88話 カルロイと医師が転移治療について話しているのを、ルーは聞いてしまいました。
それはどういうことなのか。
今、何を言っていたのか。
本当に自分の病気を
カルロイに移したのかと尋ねるルー。
そんなことはしていないと、
否定するカルロイ。
ルーは、
自分をバカにしているのかと
叫ぶと、
カルロイは
そんなつもりはないと
否定しました。
医師は、そっと
部屋から出て行きました。
ルーはカルロイに、
自分は
何様だと思っているのかと叫び、
彼の頬を叩きましたが、
その姿を見て動揺しました。
しかし、気を取り直し、
なぜ、カルロイが
そんなことをするのか。
なぜ、勝手に自分を
生かそうとするのかと問い詰めると、
彼は謝りました。
ルーは、
カルロイがそんなことをすれば
自分が感謝すると思ったのかと
尋ねました。
カルロイは、それを否定し、
自分がろくでなしだから、
ルーが苦しんでいる姿を
見たくなくて、
自分が楽になるために
勝手にやったと答えました。
ルーは涙を流しながら、
自分がカルロイを恨んだり
憎んだりするのを
できないようにするのかと
彼を責めました。
カルロイは、それを否定し、
自分が楽になるために勝手にした。
だから、ルーは自分のことを
憎み続けていいと言いました。
ルーは、カルロイのベッドの上に座り
いつまで、こうするつもりなのか。
いつまで、人を苦しめるのか。
ただ、自分を死なせてくれれば
良かったと、カルロイを責めましたが
彼は視界がぼやけて来て、
ルーの肩の上に頭をもたれました。
そして、苦しそうな顔で
自分が死んでも、
それはできないと告げました。
すると、ルーは彼を
「ろくでなし」と罵りました。
カルロイは、ルーの手の上に
自分の手を置きながら、
ルーに罵られても大丈夫。
大丈夫でないのは、
ルーが苦しんでいる間、
自分が何もしていないこと。
だから、
死ななければならないのは自分だと
言いました。
ルーは涙を流しながら、
なぜ、カルロイが苦しむのか。
辛いのは自分なのに、
カルロイは、
自分の苦痛まで奪っていく
悪い奴だと思い、
彼を払い退けました。
そして、彼から離れながら、
自分の近くに来ないように。
来たら、自ら命を絶つと告げました。
すると、アセルが立っていました。
ルーは、ため息をつき、
アセルに感謝しているけれど、
自分の前でカルロイの話はするなと
言い残して、
部屋から出て行きました。
数日後、
やつれた顔で執務室にいるカルロイに
少し休んだ方がいいと
告げるティニャに、彼は、
侍女長の息子が
見つかったそうなので、
一部始終を聞く必要があると
返事をしました。
ティニャは承知し、
ため息をつきました。
執務室に、
侍女長の息子のジミーが
やって来ました。
彼は左ひざにケガをしていました。
カルロイは、
ジミーが随分前に
公爵領を脱出したのに、
なぜ、こんなに来るのが
遅くなったのかと尋ねました。
彼は、
妹が首都に来ていることを知らずに
探していたので遅くなった。
死んだと思って諦めていたけれど
生きていて良かったと話しました。
ティニャは、これさえ済めば、
すぐに母親と妹に会わせるので、
協力して欲しいと頼みました。
カルロイは、
ベルニの魔法師とデルア公爵は
どうやって知り合ったのかと
尋ねました。
ジミーは、
ベルニの魔法師が
ベルニから追い出されたと言って
先に公爵を訪ねて来た。
これは、もう14年も前のことだ。
公爵は、娘のイボンヌが
死んだことを隠すために、
公爵邸の使用人たち全員を
始末するよう魔法師に命じた。
かなりの数の人々が、
魔法師の実験対象とされ、
残りは、命を奪われて
黒の森に捨てられた。
そして、
ルーの存在を魔法で突き止め
