348話 クラインは、自分とラナムンとの違いについて、ラティルを問い詰めましたが・・・
◇理由はない◇
実際、そんな違いなどないので、
ラティルは、何と答えるべきか
困りました。
ラティルがクラインと寝ていないのは
他の側室たちとも
寝ていないからでした。
しかし、ラティルが
黙っている時間が長くなると、
クラインの表情に
恐怖が漂い始めました。
彼は、答えにくいほど
大きな違いがあるのかと尋ねました。
ラティルは否定しましたが
それ以上、何も言えないので
この答えは彼自身で突き止めるべきだ。
誰も、こんなことを
教えてくれるわけがないので
クラインが研究すべきだと、
自分でも戯言に聞こえるような
返事をしました。
ラティルはそっと
クラインの顔色を窺いました。
しかし、クラインはかなり真剣に
受け止めているようでした。
その姿を見て、ラティルは
少し申し訳なくなり、
訳もなく冷めたコーヒーを
すすりました。
◇悟りを得た証◇
クラインと
少し時間を過ごしたラティルは
名目上、子供の父親である
ラナムンを訪ね、
クラインと仲が悪いのかと尋ねました。
ラナムンを子供の父親としているので
彼と過ごす時間を少し増やした方が、
他人の目に自然に見えるだろうと
考えての行動でした。
ラナムンは、
ソファーに座っているラティルの後ろで
固くなった肩を押さえながら、
自分はバカは好きでないと、
淡々と答えました。
ラティルはその答えに
「ああ」と
何かを悟ったかのように嘆くと
ラナムンは
ラティルの首筋を押さえながら
眉をひそめ、その「ああ」は
どういう意味なのかと尋ねました。
ラティルは、悟りを得た証だと
答えると、ラナムンは、
何に気づいたのかと尋ねました。
ラティルは、
クラインがラナムンを
嫌っている理由だと答え、
お菓子を食べながら笑いました。
しかし、向い側に来て座った
ラナムンの表情が良くないので
ラティルはお菓子を下ろして、
そのような顔をしている理由を
尋ねました。
ラナムンは、
どうせ側室は皆、自分の敵なので
ラティルが自分を嫌いでなければ
構わないと答えました。
クラインが自分を嫌うのは
平気だと言っていたのに、
ラティルがその理由が分かったと言うと
気分を害したラナムンに、
ラティルは爆笑しました。
彼女は、
当然、ラナムンのことが好きだし
嫌いなレベルではないと言いました。
ラナムンは口をぎゅっと閉じましたが
口元がかすかに上がっていました。
ラティルは、それを見て、
先ほど食べようとしていたお菓子を
口に入れました。
ラナムンは、それなら
誰が自分を嫌いでも構わないと
言いました。
その言葉に対してラティルは、
皇配を狙うのなら、
側室のことが嫌いでも
敵対してはいけないのではないかと
指摘しました。
するとラナムンは、
タッシールと大神官くらいなら
親しく過ごすと返事をしました。
ラティルは、またお菓子をつかみ、
再び、「ああ」と言って
ニヤリと笑いました。
ラナムンは、皇帝の態度が
まるで、理解できない生命体を
努めて理解しようとする人のように
見えたので、
なんとなく気分が悪くなりました。
◇邪魔するギルゴール◇
その時刻、メラディムは
ショックに打ちひしがれて
ぶらぶら歩いていました。
彼が「皇帝に子供ができた」と
呟きながら湖へ向かって
ヨロヨロ歩いている間、
ティトゥは、
その後を急いで追いかけ、
このことは忘れてはいけないので
早く記憶を刻むようにと
急かしました。
しかし、メラディムは
忘れたいと訴えました。
けれども、ティトウは、
忘れたくても忘れてはいけない。
誓約式のことのように忘れてしまって
またフナ扱いされてもいいのかと
説得しました。
メラディムは、
自分は誓約式をしたっけ?
と尋ねましたが、ティトウは
早く記憶を刻むようにと
急かしました。
メラディムは頷き、
記憶を刻むために
しばらく立ち止まった瞬間、
ギルゴールが、
坊ちゃん、忙しいの?
