自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

バスティアン 79話 ネタバレ ノベル あらすじ 自分の位置

79話 バスティアンはオデットのために、アヤメの花束を買いました。

天地が初めて開けるのを

目撃したような気分でした。

マリア・クロスは

驚愕を隠し切れない目つきで

しきりにバスティアンの方を

チラチラ見ました。

隣に座っている

クラーモ博士も同様でした。

 

退勤が遅くなったバスティアンは、

客たちが全員到着した後に

帰宅しました。

それでも花を買って来てくれた

気遣いに感動しましたが、

それは長くは続きませんでした。

妻のために用意した

もう一つの花束がもたらした

衝撃のせいでした。

 

一見すると、

オデットに贈った花は

マリアのものに比べて

ずっと小さくて質素だったので、

叔母を今日の主役にしてくれた

甥の配慮が感じられました。

しかし、

そのささやかなアヤメの花束が

バスティアンの真心であることに

マリアはすぐに気づきました。

 

男たちが大抵そうであるように

バスティアンもまた、

陳列されている花束の中から

適当に一つを選んで来ることが

多くありました。

今日、マリアがもらった、

この花束のように

最も無難で、人気のある品種の花を

組み合わせた、美しい既製品でした。

 

しかし、妻に贈ったアヤメは

彼自ら選んだのは明らかでした。

珍しい花ではないけれど、

かといって、ありふれた花でもなく

適当な花を注文した紳士に

アヤメを持たせる花屋の主人は

いないだろうと、マリアは

断言することができました。

しかも、あんな青二才のような

姿をしているなんて!

 

マリアは呆れて空笑いしました。

アヤメを渡した瞬間から今まで、

バスティアンは一瞬も自分の妻から

目を離すことができずにいました。

オデットの小さな仕草、

些細な目つき一つにも

神経を尖らせながら

注意を払いました。

まるで初恋をする

図体の大きい少年にでも

なったような姿でした。

それに反して、オデットは、

ただ適度な礼儀を

守っているだけだという点が

マリアをさらに驚かせました。

 

バスティアンが、

あんなに愛妻家になるなんて

思いもしなかったと、

事情を知らないクラーモ博士は

微笑みながら囁きました。

マリアは、ただ曖昧な微笑みを

返しただけでした。

この生真面目な医者が見ても

分かるくらいだから、

サンドリンが気づかないはずが

ありませんでした。

 

信じていない神でも探したくなった瞬間

執事が入って来て、

晩餐会の準備ができたことを

告げました。

ようやく妻から目を離した

バスティアンは、

平然とマリアのそばに近づき、

エスコートを求めました。

目が合うと、バスティアンは

にっこりと、

余裕のある笑みを浮かべました。

適度に無情でありながらも意地悪で

さらに魅惑的な、

マリアが知っている、まさに、あの

バスティアン・クラウヴィッツ

顔でした。

 

もしかしたら老婆心から来る

思い込みかもしれないと

自らを説得したマリアは

何事もなかったかのように

甥の手を握りました。

 

まだ知らないのなら、

あえて知らせない方がいい。

マリアが知っている愛はそうでした。

この上なく素晴らしい晩餐会でした。

美味しい料理と良い酒。

気を配った装飾。

それに添えられた

親密な会話と笑いまで。

すべてが調和して、

親しみやすい雰囲気を

醸し出していました。

 

オデットは、

メインディッシュの皿が

片付けられてから

ようやく安堵しました。

正気を半分失った状態で

準備した晩餐でした。

有能な使用人たちの助けがなかったら

まともにやり遂げることが

できなかっただろうと思いました。

 

オデットは冷たい水を一口飲んで、

しきりに、ぼんやりしそうな意識を

呼び覚ましました。

父と会ってから、まともに考えることが

難しくなっていました。

一体どうやって

アルデンに戻って来たのか

よく思い出せませんでした。

ほんの数時間前のことが、

まるで遠い過去のように

はるか遠くに感じられました。

 

しっかりして。

オデットは、これまで

優に数十回は繰り返してきた呪文で

心を落ち着かせました。

あと少しだけ耐えれば良いという

希望を抱きながら、

味を感じることができない

食べ物を飲み込み、

優しい笑顔を見せました。

全く予想もしていなかった

苦境に直面したのは、

ちょうどデザートが

配られ始めた時でした。

 

こんなに仲の良い新婚夫婦が

二年も離れて

暮らさなければならないなんて、

本当に残念なことだ。

一緒に赴任先へ行くのはどうかと

クラーモ博士がオデットに

慎重に尋ねました。

遅ればせながら

その意味を理解したオデットは、

途方に暮れた気持ちで

周囲を見回しました。

 

