610話 タッシールの侍従の行動を怪しんだクラインは、彼の後を付いて行くことにしました。
◇もしかして知っていた?◇
クラインは、
アクシアンだけを連れて
こっそりロープの後を
付いて行きました。
もしかするとロープが
他の誰かに会うのではないかと
思いましたが、
ロープが向かったところは
人通りのない隅にある庭の塀でした。
ロープはその塀の下の土を
手で掘り起こし、
そこに持ってきた書類を入れました。
その後、その上を土で覆い、
掘った跡が残らないよう、
土を足で軽く踏んで平らにしました。
これらすべての行動が怪しげでした。
クラインはロープが消えると、
その後を追う代わりに、
ロープがしゃがんでいた塀の近くに
行ってみました。
クラインは平らな地面を指差し、
アクシアンに掘ってみるよう
指示しました。
アクシアンは、
素早く土を掘り起こしました。
書類が半分現れると、
クラインはさっと取り出して
素早く広げてみました。
何枚かありました。
アクシアンは手に付いた土を
振り落としながら、
何と書いてあるかと尋ねました。
クラインは、目を素早く動かして
5、6枚の紙を見た後に、
主題が一貫していないと答えました。
アクシアンは、
色々な話が入っているということかと
尋ねました。
クラインは「そうだ」と答えました。
クラインはアクシアンに
書類を半分渡しました。
彼はクラインより少し遅い速度で
書類を見た後、
誰かが急いで書き写したようだ。
タッシールの侍従が元の書類を見て
書き写したのだろうかと
推測しました。
クラインは、
そうかもしれないと答えました。
しかも、その書類の内容は、
ほとんどが商団のことのようでした。
クラインは、
タッシールの新しい侍従は、
彼の商団とライバル関係の商団から
来た人なのだろうかと推測すると、
アクシアンは、
そうかもしれないと答えました。
クラインは、急激に興味を失いました。
タッシールの新しい侍従が、
彼の商団のライバルの商団の人で、
そのため、タッシールを
偵察しているのなら、
彼が乗り出すほどの事では
ありませんでした。
アクシアンはクラインに
どうするつもりなのかと尋ねました。
クラインは、しばらく考えた後、
タッシールにこの話を聞かせて、
彼に恩着せがましく振るうという
結論を出しました。
アクシアンは、
この書類はどうするのかと尋ねると、
クラインは、
タッシールに持って行くと答えました。
その後、クラインは
タッシールの部屋の前に行き、
30分ほど待った末、
廊下を通って自分の住居に戻ってくる
タッシールを
発見することができました。
おや、我らが
クライン殿下ではないですか。
笑いながら話しかけるタッシールを
彼の部屋へ連れて行ったクラインは、
ロープがこっそり埋めた書類を渡し、
予定通り、精一杯恩着せがましく
一部始終を話しました。
アクシアンは、いくらタッシールでも
今回のことには、
少し驚くのではないかと思いましたが、
話を聞いているタッシールの表情に
大きな変化はありませんでした。
それを見て、アクシアンは、
もしかしてタッシールは
このことを、
知っていたのではないかと思いました。
知っているのなら、
なぜ放っておくのか。
理由もなく、裏切り行為を認め、
知らないふりをするような人では
ないように思うので、
何か理由があるのではないかと
怪しみました。
◇ギルゴールの頼み◇
どうすれば大臣たちをまとめて
驚かせることができるだろうか。
ラティルは、
ハーレムで起きていることを
知らないまま、
大臣たちが、レアンを
呼び寄せようとしたことに
気を取られていました。
そのせいで、ラティルは仕事をしながら
大臣たちのことばかり考えていました。
サーナット卿は、そんなラティルを
後ろから見つめながら
一人で静かに笑っていました。
大っぴらには言えませんが、
あちこち揺れるラティルの束ねた髪と
力が入ったり抜けたりを繰り返す拳が
可愛いと思いました。
しかし、
ラティルが部屋で食事をした時、
はあはあ息巻きながら、
立て続けにフォークを2本壊すと、
サーナット卿は、
適切な時が来るので、
そんなに悩む必要はないと
真剣な表情で慰めました。
ラティルは、
折れたフォークを横に置きながら、
いつか来ることは分かっている。
でも、大臣たちを驚かせたいけれど
あまり稚拙に見られたくないと
膨れっ面で返事をしましたが、
熱心に動いていた唇は
窓越しにギルゴールを見つけると
止まりました。
ラティルが話すのを止めて
窓を見つめたので、サーナット卿は
一緒にそちらを見ると、
ギルゴールが窓枠に座っていたので
眉を顰めました。
ラティルとサーナット卿が、
自分を発見したことが分かると、
ギルゴールは窓を開けて
中に入って来て、
お嬢さん、時間ありますか?
