113話 ルーとアセルとジェインはマヒト展望台にいます。
マヒト展望台のすぐ下は海。
ルーは空が赤く染まる中、
じっと青い海を見つめました。
ジェインは、
マハにも一つくらい
見る価値のあるものがあったと
言いました。
ルーは頷き、
来て良かったと思いました。
帰り道、ルーは、
宮殿まで無事に戻れれば、
アセルも、今日の目的を
達成したわけだと言いました。
アセルは頬を染めて、
「はい」と返事をしました。
そこへ、罵声が聞こえたかと思うと
ルーの前方に、
誰かが倒れ込みました。
ジェインは、
ルーに気をつけるようにと言って
彼女を庇いました。
倒れた男は身体を震わせ、
呻き声を上げていました。
顔に傷のある男は、
倒れた男の首に巻かれた鎖を引っ張り
その男が身の程も知らずに
逃げようとしたことを責め、
もっと殴って
分からせなければならないのかと
怒鳴りました。
ルーとジェインは青ざめました。
首に鎖をかけられた男は
悲鳴を上げました。
そして、その様子を見ていた
ルーとジェインに、顔に傷のある男は
何を見ているのかと
文句を言いました。
ルーはアセルに、
無視して行こうと
小声で言いましたが、
返事がないので、アセルの方を見ると、
彼は耳を塞ぎ、しゃがみ込んで、
ガタガタ震えていました。
ルーが、
大丈夫?と聞きながら、
アセルに手を差し伸べると
彼は、その手を払い退けました。
それを見ていた顔に傷のある男は、
奴らは何をしているんだと言って
ルーたちに近づいて来ました。
ジェインは、近づかないでと
抗議しました。
ルーはジェインに、
今すぐ宮殿へ行って
人を呼んで来るように。
できるだけ早く、と指示しました。
彼女は従いました。
ルーは、
過去の恐怖が
簡単に良くなるわけではないことを
誰よりも知っていたのに、
いい加減に考えていたと自責しました。
顔に傷のある男は、
ルーが外国人だと確認すると
観光に来たら、適当に楽しんで
帰るものだ。
奴隷を殴ったからといって、
そのような目つきで人を見るなと
非難しました。
そして、顔に傷のある男と
一緒にいた別の男は、アセルを見て、
奴隷を殴ったのを見て座り込んだのか。
あのような臆病な奴を
奴隷として使えば
言うことを聞くのにと嘲笑いました。
ルーは、
男たちは、何の話をしていて、
しきりに、奴隷、奴隷と
言っているのか分かりませんでした。
しかし、ルーは、
アセルはもう奴隷ではないので、
誰も、むやみに
危害を加えることはできない。
ここさえ乗り越えれば終わり。
そうすれば、アセルは
マハに勝てると諭しました。
それでも、アセルは
依然として、耳を塞いだまま
呻いていました。
ルーは、
少しだけ我慢すればいい。
もうすぐ、カルロイが来ると
言いました。
それを聞いたアセルは、
はっとしました。
顔に傷のある男は、ルーに
人が話しているのに・・と
文句を言おうとすると、
アセルは剣を抜き、
男の腕を切りつけました。
彼は悲鳴を上げました。
男は、アセルが護衛だったのかと
悪態をつき、
貴族だから逃げろと叫ぶと、
奴隷を連れて去りました。
彼らがいなくなると、
アセルは力が抜けて、
フラフラしました。
ルーはアセルを支えました。
そして、アセルに
よくやった。もう終わり。
自分で立ち向かえたのはすごいと
褒めました。
アセルは、
ルーが怪我をすれば
カルロイが悲しむと思ったからと
返事をしました。
ルーは、
カルロイの話が出ると、
アセルは母親に従うヒナのように
振舞う。
カルロイも彼に
似ているかもしれないと
思いました。
ルーとアセルが宮殿に戻ると、
涙ぐむメアリーとジェイン、
そして、腕組みをしたミレニンが
外で、彼女たちを待っていました。
ミレニンはルーに駆け寄ると、
なぜ、人を呼んで来いと言っておいて
勝手にその場を離れるのか。
後始末する人の立場も
考えてあげるべきだ。
だから、自分はルーに、
どこかを飛び回らずに
ここに留まるように言ったと
ルーを責めました。
ルーはミレニンに謝り、
アセルがいるから大丈夫だと思ったと
返事をしました。
ミレニンは、
怖くて自分の目も
見ることもできない護衛がかと
呆れました。
アセルは何も言えませんでした。
ミレニンは、
何事もなく戻って来られたのは
幸いだけれど、
ルーを探すと言って、
カルロイが馬に乗って
飛び出して行ったと言いました。
驚いたルーは、
まだ身体が丈夫ではないのに、
馬に乗ったのか。
彼を止めなければならなかったと
カルロイを心配しました。
ミレニンは、
夫婦揃って同じことを言う。
勝手に出かけたのに、
自分にどうやって止めろと言うのかと
ルーを非難しました。
そして、彼女は、
カルロイとルーの夫婦を
再び、マハに招待したら、
本当に・・・と
何か言いかけましたが、
とにかく、人を送ったので、
すぐに戻って来ると思う。
庭までは許すので、
どこかへ出かけることは考えず、
おとなしくしているようにと
忠告しました。
夜になり、ルーは庭に出ると、
時間がかなり経ったのに、
なぜ、まだカルロイは
戻って来ないのか。
何か事故でも
起こったのではないかと
心配していると、
「リリアン!」と
ルーを呼ぶ声が聞こえ、
カルロイが彼女を
いきなり抱き締めました。
そして、彼はガタガタ震えながら、
言われた場所に行ったけれど、
ルーがいなかったので、
彼女に何かあったのではないかと
思ったと言いました。
カルロイの背中には、
血がにじみ出ていました、
ルーは、カルロイの胸に触れ、
彼こそ、そんなに歩き回って
どうするのか。
カルロイでなくてもいい。
他の人が来ても良かったのに。
そのような身体で来るなんてと
非難すると、
カルロイはカッとして、
それが思い通りになるなら、
そもそも、
ルーを愛することもなかったと
叫びました。
ルーもかっとなり、
何だったら、
思い通りにできるのかと
言い返しました。
カルロイは、
ルーのことが心配で心配で
たまらなくて、
無事に彼女が帰って来たのを見て
ほっとして、
つい彼女に文句を言ってしまった。
ルーも、自分を探しに行った
カルロイが無事に帰って来て
ほっとしたのに、
自分を責めるようなことを
言ったので、腹を立ててしまった。
けれども、このことで、
2人の仲が
また拗れてしまうようなことはなく
逆に2人の距離が
縮まるのではないかと
期待しています。