
113話 フェアファクス夫人の説教は続いています。
イアンは、
身分の差が何だって言うんだと
吐き捨てました。
しかし、フェアファクス夫人は
問題はあなただ。
あなたにとって、
彼女が必要な存在であり、
彼女を通じて、
あなたが得るものが大きいと
先生が確信できるまで、
もう少し慎重に、
先生に接するべきだった。
しかし、あなたは狂って
子供のように駄々をこねたと
非難しました。
イアンは狂ったように
部屋中を行ったり来たりして
歩き回りました。
イアンは、
自分は姉のアドバイスに従った。
他の女性と友達になって
警戒心を解けと言われたから、
そうした。
そのことでローラは自分に失望した。
きっと、それが理由で去ったのだと
抗議しました。
フェアファクス夫人は、
自分に責任転嫁しているけれど
たかがそんな理由で、
愛する男性の元を去る女性はいないと
反論しました。
イアンは、
「それでは、なぜ?」と尋ねました。
フェアファクス夫人は、
愛だけでは、
全てを乗り越えられないことを
知っているから。
おそらく、彼女は、彼女の存在が
あなたの汚点になることを
恐れているのだろうと答えました。
イアンは、その場に立ち尽くし、
髪を掻き乱しました。
きちんと整えられていた髪が
滅茶苦茶になってしまいました。
そして、
「畜生!あんなに賢い女性が
なぜ、そんな馬鹿な考えをするのか!
畜生!」 と悪態をつきました、
フェアファクス夫人は、
全て、あなたが
確信を与えられなかったせいだと
叱りました。
イアンはパッと姉の方を振り返ると
ローラはどこへ行ったのかと
尋ねました。
フェアファクス夫人は、
口を裂かれても話さないと答えました。
イアンは、
ローラにした脅迫を
姉にもしなければならないのかと
脅しました。
フェアファクス夫人は、
銃なら、あなたの義兄の部屋に
散らばっている。
なんなら、引き金も引いてやろうかと
煽りました。
イアンは髪の毛を握りしめて
叫びました。
本当に狂った人のようでした。
フェアファクス夫人は冷ややかな顔で
男性という生き物にとって
愛とは何なのかを考えてみました。
弟の様子を見ると、
おそらく正気を失わせる
黒魔術のようでした。
イアンは姉に怒ったり懇願したりを
繰り返しながら、
ローラの行方を問い詰めました。
しかしフェアファクス夫人は
口を固く閉じて、
弟が狂っていく様子を
ただ見ているだけでした。
フェアファクス夫人は、
彼女は戻って来る。
あなたの気持ちが冷めるまで、
ダンビルパークを離れているようにと
言ったから。
春になって彼女が戻って来たら、
また、やり直すようにと告げました。
しかし、イアンは、
そうしているうちに
彼女の気持ちが冷めたら
どうするのか。
他の男性に会って恋に落ちたら
どうするのかと抗議しました。
フェアファクス夫人は、
女性の愛は、
銀の蓋で覆って温めておかないと、
食べられなくなる
バーベキューではない。
これほどまでに
女性を信じられないようでは、
嫉妬深くなるのも当然だと言って
舌打ちをしました。
そして、
あなたが、こんなに感情的だから、
容姿端麗で条件も良いのに、
シェルダン嬢の愛を
得られなかったんだ。
春になるまで、自分自身を見つめ直し
彼女の心を取り戻す計画を
もう一度立てるようにと告げると
ナイトテーブルの上に置かれた封筒を
イアンに差し出しました。
先生があなたに残した手紙だと
告げると、
イアンはすぐに手紙を掴み取り、
便箋を広げました。
ダルトン様へ。
この手紙をご覧になる頃には、
私はあなたが知らない場所へ
旅立った後でしょう。
あなたが私を探し回って
追いかけてくるなら、
私はあなたが手を伸ばしても
届かない場所を探して
海峡を渡るでしょう。
告白したいことが一つあります。
あなたは私が初恋だと
おっしゃっていましたが、あなたは
私にとって初恋ではありません。
あなたと交わした口づけも、
あなたにとっては
初めてだったかもしれませんが、
私にとっては
初めてではありませんでした。
私は、あなたが思っていたよりも
きちんとした女性では
ありませんでした。
私に対する幻想から
目を覚ましてください。
イアンは手紙を持った腕を
そっと下ろしました。
フェアファクス夫人は、
何と書いてあったのかと尋ねました。
イアンは、
「自分を忘れなさい」とだけしか
