63話 自分で確認してみる?と提案したラティルでしたが・・・
◇確認◇
恥ずかしいことだけれど、
誰かが、はっきりと
確認する必要があるので、
それならば、妻同様の
自分がやるのが
少しでも恥ずかしくないのではと
ラティルは考えました。
ラティルの提案に
ラナムンは、
耳元まで赤くなりましたが、
簡単に返事はしませんでした。
手を握って寝たことはあっても、
夫婦として何もやっていないので、
このような状況に直面すると
当惑するようでした。
ラティルは、自分が嫌なら
他の人を呼ぶ、
ラナムンの侍従はどうかと
尋ねると、
彼は、一番嫌だと答えました。
結局、ラナムンは目を伏せながら、
陛下がご確認ください。
と呟きました。
ラティルは、暑くないかと
尋ねました。
ラナムンは、
もうすぐ夏だからと答えました。
もし、アトラクシー公爵が
今の光景を見たら
息子の背中をパンパン叩きながら
夜の勉強を無駄にしたのかと
怒鳴りつけただろう。
普通に新婚初夜を
迎えた状況ならまだしも、
このような曖昧な立場に
ラナムンは困惑しました。
ラティルは訳もなく
両手をバタバタさせて
暑いと騒いでいる間、
ラナムンはゆっくりと
足を広げました。
扉の外に立っているカルドンは
心配でたまりませんでした。
ラナムンはラティルと
あまり親しくありませんでした。
それでも、
これまでに積み重ねられた
情があれば、
何とかなるかもしれないけれど、
ラナムンは
ラティルにあまり好かれなかった
側室でした。
皇后や皇配の役割は
皇帝に寵愛されるものではないけれど、
側室の役割は違いました。
病気になることもなく
元気で明るい坊っちゃんが
どうしてこんなことになったのか、
カルドンは訳もなく、
すすり泣きました。
◇やはり機能しない◇
ラティルは窓際のカーテンを、
ラナムンは彼女の肩越しに
扉を見つめながら、
慎重に確認作業をしましたが、
ラティルが、
ラナムンのあちこちに触れても
何の反応もないので
彼女は手を下しました。
ラティルは、ラナムンが
自分に何の感情も持っていないから
反応しないのではと尋ねると、
彼は、絶対に違うと答えました。
ラナムンの言葉を聞いた
ラティルは、
感情があるのに反応しないのか、
それとも、感情は抜きにして、
反応しなければ
ならないということなのか、
どちらだろうと
余計なことだけが気になりました。
日が暮れました。
ラナムンは躊躇いながら
ラティルの手を
自分の胸の上に持って行き、
心臓はきちんと反応していると
告げました。
ラティルは反射的に
手をすぼめようとしましたが、
ラナムンの
目が眩むような表情に、
彼女は再び手を開きました。
その後、
ラナムンは彼女の手を離すと、
訳もなく、手をパタパタさせて
自分を扇ぎました。
ラティルはラナムンの
横顔を見ながら、
普段と違うのは確かかと
慎重に尋ねました。
彼は、そうだから直ぐに気付いたと
答えました。
それは、どのような原理なのか
ラティルには
理解できませんでしたが、
重要なのは、
どのようにしてラナムンが
自分の身体の変化に
直ぐに気づいたかではなく、
どうすればラナムンの身体を
元に戻せるかでした。
ラティルは、ラナムンに
身体を元に戻す方法を探すと伝え
少し疲れているせいで
そのようになっているかも
しれないので、
あまり心配しないようにと
気遣いました。
◇やりたくない◇
ラティルは
ラナムンを落ち着かせた後、
直ぐに大神官を訪れました。
宮医を呼んでもいいけれど、
治療の腕が一番いいのは
大神官だと思ったからでした。
ラティルがやって来た目的を
知らない大神官は、
彼女を見ると喜び、
明るく笑いました。
ラティルは部屋の中に入ると
百花繚乱の聖騎士たちが集まって
カード遊びをしていたので
一瞬、たじろぎましたが
彼らはラティルを見ると、
互いに顔を見合わせて
顔を赤くしたかと思うと、
列をなして部屋から出て行きました。
ラティルが
聖騎士たちは想像力が豊かだと言うと
大神官は、自分を抱きに来たのかと
彼女に無邪気に尋ねましたが、
ラティルは、
部屋の扉を固く閉めました。
こんな時、気の利く大神官は
何か秘密の話が
あるようですね。
と言って、自分も起き上がり、
窓を閉めてカーテンを引きました。
準備が整うと、
ラティルはソファーに座り、
大神官に、
見てもらいたいことがあると
言いました。
彼は、何でも見に行きますと
答えたので、ラティルは
ラナムンの大切なところを
見てくれないかと
大神官に頼みました。
ところが、
何でも見に行くと言った大神官は
話を聞くや否や、
どうして自分が?
