952話 外伝61話 真夜中にもかかわらず、ラティルはクラインを訪ねました。
◇抗議できない◇
クラインは寝ていましたが、
パジャマ姿でラティルに駆け寄り
嬉しそうな笑顔を隠しませんでした。
そして、自分に会いたくて
来たのですよね?と尋ねると
ラティルは「足を見せて」と言って
クラインの長くて丈夫な両足を
確認しました。
クラインは疑問に思いましたが
片方の足をさっと持ち上げました。
ラティルは、
その足を軽く押さえながら
「痛くないよね?」と尋ねました。
クラインは隠し立てせずに
痛くない。
自分はとても丈夫だと答えました。
彼が本当に元気そうに見えると
ラティルは安心して
クラインを抱きしめ、
「良かった」と言いました。
彼が足に怪我をしたのは
偽の未来での出来事であることが
分かっているけれど、五感と感情が
生々しく感じられる幻想の中で
クラインが足をひどく怪我して
苦しんでいた姿を思い出すと
ラティルは、
舌が凍りつく感じがしました。
クラインは、
来ることを前もって教えてくれたら
もう少し格好よく着飾っていたのにと
残念がると、ラティルは、
パジャマ姿でも可愛いと褒めました。
クラインは、
それはそうだと返事をすると
意気揚々と、自慢するかのように
自分の細長くて美しい腕を
持ち上げました。
ラティルは彼をベッドに押し込み
片腕でギュッと抱きしめました。
大きな人形を抱き締めるように
彼を抱いた後、
そわそわとした気持ちが
落ち着きました。
怪物は、
偽の未来が、いつもハッピーエンドで
終わるわけではないと言った。
一対一で結ばれる瞬間を
見せるだけで、その後、ずっと
幸せに暮らせる保証はないと
言った。
当時は、その話を聞いても、
深刻に受け止めなかったけれど、
クラインと2人だけで結ばれる未来で
彼が大怪我をする姿を見て、
ラティルは背筋がぞっとしました。
一対一で結ばれた後に
死んでしまう側室もいるのだろうか?
ラティルは、
クラインとの未来は、
これ以上見られない。
そこで、さらに彼が怪我をしたら
どうしようと思いました。
ラティルは、このような渦中に、
クラインが偽の未来を見せる怪物と
手を組んで
自分に詐欺を働いたのかと
抗議することはできませんでした。
ラティルは、
クラインの全身に抱きついて
ようやく眠ることができました。
クラインは、自分の胸に
ぴったりとくっついた
皇帝の頭頂部を見下ろしながら
目をパチパチさせていましたが、
微笑みながら、
一緒に目を閉じました。
◇仲良くさせたい◇
クラインに怒れなくなったこととは
別に、ラティルは、
カルレインとの偽の未来に対する
好奇心が、さらに強くなりました。
カルレインが見たのは、本当に、
カルレインと自分の
偽の未来だと思うけれど、
そこでカルレインは何を見たのか
ラティルは気になりました。
誕生日当日、カルレインは
偽の未来の話を避けながら
無難な誕生日プレゼントを
要求しました。
そのため、ラティルは彼の誕生日を
平凡に祝うしかありませんでした。
日課を終えた後、ラティルは
翌日の朝まで、
カルレインと一緒に過ごしましたが
最初の計画が
あまりにもロマンチックだったので
カルレインの誕生日を
簡単に過ごしてしまうのが
少し残念でした。
しかし、ラティルが、
時間をたくさん先送りして
自分たちだけの偽の未来を
見てみようと提案しても
カルレインは
絶対に受け入れませんでした。
ある日、ラティルは我慢できずに
一体、何を見たからそうなのかと
カルレインに尋ねてしまいました。
もちろん、本当に気になるなら
自分が直接見ればいいのだけれど
クラインとの偽の未来を見るために
時間をたくさん使ったので、
当分は家族を世話しながら
夕方の時間を
過ごさなければなりませんでした。
カルレインは、
むしろラティルの質問を訝しがり
ずっと自分との偽の未来を
見に行っていたのではないかと
尋ねました。
ラティルは、
「ああ、そうだ」と答えましたが
実際は、
クラインが割り込んで来たので、
カルレインの未来は
全く見られませんでした。
ラティルは、
クラインとカルレインが
喧嘩することを恐れ、
この頃、皇子はどうしているのかと
誤魔化しました。
カルレインは、
皇帝が話題を変えたことに
気づきましたが、 彼も、
偽の未来の話をしたくなかったので
知らないふりをし、皇子に、
4番目の皇子と5番目の皇女を
会わせたところ、関心を示した。
弟たちのことが不思議な様子だったと
答えました。
ラティルは、
自分が末っ子だったのに
弟たちができたから、
そうするのだろうと言うと
寂しがったりはしていないかと
尋ねました。