言えませんでした。
彼は鉛の塊のように重い足を動かして
姉の部屋を抜け出しました。
背後から舌打ちする音が聞こえましたが
彼は気づきませんでした。

彼は邸宅の出口と庭の間をつなぐ階段に
どさっと腰を下ろし、
もう一度手紙を読み返しました。
そうしても、頭がぼんやりしました。
一文字一文字が
自分の頬を叩くようでした。
ローラにとって、
自分は初恋ではありませんでした。
さらに、口づけさえも
彼女は初めてではないとのこと。
その事実自体も衝撃的でしたが、
それ以上に恐ろしいのは、
それをローラ本人が
直接伝えたことでした。
愛情が冷めるように
わざと仕組んだような内容でした。
自分を愛しながら、
どうして他の男性との過去を
告白できるのだろうか。
むしろ他の人の口から
彼女の過去を聞いていれば、
衝撃からすぐに立ち直れただろう。
内心、嫉妬していたかもしれませんが
それは自分に会う前の話。
その程度のことで愛が冷めるほど、
自分は薄情ではありませんでした。
彼女は自分を愛していない。
少し好きな程度に過ぎないのを
自分が誤解していたのでした。
彼女のために用意した
花束と鍵の束が、ひどく滑稽なものに
なってしまいました。
受け取る人は、あんなに無関心なのに。
むしろ死んでしまいたい。
彼は膝に顔を埋めたまま、
果てしない絶望の底へと沈みました。
「叔父さん、何をしているの?」
彼はゆっくりと顔を上げました。
目の前に薄紫色のドレスを着た
オリビアが自分を見下ろしていました。
彼は無理に微笑みながら、
「元気だったか?」と尋ねました。
オリビアは
「もちろんです。
先生と別れて少し悲しいけれど」と
答えました。
そして、残念そうに微笑みながら
プロポーズに失敗しましたよねと
尋ねました。
彼の笑顔が苦笑いになりました。
オリビアは、
まあ、いいではないか。
また試してみればいい。
断られたら、また挑戦して、
また挑戦すればいい。
私の知っているある婦人は、
夫のプロポーズを5回断った後、
6回目に受け入れたそうだ。
男は子供が9人もいる、あばた面の
男やもめだった。
けれども、叔父さんは
こんなに素敵なので、
おそらく3回以内には成功するだろうと
励ましました。
イアンは、
希望に満ちた話をありがとう。
大きな慰めになると言って
立ち上がりました。
甥や姪がうようよいる姉の家ではなく
自分の家で挫折すべきでした。
イアンは、
使用人に馬車を準備するよう
指示しました。
オリビアは叔父を見送るために
そばに立っていました。
彼女は、
先生がプロポーズを受け入れなければ
叔父は銃で頭を撃ち抜いてしまうと
言ったそうですねと確認しました。
イアンは、
誰からそれを聞いたのかと尋ねました。
オリビアは、
ただ通りかかっただけ。
何てロマンチックなのか。
叔父さんのことを見直した。
まるで、
メロドラマの男性主人公のようだと
称賛しました。
イアンは、
あなたでも、そう言ってくれて
有難いとお礼を言いました。
オリビアは、
自分もそんなプロポーズを
一度受けてみたい!とにかく、
ロンドンへ行く用事があれば
ついでにバースに
立ち寄ってみてと勧めました。
イアンは、
「なぜ、バースに?」と尋ねました。
オリビアは、
叔父さんの宝石が
バースで冬を越すからだと答えました。
彼はオリビアを見下ろしました。
オリビアは口を押さえて
クスクスと笑いました。
馬車が2人の前に止まりました。
彼は馬車に乗り込んで
扉を閉めました。オリビアは、
自分が口外したことは秘密だと
頼みました。
イアンは、
分かったと返事をすると、
オリビアに別れの挨拶をしました。

馬車が出発しました。
彼は馬車の背もたれに背中を預けて
目を閉じました。
彼女はバースへ向かった。
手紙を読む前であれば、
すぐに荷物をまとめて、その地域を
徹底的に調べていただろう。
しかし、彼には
何の意欲もありませんでした。
ローラに再び会って
何をするというのか。
女性にとって、
自分の過去を隠したくない男性とは
何の意味もない男性という意味でした。
自分は彼女にとって
何でもなかったのでした。
彼は邸宅に到着すると、
トボトボと邸宅の中に入りました。
執事のラムズウィックが近づいて来て
客が待っていると告げました。
イアンは執務室に足を運びました。