と尋ねました。
ラティルは、
調べて欲しいことがあると
言いましたが、
大神官は、
自分は調べたいことはないと
歯軋りをしました。
ラティルは、変な意味ではなく
機能に問題が生じたからだと
言いましたが、
大神官は抵抗しました。
ラティルは、
確認だけでもしてほしいと
言いましたが、
大神官は見たくないと言いました。
ラティルは、目をつぶって
確認すればいいと提案しましたが、
もっと嫌だと言いました。
いつもは愛しみ深く
笑っている大神官が嫌がるので
ラティルは、しかめっ面をして
何が問題なのか、
大神官のくせに
病人の世話がそんなに嫌なのか
ラナムンは、
今、枯れたもやしになっている。
と訴えました。
その後で、枯れたもやしは
全体的な雰囲気を例えたものだと
言い直しましたが。
ラティルが、露骨に
がっかりしたという
そぶりを見せたので
大神官は悔しくなり
結局、我慢ができなくなって
治療するには、
患部に手を当てなくてはいけないと
叫びました。
あ、そうだったの。
ラティルは片手で口元を覆い
目を丸くすると
大神官は膨れっ面をしました。
◇治療◇
大神官は
とても嫌がっていましたが、
結局、ラティルと一緒に
ラナムンを見に行きました。
再びラティルがやって来たので、
ラナムンは
すぐに扉を開きましたが、
彼女が引きずるように連れて来た
大神官を見ると、
彼の足の力が抜けて
転びそうになりました。
ラナムンは、
裏切り者を見るように
ラティルを見つめたので
彼女は悔しくなりました。
病気を治すために
大神官を必死に説得して
連れて来たのに、
どうして、あんな風に見るの?
私のせいで病気になったの?
病気を確認したら、
薬を探しに行くものなのに。
結局、ラティルは
わざと改まった顔をして
ベッドを指差し、
2人に、そちらへ行くように
命令しました。
2人がよろよろと歩いて行くと、
ラティルは
彼らを並んで座らせて
治療をするように命令しましたが
2人の表情は2週間も
寝ていない人のように
落ち窪んでしまいました。
そして2人とも、
じっとしているだけなので、
ラティルはため息をつき、
ラナムンは病気になったので
それを直そうとしている。
大神官は、大神官として
患者の面倒を見ているだけ。
2人とも、私の側室ではなく、
患者と大神官ということだけ
考えなさい。
と説得しました。
ラティルに
そこまで言われたので
大神官は極まりが悪くても、
渋々、
ラナムンを治療することにしました。
そして、ラナムンも
消入りそうな声で
お願いします。
と言ったので、
ラティルは
噴き出しそうになりましたが、
ここで笑うと
2人とも、逃げ出すと思い
笑いを堪えて、
いつにも増して真顔になりました。
ところが、大神官は
ラナムンの症状が
毒を飲ませて身体を弱くするように
故意の攻撃によるものなら
治療できるけれども、
自然な形で
身体の変化が起こったのなら、
自分にはどうにもできないと
言いました。
ラティルは、
それなら仕方ないと言って
頷くと、
大神官は深呼吸をして
手を下に下しました。
◇怪しいこと◇
大神官が治療をすると
ラナムンの症状は
直ぐに良くなりました。
ラティルは、
誰かがラナムンに攻撃をしたせいで
こうなった。
毒を飲ませたのだろうかと
