797話 真実を語ろうとしているラティルのことを、タッシールは心配しています。
◇予測が外れる時◇
ヘイレンはタッシールに
何か心配な点があるのかと
尋ねました。
タッシールは首を横に振ると、
どんなところが心配というより、
全体的に心配だと答えました。
ヘイレンは、
それならもっと問題ではないかと
言うと、一緒に表情を曇らせました。
タッシールは、
しばらく眉を顰めていましたが
ヘイレンの表情に気づくと、
笑いながら彼の腕をポンと叩き、
そんなに心配しなくてもいいと
宥めました。
しかし、ヘイレンは
若頭がこんなに心配しているのに、
自分が心配しないわけがない。
若頭は、予言者レベルだからと
言うと、タッシールは
そんなはずがない。
自分は様々な情報を基に予測するだけ。
それさえも違う時が
1、2回あると謙遜しました。
それを聞いたヘイレンは、
1度や2度しか
間違えていないということだと
褒めると、突然、タッシールの顔に
嬉しそうな様子が浮かびました。
タッシールは、
ヘイレンの話を聞いて安心した。
よくやったと褒めました。
一方、ヘイレンは、
深刻だったタッシールが
突然明るくなり褒めてくれたので
「え?何がですか?」と
目を丸くして尋ねました。
タッシールは、
自分の予測が間違っているのは
主に皇帝と関わる時だと
答えました。
ヘイレンは、しばらく驚きましたが
それはそうだと、
すぐに納得しました。
ヘイレンはようやく安堵し、
使用済みの紙の束を持ち出しました。
タッシールは、その後ろ姿を
ニコニコ笑いながら見つめました。
しかし、ヘイレンが出て行くや否や、
再び表情が曇って来ました。
◇話すと決めたけれど◇
夕食の時間になると、
ラティルは背中で手を組んで
部屋の中をうろうろしながら、
今、食事の時間だけれど、
何かを食べながら
自分の正体を明かしたら、
母親は胃もたれするよねと
サーナット卿に尋ねました。
彼は「そうですね」と答えました
ラティルは、
後で話す方がいいかもと呟くと
サーナット卿は、
ラティルが望んでいる答えに
気づいたので、
明日にしたらどうか。
食事の時間ではない時にと
提案しました。
ラティルは、ほっとした表情で
「やはりそうですよね」と
返事をすると、
1人でパンとバターだけの
簡単な食事をしました。
しかし、翌朝、 再びラティルは
苛立たしそうに時計を見ながら
朝食の時に話しても
胃もたれするだろうと呟きました。
午前の仕事の後、
昼食の時間になった時も、
昼食の時に、こんな話をしたら
胃もたれするだろうと
再び、呟きました。
結局、一日がそのまま過ぎ、
また夕食の時間になりました。
ラティルは、
サーナット卿を見るのが
恥ずかしくて、
扇子で顔を半分くらい隠して
移動しました。
サーナット卿は、
前を歩いて行くラティルの耳が
真っ赤になったのを見ると、
皇帝が好きな時に話せばいいと
優しい声で勧めました。
ギクシャク歩いていたラティルは
後ろを振り返りました。
サーナット卿は、
いつもしっかりと後ろから
支えてくれそうな姿で、
ラティルが肩を伸ばせるように
腕を握ってくれました。
サーナット卿は、
これは皇帝がすると言ったことなので
皇帝が嫌ならやめればいい。
顔色を窺う必要はないと助言しました。
彼は、やめてもいいと言いましたが、
むしろラティルは、その言葉を聞いて
勇気が出て来ました。
彼女は、さっと背を向けると
今行って話さなければならないと
言いました。
サーナット卿は、
今行くのか。
胃もたれすると言ったのにと
尋ねると、ラティルは
胃もたれしそうなら
食べないだろうと言うと、
すぐに先皇后が留まっている住居を
訪ねました。
先皇后の侍女たちは、ラティルを見ると
先皇后が喜ぶと言って、
目に見えて喜んでいました。
ラティルは、彼女たちが母親に
自分の訪問を知らせるのを待った後、
大きく深呼吸して中に入りました。
先皇后もラティルを見ると、
にっこり笑いながら近づいて来て、
ラティルに色々聞きたいことが
たくさんあると言いました。
ラティルが
「聞きたいこと?」と聞き返すと、
先皇后は、
レアンの結婚相手が来たと聞いたと
答えました。
ラティルはその言葉を聞いて、
しまったと思いました。
自分とレアンは、ベゴミアが
