103話 マハへ向かう船の中で、カルロイは死ぬこともできないと嘆いていました。
照りつける太陽の下で、
ルーは、
もう、無理、耐えられないと呟き
倒れそうになりました。
馬車の中で、
ルーは隣に座っているメアリーに
扇子で扇いてもらっていました。
2人の向かいには、
キアナとクライドが座っていました。
ジェインと宮医は
別の馬車で移動していました。
キアナはルーに
大丈夫かと尋ねました。
ルーは、まだ少し良くないと
答えた後、クライドに
彼がキロクに着いた途端、
出発することになったことを
謝りました。
クライドはビクッとしましたが
大丈夫だと返事をしました。
キアナは、
暑い上に、
きちんと食事ができなかったので
ルーの身体に無理が来たようだと
気遣いながら、
クライドの腕を肘で突き
いつものようにしてと囁きました。
そして、ルーには、
首都の料理長に
プルトゥ料理をたくさん準備するよう
伝えると話しました。
太陽は熱く照りつけるし
空気もジメジメしているのに
一体、マハの人たちは
どうして外を歩き回れるのかと
ルーは、ぼやきました。
キアナもルーの言葉に同調し、
自分もクロイセンに帰りたくて
たまらないと答えました。
ルーは、
その可能性があるのかと尋ねました。
キアナは、マハで
皇帝の邸宅を何軒ももらっているので
彼女がかなり皇帝に
愛されていると思ったからでした。
キアナは、
皇帝の機嫌を
もう少しうまくとれば
何とかなりそうだと答えました。
しかし、クライドは、
キアナまで
皇帝に気に入られてしまったので
とても帰れそうにないと
小声で言いました。
それを聞いたキアナは腹を立て
自分だって、
好きで気に入られたわけではない。
マハでも、
合法的に結婚してみようと
思っていただけなのに。
おかげさまで結婚できたと
文句を言うと、クライドは
ルーたちが話を聞いているのに
そんなことを平気で話すキアナに
焦りました。
気まずい雰囲気の中、キアナは、
事前に知らせておいた方が
関心が薄くなるので、
マハの皇帝には、
親友が来るとだけ話してあると
言って、ため息をつきました。
ルーは、
マハの皇帝は、
そんなに変わった人なのかと
尋ねました。
キアナは、
皇帝は本当に気まぐれなので、
話もしないように。
10年間で国婿を10人以上変えた。
そのうち、3人は
直接首を切ったと答ると、
ルーはぞっとしました。
キアナは、
それでも、海上魔法で
皇帝に敵う人がいないので、
誰も文句は言えない。
あの海を、誰が
穏やかにしているのかと言って
ため息をつきました。
クライドは、いくら皇帝が
キアナを気に入っても
悪口を言うことまでは
大目に見てくれないので
気をつけるようにと忠告しました。
キアナは、
だから、ここで悪口を言っている。
ここでなければ、
どこで悪口を言えるのかと
言い返しました。
しかし、クライドは
自分に毎日、悪口を言っていると
反論しました。
キアナは、それに対する
クライドの反応が
毎日、同じだと文句を言い、
自分がどれだけ苦労したかと
クライドを叩くと、彼は
自分が悪かったと謝りました。
2人の様子を見ていたルーは、
クライドが、
晩餐会の席で見た時は、
全然、別人みたいなのは、
キアナがいるからなのかと
考えました。
そして、カルロイとは
もう二度と会わないだろうから
最後に元気かどうか
確認してくれば良かった。
カルロイにとって自分が
何なのかはさて置き、
もう自分にとってカルロイが
どういう意味を持つのかは
よく分からない。
子供の頃は、初恋だと思ったけれど
プルトゥでは、
愛だと思ったことはなかった。
けれども、あの時は、
頼るところがなかったから、
自分に希望を抱かせながら
あの地獄から近づいて来るカルロイを
押し返す気力も理性もなかった。
彼だけが、唯一、