と声をかけました。
彼の口元が上がっているのを見ると
メラディムが今
記憶を刻もうとしているのを知り
それを妨害しようとしているのは
明らかでした。
ギルゴールはメラディムを
遊びに誘いました。
彼は、一旦、記憶を刻むのを止めて
ギルゴールを睨みました。
メラディムは、
ギルゴールが来た理由を尋ねましたが
ティトゥは急いで2人の間に割り込み
メラディムに、
早く記憶を刻むようにと訴え
ギルゴールには消えろと命令しました。
しかしギルゴールは、
怒るどころか、
もっと愉快に笑いながら
この赤ちゃんと
遊んであげたいと言いましたが、
ティトゥは尖った歯をむき出しにして、
自分たちはギルゴールの
赤ちゃんではないと怒りました。
しかし、
ギルゴールは不快に思うどころか、
赤ちゃんって呼ばなければ
親しみを感じられないと
困っているふりをしたので、
ティトゥはさらに怒って、
「消えろ!」と大声で叫びました。
それを聞いた瞬間、
消えてしまったのは
メラディムの頭の中に
辛うじて刻まれていた
ラティルの妊娠の話でした。
ギルゴールは、
メラディムの瞳に
宿っていた悲しみが消え
眼差しが澄んだことに気づいた途端、
それを指差しながら
あのフナがまた忘れたと
楽しそうに笑いました。
メラディムは、
すぐに顔をしかめましたが、
すでに、ギルゴールは
望むものを得た後でした。
ティトゥは、
メラディムが侮辱されたことに怒り
顔を真っ赤にしましたが、
ギルゴールは用事が済むと、
背を向けて行ってしまいました。
その後ろ姿を睨みながら、
ティトゥは歯を食いしばり、
自分は本当に彼が大嫌いだと
主張しました。
メラディムも頷きながら、
ティトウの意見に同意すると、
自分は何を忘れたのかと
尋ねました。
◇世俗的◇
その時刻、
大神官はソファーに座り、
ぼんやりと口を開けて
空中を眺めていました。
突然の皇帝の妊娠の知らせに
頭の中が真っ白になりました。
妊娠は嬉しくて、
素晴らしいことなのに、
皇帝が
ラナムンと子供を持ったということが
あまり嬉しくありませんでした。
大神官としては喜ぶべきだけれど
彼も側室なので喜べない。
頭の中で、
大神官の自我と平凡な人の自我が
殴り合い、喧嘩を始めました。
百花は大神官の
憂鬱そうな姿を見ながら
お茶を飲んでいましたが、
結局、我慢できなくなり、
大神官の向かいのソファーに座ると
そんなに落ち込んでいる場合ではないと
諫めました。
そして、大神官の落ち込んでいる原因が
ラティルの妊娠のせいだと確認すると
今は落ち込んでいる時でも
悲しんでいる時でもなく
頑張らないといけない。
ここはジャングルなので、
しっかりする必要がある。
側室にならなかったならまだしも
側室になった以上、
このようなことは覚悟していたはずだ。
こうなった以上、ラナムンが
絶対に皇配にならないように
しなければならない。
第一子の父親なのに、皇配にもなれば
大神官は完全に脇に追いやられると
励ましました。
大神官は呆然として、
目をぱちぱちさせましたが、
百花はもどかしかったのか、
自分の胸を叩きました。
クーベルはその姿を見ながら
眉をひそめ、
百花卿は世俗的すぎると思いました。
◇嫉妬心を抑える方法◇
ゲスターは窓枠に片足をかけたまま
窓に額を当てて座っていました。
カードを触りながら
心を落ち着かせようとしましたが
ギルゴールに
カードを奪われてしまいました。
だからといって、今は、
新たにカードを作る気さえ
起こりませんでした。
ゲスターは
心を落ち着かせようとしましたが
笑いながらラナムンと目を合わせていた
皇帝のことが、しきりに思い出され
胸が痛くなりました。
皇帝の優しい眼差しも辛かったけれど