アイニであることを知っているし、
それを知る前にも、彼女が
レアンと手を組んでいるということが
分かっていました。
だから、レアンの結婚の件で、
先皇后を思い浮かべませんでした。
しかし、考えてみれば、
母親にとっては、
実の息子の結婚問題でした。
直接、関わることはできないけれど
母親としては、
十分、気になる問題でした。
ラティルは母親と並んでソファに座ると
ベゴミアについて
あれこれ話をし始めました。
先皇后は目を輝かせながら
話を聞きました。
◇勇気が足りない◇
ラティルが
先皇后の部屋から出て来て、
廊下を歩いている間、
ずっと黙ったまま、
ラティルの後を付いて来た
サーナット卿は、周囲が静かになると
上手く話ができたかと尋ねました。
ラティルはうつろな表情で
首を横に振ると、
母親がレアンの結婚について
とても知りたがっていたので
一言も話せなかったと答えると
仏頂面で肩を落としました。
ラティルは、
実はこれは言い訳だということを
自分でも分かっていました。
本当に、断固として
話す気持ちがあったなら、
ベゴミアの話が終わった後に
正体の話ができたはずでした。
しかし、そうすることが
できなかったのは、
明らかに勇気不足でした。
◇白魔術師現る◇
翌朝、ラティルは
30分ほど時間ができましたが、
先皇后を訪ねませんでした。
ラティルは早くから執務室に行き、
誰もいない場所に座って
頬杖をついているだけでした。
その時、後ろから、グリフィンが
ラティルを呼ぶ声がしました。
彼女が窓を開けると、
グリフィンは、すぐに中に入って来て
興奮しながら、
カルレインが白魔術師を捕まえに行くと
叫びました。
驚いたラティルは
「どうやって?」と尋ねると
グリフィンは、
白魔術師が現在の居場所を
訂正しに来たと答えました。
◇また騙された◇
ラティルは仕事をしながらも
しきりに頭を上げて
扉の向こうを見つめていました。
カルレインは
白魔術師に会っただろうか。
彼を捕まえただろうか?
捕まえられなくても
クラインの居場所は
見つけたのではないか。
カルレインは何をやっても
全て上手く行く吸血鬼ではないか。
ラティルは、揺れる心を
無理矢理押さえつけて
仕事に集中しました。
しかし、侍従が
カルレインの訪問を知らせる否や、
ラティルは反射的に立ち上がり
早く入れてと指示しました。
すぐに扉が開くと、カルレインが
執務室の中に入ってきました。
ラティルは、
サーナット卿を除く全員を外に出して、
彼に駆け寄り、
「どうだった?見つられた?」
と尋ねました。
しかし「申し訳ない」と
すぐに否定的な答えが帰って来ました。
ラティルは心臓がドキドキしました。
見つけられたのなら、
謝るはずがないからでした。
ラティルは、
彼が来なかったのかと尋ねました。
カルレインは、来たと答えました。
ラティルは、
人並外れたカルレインが
白魔術師を逃したことが信じられず
言葉に詰まりました。
ラティルは、
どうして逃したのか。
あの白魔術師は、
そんなに凄いのかと尋ねると
カルレインは、
非常に勘が鋭いと答えました。
ラティルは逃げ足も速いのかと
尋ねました。
カルレインは眉間にしわを寄せながら
白魔術師を捕えた瞬間に、
相手はイタチに変わり
ネズミの穴に入ってしまったと
答えました。
サーナット卿は、後ろで
落ち着いて話を聞いていましたが
急いで息を吐き出しました。
ラティルはその音を聞いて、
思わずサーナット卿を振り返り、
ぼんやりとした表情で
カルレインを見ました。
ラティルは「イタチ?」と
聞き返しました。
彼女の頭の中に
何かがぼんやりと浮かび上がりました。
カルレインが、
白いイタチだったと答えた瞬間、
ラティルは思わず
「イタチ!」と叫びました。
カルレインとサーナット卿は
不思議そうな目で
ラティルを見ました。
彼女は口をパクパクさせて
頭を抱え込みました。
カルレインはラティルに
どうしたのかと尋ねました。
ラティルは、
イタチに会ったことあると
答えました。
カルレインは、
イタチの区別がつくのかと尋ねました。
ラティルは、否定すると、
レアンの家から出て来たのを
自分が捕まえた。
レアンは自分で飼っていると言ったと
答えました。
またレアンに騙された!
