288話 カルレインから、1/8に分かれた愛と聞いてラティルは・・・
◇反対する理由◇
ラティルは、
なぜ、ギルゴールもカルレインも
メラディムを側室の数に
入れるのかと疑問に思いました。
メラディムは、側室になるかどうか
まだ、決まっていませんでした。
ラティルは、
ギルゴールを側室にしなければ
アイニの所へ
行ってしまうかもしれない。
そうなれば、
もっと危険なのではないか。
カルレインは
ギルゴールに勝てないと言うと
カルレインはギクッとしました。
サーナット卿も、この話をした時に
プライドが傷ついたようでした。
勝てないのは事実だけれど
認めたくないようでした。
普通の人よりも、ずっと強いと
大口を叩いて暮らす吸血鬼たちなので
自分より強い吸血鬼がいることに
プライドが傷つくのかと思いました。
カルレインは短くため息をつくと、
ギルゴールは、
何世代にも渡って
常にロードを裏切ってきた裏切り者だ。
どんなに美しくても、
どんなに甘く振る舞っても、
彼はいつも毒だった。
これを忘れてはいけないと
忠告しました。
ラティルは、
それは、自分も知っている。
ギルゴールと話をしていると、
いつ、彼の頭がおかしくなるか
ずっと確認していると返事をしました。
ギルゴールは見る度に、
花をかじって食べているので
分からない訳がないと思いました。
そして、ラティルは
ギルゴールを自分の懐に置けば
毒になるけれど、
外に出たら剣になると言いました。
最悪の場合を仮定しても、
中から腐るか、
外から刺されるかの違いでした。
カルレインはラティルを見て、
彼女も彼を見ました。
実は、ラティルは、
まだギルゴールを側室として迎えるか
決めていませんでした。
彼を手に入れて、
思い通りに操る自信も
ありませんでした。
けれども、
サーナット卿とカルレインの両方が
反対したので、
しきりに、
賛成側の意見を述べていました。
カルレインが、
心配そうな目でラティルを見ていたので
ラティルは大丈夫だと
言おうとした瞬間、
微かにジジジジという音が
聞こえて来ました。
怪しんだラティルは
周囲を見回していると、
カルレインが立っている付近で
普段の声とは違う声で、
数千年生きている邪悪な大蛇が
ご主人様のそばで尻尾を振る姿は
絶対に見ることができないと
本音が聞こえて来ました。
ラティルは、
危ないから反対するのではなく
そばに来るのが嫌なのではないかと
尋ねました。
◇王子への意地悪◇
以前のように、
本音がやたらと
聞こえて来る訳ではないけれど、
相手が少し敏感になると
聞こえて来るようでした。
ラティルは、
そのような時を狙い、
ギルゴールの頭の中を見ようと
思いました。
ギルゴールのように
狂った吸血鬼の本音が
聞こえるかどうか分かりませんが
試してみて悪いことは
ありませんでした。
客用の宮殿へ行ってみると
月楼の王子が釣竿を持ち、
遠足に出かけるところでした。
侍従と笑いながら
お弁当まで用意した王子を見て、
彼は部屋に閉じこもっているべきだ。
来たくもないのに来たくせに
遊び過ぎだ。
自分は忙しく働いているのにと
癪に障ったラティルは、
学者たちを王子の元へ送り、
勉強させたい衝動に駆られました。
王子は通りすがりに
ラティルを見かけると、
渋々、挨拶しました。
彼の嫌そうな顔を見て、
そんなのはずるいと思ったラティルは
どこか、いい所へ行くみたいだと
先に言いがかりをつけてしまいました。
しかし、ラティルが、
堂々と文句を言っているにもかかわらず
王子はあまり反応しませんでした。
前に王子が、
ラティルへの不平を漏らした時に、
彼女が作り笑いをしながら
王子を見ていたところ、
ラティルが自分を見ているのは
自分に関心があるからだと
心の中で言っていたせいか、
目つきは相変わらず生意気で
反抗心に満ちていたものの、
少し勉強して、少し散歩をすると
