373話 ギルゴールはドミスを乗っ取っているアニャに、彼女が望むものを渡せばいいと言ってカルレインを指差しましたが・・・
◇ドミスが狙う者◇
ラティルが何かを言う間もなく
カルレインは
ギルゴールに飛びかかりました。
カルレインが、
彼の胸ぐらをつかむや否や、
ギルゴールはカルレインの頭を
押さえつけました。
あちこちでドンとぶつかる音がして、
机や椅子の取っ手などが
壊れ始めました。
ラティルが止めても、
2人は聞きませんでした。
グリフィンは、
2人はロードに対する尊敬がない。
自分はロードに止めろと言われたら
すぐに止めると言って笑っていました。
これではダメだと思ったラティルは
グリフィンに
「お前は優しいよね?」と尋ねました。
グリフィンは「そうです!」と答えると
ラティルはグリフィンを
ギルゴールとカルレインの間に
放り投げました。
悲鳴を上げながら
飛んでいったグリフィンは、
ギルゴールとカルレインの攻撃を
自分が受ける羽目になったので
体を膨らませました。
あっという間に、
ギルゴールとカルレインは、
グリフィンの翼に阻まれました。
グリフィンは目を丸くして、
これはどういうことなのか。
自分が優しいことと、これが
何の関係があるのかと
ラティルに抗議しました。
ラティルは、
グリフィンを信じていたと
弁解しましたが、グリフィンは
そのせいで、自分の小さな身体が
壊れてしまうと抗議しました。
カルレインとギルゴールが
ようやく戦うのを止めたので、
ラティルは2人をチラッと見ながら
元の場所に戻って座れ、
これ以上喧嘩するなと
目で指示しました。
幸い今回は、2人とも
言うことを聞きました。
カルレインは、椅子に座るや否や、
対抗者のアニャは
自分を欲しがっているけれど、
彼女の命を奪ったのは
ギルゴールなので、
彼も欲しがっているはずだと
言いました。
ギルゴールは、
反論しようとしましたが、
ラティルが先に
カルレインの言う通りだと、
同意しました。
ギルゴールは同意しないのか
眉をしかめました。
ギルゴールはの忍耐力は
爪の垢ほどもないのに、
他人の忍耐力は、
あまりにも大きく評価しているらしく
アニャは、そんなに心が狭いのかと
文句を言いました。
ラティルは、
アニャを庇うわけではないけれど
心が狭くなくても、
自分の命を奪った者には
復讐したがるものだと言うと、
ギルゴールは肩をすくめて
ラティルのことを、心が狭いと
言いました。
ラティルは、心が揺らぐのは
ギルゴールだけでいいと
心の中で呟きました。
そして、とにかく2人の吸血鬼に、
これ以上、温室を壊されなくて
良かったと思いました。
ラティルは、
カルレインやギルゴールだけではなく
アニャはドミスという殻の意思に従い、
現在の対抗者を狙ったり
中身であるアニャの意思通り、
現在のロードである自分を
狙うかもしれないと
意見を述べました。
不安になったラティルは、
ギルゴールの肩を叩き、
早くラナムンを訓練させるよう
指示しました。
◇再び訓練◇
陛下が5人の側室を呼んで
同じベッドの上で遊んだ。
何をして遊んだの?
どうして分かったの?
陛下は懐妊されているから、
お前が思っているような
ことではないと思う。
ただ気に入った側室を
そばに置いて遊んだだけだ。
それならどうしてラナムン様と
クライン皇子を呼ばなかったの?
顔なら、お二人が最高じゃない。
大神官も外された。
その三人が一番寵愛されていない
側室なのか。
衝撃的ではない?