誰でもいいから、代わりに

驚いた反応を見せて欲しかったけれど

そんな幸運は訪れませんでした。

この食卓を囲んでいる全員が、

すでにバスティアンの出征の事実を

知っていた様子でした。

どうやら疎外されたのはたった一人。

バスティアン・クラウヴィッツ

妻だけのようでした。

 

どうせ、

バスティアンが艦艇に乗っている間は

一緒に暮らせないのだから、

ここにいるのと大差ないと

バスティアンと目が合ったのと同時に

マリア・クロスが

反対意見を述べました。

 

オデットは、

疑われないようにうまく行動するので

心配しないでと、

バスティアンに約束するように、

震える唇にそっと力をこめて

微笑みました。

 

マリア・クロスは、

トロサ諸島は、

荒れ地も同然の場所なので、

若い淑女にとっては過酷な環境だ。

見知らぬ所で、夫だけを待ちながら

寂しく過ごすよりは、

ここにいた方がずっといいと思う。

そうではないかと、

オデットに尋ねました。

オデットを見つめるマリアの目には

かつてない慈愛に満ちた笑みが

浮かんでいました。

それが意味することに気づいた

オデットは、素直に頷くことで

与えられた責務を果たしました。

 

オデットは、

アルデンに留まるのがいいと思う。

夫に負担をかけたくないし、

何よりまだ、この邸宅の工事が

残っている点が気になっていると

答えました。

 

マリアは、

立派な心がけだ。

まだ新居の基盤が整っていない状態で

女主人までいなくなってしまったら

困るだろうと言うと、

ようやく安堵の表情をしました。

ほとんどの客も、

クロス夫人と同様の意見を述べました。

 

まだ未練を捨て切れていないような

クラーモ博士は、

バスティアンはどう思うかと

質問する相手を変えました。

 

オデットは、

僅かな緊張感が滲み出る目で

バスティアンを見つめました。

豪華な燭台の明かりが

骨格のはっきりとした顔に

濃い影を落としていました。

 

沈黙が長引くと、クラーモ博士は

静かに「バスティアン」と

名前を囁きました。


バスティアンは、そっと笑って

グラスを握りました。

皆の注目が集まっていましたが、

緊張した様子は見られませんでした。

 

ワインで唇を潤したバスティアンは

自分は妻の意思を尊重すると

ようやく答えを口にしました。

オデットを見る目つきは、

出征事実が明らかになった瞬間と

変わらず、ただ静かでした。

 

オデットは

「ありがとう、バスティアン」と

決まり切った返事で、

気まずい会話を締めくくりました。

主治医の娘と婿よりも下の

自分の位置を実感すると、

かえって気が楽になりました。

 

真心を与えなければ傷つくこともない。

だから、偽の妻の裏切りは、

この男の心に

何の傷跡も残さないだろう。

そうだとすれば、むしろ自分が

この程度の意味に過ぎなかったのは

幸いでした。


オデットはその事実に

心から感謝することにしました。

それが正しかったから。

アヤメの入った花瓶を持った

モリーが寝室に入って来ました。

オデットは、化粧台の鏡を通して

その子の様子を窺いました。

ブラッシング中のメイド長に

気づかれないように、

慎重を期すことも忘れませんでした。

 

何かがある。

突然、不吉な予感が訪れたのは、

ブラシを置いたメイド長が

後片付けを始めた時でした。

鏡の中で

オデットと目が合ったモリー

何かの合図をするように

眉を顰めました。 

その意味が何なのかは

子供の次の行動によって

明らかになりました。

 

モリーは袖の中に隠していたメモを

素早く花瓶の下に隠しました。

オデットがチラッと見ると、

子供は明るく笑って背を向けました。

あの子とティラが

似ていると思った過去を

後悔させるような姿でした。

 

安らかな夜をお過ごしくださいと

礼儀正しく挨拶をしたメイド長が

モリーと一緒に去っていきました。

彼らの足音が遠ざかると、

オデットは急いで、

ドレッサーの前から立ち上がりました。

コンソールテーブルの上に

置かれている花瓶を

そっと持ち上げると、

小さく折りたたんだメモが見えました。

 