ラティルは話しているうちに
熱が上がって来て、
首の後ろを押さえました。
自然とウンウン唸っていました。
◇真実を打ち明ける◇
白魔術師に会って
クラインを見つけ出す計画が失敗すると
焦ったラティルは、
その後、時間があるや否や、
すぐに先皇后を訪ねました。
与えられた時間が
多くないことを確認したら、
これ以上、
グズグズしてはいられませんでした。
先皇后は、
昨日、来たばかりなのに
またラティルが訪ねて来たので
「よく来るね。」と言うと、
明るく笑って、
軽く彼女を抱きしめた後、
放しました。
彼女は、
食事は済ませたのか。
一緒に食べようかと誘いました。
ラティルは頷きました。
下女たちは、テーブルの上に
普段、先皇后が食べる物を
置いて退きました。
野菜中心の料理を見て、ラティルは、
百花が話していた、
自分は肉食ではないと言って
羊の所へやって来た狼の話を
思い出しました。
ラティルは、
自分もサラダが好きだと
思わず呟きました。
先皇后はラティルを見て、
もっと持って来させようかと
尋ねました。
ラティルは、大丈夫だと答えて
慌ててフォークを手にしました。
先皇后は、
昨日、話してくれた
ベゴミア嬢のことだけれど、
自分が・・・と
明るい声で話し始めましたが
突然、ラティルが、
真剣で重苦しい声で
「母上」と呼ぶと、
先皇后は口を急いで閉じました。
そして、
ぎこちなく微笑みながら、
自分は空気が読めなかった。
やはり、ラティルは、
この話をするのが嫌なようだと
尋ねると、ラティルは、
そうではなく、
話したいことがあって来たと
答えました。
先皇后は、
話してみろと言わんばかりに
頷くと、
サラダをフォークで取りました。
ラティルに、さらに激しい緊張感が
押し寄せて来ました。
ラティルは、
身がすくむ思いがしました。
特に心臓がそうでした。
先皇后は食事をしながら、
ラティルが口を開くのを
落ち着いて待ってくれました。
ラティルが先皇后を呼ぶと、
彼女は、
大丈夫だから、
ゆっくり話すようにと言いました。
ラティルの食欲は消えました。
舌が痒くて、何かを食べる気にも
なれませんでした。
ラティルはフォークを握って
ずっと母親だけを呼んでいましたが、
自分が
責任を負わなければならない夫が
多数いるということを思い出しました。
自分がロードという話から
しなければならないのか。
それとも、
ロードが危険ではないという話から
しなければならないのか。
それとも、
これから驚くべき話をするけれど、
驚かずに落ち着いて
話を聞いてほしいという
警告からしなければならないのか、
ラティルは悩みましたが、ついに、
以前、母がレアンに騙されて
自分を攻撃したことがあったけれどと
話し始めました。
「そうですね」と答えた先皇后は
良い記憶ではないためか
顔色が悪くなりました。
ラティルは、
それ以来、色々あった。
レアンと母は自分がロードだと言って
攻撃した。
しかし、自分が調べたところ、
ロードと怪物とは何の関係もないことが
分かったと話しました。
先皇后は眉をしかめて、
急に何を言っているのかと尋ねました。
ラティルは、
真実を話していると答えました。
先皇后は、
なぜ、その話を食事中にするのか
分からないと言いました、
先皇后は、
その話をしたくないようでした。
ラティルは、
彼女の手が細かく震えるのを見ると、
手を伸ばして、
その手を握りました。
ラティルは、
以前、自分が
トゥーラに人形を壊されたようだと
言い張った時のことを
覚えているかと尋ねました。
過去の話を持ち出すと、
ようやく先皇后の震えが収まりました。
先皇后は、
ラティルとトゥーラは
ずっと喧嘩していたから覚えている。
しかし、自分はラティルの肩を
持ってあげられなかった。
自分もトゥーラが
好きではなかったけれど
人形を壊したのは
彼ではなかったと答えました。
ラティルは、
他の人が壊して捨てた人形を
トゥーラが拾ったと言いました。
当時の先皇后は、
それでもトゥーラを疑うラティルに、
彼が犯人ではないという証拠が多い以上
ラティルがいくら言い張っても
無駄だと話しました。
先皇后がトゥーラを嫌って、
ラティルを愛しているからといって
彼が犯人ではないという証拠を
無視することはできませんでした。
ラティルは、
母親が感情的に振る舞って
公正さを無視する人ではないと
言った後、
ロードは怪物と関係がないという証拠が
いくつかあると言いました。
先皇后はため息をつき、
なぜ、ラティルが、今、
その話をしなければならないのか
分からない。
ラティルが封印したそのロードを
再び目覚めさせるつもりなのかと
尋ねました。
ラティルは、
どうしても、する必要があったと
答えました。
先皇后は、その理由を尋ねました。
ラティルは、
自分がロードだからと答えました。
先皇后の目が
普段の2倍は大きくなりました。
ラティルは唾を飲み込みました。
テーブルの下で
足が震え続けました。
ラティルは拳を握りしめ、
必死に母親を見つめました。
ラティルは
最初、白イタチを捕まえた時、
何となく怪しいと思ったのだから
レアンの所へ行かずに
動物の専門家?のゲスターにでも
見せればよかったのに、
取り逃がしたことが悔しかったあまり
半ば、やけくそで母親の元へ行き、
自分の正体を明かすなんて、
少し、浅はかだったのではないかと
思います。
先皇后はラティルを愛しているけれど
レアンに頼まれて
彼と一緒にラティルを騙したのは
ラティルよりレアンの方を
愛しているからなのではないかと
思います。
だから、先皇后は、
今回もラティルよりレアンの方を
優先させそうな気がします。