私はラナムン様が
初めてここに入ってきた時、
一番、寵愛されると思った。
聞きたくない話は、
なぜこんなにも
よく聞こえてくるのか。
ラナムンは、
周りから聞こえてくる
ヒソヒソ話に耐えきれなくなり
自分の部屋に戻りました。
カルドンは、
実際に彼らが
あれこれしたわけではないだろうから
そんな淫らで、えげつない場所に
ラナムンはいない方が良かったと、
必死で慰めてくれましたが無駄でした。
ラナムンの心は凍りつき、
部屋に戻るや否や、
栞を挟みながら熱心に読んだ
恋愛指南書の本を取り出して
机に積み上げ、
全然役に立たないので、
捨てるようにと指示しました。
カルドンは心が痛んで
目頭が熱くなりました。
その時、窓から笑い声が聞こえ、
そんなものを、いくら読んでみても
役に立つのだろうかと
皮肉を言われました。
カルドンは音のする方を見ると、
ギルゴールが窓の外に立っていました。
ラナムンは眉をひそめながら、
何をしに来たのかと尋ねました。
ギルゴールは、ラナムンに
対抗者の訓練をさせると
言っておきながら、
ラナムンを危険にさらし、
カルドンには、
主人に危害を加えようとしたという
汚名を着せようとしたので、
彼が笑っているのを見ると
二人ともムカムカしました。
ラナムンは、
わざと大きな音を立てて窓を開け、
何の用かと尋ねると、
ギルゴールは、
訓練しなければならないと
平然と答えました。
カルドンは、
以前のことを
全く気にしないかのような
ギルゴールの厚かましい態度に
腹を立て、
大股で歩いて窓に近づくと、
うちの坊ちゃんは、
彼から何も教わらないと言って
ギルゴールの目の前で
窓を閉めようとしましたが、
カルドンが窓をつかむ前に
彼は一気に壁まで飛ばされました。
カルドンは壁にぶつかっても
わけが分からず
目をぱちぱちさせました。
一方 、ギルゴールは
ラナムンにウィンクをし、
特訓すると言いました。
ラナムンは、
皇帝が反対していると言うと、
ギルゴールは、彼女の指示だと
告げました。
皇帝は対抗者を後押ししたくない
様子だったので、
ラナムンはギルゴールの言葉が
信じられませんでしたが、
ギルゴールは堂々としていました。
ラナムンはギルゴールに付いて行き、
カルドンには、
皇帝に本当かどうか確認して来てと
目で合図しました。
◇奇妙な点◇
ギルゴールが
突然ラナムンを訪ねて来て、
皇帝の指示で彼を訓練をさせると言って
ラナムンを連れて行ったと
訴えるカルドンに、ラティルは、
自分が指示したので合っていると
あっさり返事をしたので、カルドンは
裏切られたような表情を浮かべました。
ラティルは、少しすまない気持ちに
なりました。
カルドンが先にギルゴールに
手を出したとはいえ、
ギルゴールがラナムンに
過剰に対応したのは
明らかだったからでした。
ラティルは、奇妙なことが
国内外で起きていて、
危険な状況だからだと説明しました。
カルドンは目を丸くしました。
ギルゴールのことを
告げ口しに来たのに、
危険な国際情勢の話を聞いて
慌てている様子でした。
アニャの魂が入り込んだドミスに
どのように対処するかは
まだ不明なので、
ラティルはさらに話す代わりに
ギルゴールがきちんとラナムンを
教えているかどうか、
念のため確認しようと思い、
ハーレム内にある演舞場へ行きました。
演舞場の一角では、
大神官が聖騎士団を連れて訓練中で
もう一角では
ギルゴールとラナムンが
訓練をしていました。
ほぼ、実戦と言っていいほど、
攻撃の応酬が速く、
カルドンは、その姿を見るや否や
嘆きました。
しかし、
ギルゴールとカルレインが戦う時は、
ラティルと戦う時より速度が速いので
今のギルゴールは
ラナムンの水準に合わせて、
訓練しているのは明らかでした。
そうしているうちに、
ギルゴールがラティルを発見して
「お弟子様!」と笑いながら
手を振ったので、
ラナムンは、その隙を狙いましたが、
彼の握った剣が
横に跳ね返って飛んで行ったので、
ラナムンは信じられないように
自分の手と剣を交互に眺めました。
ラティルはラナムンに
大丈夫かと声をかけると、彼は、
素早く彼女の方を見つめましたが
表情が固まりました。
負けた姿を見られて、
ラナムンのプライドが
傷ついたと思ったラティルは、
彼が恥ずかしがるのを恐れて
わざと笑いながら「熱心ですね」と
褒めましたが、
ラナムンの表情はさらに強張り、
落ちた剣を握りながら、
もう一戦することを、
ギルゴールに要求しました。
