養父を何とかして欲しいです。
ドミスは、
初めてカルレインに会った時から
彼のことが
気になっていましたが、
彼女は本能的に
カルレインが自分の騎士で、
自分を守る存在だと
知っていたのかもしれません。
それなのに、アニャを
大事にしていたら、
ドミスが怒るのも当前なのかと
思います。
木みたいな怪物のイメージが
全く思い浮かびません。
マンガでは、
どんな風に描かれるのか
気になりますが、
それが分かるのは
随分先になりそうです。