と尋ねました。
ラティルは慌てて立ち上がると
どうしても、窓から来なければ
いけなかったのかと、
ギルゴールを非難しました。
彼は、個人的に話したいことが
あったからと弁解しました。
ギルゴールは窓から中へさっと入ると、
サーナット卿を見て、
花畑は出て行ってくれますよね?
と聞きました。
花畑と言われて、サーナット卿は
眉をひそめましたが、
ラティルは部屋の中で、
騎士2人が戦う姿を見たくないし、
戦っても、どちらかが勝つか
分かっているので、
サーナット卿には後で話そうと言って、
彼をポンと叩きました。
彼は不満そうに見えましたが、
素直に外に出ました。
サーナット卿が出て行き、
ギルゴールと2人だけになると、
ラティルはソファーに近づいて、
座りながら、
窓からやって来て個人的に話すことは
何なのかと尋ねました。
ギルゴールは、
ラティルが折ったフォークを
持ち上げながら、
彼女がシピサと一緒に
ピクニックに行くことを
提案しました。
その言葉に戸惑ったラティルは、
今、自分は公式的には
具合が悪いことになっていると
返事をしましたが、ギルゴールは
休養と言えばいいのではないかと
勧めました。
実際、ラティルは
部屋の中に閉じこもっていることに
うんざりして、
そろそろ執務室に出ようと
考えていました。
執務室で働いていても、
薬を飲んでいる姿を見せれば、
大臣たちも、まだ具合が悪いと
思ってくれると思いました。
しかし、突然、ギルゴールが
シピサとピクニックに行けと
提案すると戸惑いました。
何か魂胆があるのかと思い、ラティルは
どうして、急にそんなことを
言い出したのか。
ピクニックに行きたければ、
ギルゴールが誘えばいいのではないかと
勧めると、彼は、
シピサが退屈しているみたいで
お嬢さんの子馬の隣に
くっ付いていたと話しました。
ラティルは、
子馬とはクラインのことかと
尋ねると、ギルゴールは
「そうだ」と答え、シピサは
自分が誘っても行かないだろうと
付け加えました。
その言葉にラティルは
ショックを受けました、
ギルゴールは、
お嬢さんが呼んでくれたら
自分も行く。ピクニックに行く時、
自分も呼んで欲しいと頼みました。
ラティルは、
ギルゴールの言うことを聞いて
涙が出そうになりました。
そのようなことをしてでも、
シピサのそばにいたいのだろうかと
思いました。
ギルゴールは、
ラティルが壊したフォークを
バラバラにしながら立っていて、
チラッとラティルの顔色を
窺いました。
ラティルは、
久しぶりのギルゴールの頼みを
断ることができなかったので、
分かったと答えました。
◇ピクニック◇
翌日、ラティルは、
体がかなり回復したので、
もう執務室で
働くことができると言って、
ついに部屋の外に出ました。
侍従長は、
ラティルが仮病を使ったことを
知らないので、
もっと休む必要があるのではないかと
心配そうに尋ねましたが、
ラティルは、すぐに首を横に振り、
部屋の中にいても、
ずっと仕事ばかりしていたので、
執務室で働くのと違いはないと
答えました。
サーナット卿は笑いを堪えるために
唇をぎゅっと閉じていましたが、
実は侍従長も、
同じことを考えていたので、
ラティルの言葉にすぐ納得しました。
彼は、
休むなら、ゆっくり休めばいいのに、
どうして、
自分の部屋で働いているのかと
少し疑問に思っていた。
休む時は休んで、働く時は働いた方が
いいに決まっている。
しかし、
あまりにも本格的に仕事をして、
また体調が悪くなるのではないかと
心配していると言いました。
ラティルは、
体調が悪ければすぐに帰ると
返事をしました。