冷たく呟くと、
ラナムンも、
いつもより冷たい声で
必ず犯人を捕まえると言いました。
いつもの慈しみ深さは
どこへ行ったのか、
大神官もラナムンに同意し、
犯人を捕まえて
同じ罰を与えなければならない、
けれども、その人は治療しないと
言いました。
ラティルは、
いつからその症状が
始まったのかと尋ねました。
ラナムンは2日ほど前からと
答えると、
ラティルは、
何か怪しいことはなかったかと
尋ねました。
ラナムンは
何も怪しいことはなかったと
答えようとしましたが、
朝食に2日続けて
キノコスープが出て来たことを
思い出し、
ラティルにそのことを話しました。
ラティルは、
それは驚くべきことだ、
怪しいと言いましたが、
大神官は、神殿にいた時、
1週間同じメニューを
食べ続けたことがあったので、
2人の態度が理解できませんでした。
けれども、2人の間で
話が合っているようなので
じっとしていました。
ラティルは、宮廷人たちを集めて
誰がラナムンに
薬入りのスープを飲ませたか
白状させることを提案しました。
しかし、
ラナムンの体面を考えない
ラティルの意見に
大神官が反対をしました。
それに対してラティルは
体面が傷つくのは犯人だと
反論しました。
すると大神官は
宮廷人たちに何と尋ねるのかと
ラティルに聞きました。
彼女は、
誰がラナムンに
不能になる薬を飲ませたのか?
と言うと、
それを聞いたラナムンは
大神官の言う通り
密かに犯人を捕まえたいと
言いました。
ラティルは人々を一斉に集めて
戒めれば、
誰かが本音を漏らすと思ったので
ラナムンに薬を飲ませた犯人を
公の場で探したいと思いました。
しかし、彼が嫌がっているので、
仕方なく頷きました。
ラティルは、
密かに犯人を捜すことにし、
まずは料理長に話を聞くと
言いました。
◇スープの真実◇
ラティルは料理長に話を聞くと、
ラナムンに用意したのは、
キノコスープではなく
エンドウ豆のスープとのこと。
ラティルは
犯人がスープを替えて
薬を入れたのだと思い
スープを運んだ使用人に話を聞くと、
元々、ラナムンの所へ
エンドウ豆のスープが運ばれ
クラインの所へ
キノコスープが
運ばれるはずだったけれど
ラナムンはエンドウ豆のスープが
嫌いなので
交換したことがわかりました。
使用人たちは、
偏食の激しい主人のために、
自分たちの裁量で
スープを替えることができました。
スープを替えてくれと言ったのは
ラナムンの使用人。
スープを替えなければ
そのスープはクラインが飲んだ。
ラナムンの使用人が
スープを替えてくれと言うことを
クラインが事前に知るわけがない。
犯人が狙ったのは、
実はクラインで、
彼の自作自演ではないと
ラティルは結論付けました。
それでは、
誰がクラインを狙ったのか?
彼と一番争ったのは
ゲスターだけれど・・・
とラティルは考えました。
皇帝の命令は絶対だから、
逆らうわけにはいかない。
けれども、
本当はやりたくないのに
ラティルに強引に引っ張られて
ラナムンの治療をさせられた
大神官が
ちょっぴり可哀そうだなと
思いました。
ここしばらく、ラティルは
大神官をいいように
使ってばかりいるような
気がするのですが、
大神官自身は、そんな風に
感じてはいないのでしょうね。