最大限、ラティルの方に
顔を向けないところを見ると
負ける姿を見せたのが
恥ずかしかったのだろうと
ラティルは推測しました。
ギルゴールに勝てる人は
あまりいないので、ラティルは
恥ずかしがらなくてもいいと
思いましたが、
再び戦う2人の姿を見て、
ラティルはラナムンのプライドが高くて
むしろ良かったと思いました。
実力の差が大きいのに、ラナムンは
よくギルゴールに挑むので、
彼の実力が早く伸びると思いました。
今回はギルゴールも、
きちんと教えられそうで
良かったと思いました。
カルドンは、まだ、心配そうな
顔をしていましたが、
最初よりは少し安心したようなので、
ラティルは一人で執務室に戻りました。
ところが、執務室に到着する前に、
サーナット卿は、
ヒュアツィンテから
個人的な伝書鳩が送られて来たことを
小声で知らせました
ラティルはすぐに執務室に戻り
手紙を開きました。
そこには、ドミスとアニャが、
最初、カリセンの宮殿で
カルレインを探していたことが
書かれていました。
カルレインがアニャに付いて
カリセンに行ってきた話や
先代ロードの身体の中に
先代対抗者がいるという話を
すでに聞いていたサーナット卿は
ドミスがカリセンの首都の旅館に
泊まっていた理由が分かりました。
しかし、サーナット卿は
ラティルが手紙を読み進めるほど
表情が暗くなっていくのを
不思議に思い、
その他の内容は、自分たちも
知っていることなのではないかと
尋ねました。
しかし、ラティルは首を横に振り、
ここには奇妙な点が二つも
書かれていると言いました。
サーナット卿は、
それについて尋ねると、ラティルは
ドミスは、
ヒュアツィンテを脅迫したけれど
先に質問をして、
すぐには彼の息の根を止めなかった。
下女にも、先に質問をした後、
気絶させて閉じ込めただけ。
それなのに、アイニを見るや否や
窓の外に投げ捨てたのは、
変だと思わないかと聞きました。
サーナット卿は、
そう言われれば変な気がすると
答えました。
そして、ラティルは、
アイニがヒュアツィンテに
ドミスのことをロードだと言ったことを
話しました。
サーナット卿は、
以前アイニはドミスのふりをしていたので
彼女の顔を知っていたのではないかと
言いました。
それでも、ラティルは
引っかかるところがあり
眉をひそめていましたが、
アイニがそのように主張してくれるなら
聖騎士団長たちも
ドミスへ目を向けるだろうと
前向きに考えることにしました。
サーナット卿も、
ラティルは以前よりは楽になると
同意しました。
ラティルは、
最初からドミスをロードとして扱い、
自分の疑いを晴らすのもいいと
明るく返事をしましたが、
サーナット卿は、
カルレインが傷つくのではないかと
心配しました。
ラティルは、
アニャの魂だけをドミスの身体から
引き出す方法がないし、
彼女も、あれほどまでに露骨に
カルレインを狙っているので
おとなしくしてくれなさそうだと
話している途中で、
どのようにして、
ロードの命を奪えるのかと
尋ねました。
サーナット卿は、対抗者の剣で、
それが可能だと聞いていると
答えました。
サーナット卿は戸惑いながら
ラティルを見つめ、
ドミスの息の根を止める方法を
見つけようとしているのかと
尋ねました。
ラティルは、
魂が対抗者でも、
身体がロードであれば、
ロードの命を奪う方法で
息の根を止めることができるだろうと
答えました。
そして、
考え込んでいたラティルは
はっとすると、
対抗者の剣がアイニの所にあるのは
全国民が知っている。
ヒュアツィンテに、
剣を大切に保管し、
絶対に失くさないように
伝えなければならないと言って、
急いで紙とペンを取り出しました。
しかし、その時刻。
すでにアニャは
壁に飾られた「対抗者の剣」の前に
立っていました。
ラナムンは、ラティルに
ギルゴールに負けたところを見られて
少しはプライドが
傷ついたかもしれませんが、
ラナムンがラティルに
頑なな態度を取ったのは、
偽妊娠の父親である自分を差し置いて
他の側室5人と同じベッドに入り、
そのことで
自分が揶揄されていることに、
ひどくプライドが
傷ついているからだと思います。
それと、クライン同様、
自分を誘ってくれなかったことへの
恨みや、怒り、
他の側室たちに対する
嫉妬心もあるのかもしれません。
その感情を払拭するために、
ギルゴールに、果敢に立ち向かえば、
ラナムンの剣術の腕は
かなり上がるのではないかと思います。