917話 外伝26話 アトラクシー公爵はラナムンだけでなく、プレラまで押されるつもりなのかと尋ねました。
◇早期教育◇
ラナムンの瞳が揺れました。
彼は、それはどういうことかと
尋ねました。
アトラクシー公爵は
息子の肩を2、3回叩きました。
アトラクシー公爵は、
いくらプレラが大切だとしても、
当然、ラナムンの方が
もっと大切だったので、
ラナムンの心が痛む話を
したくありませんでした。
しかし、もうラナムンは
何の気兼ねもなく、
自分勝手に過ごしていい
子供ではありませんでした。
彼には、全力を尽くして
護らなければならない
子供たちがいました。
アトラクシー公爵は、
ラナムンの言う通り、
今、プレラは自分に誘導されて
返事をした。
しかし、プレラが大きくなった時
皇帝になりたがるという保証はない。
しかし、なりたがらないという
保証もないと話しました。
ラナムンは、
自分に似ていたら、なりたがらないと
反論しましたが、アトラクシー公爵は
ラナムンが自分の性格に似ていないのに
どうしてプレラが
ラナムンに似ていると
確信しているのか。
それに、うちの家門で
ラナムンのように怠け者は
ラナムンだけではないのかと
聞きました。
その言葉に、
ラナムンがショックを受けると
アトラクシー公爵は、
プレラが成長した時、
本当に皇帝になりたがったら
どうするのか。
そんな時、父親であるラナムンが
面倒くさいという理由で
子供の夢を潰すつもりなのか。
子供に楽な生活を
送って欲しいというのは、
プレラの意思か、
それともラナムンの意思かと
尋ねました。
ラナムンの瞳が揺れました。
ラナムンの怠惰さは異例でした。
そして子供の性格は
変わり続けるというけれど
ラナムンの見たところ、
プレラの性格は
自分に似ていないようでした。
認めたくないけれど、
現在のプレラの性格は
グリフィンに
最もよく似ていました。
プレラを担当下女に渡し、
急いで戻って来たカルドンは、
公爵とラナムンの口論を聞くと、
公爵様の言う通りだけれど
まだプレラ様は、とても幼いので
そのような話をするには
早いのではないかと
慎重にラナムンの肩を持ちました。
しかし、アトラクシー公爵は
「早い」という言葉が出てくると、
むしろ、さらに興奮し、
皇配が留まるところを
窓越しに指差しながら、
高い確率で、皇配の子供の方が
プレラより頭がいいだろうと
叫びました。
その言葉に衝撃を受けたラナムンは
「父上!」と大声で叫びましたが、
アトラクシー公爵は
退きませんでした。
アトラクシー公爵は、
しっかりしなければならない。
タッシールは平民出身なのに
皇配の席に上がれるほど
頭がよく回転する。
しかし、ラナムンは、
この良い顔で、対抗者で、
第一子の父親という立場なのに
皇配になれなかったと言いました。
ラナムンは
傷ついていませんでしたが、
そばにいたカルドンは
胸が痛くなって気が滅入り、
口をギュッと閉じました。
しかし、アトラクシー公爵は
今回はしっかりと
心を決めていました。
ラナムンの言葉通り、
プレラが、自分は気楽に暮らす。
皇位には興味ないと言えば、
後で諦めればいい。
諦めるのは、
すぐにできるし簡単だ。
しかし、その反対なら?
一人目の自分が
なぜ皇帝になれないのかと
悲しんだら?