そこには、ダルトン家の法律上の代理人が
座っていました。
彼は丁重にお辞儀をしました。
イアンが彼に向かい合って座ると、
弁護士は丁重に書類を差し出しました。
彼は、
イアンが投資をしていた
ペンドルトン家の事業で
横領の疑いが発覚した。
チャールズ・ペンドルトンの
ギャンブルの借金が限界に達し、
兄の事業資金に手を付けたようだと
報告しました。
イアンは書類をざっと見ながら、
ニヤリと笑いました。
イアンは、
チャールズ・ペンドルトンは
本当に実に大した男だ。
アビゲイル夫人の莫大な遺産を
一瞬で失い、
さらに自分の兄の事業資金にまで
手を出すなんて。
長男は、それを許可したのかと
尋ねました。
弁護士は、
はい。ジェラルド・ペンドルトンが
許可したから。
長男のジョン・ペンドルトンは、
父の言葉を
神託のように受け入れて生きる、
世間知らずの田舎の紳士だ。
これまで失敗した事業も、
すべて父の圧力に耐えかねて
始めたもので、成功どころか
元金すら回収したことがない。
元々、無能な人間であるというのが
世間の評判だと答えました。
イアンはタバコの煙を吐きながら
考えに耽りました。
思ったよりも、
事が順調に進んでいました。
ペンドルトン家の造船事業は
大規模な商船受注作業でした。
本来、造船とは、
図面作成から資材の選定まで
数年かかる複雑な作業でした。
しかし、
イアンが投資家として名乗りを上げ
彼の投資を信じて
他の資金提供者たちが集まり、
巨額の投資金が集まると、
わずか1ヶ月も経たないうちに
設計図が公開され、
資材の購入や工事まで
スムーズに運んでいました。
子供のおもちゃを作るのにも、
これより長い時間がかかるのに。
投資する前からイアンは、
間違いなく、資材の購入において
不正な取引が入り込むはずだと
確信していました。
材料費を着服するために
安価な木材を使ったり、
木材を購入する際、
裏工作がなされたりとか。
そうなれば、イアンは
匿名の告発文を受け取ったとして
投資金を引き揚げ、
彼に続いて他の投資家たちも
資金を回収するのは明白でした。
明らかな事業者の過失であるため、
ペンドルトン家は言い訳ができない。
図面作成費用と資材購入費は
全てペンドルトン家が負担し、
ペンドルトン家は完全に
破産に追い込まれるだろう。
しかし、それ以前に、
このように資金を着服するなんて
法廷で何年も引き延ばされる過程を
飛躍的に早める機会を
ジェラルド・ペンドルトンが
自ら作り出してくれたわけでした。
賢い姪を追い出して
選んだ息子たちのおかげで、
ペンドルトン家が没落しそうだ。
考えるだけで笑みがこぼれました。
ローラの幼い頃に、
消せない傷を負わせただけでなく、
淑女となった姪を無惨に虐待し
追い出した獣のような男を
自分の手で倒すのも、
もう目の前でした。
ローラに振られた悲しみさえも
一瞬だけ忘れられるくらい愉快でした。
イアンは、
ジェラルド・ペンドルトンが
ロンドンにいるのかと尋ねました。
弁護士は、
息子たちと一緒に
グロヴナー・スクエアのタウンハウスで
暮らしているそうだと答えました。
イアンは、
状況が明らかなので、
これ以上時間を引き延ばす必要はない。
すぐに投資金を引き揚げる旨を
通知するようにと指示しました。
弁護士は、
本日すぐにロンドンへ出発する。
結果が出次第、
すぐに電報で・・・と答えましたが
イアンは、
自分も一緒に行くと告げました。
弁護士は驚きました。
イアンは書類をテーブルに置いて
タバコを口にしました。
そして、タバコに火を点けて、
口元を上げて微笑むと、
あの偉大なペンドルトン家が
砂の城のように崩れる瞬間、
ジェラルド・ペンドルトンが
どんな表情をするか、
自分の目で確かめたいと話しました。

![]()
猪突猛進のイアンを制止して
お説教できるのはお姉様だけ。
イアンもお姉様には
頭が上がらない。
お姉様がいなかったらイアンは
なりふり構わず
ローラに猛アタックして
撃沈していたと思います。
でも、お姉様は叱ったり
お説教するだけでなく、
春にはローラが帰って来るという
希望を与えてくれたので、
しばらくは、
ジェラルド・ペンドルトンを
苦しめることで
憂さ晴らしをすればいいと思います。
でも、イアンが手を出さなくても、
どのみちペンドルトン家は
没落していたでしょうね。