公爵が彼女を連れて来た後、
黒の森に魔法をかけた。
そして、いくつかの毒を
公爵に渡したと話しました。
ティニャは、その毒で
アデライドは死んだのだと
思いました。
カルロイは、ため息をつき、
その後、魔法師は、
秘密封じの魔法をかけ、
あのタワーにも魔法をかけた。
デルアを利用して
クロイセンを何とかしようと
彼を全力で助けたのだろう。
かなり、関係を深めていたのに
ベルニの魔法師が、
デルアを裏切ろうとしていたことに
どうやって彼は気付いたのかと
尋ねました。
ジミーは、
ベルニの魔法師が、
デルアに毒を飲ませていたようで
彼は、ずっと幻聴が聞こえると
言っていた。
反乱の前から、
しきりに魔法師はデルアを煽り、
彼が反乱を起こすや否や、
魔法師がベルニからの援助の話を
持ち出したのもおかしいと言って
今すぐ、魔法師を呼べと
命令されたことを話しました。
デルア公爵のもとへ
やって来た魔法師は、
戦争の準備で忙しいのに、
どうしたのかと尋ねました。
公爵は、
ベルニから援助を受けたいけれど
可能かどうか尋ねました。
すると、魔法師は笑い出し、
ついに決めたのか。当然だ。
今すぐベルニに連絡をすると
答えましたが、デルアは、
ベルニから追い出された者の言葉を
どうして信じられるかと
言いました。
その言葉に動揺した魔法師は、
実は、自分は、
カルロス・クロイタンと
ベルニ王女の息子だ。
これで自分を証明できる。
だからデルアが、
ベルニに土地をいくつか渡せば
ベルニが軍事力を援助し、
自分がデルアを
クロイセンの王にすると
言っているところで、デルアは
魔法師を剣で切りつけました。
デルアは、
私生児がクロイセンの土地を
欲しがるのかと魔法師を罵倒し、
クロイセンは全て自分の物だと
怒鳴りました。
ジミーは震えながら、
その様子を見守っていました。
そして、ジミーは、
魔法師はあっという間に
死んでしまった。
しかも、公爵は、
イボンヌの遺体が腐るからと言って
ありとあらゆることをした。
魔法師が死んで魔法も解けたので
公爵が理性を失っている間に
自分は公爵邸から抜け出したと話し、
先代アンセン伯爵の日記と
デルア公爵が残した記録を
差し出しました。
カルロイは、
重要な証拠を持って来てくれたことに
お礼を言い、
ジミーに十分な褒美を約束して、
家族に会いに行くよう告げました。
ジミーはお礼を言いました。
記録を開いたカルロイに
ティニャは、
3日後にキアナが、
プルトゥを去る。
その前に、皇后に会えるかと
聞かれたけれど、
何と返事をしようかと尋ねました。
カルロイは、
自分が決めることではないので、
侍女長を通して、
ルーに直接聞くようにと答えました。
ティニャは、
転移治療をする時は、
皇后の意見を聞かなかったのにと
ため息をつくと、
健康に気をつけるように。
夜風が冷たいので、
夜中に皇后宮の庭へ行く回数も
減らすようにと
カルロイに助言しました。
夜、ルーはベッドの上で
短剣をじっと見つめていました。
ピオル(魔法使い)の母親が、
ベルニの姫だと分かった時から、
もしかしたらと思っていましたが
やはり、彼の父親は、
カルロイの祖父だったのですね。
私生児だという理由で
邪険に扱われていたピオルは、
デルアに近づいて、彼を煽り、
最終的に、クロイセンの土地の一部を
ベルニのものにするという
手柄を立てることで
王室の人々に、自分が役に立つ存在だと
認めさせたかったのかもしれません。
もし、カルロイの祖父が
まだ生きていて、
ピオルの存在を知っていたら
どうなっていたのか。
祖父は心から、
ベルニの姫を愛していたので、
彼女との息子も
愛したのではないかと思います。