カルレインは、
1番目の皇女と2番目の皇女が
一緒にいるのを見ているせいか、
そうではなかったと答えました。
ラティルは安堵しました。
カルレインは、
子供たちに仲良くして欲しいのかと
尋ねました。
ラティルは、
もちろんだ。
難しいのは分かるけれど、
自分は異母兄弟姉妹たちと、
仲良くなかったから、
皆一緒に、仲良く過ごせたらいいと
思っている。
レアンと仲が良かった時は
関係なかった。
レアンがいるのだから
他の異母兄弟姉妹なんて
何の役にも立たなかった。
けれども、
一人とだけ仲良くして、
その一人と仲違いしたら、
耐えられないと話しました。
カルレインは黙って
ラティルの髪を撫でました。
彼女はその手を感じながら
異母兄弟姉妹について話しましたが
自分がなぜ、
彼らと仲が悪くなったのかを
思い出すと、口をつぐみました。
ラティルが異母兄弟姉妹を嫌ったのは
彼らが側室の子供だったからでした。
母親が側室たちと仲が悪いので、
当然、彼女たちの子供たちも
皆嫌いでした。
ラティルは、これが間違いだとは
思いませんでした。
異母兄弟姉妹も、
自分を嫌っていたし、
母親と側室たちが、
互いに嫌い合っているのも
仕方のないことでした。
自分の子供たちが
互いに仲良くなるためには
側室同士も
仲が良くなければならない。
そうでなければ、
子供たち同士が、仲良くなるのは
難しいだろうと思いました。
ラティルは
カルレインの顔をじっと見上げ、
彼の冷たい肌を
ゆっくりと撫でました。
カルレインは目を閉じて、
ラティルの手を完全に感じました。
彼女は手を下ろしながら
ため息をつきました。
子供たち同士で
仲良くなって欲しいけれど
そのために、強制的に
側室たち同士も仲良くなれと
言うことはできませんでした。
自分にもできないことを
側室たちにさせることは
できませんでした。
ラティルは、
自分が子供たちを差別せずに
可愛がっていれば、
それでもマシだろうと考えました。
◇寵愛の対象◇
普段と同じような日。
ザイシンは運動を終えた後、
体を洗って、さっぱりしてから
ベッドに横になりました。
ゆっくり休んでから、
午後4時頃に近くの神殿に行き、
自分の助けが必要かどうか
確認してみるつもりでした。
ところが、
ちょうど眠気に襲われた頃、
不満に満ちたノックの音が
聞こえて来ました。
ザイシンは、
ベッドの端にかかっている鐘を振って
入って来いという合図を送りました。
休もうと思って横になっていたので、
広い部屋を横切って
扉まで行きたくありませんでした。
入って来たのは百花で、
彼は不満がいっぱいの顔で、
今は、休んでいる場合ではないと
小言を言いました。
ザイシンは時計を見て、
横になってから、
まだ10分も経っていないと
返事をしました。
しかし、百花は
不満そうな顔のままでした
そして、
彼がベッドの枕元まで近づくと、
ザイシンも、
これ以上耐えることができず、
起き上がらなければなりませんでした。
ザイシンは、
どうしたのかと尋ねると、
百花は窓の方を向き、
ザイシンが昼寝をするために
閉めておいたカーテンを
さっと開きました。
すると窓越しに、
大きなプレゼントの箱を持った
宮廷人たちが
歩いていく姿が見えました。
ザイシンは、
カルレインの誕生日は終わったので
タッシールの誕生日だからなのか。
でも、タッシールは、
もうここで過ごしていないはずだと、
戸惑いながら尋ねました。
タッシールは、
移さなければならない物が
あまりにも多かったため、
皇配になった後も、
すぐに引っ越さずに
ハーレムにいましたが、
今は、代々皇后たちが
使っていた部屋に移り、
そこで過ごしていました。
百花は、
クライン皇子への贈り物だと
鋭い声で答えました。
ザイシンは目をパチパチさせながら
「またですか?」と尋ねました。
百花は、「はい、またです」と
答えました。
ザイシンは「ああ」と
反応するしかありませんでした。
数日前から、皇帝は、殊の外、
クラインの面倒を見ていました。
普通、ある側室が寵愛を受ける前には
若干のきっかけがありましたが
今回は何のきっかけもなく
クラインが、突然、
寵愛されるようになったので、
ハーレム内でも、皆が
変化を気にしているところでした。
今、百花が
不満そうに見つめているあの贈り物も
やはり皇帝が、数日間、頻繁に
クラインに送っているものでした。
ザイシンは、
皇帝があの皇子を大事にするのも
仕方がない。
クライン皇子は、
指折り数えられるほどハンサムな上に
珍しく率直で良い人だからと
努めてうまく言い繕うと、
パッと開いたカーテンを
再び閉めました。