そのようにしてラティルは、
仮病を少し治して
執務室に戻りました。
そして2日ほど、
いつものように仕事をし、
適当な言い訳をして
ピクニックの時間を作り出すと、
サーナット卿に、
明日の午後1時頃、宮殿内の野原で
ピクニックをしながら、
一緒に昼食を食べようと
シピサに伝えて来てもらえるかと
頼みました。
シピサはサーナット卿に対して
親近感はないけれど、
悪意もないことを思い出して
頼んだのでした。
サーナットは卿は承知すると、
シピサに会いに行きました。
そして、彼から「行く」という
肯定的な答えを聞いて来ました。
それを聞いて
ラティルは安堵しました。
ラティルは、
自分が呼べばシピサは来るだろうと
思っていましたが、
断られる可能性も
念頭に置いていました。
シピサはここに来てから
ラティルのために、
独特の薄い味の食べ物を
よく作ってくれましたが、
ラティルが仮病を使っている間、
その食べ物を、
作れなくなったからでした。
そのため、ラティルは
もしかしたらシピサが
ピクニックを
断るのではないかと心配しました。
サーナット卿は、
ニコニコ笑うラティルを見て
シピサが気に入っているようだと
指摘しました。
ラティルは、彼のことが
好きかどうかは別として、
特別な縁で結ばれた仲だからと
返事をしました。
サーナット卿は、
他の側室たちを
ピクニックに連れて行くなら、
伝えに行くけれど、
連れて行かない方がいいと
言いました。
ラティルは、
ギルゴールだけ連れて行くべきか、
それとも、他の側室たちも呼ぶべきか
悩みましたが、断りました。
次の日、ラティルは
つばの広い帽子をかぶり、
軽い材質の白い服を着た後、
シピサと約束した
ピクニックの場所に行きました。
シピサは、
以前のように先に来ていて、
ラティルを待っていましたが、
彼女を見ると、
ぱっと立ち上がりました。
ラティルはシピサの隣に
食べ物が入っていると推定される籠が
山積みになっているのを発見し、
ぎこちなく笑いました。
あの神殿の料理を
また作って来たのだろうか。
食べ物の味が薄いと
言った方がいいのだろうかと、
ラティルは悩みました。
そして、籠を見て、
それを全部食べることを考えると
少しぞっとしましたが、
そんなそぶりを見せずに
シピサに近づきました。
彼女は、
突然、呼んでしまったけれど
大丈夫かと、
優しい声で尋ねました。
シピサは両手をギュッと握り締め、
素早く頷くと、
ずっと待っていたので大丈夫。
皇帝が自分を呼んでくれると
ずっと思っていたと答えました。
ずっと思っていたの?
はい。
ゲスターのように答えたシピサは
ラティルに向かって
照れくさそうに笑い、
私を呼んでくださって嬉しいです。
と言いました。
ラティルは、
純粋に喜ぶシピサを見ると
食べ物についての考えは消え、
もっと早く呼べばよかったと
思いました。
しかし、仮病を使っていたため、
シピサを呼ぶ暇がありませんでした。
大臣たちは、シピサが
ラティルの前世の息子で
あることを知らないので、
ラティルが仮病を使いながら
シピサを呼べば、
また、新たな男に関心を持っていると
誤解されるところでした。
ラティルは、
こんなに喜ぶことを知っていたら
もっと早く呼べば良かったと言うと
シピサは、
大丈夫。
自分は待つことに慣れていると
返事をしました。
そして、シピサは、
数日前、クラインから、
皇帝はエビ料理が好きだということを
聞いたと言うと、
積まれた籠のうち、
3番目に置かれた籠を取り出し、
蓋を開けました。
中には、カリッと揚げたエビを
切ったレモンで飾っている料理が
器にきれいに盛られていました。
わあ!