最も耐え難いのは
皇帝を愛していないし
ただ権力のために、
ハーレムに来たラナムンが、
皇帝との間に
子供までもうけたことでした。
自分は本当にラナムンが嫌いだと
トゥーリが、ぶつぶつ言う声を
聞きましたが、
照れくさそうに止める気力さえ出ず、
ゲスターは、
ずっと口をつぐんでいました。
やはり対抗者の息の根を
止めておくべきだったのかと
考えました。
トゥーリは、
ラナムンは顔以外魅力がないし、
性格も冷たくて、
まともに会話もできないので
すぐに皇帝は飽きる。
だから、あまり傷つかないようにと
ゲスターを慰め、
ラナムンみたいなヘアスタイルに
変えてみたらどうかと提案していると
扉を叩く音が聞こえて来ました。
トゥーリは、扉を少しだけ開けて
顔を出すと、思いがけないことに
カルレインが立っていました。
トゥーリはぎょっとしましたが、
ゲスターに、
カルレインが来たことを伝えました。
トゥーリは、
ゲスターがカルレインを
部屋の中へ入れないようにと
願いながら、ゲスターに
カルレインを追い返そうかと
尋ねましたが、
意外にもゲスターは、
カルレインが部屋の中に入るのを
許可しました。
ゲスターはとても優しくて、
嫌いな人が来ても拒否せずに
できるだけ全員に会うので、
トゥーリは驚きませんでした。
カルレインが入ってくるや否や
ゲスターはトゥーリに
出て行くように手で合図しました。
2人だけになると、
ゲスターは窓枠から立ち上がり、
カーテンをぱっと閉めると、
カルレインに、
何の用か。
今は少し忙しいので、
個人的な願いは聞けないと
告げると、カルレインは
個人的なお願いだと答えました。
ゲスターは、
今は誰かの頼みを聞く気になれないので
帰るようにと言いましたが、
カルレインは、少し走りたいので、
前にゲスターが
自分を砂漠に落としたのを、
もう一度やって欲しいと頼みました。
意外な頼みに、
ゲスターは眉をひそめましたが、
確かに、走ったら
少しは気が楽になるだろうと呟き、
カルレインの三歩先に
狐の穴を作りました。
カルレインは淡々とお礼を言うと
その中に飛びこみました。
彼は砂漠からハーレムまで
一日中、全速力で走らなければ、
この嫉妬心が解消されず、
対抗者であるラナムンに、
どのような怒りをぶつけるか
分からない状態でした。
カルレインは、
物凄いスピードで狐の穴を下りながら
できるだけ意識を
別の方向に向けようとしましたが
普段より狐の穴が
少し短く感じられました。
そして、
そこから全身が飛び出した瞬間。
彼は肩に触れる
ふんわりとした感触に驚いて
目を見開きました。
驚いたカルレインは
目を大きく見開いたまま
前を見ました。
そこはベッドの上で、目の前に
ラナムンが横になっていました。
カルレインは眉を顰め、
心の中でゲスターに悪態をつきました。
ラナムンは、カルレインが
自分のベッドに寝ている理由を
尋ねました。
ラナムンのベッドの上に
狐の穴があるということは
ゲスターは、
そこに行ったことが
あるということですよね。
ゲスターが至る所に
狐の穴を作っているかと思うと
ぞっとします。
ギルゴールの忠告通り、
ゲスターが行ったことのない所へ
ラナムンを行かせない限り、
彼は危ないと思います。
もしかして、カルレインを
ラナムンの所へ行かせたのは、
カルレインに意地悪をする目的の他に
彼がラナムンに手を出すことを
望んでいたのかもしれません。
メラディムが、
これほどまでにラティルの妊娠に
ショックを
受けるとは思いませんでした。
ギルゴールに意地悪をされて、
一旦、その記憶が消えましたが
再び、それを聞けば、
また辛い思いをすることになるので
ギルゴールは罪作りな男だと思います。