236話 大神官はラティルの頼みごとを断りましたが・・・
◇百花の提案◇
元気がなくなった大神官は
アイスクリームを食べ終わった後、
演武場を一周し、
部屋へ戻った後は、
ダンベルで
トレーニングをしていましたが、
鬱々とした気分は晴れず、
その状態で運動をしていたので、
彼はケガをしてしまいました。
自分自身で、
ケガの治療をしたものの、
気分は、
相変わらず落ち込んでいました。
クーベルは彼を慰めたものの
大神官は首を振ると、
力なくベッドに座りました。
なぜ、大神官は
あれほどまでに憂鬱そうなのかと
クーベルが心配していると、
ちょうど百花が入ってきました。
何があったのかと尋ねる彼に、
大神官は、
夕食時のラティルとの会話について
話しました。
クーベルは、
どうして、皇帝が、
そんな話をしたのかと
文句を言いましたが、
百花は、
やってあげると言えば良かったのにと
クーベルとは反対のことを言いました。
彼は、
最初、アイニ皇后が対抗者ではないと
発表して、その後に、
対抗者であることが確実になったら、
以前は違ったけれど、今はそうだと
訂正すればいい。
前からそうだったのか、
今からそうだったのか、
他の人は知る必要はないと言いました。
しかし、大神官は今回も
神の名で噓をつくことはできないと
断固として断りました。
すると百花は、
自分の名前で発表すれば、
大神官の名誉を失わずに済むし、
陛下の寵愛を失わないと言いました。
実は、大神官自身も
嘘をつかない訳ではなく、
嘘をつく人を軽蔑したり
悪人扱いすることは
ありませんでした。
ただ、神の名で嘘をつくことが
できないだけでした。
けれども、百花は
神の名で嘘をつくと言うので、
大神官は反対しました。
しかし、百花は、
もしかしたら、
それは本当かもしれないけれど、
自分は嘘か本当か分からないから、
嘘をつくことには
ならないのではないかと言いました。
クーベルは、百花が
戯言を言っていると思いましたが、
大神官のために口をつぐみました。
百花がにっこり笑いながら
部屋を出て行くと、
クーベルは、
大神官に休むように言いました。
大神官は、
権力者の寵愛を得るのは
思ったより難しいと言ったので、
クーベルは、
皇帝が怒っているのかと
尋ねました。
大神官は、皇帝が
自分のアイスクリームを
奪ったと言ったので、
クーベルは、皇帝が
大して怒っていないと思いましたが
大神官は真剣だったので、
クーベルは頷きました。
大神官は少し寂しいだけだと
クーベルは考えました。
◇ハンサムな代理◇
百花は、その足で
ラティルの元へ向かいました。
そして、大神官の代わりに
自分が発表すると言いました。
予期せぬ言葉に
ラティルは眉間にしわを寄せ、
何か言おうとしましたが、
その代わりに、
じっくり考え込みました。
その後、にっこり笑うと
百花のことを賢明で聡明だと
褒めました。
彼は、このことで
大神官に失望しないで欲しいと
頼むと、ラティルは、
怒っていないから心配しないようにと
言いましたが、
百花は、その言葉から、
彼女が大神官に失望したと感じて
困惑しました。
百花は、聖騎士たち特有の
高尚で神秘的な雰囲気のある
美男子でした。
そのためか、侍従長は
彼がラティルの前で
礼儀正しい態度を取るだけで、
妙に気分が悪くなりました。
百花が出て行くと、侍従長は、
彼は聖職者なのに、
野心が大きすぎると、
ブツブツ文句を言いました。
ハンサムだという言葉は
飲み込みました。
ラティルは、
野心が大きければ、
望むことがはっきりしているので、
自分は悪いと思わないと言いました。
そして、彼女が小声で
「ハンサムだし」と付け加えたことを
侍従長は聞き逃しませんでした。
◇噂◇
ギルゴールは、
相変わらず、サディを出せと言って、
何の罪もないショードポリの人々に
怒りを吐き出し、
手配書を破りながら、
移動していましたが、
ある都市に到着した時、
カリセンの皇后が、
自分は、500年に一度現れて、
世界を救う対抗者だと
主張しているという噂を
聞きました。
ギルゴールは、その話を聞いて
カリセンの皇后とサディは
同一人物かと思いましたが、
タリウムの特使のサディが、
カリセンの皇后であるはずがないと
思いました。
けれども、
もしかしたら、サディは
カリセンの皇后が
身分を偽装した姿なのかもしれないと
考えたギルゴールは、
とりあえず、
カリセンへ行くことにしました。
◇カリセンへ◇
最後まで、
私の味方でいなければならない。
というサディの言葉が
呪いのように、
ギルゴールの心に
突き刺さっていたのか、
理性的に考えれば、
カリセンの皇后は
サディではないと考えながらも、
ギルゴールは、
一縷の望みを抱いていました。
彼は、カリセンの首都に到着すると
城の近くにあるレストランへ行き、
従業員に金貨を握らせると、
皇后に会う方法を尋ねました。
彼は、
皇后は宮殿にいること。
身分の高い人を知っていれば、
その人を通して、会うことができる。
そうでなければ、
謁見申請をする必要があるけれど
それは時間がかかると説明しました。
従業員は、
謁見申請する場所を
教えてくれましたが
ギルゴールは、
その部分を聞いていませんでした。
代わりに彼は、
謁見が行われる時間に
謁見を待つ人がいる控室に行き、
そわそわしながら待っている人の
1人を外へ呼び出して、
首都の端へ連れて行き、
放置しました。
そして、ギルゴールは
控室に戻ると、
その人に成りすまして
平然と椅子に座りました。
そして、自分の番が来ると、
彼は謁見室に入り、
赤い絨毯の上を
優雅に歩いて行きました。
そして、停止位置で立ち止まると、
カリセンの皇后の顔を、
じっくり見ました。
顔と匂いも違っていたので、
僅かな期待を抱いていた
ギルゴールの表情が暗くなりました。
本当にサディは死んでしまったのかと
考えていると、
黙ったままのギルゴールを
怪しんだ皇帝が、
なぜ、何も話さないのかと尋ねました。
ギルゴールは、
とてもがっかりしたものの、
自分が対抗者だと主張している皇后に
対抗者の剣を
抜かせてみることにしました。
彼は悲しみを抑えて、
自分がおとなしく見えるように笑うと、
腰に差している剣を
隣に立っている侍従に
鞘ごと渡しました。
そして、この剣は先祖代々伝わる家宝で
高貴な人が、これを抜いたら
剣の持ち主に良いことが起こると
言われているので、
皇后に、剣を抜いて欲しいと
頼みました。
アイニは不思議に思いながらも
剣を受け取りました。
ギルゴールのサディへの執着は
とても強いと思いますが、
それは、
サディが対抗者だからというよりも、
彼女自身に
何か魅かれるものが
あるからではないかと思います。
アイニがサディではないと知って、
彼女が本当に死んだかもしれないと思い
悲しんだ気持ちも、
偽りではないような気がします。
でも、ギルゴールは気まぐれなので、
また、態度が豹変するのでしょうか。
実際に、彼のような人間がいたら、
怖いし、
関わり合いたくはありませんが、
お話の中のギルゴールは憎めません。