ラティルが感嘆しながらシートに座ると
シピサも彼女のスピードに合わせて
一緒に座り、
すぐにフォークを差し出しましたが
ラティルがフォークを持っただけで
食べないでいると、
シピサの顔から血の気が引き、
なぜ、食べないのですか?
変な匂いがするのですか?
と尋ねました。
ラティルは、
いえ、そんなことはない。
本当に、
おいしそうな匂いがします。
と答えました。
シピサは、
それなのに、なぜ食べないのかと
尋ねました。
ラティルは、
シピサの不機嫌そうな顔を見て、
自分がギルゴールの頼みを
あまりにも簡単に
受け入れてしまったと思い
後悔しました。
こんなに喜ぶと知っていたら、
シピサと2人で時間を過ごした後、
ギルゴールを呼べば良かったと
思いました。
けれども、ギルゴールの頼みで、
この場を用意したので、
ギルゴールとの約束は
守らなければなりませんでした。
ラティルは、どうかシピサが
あまり悲しまないようにと
心の中で祈りながら、
フォークを置くと、
実はシピサ以外に呼んだ人が
もう一人いると、
慎重に打ち明けました。
シピサは、
サーナット卿かクライン皇子かと
尋ねました。
ラティルが、ギルゴールだと答えると
シピサはショックを受けました。
ラティルは、
二人の間に自分の知らない、
いや、覚えていない何かがあるのは
知っているけれど、それでも・・・
と言いましたが、
申し訳ありません。
と、シピサが突然謝りながら
立ち上がったため、
話を全て終えることが
できませんでした。
ラティルは、
すぐにシピサを呼びましたが。
シピサはすぐに姿を消しました。
あっという間にラティルは、
シピサが持って来て敷いてくれた
きれいなシートの上に
一人、取り残されました。
話をしたり事情を説明する暇も
ありませんでした。
夏の風が軽く吹き、
シートがはためきそうになったので
ラティルは、ぼんやりしたまま
シートの端を押さえるために
しばらく後ろを向きました。
それから、また前を見ると、
いつの間にかギルゴールが、
先程、シピサが
座っていた場所に座って
フォークを持っていました。
彼はシピサとピクニックを
するつもりだったので、
普段より上品な服を着て、
背中にも、
槍を背負っていませんでした。
ギルゴールが期待に満ちた目で
ラティルを見ると、
彼女は言葉に詰まりました。
シピサは、
母親のアリタルが亡くなってから
何千年もの間、
母親が生まれ変わるのを
待っていたのでしょう。
「待つのに慣れている」という言葉に
どれくらいシピサの悲しみや辛さが
込められているかと思うと、
心が痛みます。
そして、息子とのピクニックを
楽しみにして、
いつもより、おしゃれをして来た
ギルゴールが失望することを考えると
心が痛みます。
さて、すでに投稿したお話が
ちょこちょこ出て来たり、
あと、2カ月もすれば
すでに投稿したお話まで到達します。
以前の文は、
韓国語を英語、あるいはスペイン語に
翻訳したものを参考にしましたので
内容の間違いが散見されます。
先に投稿したものは、いったん削除し
原文を読んで、文章の手直しをし、
順を追って再投稿しますので
よろしくお願いいたします。
shaoron-myanmyan様
いつもコメントを
ありがとうございます。
二重投稿はどうぞお気になさらずに。
片方は削除させていただきましたので
よろしくお願いいたします。