アトラクシー公爵は、
皇帝を全力で助けたにもかかわらず
皇配の席に、息子を座らせることが
できませんでした。
それに加えて、自分の孫まで
遅れを取る姿は
見たくありませんでした。
アトラクシー公爵は、
間違いなく、皇配の子供は、
生まれてすぐに話をして、
歩いたり走ったりするだろう。
だから、遅れを取らないために、
長女であるプレラに、
あらかじめ早期教育を
受けさせなければならない。
子供に皇帝の資質があることを
皆に知らせて、長女のプレラが、
当然、後継者に
ならなければならないという雰囲気を
作らなければならないと
念を押しました。
◇皇子も早期教育◇
アトラクシー公爵は
ラナムンに小言を言い終わると、
興奮しながら
ラナムンの部屋を出ました。
そして、次に彼は
カルレインの部屋を訪れました。
耳の良いカルレインに、
煩わしいと言われたため、
彼の部屋の前には、
警備兵が立っていませんでした。
公爵は、直接扉を叩き
カルレインを呼ぶと
話がしたいと告げました。
カルレインは、サボテンが
どんどん枯れていく原因が分からず
デーモンと相談していました。
黒魔術のために、
たくさん植物を育てている
ゲスターや、
元々、植物が好きなギルゴールに聞けば
答えが出てくるだろうけれど、
二人とも忌まわしい人たちなので
自分で答えを探しているのでした。
ところが、突然扉の向こうから
アトラクシー公爵だと名乗る声が
聞こえてくると、
カルレインとデーモンは
同時に眉を顰めて扉を眺めました。
なぜ、アトラクシー公爵が
自分を訪ねて来たのかと
カルレインが呟くと、デーモンは
分からないと答えました。
カルレインはデーモンに
外に出るよう合図しました。
デーモンは面倒でしたが、
応接室に出て扉を開けてやりました。
デーモンが、
アトラクシー公爵を連れて
入ってくると、カルレインは
サボテンの植木鉢を置いて
公爵に近づき、
どうしたのかと尋ねました。
カルレインは、
貴族たちが格式を重んじる時に
するような、
遠回しの質問をしませんでした。
アトラクシー公爵は
あらゆる人に会ったことがあるので
カルレインのストレートな質問に
怒ったり当惑したりする代わりに、
皇配と皇帝の間に子供ができたことを
知っていると思うけれど、
今日、皇帝が、その子を
後継者にすることについて議論したと
ストレートに答えました。
「それで?」と、カルレインは
無愛想に聞き返しました。
彼も貴族生活をしたことがあったので
アトラクシー公爵が
何を心配しているのかは分かりました。
しかし、このような質問は
ラナムンとアトラクシー公爵が
交わす話で、なぜ公爵が
自分を訪ねて来たのか
見当がつきませんでした。
カルレインは、
手でも握ろうというのか。
それとも、
自分に助けを求めているのかと
尋ねました。
ところが、アトラクシー公爵は、
意外にも、
面白い話を聞いた人のように
鼻で笑いました。
カルレインは眉を顰めました。
しかし、アトラクシー公爵は
にこっと笑うと、カルレインが
自分の孫の養父になった瞬間から
手を握るまでもなくなったと
言いました。
すると、カルレインは、
その子は自分の実子だと、
ラナムンのように
きっぱりと線を引きました。
しかし、アトラクシー公爵は
怒る代わりに、すぐに笑うと、
カルレインの実の息子で、
自分の実の孫だと返事をしました。
カルレインの額に
血管が浮き上がりました。
しかし、彼が怒る前に、
先にアトラクシー公爵が、
怒る必要はない。
カルレインは「傭兵王」という
ニックネームがあるほど
優れた業績と名声と力を持っている。
しかし、貴族の間では力がない。
自分はカルレインが持っていない部分で
皇子の力になることができる。
カルレインにとっては良い話だと
提案しました。
カルレインは、
アトラクシー公爵の助けを受ければ
人々は皆、皇子を自分の子供とは
思わないだろうと言いました。
アトラクシー公爵は、
カルレインが助けを受けなければ、
自分が二番目の孫を
完全に手放したのかと疑問に思われる。
後に皇子が、
自分の二番目の孫だということを
知った時、なぜ祖父は、
一番上の姉にだけ
色々なプレゼントを与え
愛情を注ぐのだろうかと
疑問に思いながら寂しがるだろうと
すらすら言葉を吐き出しました。
その言葉にカルレインは固まりました。
アトラクシー公爵は、
相手を自分の思い通りに牛耳る
鬼才でした。
しかし、カルレインは、
格式に関心がなかったので
相手の口車に乗りませんでした。
彼は、本論だけ言えと促すと
アトラクシー公爵は、
ラナムンへの小言を、ほぼそのまま
カルレインに浴びせました。
違いがあるとすれば、
なるべくプレラが後継者になるべきで
だめならカイレッタが
後継者になるべきだという部分が
省略されていたという点だけでした。
さらに彼は、
ラナムンの頭に似た皇子は、
高い確率で、タッシールの子供より
頭が悪いという話も
躊躇なく吐き出しました。
アトラクシー公爵は
重要なのは早期教育だ。