素直に答えました。
ラティルは、王子が
見る度に遊んでいるみたいだけれど
勉強はしているのかと尋ねました。
彼は、いつもやっている。
たまに休む時に、
ラティルが来ると答えました。
彼女は、
「そうか」と返事をしました。
そんなやり取りをした後、
ラティルは、
自分の心は狭い。
こんなことはやめようと思い、
笑って通り過ぎました。
ところが、後ろから、
「偶然のふりをして 、あの皇帝は
しきりに自分に会いに来る」と
王子の本音が聞こえて来たので、
ラティルはカッとなって、
振り向いてしまいました。
王子も歩きながら
ラティルをチラッと見ました。
彼女と目が合うと、
彼の顔が青ざめました。
そして、
「あの皇帝は、自分をずっと見ている。
側室をあんなにたくさん置く皇帝だから
きっと色欲におぼれた変態だろう。
自分が反発するので、
好奇心を持ったに違いない。
気をつけないと。」と
本音が聞こえて来ました。
ラティルは
怒りを堪えることができませんでした。
王子は速足で逃げるように消えました。
小言を並べ立てた本音が遠ざかると、
ラティルは大きなため息をつきました。
しかし、平べったい餅のような顔が
あのような誤解をしていることを知ると
気分が悪くなり、
耐えられませんでした。
ラティルは、サーナット卿を呼ぶと
性格が悪いことで有名な学者を
10人くらい
月楼の王子に付けるように。
彼は勉強しに来たくせに、
遊びすぎだ。
自分は遊べないのに、腹が立つ。
彼に、他のことを
考えさせないようにすると言いました。
サーナット卿は、
何かモヤモヤしているようでしたが
「はい」と返事をしました。
しかし、「どうしたのだろう?」と
彼の本音が聞こえて来ました。
それでも、
ラティルは腹いせをしたので
少し気分が良くなり、
キルゴールを探して歩きました。
しかし、ギルゴールはいなかったので
彼女は本宮へ向かいました。
◇無残な花園◇
ラティルは歩いていると、
遠くに花園を見ました。
ラティルは、ギルゴールが、
彼の部屋を埋め尽くした花々は
温室と花園から持って来たと
言っていたのを思い出しました。
ラティルは、時間を確認すると、
サーナット卿に、
自分は30分程後に行くと、
侍従長に伝えるようにと指示し、
自分は、
少し静かに考えながら歩きたいので
花園へ行くと伝えました。
サーナット卿が下がると、
ラティルは花園の中へ入りました。
タリウムの宮殿内にある花園は
とても美しく、
きらめく黄色の石が敷き詰められた
道の両側に、
華やかな季節の花が咲いていました。
真っ直ぐ歩いて行くと、
小さな人工湖があり、
その上には船の形をした
東屋がありました。
その東屋に立つと、
花でいっぱいの花園を
船に乗って見物する気分に
させてくれました。
花が咲いている部分だけが地面なので
船に乗らなければ
行けない場所もありました。
子供の頃、船に座り、
ラティルが花の枝に手を伸ばすと
舟を漕いでいたレアンに、
危ないと注意されたことを思い出し
心が少し痛みました。
ラティルは黄色の道を歩きながら
憂鬱な気分で花に手を伸ばしましたが
「クソ野郎!」と叫ぶ声で、
その気分が飛んでしまいました。
誰が宮殿で、
あのような下品な言葉を使うのか。
ラティルは好奇心から、
声のする方を見ました。
そこには、
剪定バサミを持った庭師がいて
どこかを見ていました。
そろそろと、そちらに近づくと
見事に咲いた花の間に、
すっと引き抜かれた部分が
ありました。
庭師は、一体、誰が
毎日花を摘んでいくのか。
何度植えても抜かれると
怒りまくっていました。
助手が後ろで
誰かが聞いているかもしれないので
落ち着くようにと
彼をなだめていましたが、
それほど効果はなさそうでした。
庭師は、
聞いてビクッとする奴が犯人だから
聞けばいいと叫びました。
ラティルは、