爆発しそうなくらい鼓動し始めた心臓を

かろうじて鎮めたオデットは

震える手でメモを開きました。

二つの寝室をつなぐ通路側から

足音が聞こえ始めたのは

その時でした。


当惑したオデットは、そのメモを、

慌ててガウンのポケットに

突っ込みました。

すぐにドアが開いたため、

コンソールの前を離れる時間は

ありませんでした。

 

疑われるのではないかと

焦ったオデットは、

まるで花を鑑賞していたかのように

冷たく固まった手で

花瓶に挿してあるアヤメを

触り始めました。 ただ、

それだけをしていたかのように。

 

しばらく通路のドアの前に

立ち止まっていたバスティアンが

寝室を横切ってきました。

オデットは、

ぎこちなく見えないように

気をつけながら振り向きました。

 

そっと花びらを撫でていたオデットは

花が、とてもきれいだと言って、

静かな笑みを浮かべました。

バスティアンは、腕を軽く組んだ姿勢で

妻のそばに立ちました。

 

彼女は、

あのことは気にしないで欲しい。

あなたのことは理解しているからと

言うと、

しばらく指先を見下ろしていた目を

再び上げました。

 

理解したのかと、

バスティアンは失笑するように

聞き返しました。

 

彼は、思いがけない方法で

出征の事実を

オデットに知らせることになり、

心が落ち着きませんでした。

ひょっとして騙されたと

思われてはいないだろうか。

それならどんな言葉で

誤解を解かなければならないのか。

クラーモ博士が失言をした瞬間から

今まで、バスティアンは

それだけを考え続けていました。

でも、「理解している」という返事。

正解に近い答えなのに、

なぜか気分が悪くなりました。

おそらく、あまりにも淡白な

オデットの態度のせいのようでした。

 

しばらく躊躇った後、オデットは、

自分が一緒に行くと言い張るのを

心配していたのであれば、

そのような心配はしないように。

自分は、ここで待っている。

自分はそれが好きだと言いました。

 

適当な釈明を見つけられなかった

バスティアンは、

ただ黙り続けていました。

 

再び花びらをいじっていたオデットは、

もう一緒に過ごす日が

あまり残っていないではないか。

すでに過ぎ去ったことで、

残りの時間を台無しにしたくない。

だから、自分は大丈夫だ。

あなたも大丈夫だったらいいと

静かに囁くと、

赤い目のオデットが笑いました。

 

一緒に行こうという

喉元まで上がって来たその言葉を

我慢するために、バスティアンは

何度も力いっぱい、拳を

握り締めなければなりませんでした。

 

オデットは、一層優しい目つきで

バスティアンをじっと見つめながら

疲れているだろうから、

もう休むようにと促しました。

 受け入れるほかない提案でした。

 

「あなたは?」と尋ねるバスティアンに

オデットは、

もう少し花を見てから寝ると

答えました。

突拍子もない返事に

バスティアンは、

つい力なく笑ってしまいました。

 

こんな花数本で喜ぶ女か。

それが好きで、また嫌いでした。

満足しながらもイライラしました。

その矛盾した感情を知られたくなくて

バスティアンは、

そのくらいで背を向けました。

 

寝室を照らす照明が一つ二つと消えると

暖炉の光が一層鮮明になりました。

バスティアンは最後に

サイドテーブルの明かりを消して

ベッドに上がりました。

 

オデットはその後も

ずっとその場に留まりました。

バスティアンが眠って

隠されたメモを開くことができるまで。

深淵のような夜が更けるまで。

 

やがて、

テオドラ・クラウヴィッツの命令に

向き合うようになった時は、

自らも驚くほど、

心が落ち着いていました。

 

鉱山。

最も重要な単語を心に刻んだオデットは

小さく丸めたメモを

暖炉の炎の中に投げ入れました。

父に会った後に伝えることにした答えは

もう決まったも同然でした。

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サンドリンも晩餐会に

出席していたようですが

主治医の娘と婿同様、

その場にいたというだけの

設定のようです。

 

バスティアンは出征することを

どうやってオデットに伝えるか

悩んでいて、なかなか話せなかった。

けれども、オデットは

そんな彼の気持ちを知らないので、

バスティアンが、

自分に話す必要がないと思っていた。

彼にとって、自分は

主治医の娘や婿よりも下の存在だと

思い込み、自分が裏切っても

バスティアンは傷つかないと

短絡的に結論を出してしまった。

それは、これから

自分がしようとしていることを

単に正当化しているだけだと

思います。

バスティアンを裏切ることは

契約を破ること。

それを思い出して欲しいです。

オデットのことを想って

アヤメの花束を買って来た

バスティアンの気持ちが

せつないです。

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