237話 ナビエの出産が始まりました。
◇出産◇
世の中のすべての苦痛が
自分の身体に集まっていると
ナビエは感じていました。
妊娠した時は
卵で産むことを
怖いと思いましたが
陣痛を経験すると
卵で産んだ方が100倍楽だと
感じました。
やっと子供が出てきて
痛みから解放されたと
思っていると宮医が
「双子です!」と叫んだので、
再び最初の状態に戻りました。
へその緒を切った後
宮医と産婆が
一人ずつ赤ちゃんを抱いて
ナビエに見せてくれました。
男の子と女の子でした。
エンエン泣いていた赤ちゃんは
静かになっていました。
ナビエは白いおくるみに包まれた
女の子を産婆から渡されました。
まだ、すべての赤ちゃんの準備が
終わっていないのに
乳母も見つけていないのに
もう赤ちゃんが生まれてしまった
とナビエは思いました。
鼻は高いけれども
他の部分がしわくちゃだったので
早産のせいで
ナビエは赤ちゃんに
何か問題が起こったのではと
思いました。
宮医と産婆は笑っていました。
別の産婆が男の子を
見せてくれました。
その子もしわくちゃでした。
ナビエは、自分の子供の頃は
愛らしくてきれいだったのに・・
と思っていると
抱いていた女の子が
抗議でもするかのように
目を開きました。
娘の澄んだ輝く緑色の瞳を見て
ナビエは可愛いと思いました。
そして、ナビエは
娘が自分と同じ瞳を持っていることに
感動しました。
すると男の子が
ウォンウォンと変な声を出しました。
振り向くと、男の子が
ナビエに向かって
指をくねくねさせていました。
皇女ばかり抱いているので
皇子が寂しいようだと
産婆に言われたので
ナビエは娘を産婆に渡し
今度は息子を抱きました。
その子は、
すでに目を開いていました。
ナビエは
「ミニハインリ」と呟きました。
息子は、ナビエの大好きな
ハインリの神秘的な紫色の目を
持っていました。
それを見ていて
ナビエは涙が出てきました。
子供たちが
自分とハインリに
そっくり似ていることが
奇跡のように思われました。
◇天使◇
こんなに可愛い赤ちゃんがいるなんて
天使が3人になったと
ハインリは言いました。
目を覚ますと
部屋の中はきれいに片づけられ
ハインリは両手で
赤ちゃんたちを抱いて
ナビエの枕元に座っていました。
落とすと大変なので
ナビエは女の子を抱きしめました。
ハインリは、
ナビエの出産に
付き添えなかったことを
謝りました。
ナビエは自分も、子供たちが早く
生まれるとは
思っていなかったと言いながら
両親はどんな反応を示すだろうかと
考えていました。
ナビエは、
赤ちゃんがしわくちゃなので
両親が驚くのではないかと
ハインリに話すと
彼は、赤ちゃんは天使そのもの、
こんなに可愛い赤ちゃんは
初めて見たと言いました。
そして、赤ちゃんたちの
どこもかしこもきれいだと
ほめちぎった後で
皇子には秘密だけれど
瞳は皇女の方が愛しい
クイーンと同じだからと
耳元で囁いた後で
皇子にすまないと思ったのか
その子を抱きしめて
世界で一番可愛いと
ほめちぎりました。
そしてハインリは、
クイーンは奇跡だ。
クイーンのように愛しい存在が
この世に2人と存在しないだろうと
思っていたけれど、
クイーンが自分の幸せを
3倍にしてくれたと言いました。
ナビエは娘の顔を見下ろすと
しわくちゃなのに
天使に見えてきました。
◇鳥になる◇
1日経ち、驚くほど
赤ちゃんのシワは
なくなりました。
ナビエは赤ちゃんの名前を考え
早く乳母を探さなければと
侍女たちに話しました。
皇女は泣くこともなく
しかめっ面のまま
四方を見渡す姿が
賢そうに見えました。
一方、皇子の方は
間抜けに見えました。
マッケナは、顔はハインリだけど
性格は全く違うと
確信を持って言いました。
ドアをノックして
ハインリが部屋に入ってくると
侍女たちを全員追い出しました。
そして、記録によれば
そろそろ鳥に変わる時期だと言って
ハインリは皇女を、
ナビエは皇子を抱いて
共用寝室へ行きました。
ハインリはベッドの真ん中に
巣を置きました。
そして、
皇女をベッドの上に寝かせ
どこかを指でチクチク突くと
あっという間に皇女が小さくなり
おくるみの下から
小鳥が這い出してきました。
皇子も同様に鳥に変わると
ハインリもクイーンに変わり
小鳥たちの首根っこをつかんで
巣の中へ入れました。
赤ちゃんたちは小鳥になると
急に騒がしくなり
抗議するかのように
ギャアギャア鳴いていました。
ナビエは覚悟はしていたものの
自分の赤ちゃんたちが
鳥になるのを見て
ショックを受けました。
赤ちゃん鳥たちは
小さな嘴を
パクパクさせていました。
そして、巣の外へ出ようとするのを
クイーンは頭をトントン叩いて
巣に押し込み
自分の懐に赤ちゃん鳥たちを入れて
身体を丸めました。
◇衝撃◇
その同じ時刻ソビエシュは、
アンとルベティとナビエの
3人の関係の中に
記憶を見つける糸口があると考え
ルベティがアンを連れて出発する時に
アンに会うことにしました。
ルベティから最後の挨拶を
受けることになっていた部屋へ
到着する前に
後ろから
ソビエシュを呼び止める
おずおずとした子供の声がしました。
振り向くと、目元が下がり
肩をまともに伸ばせない
痩せた子供がいました。
リルテアン大公の息子の
シャルルでした。
5年間の記憶がないソビエシュは
それがシャルルだと
気付きませんでした。
ソビエシュは、
自分が結婚するまでの
臨時的処置であるにもかかわらず
皇位継承者になるべきでない子を
教育することに困惑しましたが
本音を隠し
シャルルと話をした後
ルベティとアンのいる部屋へ
向かいました。
部屋に入ったソビエシュは
挨拶をしようとして
立ち上がったルベティの
隣にいる小さな男の子を見て
めまいがしました。
倒れようとしたソビエシュを
何かを期待するような
表情をしたカルル侯爵が支えて
ソファーに座らせました。
ソビエシュの忠臣である
カルル侯爵がそんな表情をしたので
ルベティは頭が混乱していました。
彼女は、カルル侯爵を見つめていると
視線を感じたのか
彼もルベティの方を振り返ったので
アンを抱きかかえながら
ソビエシュを気遣う言葉を
かけました。
するとソビエシュは
突然涙を流し始めました。
カルル侯爵は
今度は、心配そうに
ソビエシュに呼びかけました。
そして、ソビエシュが突然、
「赤ちゃんが・・・」と呟いたので
ルベティは怖くなり
アンを抱きしめました。
ルベティは、
ソビエシュがアンを見て
盗賊たちに殺されたという
彼の娘のことを
思い出しているのかもしれないと
思いました。
仮にそうだとしても、
カルル侯爵が
自分たちに出て行くように
言わないことを
不思議に思いました。
すると、突然ソビエシュは
泣き止み、頭を上げると
彼の顔は氷のようでした。
生まれたばかりの赤ちゃんって
しわくちゃなので
初めは可愛いと
思えなくても仕方がないのに
赤ちゃんを褒めちぎる
ハインリは
めちゃくちゃ子煩悩で
ステキなお父さんだと
思います。