カルレインが望むなら、
自分が皇子の早期教育を担当する
先生を探す。
自分の助けが必要でなければ
直接探すように。
とにかく重要なのは、
皇子が教育を早く受けて
賢くなる・・・と話し続けましたが
カルレインが手を上げると、
公爵は話すのを止めました。
カルレインは、しばらく躊躇った後
皇子は、まだ喋らないと
渋々打ち明けました。
「まだですか?」と
一瞬飛び出しそうになった言葉を
辛うじて飲み込んだアトラクシー公爵は
「バカ」と書かれている植木鉢を
チラッと見ると、笑いながら
分かった。今後のことは、
後でまた相談しようと言いました。
◇嘘をつく悪い人◇
アトラクシー公爵は、
カルレインがバカだから
皇子もバカに育つのではないか。
自分の植木鉢に
バカと書いているのを見ると、
部屋の中の空気が
悪いのかもしれないと
悩みながら帰った後、
ラティルは、
彼が去ったという報告を受けて
気楽に本を読みました。
アトラクシー公爵が
忙しく歩き回る理由を、ラティルが
知らないはずがありませんでした。
しかし、
カルレインの所まで行ったのは
意外でした。
本当にアトラクシー公爵は
一生懸命生きていると
ラティルは思いましたが、
あえて彼を止める必要はないと
考えました。
適正なラインを守って、
他の子供たちに被害さえ与えなければ
公爵が自分の孫たちを
気遣おうとするのは
当然のことだからでした。
ラティルが、
タッシールの子供に対して
心配したのも、この部分でした。
アンジェス商団の頭も
アトラクシー公爵ほど賢明で
知識も豊富でしたが、彼には
貴族の間に人脈がありませんでした。
彼にも、
親しい貴族がいるはずでしたが、
貴族たち同士で築き上げた
緻密な人脈の間に入り込むのは
大変なことでした。
しばらく、
物思いに耽っていたラティルに
サーナットとクレリスの来訪が
告げられました。
彼女は、彼らを中に入れるよう
指示すると、本を閉じました。
立ち上がるや否や、すぐに扉が開き、
クレリスがウサギのように
ピョンピョン跳ねながら
近づいて来ました。
「私の可愛い赤ちゃん」と呼んで
ラティルが抱き上げると、
クレリスは奇声を上げながら
ラティルの首を抱きしめました。
サーナットは
彼女のそばにやって来ると
乱れたラティルの髪を
耳の後ろに流しました。
サーナットは、
ラティルが忙しいところに
来てしまったのではないかと
心配しましたが、ラティルは
そんなはずがないと答えると、
満足そうに笑い、クレリスの額に
自分の額をこすりつけました。
子供がキャッキャッと笑うと
サーナットは、
寝ようとしている所へ来て
申し訳ないけれど、クレリスが、
皇帝に会いたいと泣き喚いたので
仕方なく連れて来たと弁解すると
ラティルは、
「そうだったの?」と、
からかうように子供に尋ねました。
クレリスは、
躊躇しながらも頷くと、
自分は泣いたと豪快に叫びました。
その言葉にラティルは笑い、
サーナットも
胸がいっぱいになる光景を見ながら
微笑みました。
子供は両親が笑うと、
一緒に笑いながら、
「お父様が、そう言えと言った。」
と、堂々と叫びました。
サーナットは慌てましたが、
クレリスは、
すでに父親のお使いを終えたので
意気揚々としていました。
サーナットは顔を真っ赤にして
咳払いをしました。
ラティルはニヤニヤ笑いながら
お父様が嘘をつけと言ったのかと
尋ねました。
クレリスは、
そうではない。
ただ、泣いたと言えと言われた。
そうすれば、お母様と3人で
美味しいものが食べられると
言ったと、体を揺らしながら
自慢するように話すと、
サーナットは
ラティルと目も合わせることも
できませんでした。
ラティルは、
お父様がクレリスに
もう嘘を教えている。
お父様は悪い人なので、
ダメって言おうと言うと
浮かれながらクレリスの手を取り
サーナットの肩を軽く叩きました。
クレリスは
当惑した顔をしていましたが、
面白ければ、それでいいのか
くすくす笑ってばかりいました。
サーナットは恥ずかしかったけれど
雰囲気が良いことに満足し、
渋々、笑いました。
ところが、ちょうど3人が
仲睦まじく、じゃれ合いながら
笑っていた時、
タッシールの来訪を告げられました。
サーナットがクレリスを
皇位に就けたいと思っているのかは
分かりませんが、
アトラクシー公爵同様、
サーナットも、皇配の子供に
脅威を抱いたから、
クレリスと共に、ラティルを
訪ねたのかなと思いました。
カルレインは、
カイレッタが皇位に就くことは
あまり関心がなさそうだけれど
言葉が遅いことを心配する姿に
父親の愛を感じました。
サボテンの植木鉢に「バカ」と
書いたのはカルレインではないのに
アトラクシー公爵にバカだと思われて
お気の毒でした。
いくらなんでもプレラが
グリフィンに似ていると
ラナムンが思うなんて。
きっとプレラが陽気で
騒いでいるところが
似ていると思ったのでしょうけれど
誇張して話をするところまで
似ていなければいいなと思いました。