百花は、再びカーテンを
開けはしなかったけれど
「率直な良い人とは何ですか」と
ザイシンの言葉に
同意もしませんでした。
彼は口をへの字に曲げると、
怪物と取引する人が
いい人であるはずがないと
意味深長に付け加えました。
ザイシンは、
怪物と取引をしたのかと尋ねると、
百花は「いいえ」と返事をして
誤魔化しました。
ザイシンは心配になり、
皇帝もロードなので、
どのような意味でも
そう言ってはいけないと
百花に注意しました。
しかし、百花は、
皇帝はロードであって
怪物ではないと、
少し強引に反論しました。
ザイシンは頭が痛くなりました。
彼は神聖力で、
すぐに体を治療するので、
おそらく頭痛は、
精神的な問題だろうと思いました。
ザイシンは、
なぜ百花が突然訪ねて来て、
そんなことを言うのか
理解できませんでした。
彼は周期的に、皇帝の寵愛について
小言を言いましたが、
今日は、その程度が
特にひどいようでした。
見かねたザイシンは、
百花の機嫌が悪そうだけれど
何か良くないことでもあったのか。
自分が助けてあげようかと
念のために尋ねました。
しかし、本当に百花が
自分の助けが必要だと思って
聞いたわけではありませんでした。
ところが、意外にも
百花はじっくり考えた後、
助けてくれるのもいいけれど
大神官様は、
皇帝の寵愛を受ける
準備だけしておいて欲しい。
自分が精一杯作ったチャンスを
他の人に渡さないでと言いました。
寵愛を受ける準備?
作ってくれたチャンスは何?
と聞き返す、
ザイシンの当惑した表情を見て
百花は満足そうに
近いうちにクライン王子が
皇帝の寵愛を再び失う予定だと
満足そうに呟きました。
◇怪物との約束◇
クラインは、カーペットの上に
うず高く積み上げられた
プレゼントの箱を見ると、
怪物と取引して良かったでしょう?
と自慢しました。
アクシアンは、
今回は殿下が正しかったと
素直に感服しました。
怪物とクラインが勝手に取引した後、
皇帝が
これといった反応を見せることなく
怪物の監獄を頻繁に行き来すると、
アクシアンとバニルは、
不安で、まともに眠ることも
できないほどでした。
でも、数日前、 皇帝が真夜中に
クラインに会いに来た後は
ずっとクラインへの贈り物攻勢が
繰り広げらることになりました。
それだけでなく、
昼食に呼んだり、夕方になると
一緒に散歩しようと訪れることも
目立って多くなりました。
確かに偽の未来で
満足できる何かを見たに
違いありませんでした。
クラインは傲慢に顎を上げながら
自分との偽の未来で、自分が皇帝に
悪く振る舞うはずがないから、
当然、皇帝は、
自分との未来を見れば見るほど
喜ぶだろうと言いました。
アクシアンは、
偽の未来で、皇子と皇帝が、
今より、はるかに多く
喧嘩すると思っていたと
率直に告白しても
クラインは気を悪くせず
笑ってばかりいました。
クラインは2人に
プレゼントでも整理してと指示し、
3人はプレゼントを開いて、
中に入っている物の目録を
作成しました。
その時、クラインとバニルの
希望にウキウキしたおしゃべりを
聞くだけだったアクシアンが
怪物は皇子との約束を守ったけれど
皇子はどうするつもりなのかと
尋ねました。
クラインは、
約束通り脱出させてやらなければと
答えました。
アクシアンは、
方法を考えておいたのか。
怪物の監獄は外郭にあるけれど
宮殿の敷地内にある上、
百花繚乱の聖騎士たちが
徹底的に守っているので、
奥深くに入れられている怪物1体を
連れ出すのは難しいと言いました。
アクシアンの言葉は
いつものように否定的でしたが、
今回はバニルも、
彼の心配に同意しました。
クラインが
寵愛を得ることになったのは
良かったけれど、
彼が怪物を外に連れ出すのは
明らかに難しそうでした。
バニルは心配そうに
クラインを見ながら、
本当にどうすればいいのか。
せっかく皇帝に
寵愛されることになったのに、
怪物を脱出させる途中で
何かあったら、
また怒られるかもしれないと言うと、
クラインは自信満々に笑いながら
心配するな。
全て考えておいたことがあるからと
返事をしました。
心配するなと言われたけれど
なぜか、アクシアンとバニルは
さらに心配しました。
しかし、彼らは何も言えず
再び静かに
プレゼントを開け始めました。
ラティルがクラインのことを
どの程度好きなのか、
分かりませんでしたが、
偽の未来なのに、
クラインが大怪我をするのを見て
慌てて彼を訪ね、その後も
彼のことを
心配し続けるということは
ラティルにとってクラインも
絶対に失いたくない人の1人なのだと
思いました。