92話 智彦は雅紀の足が治っていることを指摘しました。
数日前、宮本が見せてくれた
ドライブレコーダーの映像の中の雅紀は
足を引きずることなく
歩いていましたが、
智彦は、それを信じられませんでした。
しかし、今、それを
目の前で確認しました。
智彦は、怒りで体を震わせながら、
全く足に問題がないのに、
なぜ、今まで、
被害者のふりをしていたのかと
尋ねました。
雅紀は、くすくす笑いながら、
ばれてしまったかと、
開き直りました。
智彦は、
自分を苦しめるのが
目的だったのだろう。
雅紀は、いつもそうだったからと
指摘しました。
そして、雅紀の胸倉を掴み、
そのために、
麗奈にも手を出したのか。
いっそのこと、
自分を痛めつければいいのに、
なぜ、麗奈に手を出すのかと
問い詰めました。
雅紀は、笑いながら
智彦を痛めつけるのは
面白くないと言うと、智彦は
一体、何を企んでいるのか、
どこまでするつもりなのかと
問い詰めると、雅紀は、
智彦の手を払い退け、
智彦と麻里子と
自分の母親の場所を奪った
汚らわしい女を追い出す。
離婚されて、
1人で寂しく死んでいった
可哀そうな自分の母親の代わりに
復讐すると言いました。
智彦は、
こんな卑劣なことをするのが
雅紀の言う復讐なのか。
やることが稚拙だと非難しました。
しかし、雅紀は笑いながら
これだけ経験して、
まだ分からなかったのかと
尋ねました。
智彦は、雅紀が子供を海に落とす
残酷な奴であることを
しばらく忘れていたと答えました。
雅紀は、あの時、智彦だけが
死んでいれば良かった。
水鬼のように
自分の足を掴んで引っ張り、
なぜ、自分の人生まで
台無しにしたのだと
智彦を責めました。
しかし、智彦は、
雅紀の人生を台無しにしたのは
彼自身だと主張し、
もしかして、雅紀は、
自分が西江に入るのが
怖いのではないかと指摘しました。
雅紀は何も言いませんでした。
智彦は、
雅紀がいくらもがいても、
自分は西江に戻ると言いました。
雅紀は、
智彦の思い通りになるだろうかと
言いましたが、彼は、
今に見ているがいい。
雅紀が自分の家族を追い出すより
雅紀1人を潰した方が早いと言いました。
病室で、智彦が麗奈の手を握っていると
彼女は、うなされたように
苦しそうな声を上げました。
智彦は麗奈に
気がついたのかと声をかけ、
自分の居場所が分からない麗奈に、
彼女が病院にいることと
レストランで倒れたことを伝えました。
麗奈が頭を押さえると、
智彦は彼女を心配し、
全て自分のせいだと言って謝り
寝ている麗奈に抱き着くと、
彼女は、
彼の腕をトントン叩きながら、
智彦のせいではない、
雅紀が危険な人であることを
十分に知っていたのに
自分が軽率だったと告げ、智彦に、
自分のことを心配していたかと
尋ねました。
智彦は、
自分がおかしくなりそうだった。
何が起こったか覚えているかと
尋ねました。
麗奈は、
3人で一緒にワインを飲んでいたら
急にめまいがした。
その後のことは、
よく覚えていないと答えました。
智彦は、
鎮痛剤の成分を
一度にたくさん飲み過ぎて
しばらく気を失ったようだ。
ワインの中に、
それが入っていたようだと
説明しました。
麗奈は、智彦が西江に入る話を
雅紀が聞いたせいではないかと
指摘しました。
智彦は、
おそらく、そうだと思う。
自分がむやみに動けば、
麗奈に危害を加えると
警告したかったのだと思うと
言いました。
麗奈は、西江に必ず
入らなければならないのか。
今みたいに過ごすのはダメなのか。
智彦が危険なのではないかと
心配していると言いました。
智彦は、
心配しなくてもいい。
雅紀のことは、
自分が一番よく知っているし
自分にも考えがある。
そして、
今日、雅紀が麗奈にしたことを
絶対に、そのままにはしておかないと
返事をし、
麗奈が心配してくれたことに
お礼を言いました。
智彦は、宮本に電話をかけ、
調べろと言ったことは
どうなったのかと尋ねました。
宮本は、
接客をしていたスタッフは辞めていた。
連絡がつかない。
引っ越したわけではなさそうだけれど
家にはいなかったと答えました。
智彦は、
事前に手を打っていたようだと
指摘すると、宮本は、
よりによって監視カメラも、
その日は点検中で、
録画された映像はなかったと
報告しました。
智彦は承知すると、
麻里子と母親には
内緒にするよう告げました。
宮本は、了承したものの
大丈夫なのかと心配しました。
智彦は大丈夫だと答えました。
雅紀は、
もう、これ以上隠す必要は
ないと思っているだろうか。
これを使う日が来ないよう
願っていたのにと思いながら、
智彦はポケットから
雅紀との会話を録音した
USBメモリーを取り出しました。
そして、彼が、
全員追い出す、
離婚されて1人で寂しく死んでいった
可哀そうな母親に代わって
自分が復讐する、
と言っていたのを聞きながら
この手だけは使いたくなかったと
思いました。
会社でパソコンに向かっている
父親の所へ、
雅紀がやって来ました。
彼の顔を見ることなく、
雅紀が珍しく遅刻したと
指摘する父親。謝る雅紀。
父親は目を上げ、
雅紀が、話したいことがあると
言っていたけれど、
どうしたのか、急用なのかと
尋ねている途中で、
雅紀が、足を引きずることなく
歩いていることに気がつき
驚きました。
雅紀は、
智彦に知られた以上、
これ以上、隠す必要はないと
考えていました。
雅紀はニコニコしながら、
自分はどう見えるか、
大丈夫そうに見えるか。
まだ、ズキズキするけれど
長い時間、歩かなければ
大丈夫だと言いました。
父親は、
いつ足が治ったのかと尋ねました。
雅紀は、
あまり時間は経っていない。
リハビリを本当に頑張った。
一番最初に、
父親に話したかったと答えました。
父親は目に涙を浮かべながら、
雅紀を抱き締め、
彼を「偉い!」と褒めました。
そして、リハビリの間、
とても大変だったはずなのに
本当に偉いと言いました。
雅紀は、
自分も本当に嬉しい。
これから、もっと足が良くなるまで
地道にリハビリをすると告げました。
父親はニコニコしながら、
家族にも、この嬉しい知らせを
伝えたいので、
皆で、家に集まろうと提案しました。
雅紀は承知すると、皆のいる前で
話したいこともあると言いながら
智彦が使える手は
もうないと考えていました。
ケガをした直後の雅紀は、
本当に足を引きずっていたかも
しれませんが、周囲の人たちが
彼のケガの責任を智彦に負わせ
本当は雅紀に海に落とされた
智彦が被害者なのに、
智彦が加害者にされていたことが
面白くて、
本当は早くから足が治っていたのに
周囲の人を
騙して続けていたのではないかと
思います。
弟を海に落とすくらいなので、
そのくらい平気でやりそうに思います。
それにしても、
リハビリを頑張ったという
雅紀の一言で、
感動してしまう父親は、
単純すぎると思います。
父親にとって雅紀も息子なので、
不自由だった足が良くなれば
喜ぶのも当然ではありますが・・・
仕事をきちんとする分、
智彦の父親の方が、まだマシですが、
彼にしても、麗奈の父親にしても、
このお話に出て来る父親は
簡単に騙されて、情けないと思います。