感じられた温もりだった。
今、カルロイは
自分にとって、一体、
どのような意味を持つのかと
ついつい、考えてしまいました。
その時、クライドはキアナを呼び、
思い出したように、
「首都で・・・」と話し出すと、
それを聞いていたキアナは、
嘘ではないかと、
楽しそうに返事をしました。
ルーは、
母親が自分を呼んでいた名前で、
自分を呼ぶなと、カルロイに
言ったことを思い出しました。
頬を染めて嬉しそうなキアナを見て
ルーは、カルロイが
自分の名前を呼んでくれることが
好きになれたかもしれない。
そうすれば、他の人たちが、
自分の名前を呼ぶ度に、
彼の声を心地よく
思い出すことができた。
こんなに遠く離れることもなく
2人の仲が拗れることもなく、
憎しみもなく、一緒にいられた。
けれども、結局、
こうなってしまった。
全ての結果は、
誰か一人の過ちのせいではない。
それは、自分にとって
あまりにも・・・と考えているうちに
ルーは寝てしまいました。
騒がしい音で目が覚めたルーは、
キアナに、
何かあったのかと尋ねました。
彼女は、
首都の城門を通過したところだと
答えました。
ルーは馬車の窓から外を見ると、
楽しそうにしている人々がいる一方で
手を縛られ、
鎖の付いた首輪をかけられている
子供たちが歩いていて、
そのうちの1人が
鞭で打たれていました。
ルーは見るのが耐えられなくなり
目を背けました。
カルロイが子供の頃、
何度もここへ来ていたことと、
マハの征服戦争に
参戦までしていたことを
思い出し、ルーは、
彼はこんな所が好きだったのか。
それでも、プルトゥに比べれば
どこでもましだと思っていたのかと
考えました。
夕食後、ルーは
クロイセン料理を食べたら、
少し生き返った気がすると言って
ため息をつきました。
メアリーも同意しました。
ルーは、母親が望んだことは、
全て、それなりにやりがいがあると
思っていたけれど、
それは間違いだと思いました。
新しいことを経験するのは
悪くないけれど、
これからも、
このように今一つのことが
あるのだろうかと呟きました。
メアリーは、
おそらくドニスも
ここは嫌がって、
3日もいなかったと思うと言って
ルーに薬を渡しました。
彼女はお礼を言いました。
そこへキアナがやって来て、
渡したい物と、
話したいことがあると告げました。
キアナが本を持っていたので、
ジェインは、
あの小説の続刊ではないかと思い
目をキラキラさせましたが、
メアリーはジェインを連れて
部屋の外へ出て行きました。
キアナは苦笑いしました。
その後、彼女は部屋の中に
絵があるのを発見しました。
そして、ルーから、
彼女の母親の絵だと聞くと、
キアナは、どうりでルーに
似ていると思ったと言い、
油絵だけれど、
誰が描いたのかと尋ねました。
ルーは焦りながら
自分が書いたと答えると、キアナは
目をキラキラさせながら
本当にすごいと褒めました。
ルーは、
習ったばかりなので、
そんなに上手に描けなかったと
照れました。
そして、キアナに
話したいことは何なのかと
尋ねました。
キアナはビクッとし、
すぐには答えませんでした。
職場の同僚が
とある国の観光地に
どうしても行きたいと言って
その画像を見せてくれました。
とても美しいので、
私も行ってみたいと思ったのですが
観光地から離れた街中には、
普通に野犬が
ウロウロしているのを知り、
犬が怖い私には
絶対に無理だと思いました。
おそらく食べ物も
受け入れられないので、
どんなに美しい所でも、
今、住んでいる環境と
かけ離れた所へ行くのは
止めておいた方がいいと思いました。
だから、ルーが
マハを受け入れられないことに
とても共感できましたが、
その一方で、
どんな所へ行っても適用できる
キアナが羨ましくもあります。