自分は犯人ではないけれど、
ギルゴールが犯人だと知っているので
ビクッとしました。
幸い、もっとビクッとする前に
助手がラティルを見つけて
慌てて腰を下げました。
庭師も同様でした。
ラティルは、
ぎこちなく笑いながら、
顔を上げるようにと、
手で合図をしました。
そして、
花が無残になっているのに、
興味も持たずに行ってしまうと
変に思われると思い、
ラティルは、
ドキドキする気持ちを抑え、
誰かが花を抜いていくみたいだと
知らないふりをして尋ねました。
庭師はとても悔しそうな顔で、
ここが全てなくなったのを見て欲しい。
ある泥棒が、
しきりに花を盗んでいくので、
いくら手入れをしても
花園が悲惨な状態だと即答しました。
ラティルは、
警備兵に言ってみたかと尋ねました。
庭師は、
言ってみたけれど、
その泥棒の足が非常に速く、
警備兵が徹夜して見張っても、
花を全部持って行ってしまう。
警備兵がいると、からかっているのか
もっと持って行く。
以前は、警備兵の耳に
花も挿して行った。
警備兵は犯人の髪の毛すら
見ていないと、
怒りながら説明しました。
ラティルは、すべての状況が
キルゴールを指していると思いました。
ラティルは、渋々、
「なるほど」と呟くと、
庭師はキラキラと目を輝かせ、
月楼から来た誰かが犯人だ。
彼らが来てからこうなったと
自分の意見を述べました。
正解でした。
庭師を可哀そうだと思ったラティルは
彼の肩を叩いて、
頑張れと、励ましました。
怒られるのではないかと、
庭師はラティルの顔色を伺いましたが、
ラティルは怒らずに、
彼を慰め、労いました。
庭師は戸惑っていましたが、
怒られなかったことを
幸いだと思ったように挨拶しました。
ラティルは、
彼らの間を通り過ぎました。
確かに、中に入ってみると、
花があちこち抜かれていました。
入口付近は、
抜かれていなかったので、
気づきませんでしたが、
内側は、誰が見ても、
部分的に荒れ果てていました。
入口付近に花を残しておいたのは、
最低限の配慮だったのかと思いました。
ラティルは、通りを歩き続けました。
温室が
とんでもないことになっているけれど
ギルゴールに、
花を抜くことを禁止したら、
人の髪の毛を抜いてしまいそうでした。
そんなことを考えながら歩いて行くと、
船の形をした東屋の端に、
大神官が後ろ手を組みながら立ち、
深刻な表情で湖を眺めていました。
なぜ、運動をしていないのか
不思議に思ったラティルは、
彼を呼びました。
大神官はラティルを振り返りました。
ラティルは、ニッコリ笑って、
もう一度、彼を呼びました。
彼には、色々助けてもらったので、
その日の晩か、次の日の晩に
彼の所へ行くつもりでした。
ラティルは笑いながら、
大神官に近づきました。
彼女が階段を上る時、
彼は手を伸ばして、
彼女の手を握りました。
その瞬間、
ラティルは、なぜロードなのかと、
何となく悲しい本音が
聞こえて来ました。
ラティルは、
階段の途中で止まりました。
心臓の鼓動が激しくなりました。
ラティルは乾いた唾を飲み込み、
大神官の目を見つめました。
今、彼は何て言ったのかと
自分自身に尋ねました。
カルレインは、
ギルゴールが、
自分よりも強い吸血鬼であることに
嫉妬しているし、
ラティルのことを心配しながら、
ギルゴールが彼女と
親しくなり過ぎることにも
嫉妬していると思います。
ギルゴールの美しさにも
嫉妬しているのかも。
ドミスは、
カルレインよりも先に
ギルゴールと仲良くなったので
彼の女性を誘惑する手腕にも
嫉妬しているかも。
でも、ドミスは最初から
カルレインのことが
気になっていたし、
ラティルも、
カルレインよりギルゴールの方を
より好きになるとは思えません。
ギルゴールより
負けている部分が多くても、
カルレインは、
もっと自信を持っていいと
思います。